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夢みる令嬢の悪あがき  作者: 夕鈴
10歳編

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第三十話 辺境の村6

疫病の治療に来たのに、聞きたくもない王家のお話を聞いています。私、愚痴なら聞き流すっていいましたよ。

力を貸すなんて一言も申し上げておりません。

私がこれ以上折れる気がないとわかっていただけたのか、第二王子殿下が苦笑しました。苦笑したいのは私ですよ。

第二王子殿下は自業自得ですよ。クレア様を甘やかしたことがいけないんです。


「リリ様、クレア様のことどう思いますか?」


護衛騎士の方の言葉に意図がわかりません。


「ここだけの話です。殿下も不敬罪にはしません。」


また沈黙が続きます。殿下も興味深そうに見てるので話すまで解放されないようです。仕方ありません。


「個人の見解と貴族としての見解は異なります。どちらで答えればよろしいですか?」


「個人でお願いします」


「ディーン、平気だと思います?私、中々ひどいことを言う自覚はありますよ」


ディーンが興味のない顔をしています。


「望むんならいいんじゃないんですか。」


「クレア様のことはよくわかりません。ただ第二王子殿下が恋に狂ってしてきたことは傲慢だと思います。」


「恋に狂って?」


殿下の騎士が一人噴き出しました。殿下は私の言葉の意味がわからないようです。

そのまんまですけど。


「リリ様、殿下は気にせず続けてください」


「貴族令嬢に産まれたら家の誇りと権力と義務を背負います。力のある家なら尚更。薄汚い貴族社会で生きれるように躾けられます。その世界から守ろうとするなんて傲慢です。私達には私達の戦いがあります。傷つかないように守りたいなんて迷惑です。傷ついたからこそ大事なものを見つけられることもあるんです。民と触れて初めて知ることも。クレア様にとって知る機会も出会う機会も奪ったことはひどいことだと思います。上位貴族に綺麗な世界などいりません。理想を押し付けたいなら妾にして後宮に閉じ込めて出さずにすればいいんです。自分好みにペットのように」

「ペット・・・」

「しっかり言い聞かせた友達を送り込めばいいんじゃないですか?殿下は中途半端です。完璧に囲ってしまうか、クレア様の意思を尊重して傍で見守るか。殿下の甘やかしたせいで公爵令嬢として最低の烙印を押されることに同情します。同じ貴族としては自分の家に誇りがあるならその立場に甘んじていたクレア様にも非があると言わなければいけません。貴族の家に産まれ、領民のことを想えず、自分の欲求に忠実な令嬢なんて恥です。私は隣国のことはしりません。ただうちの国なら許されません」


「クレアの友達じゃないのか?」

「申しわけありません。セノンのことは感謝してます。真の友達になれるかはわかりません。同情と恩義でお付き合いすることは否定しません。でも友達って命じられてなるものではないんです。ちゃんと、友達としての立ち位置で扱いますよ」

「リリ、お前は言ってることわかってる?」


殿下が眉を潜めてます。怒らせたかな。

クレア様についた嘘ですよね。セノンのために利用しました。でも私の言葉をそのまま信じた二人もどうかと思います。大事な者のためなら手段を選びません。


「取り繕った言葉がお嫌いなんでしょう?殿下は甘いと思います。貴方は人に言われて捧げられたものを信用できますか?形ばかりの忠誠を捧げる騎士を信用できますか?言葉や態度なんていくらでも取り繕えます。貴族は自分の中で本物を見極めるために厳しい教育を受けてるんです。家の利のためにしか動かない貴族というものを忘れないでください。私は殿下とクレア様のこれからに興味はありません。それに命じられたから捧げられるほど私の心も友情も安くありません。もうよろしいですか?」


打算で近づいても過ごしていくうちに大事な存在になることもあります。むしろ打算もなく無邪気に近づいてくる貴族令嬢なんていません。いたとしたら私は恐ろしいと思います。それが許されるのは分別のわからない幼い子供だけです。

笑っている護衛と呆然とする第二王子殿下を残して立ち上がるとディーンに止められました。本題がこれからのようです。しばらくすると殿下がまた話し始めました。


「この村のことを話そうか。この領地には人頭税といって家族の人数分だけ税金を納めなければいけない。ただこの地域は不作で人頭税が払えない家があった。そこで一部の村人たちが考えた。」


