第四十話 神獣5
セノンが私の腕に帰ってきました。セノンのために動いてくださった方々に感謝があふれます。
「セノン、おかえりなさい。」
陛下が微笑まれます。陛下もセノンの可愛さにやられたんでしょう。セノンは不吉ではなく人を幸せにする子です。
「王家との婚姻の用意をしよう」
なんて言いました?セノンに求婚ですか・・。許しませんよ。
「恐れながら国王陛下、私は娘をこの国に嫁がせる気はありません」
この声はお父様。お父様とお兄様が側にきてくれました。
婚姻ってセノンにではなかったんですね。良かった、いえ良くありません。
「レトラ侯爵、正妃の座を用意しよう」
「これを見ていただけますか?」
お父様が映像水晶を使いました。
これは第一王子殿下が突然訪ねて、セノンを連れていった映像です。許せません。セノンをあんなに泣かせて。
次に流されるのは、治療の様子。なんで!?
「お父様、やめてください。」
お父様が映像を止めてくれました。
「リリア、おいで」
片手を広げるお兄様に抱きつきます。あんな見苦しい姿を見られるなんて恥ずかしさで死んじゃいそうです。
「私は治癒魔法の使える娘を疫病の鎮静の助けとなるべく残したんですが、これはどんな仕打ちなんでしょう。うちの娘は治癒魔法を使いすぎて1週間も寝込みました。その上、無実の罪で傷つけられ、腕には消えぬ傷が残りました。そんな恐ろしい国に娘を嫁がせることはできません」
「もうこのようなことはしないと約束しよう」
「娘の傷は消えません。私は傷ついた娘を自国に早く連れ帰りたいのですが」
「この婚姻は友好の証に」
「うちの国王陛下は望まれてません。貴重な治癒魔法の使い手で上皇様のお気に入りを他国に嫁がせることはありません。娘がもっとも親しいのはサン公爵家とイラ侯爵家。ほかにも上位貴族の方々と親しくさせていただいてます」
「父上、サン公爵令嬢やイラ侯爵子息はリリアのためなら戦争も致しかねないと。このことを知っただけでも怒りくるいそうです。」
オリビア!?オリビアは私に意地悪した令嬢に3倍返ししました。まずいです。
私、オリビアに大事にされてる自覚あります。お兄様に甘えている場合ではありません。
「お兄様、オリビアには内緒にしてください。3倍返し、腕がなくなってしまいます。でもすでに知ってるかもしれません。早く帰って止めなくていけません。」
「娘も家に帰りたいといっております。」
「神獣様を連れて帰られるわけにはいかない」
「父上、神獣様が我が国の誰にも懐かなかったことが答えです。神獣様の力をみるために傷つけようとする者に加護を与えますか?神獣様の御心のままにが教えです」
「第二王子殿下の言葉の通りです。神獣様を縛ることはできません。それこそ天罰が下ります。レトラ侯爵令嬢に危害を加えた第一王子殿下は罰を受けるべきと思います」
「お前、わかっているのか」
「はい。覚悟はしてますわ」
第一王子殿下が裁かれるというのは妃のミリア様も巻き込まれる。
あんな男にミリア様が…。セノンだけでなくミリア様まで・・。
「お兄様、お嫁さん私が決めてもいい?」
「リリアは義姉にしたい人がいるのかい?」
「うん。お願い。」
「いいよ。俺はお前を可愛がってくれる嫁なら誰でもいい」
「お兄様、大好きです」
「第一王子の継承権は剥奪する」
「父上」
「証拠もなく他国の令嬢に働いた行いは許されない」
「恐れながら陛下、お願いがございます」
「レトラ嬢、なんだ?」
そんな期待された顔で見られても第一王子殿下を許しません。
「第一王子妃殿下のミリア様を私の兄に下賜していただけませんか。」
ミリア様の手を取ります。
「ミリア様、私の義姉様になっていただけませんか。私のお兄様は優しくて、優秀で世界で一番素敵な方です。もしお気に召さなかったら家で養子縁組でも構いません。私、お兄様は大好きですがお姉様も欲しいんです。ミリア様は絶対に幸せにします。」
「私は優しい姉にはなれなくてよ?」
「私も可愛い妹にはなれません。お互いさまです。でも殿下よりミリア様を幸せにできるようにがんばります。私、ミリア様が不幸になるなんて耐えられません。セノン、起きて、一緒にお願いして、セノンの可愛さで」
「うちは家族を大事にしてくれる方なら歓迎しますよ」
「お兄様はミリア様を大事にしてくれます。誠意のないこともしません。とんでもない女に引っかかることもありません」
綺麗に笑うミリア様を見て勝ちました。
「陛下の命なら従うわ」
「陛下、慰謝料としてセノンと第一王子妃殿下を下賜していただけますか?」
「いい加減に諦めよ」
上皇様、いつのまに現れましたの!?
