第三話 出会い
私はオリビアと別れて小説の中身を思い出そうと悩んでます。
あの小説は最初だけは読みました。
少女と王子様は幼い頃に出会います。
確か、出会いはお忍びで出かけていた街だったような。
私、ニコラスのおかげで剣と魔法は嗜み程度にできます。賊に襲われても平気です。
戦ったことはありませんが、自衛については合格をもらってます。
街に行きましょう。
御者に家ではなく市に行くように命じます。
御者は寄るのを躊躇いましたがお願いしました。
お父様から外出許可がありますよ。
倒れたりしないので、さっさと向かってください!!
街で、最も人が集まるのは市です。
馬車に置いてあるローブを着て、市で降ろしてもらいました。
暗くなるまでには戻ってきますと伝えて出発です。
運が良ければ、王太子殿下と少女に会えます。そこで王太子殿下の恋を応援しましょう。そしたらオリビアは婚約者になりません。
私、亡命も考えてますのでオリビアさえ無事なら殿下がどうなろうと構いません。レトラの領民はお父様がいるから国が傾いても大丈夫なはずです。
領民を保護するくらいの私財はレトラ侯爵家には十分あります。
愚かな王太子殿下にオリビアは相応しくありません。絶対に渡しません。
いつ来ても市は賑やかです。運よく出会えるといいんですが・・。
明後日から外交官のお勉強がはじまるので、そんなに時間の余裕がありません。
あれは?
柄の悪い大人に身なりの良い方が囲まれてます。
放っておくわけにはいきません。
市には危険が潜んでおります。
「失礼します。この方になにか?」
男と年上の少年?の間に入ります。
ニコラスよりも年上に見えます。
「こいつが俺にぶつかってきたんだよ」
少年を卑しい顔で見る男達を見ます。
運悪く、捕まったんですね。身なりがよく一人でいれば、この整った顔なら狙われますよね。
周りには人がたくさんいます。ここで、騒ぐのは周りに迷惑です。
穏便な方法を選びましょう。小分けして持ってる袋を男の前に差し出します。
市は大金を持つのは危険ですしお金を奪われることもあるので、小分けにしています。
「連れが失礼しました。これで許していただけますか?。駄目なら親方の・・」
「充分だ。」
男たちが私の差し出したお金を奪い取り消えて行きました。
親方は市を裏で支配している方です。昔、迷子になった時に知り合いました。
それから良いお付き合いをしていただいています。
「なにを」
不思議そうな顔で見られてますが絡まれて危険な状況だったってわからないんですか!?
この顔、どこかで見覚えがあります…。
王太子殿下!?髪も瞳の色は違いますが王太子殿下で間違いありません。
私、憎い相手の顔は間違えません。それに人の顔を覚えるの得意なんです。
探していましたがまさか見つかるとは思いませんでした。嫌そうな顔にならないように気をつけないと。
少女は連れてないですね。王太子殿下に協力しましょう。
「市に慣れていないようですので、ご案内します。人にぶつからないように気を付けてください」
「私ではなく、むこうから、」
「どちらにせよ、ぶつかったことには、かわりありません。難しいですか?」
「まさか」
心外だって顔で見られてますが負けず嫌いなんでしょうか。王太子殿下よりも弟の第二王子殿下の方が優秀と噂がありますが・・。本当かどうかは知りません。
「なにかお探しのものは?」
「目的は?」
疑い深いですね。でもここは我慢です。王太子殿下とオリビアの婚約回避のためです。笑顔を作ります。
「私、暇なんです。市に慣れないご様子なのでせっかくなのでご案内します。先ほどのような方もいますが良い人もいます。要望がないなら、思いついたら教えてください」
王太子殿下の手を取り強引に歩き出します。王太子殿下がまた誰かにぶつかれば面倒です。無駄なお金は使いたくありません。殿下、素直についてくるんですか!?それもどうかと思いますが。気にしてはいけません。
馴染みの店で串焼きを二本買います。少女との逢瀬時にお勧めのお店として紹介すればきっとうまくいきますよ。
エスコートは大事です。さっさと恋を成就させ、婚約者に指名すればいいのです。
「どうぞ」
王太子殿下は手に取りません。毒味が必要ですか。
一口食べたものをお渡します。王太子殿下は戸惑いながらも受け取りました。
「市では立ち食いも一つのマナーです。おいしいですよ。お気にめさないなら私が食べます」
王太子殿下は気にせず自分の分を食べます。ここの串焼きは絶品です。
もう関わることはありませんが、ニコラスに感謝です。
市はニコラスと一緒によく来ていたので詳しいのです。
美味しいな。家で食べる食事とは違う美味しさです。市の料理は暖かくて優しい味がするから大好きです。
憎い相手が一緒でも美味しものは人を幸せにします。
王太子殿下が顔を赤くして串焼きを眺めています。お肉の熱さで顔が赤くなったんでしょうか。
王宮の料理もこんなアツアツはきっと食べれませんものね。
「お気にめしません?」
「いや」
王太子殿下が食べました。アツアツの料理に驚いてます。火傷しても自業自得です。
食べる速度があがりました。おいしいですものね。特に親父さんの串焼きは最高です。食べるとあまりの美味しさに嫌なことも忘れて笑顔になる串焼きです。怒ったニコラスも串焼きを食べれば笑って許してくれる代物です。
王太子殿下が食べ終わったので串を親父さんに渡して手を振って別れます。
また王太子殿下の手を取って歩きます。次はどうしようかな。
「甘いものとがっつりしたものとどっちが食べたいですか?」
