第三十一話 真相
疫病の救援部隊に加わり、村長の病を治して倒れた私はエクリ公爵邸で目を醒ましました。
エクリ公爵に面会依頼をするとすぐに了承の返事が返ってきました。
「エクリ公爵、このたびはありがとうございました」
「無事に目が覚めてよかった。」
「ご心配をおかけしました」
「いや、こちらこそなんと礼を言えばいいか。詳しい話は第二王子殿下が説明に来られるだろう。部屋はそのまま使ってもらって構わない。」
「そこまでしていただくことは」
「いずれ国に帰るのだろう。それまでクレアの話相手になってやってくれないか。初めての友達が嬉しいみたいで。うちの書庫も自由に使って構わない」
そこまで言われたら帰れません。初めてのお友達…。
「ありがとうございます。」
そういえばディーンが見当たりません。あとで聞けばいいでしょう。
晩餐をいただき、部屋で休もうとすると第二王子殿下が訪問されました。
「第二王子殿下、夜分に令嬢の部屋を訪ねるのは無礼です」
「この時間しか来れなかったんだよ。兄上がリリに会いたいと言って」
「はい?」
「今回の件の礼を言いたいと」
「お断りすることは、できませんのね。できれば第一王子妃殿下もご一緒にお願いします。二人で会うのはご勘弁を」
「明日、会いにくると」
この国の貴族の方々どうなってますの!?
明日って、うちの国なら王家に面会依頼して伺うのは一週間はかかりますよ…。
「私が伺います。第一王子殿下自ら足を運ぶなんて恐れ多いです」
「いや、非公式にお会いしたいと」
「わかりました。私はここでお待ちしてればいいんでしょうか?」
「ああ。じゃあ」
去って行く第二王子殿下を見送ります。頭が痛くなってきました。
きっとクレア様のところに行くんでしょう。
うまくいっているようでなによりです。私はもう休みましょう。
翌日クレア様に頼んでサロンをお借りしました。
第一王子夫妻が訪問されました。
「レトラ嬢、このたびは感謝する」
「お会いできて光栄です。第一王子殿下、妃殿下」
「座って話そう。体は大事ないか?」
「はい。」
「詳細は聞いているか」
「いえ」
「疫病は人為的な物だった。領主と一部の村人たちが手を組んでいた。領主や村人たちは捕えた。王家への謀反の罪で後日処刑だ。」
言いたいことはあります。でも他国のことに口出しできません。
「弟は今回の件は、ほとんど君の手柄だと言っている。欲しい物はあるか」
うん。無理です。我慢できません。手柄をくださるんならお願いしましょう。
「では村人たちの刑だけは御考え直しいただけませんか」
「なぜ?」
「不作で苦しみ、苦肉の策でしょう。働き盛りの村人達を処刑されれば残された家族はどうすればいいんですか。このようなことがおこらないようにもちろん罰は必要です。正しい指導者のもとで。」
「生かして村に返せと?」
「ええ。私が病を癒した子供たちは優秀です。正しく育てれば優秀な臣下になります。そのための環境を整えるのは貴族の務めではありませんか?」
「考えておこう。レトラ嬢の望みは?」
「領主はどう裁かれようと構いません。ただ村人達には減刑と、ちゃんとした領主を選んでいただくことを望みます。この事件の他言は致しません。自国に帰れば、私はただ治療をしていただけでわからないと答えましょう」
「そうか。今回この件を引き起こした者がもう一人いる」
妃殿下の方見てるけど、まさか・・。
「うちの妃の臣下が弟の暗殺を目論んだ」
「殿下、臣下というのは妃殿下の侍女ですか?」
「いや、友人だ」
「妃殿下が依頼されたという証拠があるんですか?」
「妃のためと証言が取れている」
「殿下、平民が殿下のためにと思いこんで人を殺したら殿下の罪になるんですか?」
「は?」
「この国ではなるんですか?私は他国の人間なのでよくわかりません。教えてくださいませ」
「いや、その平民の罪だろう」
当然そうなりますよね。言ってることの矛盾は気づかれませんか?