長身の美男子ですが中身はおじいちゃんです。めずらしく正装してます。
「この国の雨が止まぬのは、その神獣の怒りだ。神獣は主の心に敏感だ。主の心が晴れぬ限り雨は止まぬ。相当怒っているぞ。」
「上皇様、ですが」
「この地に舞い降りた神獣を無碍に扱ったのはそなたらだ。ようやく心を許した主と引き離され怒っておる。神獣が加護するのは国ではない。主だ。リリア、久しいな。頼んでみよ。雨をやませよと」
「上皇様?」
「好きに育てよ。リリアが一緒にいればこんなに怒ることはない」
「陛下、セノンと第一王子妃殿下を」
「わかった。レトラ侯爵家に授けよう」
「リリア、セノンに雨をやませてって頼んでみて。セノンはふて寝をしているよ」
「よくわかりませんがお兄様が言うなら。セノン、起きて、セノン、雨が降ってると国に帰れないの。私、お母様に会いたいの。セノンにも紹介したい人がいっぱいいるの。一緒に帰ろう。だから雨をなんとかして。起きて、そう、目を開けて。可愛い。セノンの可愛さを自慢します。帰ったらニコラスのシロと一緒にお散歩しようね。シロはふわふわで気持ちが良いから三人でお昼寝しよう。楽しみでしょ?でもうちの国はやぎのミルクだから我慢して。嫌?帰ったらニコラスにシロの食事を聞いてくるから。」
「うちのリリアは可愛いだろ?」
「そうですね。ただ夢中になると周りが見えないのが心配です。リリア、もういいわ」
「ミリア様?セノン起きました。どうぞ」
ミリア様にセノンを渡すとミリア様の腕のなかでおすまし顔です。
可愛いです。
「リリア、その腕はどうしたんじゃ?」
「魔詛を受けまして。」
「ほぉ。傷を見せてみなさい」
上皇様の前に腕を差し出します。治癒魔法です。自分にかけられるのは新鮮です。上皇様の魔法はいつみても見事です。傷が消えました。
「上皇様、ありがとうございます。相変わらずお美しい魔法です」
「もうお師匠様とは呼んでくれんのか」
「教会の頂点たる上皇様をお師匠様と呼んだら神官様達にたたられてしまいます」
「また修行をしたくなったらいつでもおいで。」
「ありがとうございます。上皇様もまたお茶を飲みに来てくださいね。お菓子作って待ってます」
「リリアも達者でな。嫁ぎ先に困ったらうちで引き取るからな」
「ありがとうございます」
上皇様が去っていきました。どうすればいいんでしょうか。
ミリア様からセノンを受け取ります。お父様の手に頭を撫でられます。
「リリア、帰ろうか」
「はい。クレア様また」
クレア様が不服そうな顔で見てますが気にせず退室しました。
今日はお父様とお兄様も一緒に泊まられるそうです。
久しぶりにお父様の隣で寝ようかな。もちろんセノンも一緒です。
セノンが無事に帰ってきてよかったです。




