第四十ニ話 逢瀬
私は隣国から帰ってきました。
お兄様が旅立ち、オリビアに会いにきています。
「リリア、無事でよかったわ。帰国が遅れると聞いてお手紙を書いたのに返事がこないから心配したわ」
「心配かけてごめんなさい。オリビア、これお土産。オリビアは隣国の言葉なら読めるでしょ?」
「ありがとう。あら?小説なんてリリアらしくないわ」
「隣国のお友達におすすめを教えてもらったんです。私には難しいけど」
「リリアはまだ子供ね。後でゆっくり読ませてもらうわ。ライリー様も貴方を心配してたから会いにいってあげて」
「わかりました。オリビア、どうしました?悩んでます?」
「リリアが無事で安心しただけ。うちも色々あるのよ」
「公爵家は大変だものね。うちで仔犬を飼いはじめたんです。癒されに見にきてね。小さくて可愛いの」
「念願の動物が飼えてよかったわね。」
「うん。隣国は甘い物以外はあんまり美味しくなかったですが行った甲斐がありましたわ」
「リリアは相変わらずで安心するわ」
オリビアとお茶を楽しみ帰りました。
なにかオリビアが悩んでいる気がします。でも家のことは話せないことも多いので仕方ありません。
次に会うのは王家のお茶会ですかね。
私は家に帰って、セノンとローブを着てお出かけします。ただ不思議なことに帰国したのにディーンが護衛騎士としてついているのはどうしてでしょう。
お父様は旅立たれたので事情を聞けません。
「ディーン、もう大丈夫ですよ」
「いえ、セノン目当てにお嬢様ごと浚われる可能性があるので」
「わかりました。お父様の命なら仕方ありません。セノンが可愛いですから」
いつものお店で串焼きを買います。
「セノンも食べる?いらないの?わかったわ」
美味しい。料理はうちの国が一番。
そういえばいるかな。いつもの木の下に行ってみる。
「ディーン、少し離れて護衛してくれますか?あと姿を見られたくないのでローブを着てくれませんか」
「わかりました。」
リリとリリアが同一人物とは知られるわけにはいけません。
ちゃんとローブを着ていてよかった。ギルバード王太子殿下が木の下で本を読んでいました。
「こんにちは」
「レア!?よかった。久しぶりだな」
「そうですね。お元気そうでよかったです」
「私はレアとの約束を守れなそうだ」
「約束?大人になったら遊びにいくお話ですか?」
「どうしてそうなった。覚えてくれてるならいい。婚約者ができる」
婚約者?
「おめでとうございます」
「母上に敵わなかった」
「大事にしてあげてください」
「レア、私は自分の好きな相手を選びたい。」
「側妃に召し上げればいいではありませんか。高貴なお方は自身の気持ちよりも優先すべきものがあります」
「側妃・・・。レアは複数妃を持つのはいいのか?」
「高貴な方ですから。正妃様が許されるならよろしいかと」
「たとえば、もしレアだったら側妃でいいのか」
愛しい少女が見つかったんでしょうか・・。
「どうしても添い遂げたい方なら側妃でも妾でも受け入れますよ。ただ正妃様が受け入れてくださるならですが。自分の存在で正妃様と陛下の間に溝ができるならお断りします。どんな理由でも婚約者や嫁を大事にしない殿方は嫌いです」
「寵愛に憧れないのか?」
「難しいですね。私は優しくて誠実で言葉を聞いてくださる方が好きです。私にだけ誠実なんて信頼できません」
王太子殿下は何を思い悩んでるんでしょうか。
「誠実か。」
「殿下、新しいお友達です。抱っこしますか?」
「犬か。珍しい毛色だな」
セノンのローブを脱がせて王太子殿下に渡します。
王太子殿下の腕の中のセノンを撫でます。
「可愛いでしょ?この子を見てると癒されます。疲れも忘れられるでしょ?」
「そうだな」
セノンを見て笑う王太子殿下に安心します。
「作り笑いより今の笑い方の方が好きです。この子の可愛さの前では殿下も敵いませんね」
「え?作り笑い?待て」
慌てる王太子殿下に笑いがこみあげてきます。
クレア様達のおかげか王太子殿下がまともに見えます。
「心なく笑ってるのはわかります。必要なときだけでいいんです。殿下も動物を飼って癒される時間を作ってもよろしいかと。馬とは違った愛しさがありますわ」
「レアはこの子が気に入りか」
「はい。お気に入りです。あげませんよ」
「取らないよ。王宮で犬を飼えば見に来るか?」
「王宮なんて恐れ多くて中に入れません。」
「レアが望むならいつでもおいで」
「いけませんよ。そんなほいほい王宮に連れ込んでは御身を危険にさらします」
「レアはよくわからないな」
「お互いさまです。」
「レア、また会えるか?」
「婚約者に失礼なのでこれで最後にしましょう」
「婚約者の許可をとればいいか?」
「私のような子供相手ならそんな心配もいりませんが、待ってください。確認なんですが何人いるんですか?」
「は?」
「私のような話し相手です。私を隠れ蓑にして逢引相手との」
「いないから。レアの嫌がる不誠実なことはしないと約束する」
「婚約者の許可がいただければ。偶然お会いできるならお話しましょう」
「ああ。また」
「お気をつけてお帰りください」
暗かった王太子殿下のお顔が晴れてよかったです。セノンを抱いて消えていく王太子殿下を見送ります。セノンはすごいです。人を笑顔にしてばかりです。黒が不吉を産むなんて迷信です。
「お嬢様、あれって」
「知り合いです。よく市で会いますの。ただ人見知りする方なので」
言いたいことのありそうなディーンににっこり笑いかけます。
話、聞いてませんよね。王太子殿下と知られたら面倒です。愛しい少女と出会えたのかしら・・。
「お嬢様」
「護衛中に聞いた話は他言無用ですよ。まさか聞き耳なんて立ててませんよね。私、離れてって言いましたのに。」
「俺は何も聞いてません。もう暗くなるから帰りますよ。スラムは今日は駄目です」
ディーンに促されて家に帰りました。
明日からは外交官のお勉強が再開です。
頑張らないといけません。殿下の婚約者が決まれば王家のお茶会がなくなりますかね・・。