嫌な予感が当たりました。殿下が差し出した薬草を見て、手を強く握って怒りをこらえ表情を取り繕います。


「村に生えている薬草だ。過剰に食べると毒となり毒が体に巡って高熱が襲う。」

「疫病と認定されれば国から減税。遺族には見舞金もありますね。」

「人為的な物だろう。こんな地域に奴隷買いも来ないからな」

「領主が動かなかったんですか?」

「領主も承知だろう。」

「村長が病に侵されてるのは」

「村長は口減らしを最後まで反対した」

「殿下がここに招かれたのは」

「ここの領主の息子は第一王子妃に御執心」

「運悪く病にかかった殿下を」

「刺客が送られてきたけど、俺もそれなりに強いから」


最低です。王位争いに民の命を巻き込んだことも、助かるすべがあるのに握りつぶしたことも。


「不作で苦しいことを申告すれば、国から補助がでますよね?それを握りつぶしたのは領主・・。私、失礼します」

「リリ?」

「村長の病を治します。村長の考えを聞いてから決めます」


命をなんだと思ってるんですか。

領主は恥を知るべきです。

怒りがわいてきますが、村長の話を聞くまでは抑えましょう。

第二王子殿下の声は聞こえません。部屋から回復薬と魔石を持ち村長の屋敷に向かいます。

移動しながら魔石を自分の体に吸収させて魔力を高めます。まだ昼間の魔力が回復してませんがそんなことは言ってられません。

夜分の不躾な訪問なんて知りません。戸惑う門番をディーンに任せて村長の部屋に進みます。

また熱が出ている村長に解熱と体力回復の魔法をかけます。次に解毒魔法を少し。また体力回復と解毒魔法の繰り返し。回復薬を飲みます。


「リリ様、おやめください」


誰かの声が聞こえますが気にしません。ディーンが傍にいる限り私に危険はありません。

回復薬を飲みながら魔法を繰り返しかけ続けました。うん。もう大丈夫。村長の体に毒はありません。

顔をあげると辺りは明るくなっていました。疲れました。額の汗を拭います。


でも大事なのはこれからです。ちゃんと話をしないといけません。魔力が切れると眠ってしまうので回復薬に手を伸ばします。


「お嬢様、もう駄目です」


回復薬に伸ばす腕を止められてます。


「ディーン、これで終わりです。飲まないと眠っちゃうから」

「飲み過ぎです。5本も飲んだんです。治癒が終わったなら帰りますよ」

「駄目。せっかく治したのに、意味がなくなっちゃう。お願い」

「魔法を教わるときの約束を覚えてますか?」


約束。最初は魔法を覚えることは危険を伴うから皆に反対されていました。一緒に説得してくれたのは、


「無理はしない。言うことをきくこと」


「回復薬は1日?」

「1本。どうしてもなら2本までって。子供の体には危険だから」

「魔法を使い過ぎたら」


リリア、魔法の使い過ぎはいけない。でももし使い過ぎたらゆっくり休むんだ。


「休む」


「正解です。適任者がいるから任せましょう」


頭におかれる手が大きい。でもニコラスの手と一緒で優しい。

リリア、傍にいるから寝ていいよ。


「運びますからこのまま眠ってください」


懐かしい声が聞こえた気がしてそのまま目を閉じました。


***

目を開けると、見慣れない天井が見えました・・。


「リリア!!」

「クレア様?」

「よかった。あなた全然目が覚めなくて」


慌てて起き上がると、村じゃない?


「お医者様も眠ってるだけで時期に目覚めるって言ったけど」

「第二王子殿下は?」

「殿下も帰られてるわ。」

「約束を果たせてよかったです」


うん?膝の上にセノンが乗ってきます。可愛い。


「セノン様も貴方が運ばれてからずっとここから離れなかったのよ」

「セノン、ただいま。クレア様、ありがとうございました。屋敷に帰ります」

「泊まって。それに殿下も貴方が目覚めたとしれば喜ぶわ」

「これ以上ご迷惑を」

「お友達でしょ?私、役にたった?」


不安げに話すクレア様に、にっこり笑います。クレア様を利用したことへの罪悪感はあります。ですが感謝の気持ちは本物です。


「はい。とても助かりました。クレア様のおかげで私も殿下も無事に帰ってこれました。クレア様からいただいた物資と薬師様のおかげでたくさんの命が救われました。ありがとうございます」

「ねぇ、リリア、感謝させるのって嬉しいわ。貴方に会わせたい人がいるのよ」

「着替えます。こんな格好では」

「そうね。席を外すわ。終わったら呼んで。この服を着てね」


自分に洗浄魔法をかけて、侍女の手を借りて着替えます。

ここはエクリ公爵家。うん。お部屋に紋章があるので間違いありません。

着替えが終わるとクレア様が来ました。手をひかれて連れていかれます。


「リリ様!!」


駆け寄ってくるのは執事服を着た集会所にいた少年です。


「こんにちは。これは」

「この子、殿下が連れて帰ってきた子の一人よ。二か国語を話せるって知ったお父様が引き抜いたわ」

「リリ様に教えてもらった言葉を話したら後見についてくれるって。いずれ学園にも行かせてくださるって」

「そう。貴方たちが助かったのはクレア様のお蔭なの。たくさんの食料や道具を用意してくれたのはクレア様です。しっかりお仕えして幸せになりなさい」

「リリ様、またいつか会える?」

「ええ。きっと。」

「俺、勉強がんばるよ。いつか今度は俺がリリ様を助けられるように」


家族を捨ててきたのかな。どんな事情があっても前向きな姿勢は格好いい。


「ありがとう。楽しみにしてます」


なぜか顔が赤くなった少年は礼をして去っていきました。


「クレア様、ありがとう。」

「リリアってしっかりしているけどやっぱり子供なのね」


楽しそうに笑うクレア様と一緒に庭園を散歩しました。

セノンがいつのまにか足元にいたので抱き上げました。セノンが可愛い。

よくわかりませんが病は無事におさまったんでしょうか。


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― 新着の感想 ―
[一言] すごく 読んでてたのしかったです。 続きが早く読みたいです。
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