第三十四話 クレアのお茶会
生クリームを作るのには牛が必要です。ただうちの国にはヤギはいますが牛はいません。
お父様に相談したら買ってくれませんかね。
「ディーン、私、牛が欲しいんですけど」
「お嬢様は動物園でも開くんですか?」
「動物がいっぱい。癒されます。いいなぁ。ただうちのお庭は狭いので難しい」
「お嬢様、ちゃんと自分の発言には責任を持ってください。お嬢様の何気ない一言で振り回される者もいるんです」
「そうですね。気をつけます。私が厨房に出入りしようとするとこの国では迷惑がかかりますものね」
「そっちじゃない。」
「ディーン?」
「なんでもありません。お嬢様、何を買おうとされてるんですか?」
「仔牛」
「あれは乳がでないから駄目ですよ。生き物はだめです。」
「欲しい」
「諦めてください。帰りましょう。明日はお茶会でしょ。俺はもう荷物持てませんよ」
「自分で持ちます」
「転ぶからやめてください」
この国の市は色んな食材があって楽しいです。
確かに、本に材料にたくさん買いました。
生ものは買ってません。保存食料ばかりです。本国に帰って色々試します。楽しみです。
帰るとセノンが駆け寄ってきます。
かわいい。
「セノン、このリボン首につける?」
うん。いいよかな?
セノンの首にリボンをつけます。私の髪にもお揃いで結んでます。
「セノン、可愛い。ちょっと重たくなりました。ご飯はミルクでいいの?うん。用意するね」
ミルクを用意させるとゆっくりと飲んでます。うちの国に帰ればヤギの乳になるけど平気かしら?
駄目ならまた考えましょう。
飲み終わったセノンが抱っこしてほしそうに見つめます。抱き上げて部屋に移動します。
この国にきてもうすぐ二月。そろそろ帰ろうかな・・。
今さらですが私が眠っている間に11歳になったんですね。時がたつのは早いものです。
***
今日はクレア様主催のお茶会に招待されてます。
「本日はお招きありがとうございます。クレア様」
「リリア、いらっしゃい。待ってたわ」
両手を広げて抱きついてくるクレア様を躱します。
クレア様の抱きつき癖はどうしてついたんでしょうか。気にしてはいけません。
「クレア様、抱きつかないでください。ご令嬢がきたら、先に歓迎のあいさつをしてお席にご案内してください」
「リリア、わかっているわ。私、マナーはできるわ。ただお話が上手にできないだけです」
突っ込み所が満載です。
マナーが完璧なら一安心なんですが残念ながら信用できません。
「胸を張らないでください。今日は公爵家のお客様は来られますか?」
「お父様が下位貴族で練習しなさいっていうから伯爵家の方々を」
さすがエクリ公爵。私より上位の方がいないのはありがたいです。それに伯爵家なら権力で黙らせられます。クレア様と話しているとご令嬢達が見えましたので、背中をそっと押しました。
名残りおさそうに見ないで、さっさと挨拶してくださいと圧力をかけて微笑ます。手がかかります。
クレア様ちゃんと挨拶はできるんですね。案内された席に座って見守りましょう。
伯爵家の方が4人。少人数から慣れていくのは大事です。
挨拶は終わりました。皆様が席につくとお茶が出されます。
「来てくれてありがとう。」
「いえ、エクリ様にお誘いいただけるなんて光栄ですわ」
クレア様が嫌そうな顔をしてます。社交辞令には慣れないといけません。頑張って笑顔で受け流してくださいと圧力をかけて、にっこり笑いかけると笑顔になりました。頑張ってください。クレア様の笑みをみたご令嬢達もきょとんとされて微笑まれました。
ただ沈黙が続いてます。本当はクレア様が話題をふらないといけませんが仕方ありません。
私は隣国の侯爵令嬢で子供なので多少の無礼は許されます。
「クレア様、このお茶美味しいです。どちらの茶葉ですか」
「うちの領の名産よ。」
「甘みがあって、飲みやすいですね」
