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夢みる令嬢の悪あがき  作者: 夕鈴
14歳編

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閑話 ニコラスの決意1

11歳のニコラス視点。


俺は幼馴染のリリアと婚姻してイラ侯爵になると思っていた。

リリアが生死の境をさまよってから一変した。

高熱が下がらず、目覚めないリリアに毎日会いにいった。レトラ侯爵家からはうつり病だと危険だから近づくなと言われたが必死で頼んで会わせてもらっていた。

会いにいくと苦しそうなリリアの手を握って祈った。苦しそうでも、生きていることに安心した。熱が下がり、目覚めた時は安堵して崩れ落ちそうだった。

目覚めて再び眠ったリリアを医務官が「時期に目覚める。命の危険はない」という言葉を聞いて家に帰って安心して泣いたのは墓まで持っていくつもりだ。

リリアとの平穏な日々が帰ってくると疑っていなかった。

翌日に上機嫌のレトラ侯爵がリリアとの婚約話を白紙にしたいと言いに来た。

リリアは婚約のことはレトラ侯爵家のためならといつも頷いていた。

訳がわからず、リリアの部屋を訪ねると、意味のわからないことを言い出した。

俺は初めてリリアに拒絶された。リリアに手を振り払われたのも、本気で嫌がられるのも初めてだった。

突然リリアの表情が抜け落ちて、声をかけると怯えた顔をされた。

ノエルに追い出されて、それから俺はリリアに会えなくなった。リリアは俺の面会を全て断った。病み上がりで情緒が不安定みたいとレトラ侯爵夫人に慰められた。

駄目元でリリアに会いに行くと外出していた。元気な様子に安堵したけど、気持ちは晴れなかった。リリアの行先に思い当たり、市に行くとリリアが暴漢に囲まれていたので慌てて暴漢を倒した。俺を見て慌てて逃げ出したリリアの手を掴んだ。俺への拒絶はかわらなかった。ただ俺を見るリリアの顔が見たことないほど悲しい顔をしていた。

去っていくリリアを見て、一つの案が思いついた。嫁に行きたくないなら俺が婿にいけばいい。それに外交官の勉強をすれば一緒にいられる。

俺はリリアと一緒にいたいから外交官を目指して婿入りしたいといえば母上は極上の笑みで頷き、父上の説得をしてくれた。

母上はレトラ侯爵家に話をつけてくれた。

外交官の勉強をリリアと一緒にはじめると、時々困惑した顔を向けられていた。明らかに俺を意識しているのはわかったけど、放っておいた。しばらくするとリリアに話したいと言われた。俺達の間に婚約の話はなくなった。だから二人でリリアの自室で話すなんて許されなかった。でもリリアは譲らなかったから折れることにした。リリアが俺の外交官を目指すという言葉を聞いて泣きだした。泣き出したリリアは俺の知るリリアだった。俺のことを心配して涙をこぼすリリアを見て、嫌われていないことがわかった。俺はリリアを説得し、事情を聞くことにした。全く理解不能だった。ただリリアが本気なことはわかった。

俺が将来リリアを捨てるからもういらないというリリアの言葉に頭が真っ白になった。

でも、リリアの目には嫌悪も怒りもない。頑ななリリアは何を言ってもきかない。なぜか俺が洗脳されていると騒いでいた。リリアが俺のためを想って言っているのはわかった。見当違いすぎるけどそれなら今まで通り傍にいようと思った。

俺を拒絶したのに、リリアは爆弾をぶちこんできた。

「イラ侯爵の跡を継ぐためにひたむきに努力してるニコラスが一番好きだったのに残念です。」

悲しそうな顔でそんなこと言われたら余計に離れられない。しかも昔と変わらない俺に信頼を寄せる自信満々な笑みを浮かべて「私はあなたが願うなら次期イラ侯爵はニコラスと信じてます」って。

迷いは消えた。リリアへの戸惑いも。誰よりも俺を信じている幼馴染が他の男のものになるなんて許せなかった。それに向けられる視線に親しみがあった。リリアを手に入れるために足掻こうと決めた。