「まだ食べるのか!?」
「駄目ですか?」
見つめると赤くなるのはなんででしょう。具合が悪い感じはないですが。
「具合が悪いんですか?」
「いや、これは、違う。名前、そう、名前、どう呼べば」
こんなどもった話し方をする人でしたっけ。興味ないから気にしません。
「好きに呼んでください」
「そういわれても・・」
面倒ですね。
さすがに本名はまずいです。リリは市での通り名ですけど、違う方がいいですよね。
「レアです。」
「レアか。私はギルだ」
ギルバート王太子殿下、本名は名乗ってはいけませんよ。
愛称なんて恐れ多くて呼べません。それに呼びたくもありません。
向けられる笑顔で絆されたりしませんよ。
「もう帰られますか?」
「いや、レアの時間があるなら案内してくれないか」
「わかりました。」
王太子殿下をつれて、お気に入りの市の美味しいものを食べに周りました。久々の市は楽しいです。
王太子殿下が人を探している気配がないのが不思議です。でも市に慣れてないならお店に興味がひかれるのは仕方ありません。私も最初の頃は興奮しすぎてニコラスに怒られました。
そろそろ暗くなるので帰らなくてはいけません。
「私、そろそろ失礼します。帰り道は大丈夫ですか?」
「ああ。レア、また会えるか?」
「ご縁があれば」
「いつなら」
まだ愛しい少女が見つかってないからでしょうか。オリビアと婚約させないためには殿下の恋を早く叶えなければいけません。
「一週間後のお昼過ぎでよければ」
「わかった。そこの木の下で待っている」
「もしお忙しければ無理はしないでください。私も来れなければ申しわけありません」
「待っている」
王太子殿下は必死ですね。そんなに愛しい少女を一緒に探してほしいんでしょうか。できれば少女の情報を教えてくれれば、助かりますのに。
まぁいいですわ。礼をして別れました。
王太子殿下がいると行けなかった場所に行きましょう。
パンの詰め合わせを大量に買い、市を通り過ぎしばらく進むとスラムがあります。
「リリ!!」
抱きつく子供を抱きとめます。
「リリ、最近来ないから寂しかった。」
寝込んでいたとは言えません。子供の頭を撫でます。
「忙しかったの。これみんなでどうぞ」
「ありがとう!!」
パンの詰め合わせを渡すと配りにいきました。食べ物につられて、私の周りに集まった子供達が離れていきました。欲望に正直で微笑ましいです。
「リリ、一人で来たのか」
「お久しぶりです」
「よくラスが許したな」
「ええ。もう一人で平気だと」
「それはラスが言ったのか」
「いえ」
「ここも物騒だから気をつけろ。今日は?」
「近くに来たので様子を見に来ただけです。失礼しますね」
スラムは貧民のたまり場です。
市の総取りしまり役の親方の縄張りです。
みんな元気そうでよかったです。
親方は孤児を保護しながら情報屋として育てています。ラスはニコラスの偽名です。
危ないので一人で来てはいけないと言われていましたが、もう知りません。
ニコラスも時々情報を買いに来てました。私は子供達と遊ぶのと、健康状態の確認のためですが。
私は殿下達の愛しい少女の情報を集めようにも名前も顔も思い出せません。
本当はもう少しゆっくりしたいけど、暗くなると危ないので帰りましょう。それに晩餐に遅れるわけにはいけません。家族との大事な時間です。
馬車を目指して歩いていると、足音が近づいてきます。
うん。予想の範囲内です。
途中から後をつけられる気配がありました。撒いたのにまた見つかったんですね。先ほど王太子殿下に絡んだ方々ですかね。せっかくお金を渡して見逃してあげたのに。
でも狙われたのが王太子殿下ではなく私でよかったです。
人の少ない場所に、移動しましょう。この辺りなら大丈夫ですね。立ち止まり振り返ると卑しい顔を向けられます。
「なにかご用ですか?」
「言いたいことわかるだろ?」
「わかりません。」
「あれっぽっちじゃ足りない。」
「もう持ち合わせがありません」
「なら憂さ晴らしに付き合えよ。お前、女だろ?」
卑しい方々です。兵に話しておけばよかったです。3人の青年を見てため息を我慢します。
お望みならお相手します。周りに王太子殿下も人もいませんので遠慮しません。
にっこり微笑みます。風魔法でいきましょう。
魔力を纏い、あれ、倒れてる。
「リリ」
まずいです。なんでいるんですか・・。
たぶん男を倒したのはニコラスです。
攻撃は、見えませんでした。頼んでないのに。
馬車まで逃げましょう。駄目。追いかけられてます。私はニコラスには敵わない。
諦めて立ち止まります。
「なにかご用ですか]
「一人で市を歩くのは危ないって言ってあるだろ。なんで俺に声をかけなかったんだよ」
「私、嗜み程度の自衛はできます。必要ありません。失礼します」
馬車に向かって再び歩きます。
「待って。俺、なんかした」
ニコラスに視線を向けずに馬車に乗り込みます。
「もう会うのはやめましょう。それがお互いのためです。さよなら」
「待って」
御者に命じて馬車を出させます。ニコラスの傷ついた顔に胸が痛みます。今はなにもしてません。でも未来は違うんです。
未来で切り捨てられるならニコラスに私は不要ということです。それなら、先に私との関係をたっても支障はないでしょう。
お願いだから放っておいて。
御者の視線も痛いです。癇癪を起こしている子供をみるような目で見られてます。
「お嬢様、素直に謝ったほうがいいですよ。ニコラス様もきちんと謝れば許してくれますよ」
「私は悪いことなどしてません!!」