「リリアはお茶も好きなの?」
「はい。うちの国はそんなにお茶の種類がないのでお土産に買って帰りたいんですが。市ではあまり見かけません」
「レトラ様はいつも市で買い物されてるんですか?」
「はい。この辺りは不慣れなもので」
「王宮近くの城下町は行かれました?貴族御用達の店がありまして」
初耳です。この伯爵令嬢すごいですわ。
話題にサラリと入るのもお上手です。令嬢として当然なんですが、クレア様を見ていると常識がわからなくなります。
貴重な情報です。
「もしかして甘いものも売られてますか?」
「お茶やケーキが楽しめるお店もありますよ」
「まぁ!?帰国の前に是非お伺いしたいですわ」
「時間が合えばご案内しますよ」
これはチャンスです。
満面の笑みを浮かべます。
「ありがとうございます。お願いします。クレア様も是非一緒に行きませんか?護衛騎士をつれていけば大丈夫ですわ。皆様とお出かけなんて素敵ですわ」
「え?」
「クレア様もケーキが好きなんです。あと本屋もあれば行きたいです。クレア様は恋愛小説が好きなので素敵な出会いがあるかもしれません」
「エクリ様が?」
「はしたないでしょうか」
「そんなことありません。ねぇ、皆さま」
「ええ。エクリ様がこんな親しみやすい方とは思いませんでしたわ」
「私には恋愛小説の良さはわからないので、どなたかお話に付き合っていただけませんか。私は観劇さえ途中で眠ってしまいますの」
「レトラ様にはまだ難しいかしら」
ご令嬢とクレア様が楽しそうに小説のお話をしています。ご令嬢は恋愛小説や噂が大好きな方は結構いますのよね。私もよくからかわれましたわ。盛り上がっているので、私はケーキをいただきましょう。美味しい。不安でしたが好感触です。このお茶会は大丈夫そうです。
「そういえばレトラ様、第二王子殿下と一緒に村で一月過ごされたのは本当ですか」
ケーキに夢中になってる場合ではありませんでした。
噂が広まってるって本当ですのね。気を引き締めましょう。
「私、治癒魔法の心得がありまして、疫病の支援部隊としてご一緒させていただきました」
「あの噂は本当でしたの」
「怖くなかったんですか?」
「うちの領でも流行したんです。それから疫病対策は一生懸命勉強しました。お役にたてたら幸いです」
「まぁ」
「リリアったら魔法を使いすぎて一週間もうちで眠ってたのよね。」
それは言わないで欲しかった。まぁクレア様が会話に参加できるなら目をつむりましょう。
「クレア様とお約束したのに不甲斐ないです」
「約束?」
ご令嬢の目が輝きました。
「クレア様は疫病の村に陣頭指揮に行く第二王子殿下を心配されて取り乱していたので、お友達の大事な人なら絶対に無事に連れて帰るから安心してくださいって約束したんです。ただ自分が連れて帰られることになるとは恥ずかしいです」
「殿下はリリアのお蔭でみんなが無事だったと感謝してたわ」
「クレア様が物資の支援をしてくださったのでうまくいったんです。第二王子殿下と民のためにエクリ公爵に頼んでくださったこと感謝してます。」
「私は頼んだだけよ」
「それがすごいことなんです。公爵の心を動かしてくれてありがとうございます」
「お二人は仲が良いんですね」
「クレア様と第二王子殿下には敵いませんわ。ほぼ毎日逢瀬をされてますもの」
「まぁ!?」
これで第二王子殿下と私の噂を騒ぐ方が減るといいんですけど。
伯爵令嬢達の問いかけにクレア様が照れながら答えてます。私は引き続きケーキを楽しみましょう。おいしい。
これでお友達が増えるといいですわ。
このお茶会は無事に終わりました。私は城下町にお出かけしたら国に帰りたいんですがセノンとエリ達を連れて帰る相談をしたいのに、お父様から手紙のお返事がきません。
お父様はいつもすぐに返事をくれますのに。お兄様にもお手紙を送って聞いたほうがいいかしら。