それからは、時々拒絶されても気にせず傍にいることにした。


***


ある日、様子のおかしいリリアを問いただした。

ぼんやりとして、明らかに無理に笑ってる幼馴染は放っておくと碌なことがないのはよく知っていた。


王位争いは自分のせいと泣くリリアを見て、このままではまずいと思った。

リリアはオリビア嬢達の亡命先の斡旋のために他国の貴族と婚姻したいと。

そこにリリアの幸せはあるんだろうか。

まず亡命の必要性がわからない。ただリリアは信じたら突き進む。

他国の貴族と婚姻すると言っているリリアの目が本気だった。

頭の中で何かが切れる音がした。

訳のわからない夢のせいで俺を拒絶して、オリビア嬢のために他の男と婚姻するなんて許せなかった。



***


俺は一つだけ心当たりがあり、調べることにした。

昔、リリア達とピクニックに行きリリアを湖に落とした女がいた。

訳のわからないことを言うので、拘束して森に捨てた。念のため足取りを追わせたらある村で生活しているらしい。

この女のことはいないものとしようとブラッド様達と話し合って決めた。

リリアに怪しい女との出会いはいらないと。今ではその女のことをリリアは幽霊と思い込んでる。

リリアが単純でよかった。



俺はその女の家を訪ねることにした。さすがに怪しい女の家に一人で乗り込むのは危険なため護衛騎士を死角に配置した。

その女は村で家族と暮らしている。

庭で畑仕事をしている女に声をかけることにした。


「今、いいか?」

「どうして」

「話をしないか」


女にじっと顔を覗きこまれると頭がぼんやりしてきた。


「ニコラス」


覗き込まれる瞳に自分がおかしくなっていった。俺が守りたいのは彼女・・・。

違う。俺が名前を呼ばれて心が躍るのは・・・、短剣で左足を刺した。痛みで思考がはっきりしていた。

腰の剣を抜いて女につきつけた。俺が平民を殺すくらいで、護衛騎士は動かないだろう。貴族への不敬で平民の首が飛ぶこともあるから。


「何をした。余計なことをするなら殺す」


「ニコラス?」


足の痛みで思考がはっきりしてきた。俺が自分で刺した傷を見たら怒るんだろうな。

こんな女に見惚れるなんてありえない。俺が大事なやつは傷ついた俺をうっとり見ない。頭が冷えてきた。こんな女とリリアを間違えるなんて吐き気がする。

気持ち悪い目で俺を見る女を睨みつける。


「なぜ俺の名前を知っている」

「それは」

「俺は気が短い。昔、湖で会った時もおかしなことを言ってたよな」

「なんで」

「どこからがいい?今は止める奴がいない。指、1本、落とそうか?」


俺を見て、怯える女に殺気を放って睨みつける。


「言え」


「私には違う世界の記憶があるの。その世界でニコラスのことを知ったの。貴方はゲームの登場人物よ」


剣をつきつけられた状況で嘘を言える人間は少ない。意味はわからないが、話を進めることにした。


「リリアもそこにでてきたのか」

「リリアもライリーもでてくる。主人公の女の子が好きな男と結ばれるゲームよ。リリアやライリーは邪魔する悪役令嬢役」

「オリビア嬢も出て来るか?」

「うん」

「その話ではリリアはどうなる」

「知りたいのはリリアとニコラスの話?」

「ああ」

「ニコラスの話。一つはニコラスは主人公の少女と恋に落ちるの。リリアはニコラスの婚約者だから、ニコラスを説得するけど、少女に絆されて二人を祝福するの。リリアは二人の邪魔にならないように他国に嫁いで、ニコラスも少女と結婚してハッピーエンド。

もう一つは自分の婚約者を奪われ嫉妬にかられたリリアが少女を殺そうとするの。それが見つかりリリアは斬首。リリアを罪人として捕まえるのはニコラスよ。このあとニコラスは少女の騎士になるのよ。

最後はオリビアが斬首されたのをきっかけにリリアはオリビアの罪が不当だと調べる最中に殺される。ニコラスはリリアを殺した原因を作った少女を憎んで少女を殺す。リリアはニコラスに裏切られたって泣くシーンが可愛かった」


これがリリアの言う夢なのか・・。俺に裏切られて捨てられたって・・。

リリアはこんなことを信じているのか。

剣を鞘におさめる。剣を向けられてるのにうっとり語るこの女は大丈夫なのか。俺はやっぱりこんな女をリリアに近づけたくない。

信用できない。でももしかしたら使えるかもしれない。殺すのはいつでもできる。


「変なことをしようとすれば殺すから」


この女には用はないから立ち去った。

足に刺した剣を抜いて止血した。自分で傷の手当てするのは初めてだった。

いつもリリアがいたから。

あんなおかしい女の話は信じられない。でもリリアが信じるなら壊すだけ。

俺とリリアが一緒にいられないなんておかしいだろ。

あの泣き虫で弱くて無邪気なリリアの隣にいるのが俺以外なんて耐えられない。

リリアの傍を離れるのは嫌だ。でもリリアが亡命先を手に入れるために他国に嫁ぎたいというなら、俺が用意すればいい。今は無理やり傍にいるよりも優先すべきことがある。


俺はサン公爵家に行き、オリビア嬢に面会をした。

リリアと第二王子殿下とのことを話すと冷笑を浮かべた。

彼女もリリアを泣かせる人間が嫌いだ。後悔して自分を責めて泣きじゃくるのなんて初めて見た。いつもは感情のままに泣く。俺はあんな泣き方も顔もさせたくない。



「第二王子殿下が私を?ありえないわ。王位争いがリリアの所為なんて」

「オリビア嬢、第二王子殿下がリリアを利用しないかだけ気を付けてもらえませんか」

「ええ。気をつけるわ。第二王子殿下がねぇ。まさかそっちからくるのね」

「俺はこれで」


オリビア嬢に任せれば大丈夫だろう。

あとは父上達の説得か。

俺が傍を離れる前にできることはここまでだ。

帰ってきたら昔みたいに戻らないかな。

戻らなくても、悲しそうな顔をして俺を見るのをやめてほしい。いつも笑顔で隣にいたリリアとの時間が懐かしい。

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