「でしたら、妃殿下を罪人というのはおかしいですわ。」
第一王子殿下に信じられないと顔で見られてます。王族相手に文句を言うわけにはいきません。絡めてでいきましょう。これは町で覚えた方法です。
「いえ、失礼しました。私、考えすぎてしまいました。他の殿方を惑わす妃殿下の美しさを罪というお話でしたか。」
「レトラ嬢!?」
お行儀がわるいですがお腹を抱えて笑います。自分の考えた話が本気で笑えてきました。笑いが止まりません。
「ふふ、ごめんなさい。失礼しました。ちゃんと国に帰って美しい妃殿下は第一王子殿下に愛されていることを伝えますわ。うちの国の者が妃殿下に懸想しないように言い聞かせます。殿下、もう少しわかりやすく教えてください」
「レトラ嬢、違う。今回はうちの妃が」
「殿下、妬いたんですね。美しさが罪なんて。妃殿下の美しさに目が眩んで、大事な弟を害そうとした人間なんて二重で許せませんね。私、退席した方がよろしいですか?」
首をかしげて戸惑う第一王子殿下を見つめます。
「退席しなくていい。誤解だ。」
「この国の民は幸せですわ。こんな美しい妃殿下のためならきっとよろこんで仕えてくださいますわ」
戸惑う第一王子殿下の隣の妃殿下に静かに見つめられています。
この状況に眉一つ動かず静かに見ているとはさすが元公爵令嬢です。たぶん第二王子殿下の解釈も違ってます。
「貴方はクレアの友人ですか?」
「はい」
「本気で私を褒めてるんですか?」
これは試されてます。
「はい。クレア様は可愛らしいです。でも妃殿下はお美しいです。それに王太子妃に選ばれる聡明さ。人がそれぞれに向ける感情は違います。この国の未来を担うのは妃殿下です。クレア様には務まるとは思えません。私個人としても今後外交のお話をさせていただくならクレア様より妃殿下を望みますわ」
本気ですよ。クレア様とは真面目なお話はできません。
「私はクレアが何を考えてるのかわからないわ」
「クレア様は何も考えてません。目標が見つかれば一直線ですが…。きっとクレア様を溺愛されている第二王子殿下が操縦されますわ。」
「レトラ嬢、こんなに愛らしい外見なのに」
第一王子殿下に妙な視線で見られてますが。侮辱されてるのはわかります。社交用の笑顔で微笑みます。
「第一王子殿下、他にご用件はありますか?」
「兄上、無駄ですよ。レトラ嬢は兄上の求める答えはくれません。レトラ嬢、不敬罪にはしないからリリアとして教えて。もし義姉上を想う男が俺の暗殺未遂をおこした。事情は夫が他の女に夢中な義姉上に同情して。どう思う?」
第二王子殿下、いつからいましたの!?
この国の方はどうして突然現れますの…。
村で聞いたお話ですよね。第一王子殿下は他のご令嬢に夢中という。
「どうしてそれが暗殺未遂に繋がるのか関連性がわかりません。そうですね。私は公爵令嬢教育と王妃教育を受けた妃殿下がそんなことに傷つくとは思えません。夫婦としての義務さえ果たしていただければ夫なんてどうでもいいです。他のご令嬢に夢中なら妾にしたいと相談されれば受け入れてくださると思います。妃殿下を想う男の勘違いも無礼で迷惑です。きっと王太子として失格だな。これが自分の夫なんてなげかわしいと思っていただけです。結婚したからといって恋や愛があるなんて思わないでいただきたい。勝手に横恋慕されるのも迷惑です。親愛、敬愛ならともかく恋情なんて迷惑な物を押し付けないでください。男の勘違いって迷惑なんです。離婚も婚約破棄も申し出れば協力しますよ。でも言葉もきかずに勝手に勘違いして断罪しようとする男が一番嫌いです」
「リリ、落ち着いて、その辺にして」
肩を叩く第二王子殿下の手に、言葉を止めます。
目の前で茫然としている第一王子殿下に話しすぎたことに気付きます。
「失礼しました」
「兄上、もうよろしいですか?俺も今回は義姉上には非がないと思います。」
「クレアの友人だから、おかしな子かと思っていましたが、いい意味で予想を裏切ってくれました」
「義姉上、好きでしょう?」
「ええ。是非今度お茶にお招きしたいわ。この子がいればクレアの教育もうまくいくかしら」
「お手柔らかにお願いします」
何か不穏なお話をしていませんか。
私はもう国に帰りたいんですが。お父様達やオリビアに会いたいです。
いつまでも公爵邸でお世話になってるわけにはいかないですよね。
「第二王子殿下、ディーンを知りませんか?」
「俺が借りてた。今は扉の前にいるよ。レトラ嬢の騎士は強いな。いい鍛錬になったよ」
「私はもう失礼してもよろしいんでしょうか?」
「ああ。」
「では、失礼します。」
礼をして立ち去ります。さすがにそろそろ屋敷に帰らないといけません。




