第二十八話 辺境の村4
私は隣国の辺境の村の疫病の支援のお手伝いにきました。
病人の過半数が集まった集会所で毎日解毒魔法をかけて日々を過ごしています。
子供と違ってご老人の解毒は難しいです。それなので徐々に解毒魔法を重ね掛けしています。
元気な子供たちは増えましたが、皆さま家に帰りたくないそうです。
それなので、集会所でお手伝いをお願いしています。おかげで私のやることが減り余裕ができました。
食事は私が確認してから配ることにしています。
今日は朝から第二王子殿下が集会所に来られました。
医務官の二人には朝と夜に分けて集会所の皆様の様子を見ていただいています。
薬師様はお会いできていません。
村長の命令で手伝いを申し出てくださる村人には殿下が指示を出しています。
「殿下、私、各々の家の病人の治療にいきましょうか?ここはもう重病者はいません」
「俺も一緒に行くよ」
「いえ、ディーンと二人で、わかりました。私は治療だけして余計なことは話しません。よろしいですか?」
「察しがよくて助かるよ」
「村長の家から行きましょう」
村長の家に行くとやはり村長は高熱にうなされています。
殿下がご家族とお話している間に解毒魔法をかけます。うん、これは一度では無理。
解毒魔法は本人の体力を奪ってしまうから少しずつかけなくてはいけない。
解熱と体力回復の魔法を重ねてかけましょう。
うん?視線を感じて振り向きますが誰もいません。
「村長、よければ集会所で看病させてください。あそこなら人手もそろっております」
「うちで面倒みますのでご心配はいりません」
「余計なことを申しわけありません。」
「リリ様、そのお気持ちだけで充分だ」
「リリ、行くよ」
「はい。殿下」
殿下と村長の家を出て次の家に向かいます。
「リリ、一人では絶対にこの村を出歩くな。何があってもだ」
「殿下?」
「もしディーンが傍にいないなら、うちの護衛騎士を使ってもいい。それだけは守って。特に村長の家は絶対に一人で行くな。人が死にかけようが俺が人質にとられようが」
「殿下?」
「うちのお嬢様を脅さないでください。俺が決してお傍を離れませんから」
「リリ、覚えておいて。」
意味深な殿下の言葉に頷きます。さすがに一人で出歩いてはいけないことはわかりますよ。
その後も何件か回りますが門前払いなんですが・・。やっぱりここの村人の様子に違和感を覚えます。元気なんです。看病してる疲弊した様子がないんです。元気なのはいいことなんですが、病人を抱えているわりに不安な様子も見受けられません。
隣国の方は感性が違うんでしょうか・・。
「うちは大丈夫です。」
「お金もお礼もいりません」
「高貴な方をお入れできません」
「私とディーンだけで入ればよろしいですか?」
「いえ、本当にうちは大丈夫ですので。お気になさらず」
「リリ、行くよ。ではお大事になさってください」
第二王子殿下に腕をひかれて歩きます。
「殿下、私が一人で行ってみてもいいですか?」
「お嬢様」
「私は見た目は子供ですから、警戒せずに入れてもらえないかなって。いざとなったら結界張りますんで、助けにきてください」
「3分」
「短い。わかりました。行ってくるんで隠れていてください」
不服気なディーンは気にしません。
家の戸をたたくと女性が出てきます。にっこり笑いかけます。
「こんにちは。魔導士のリリと言います。病気の治療と祈祷に回っています。お手伝いできることはありますか?」
「あら、集会所はいいの?」
「他の先輩方がいますので。なにかお役にたてませんか?」
首を傾げて女性を見つめます。口元は布で覆っているから効果があるかはわかりません。
「病気の方がいなければ、健康の祈祷もできますよ。疫病で苦しむ村の方々が明るくなるためにお役にたちたいんです」
「うちは病気にはかかってないけど、そうね、どうぞ。せっかくなのでお願いしようかしら」
「お邪魔します」
「旦那は仕事で出ているわ。」
家の中を見ても特に変わった様子はありません。
部屋の中に洗浄魔法をかけて綺麗にします。実は健康の祈祷なんてできません。
「まぁ!?」
「これできっと大丈夫です。」
女性に礼をして立ち去ります。
「リリちゃん、お休みの日に遊びにいらっしゃい。今度はお菓子を用意しておくわ」
「ありがとうございます。失礼します」
家から出ると木の下でディーンが待っていました。
「ディーン、病人いませんでした。怪しまれないように洗浄魔法をかけてきました。もしかしたらお掃除目当てでこれからは家に入れるかもしれません」
「お嬢様、目的は家に入ることではありません」
「間違えました。そういえば殿下はどちらに?」
「もう見回りはいらないそうです。戻りましょう」
ディーンの言葉に首を傾げます。でもそれが第二王子殿下のお考えなら従いましょう。
病人がいないことは喜ばしいことですもの。
この村に来て一月がたつころには子供たちは完治しました。
ただ家に帰ることを拒むので、手伝いをする傍ら文字を教えることにしました。
集会所にいる方々のご家族が会いに来ないのはどうしてでしょうか。
「リリ様、終わった」
「もう全部覚えましたの?」
「俺も終わった。リリ様褒めて」
「凄いです。次は・・・」
頭を撫でると喜ぶ子供たちが可愛いです。懐いてくれなかったカイロス様は元気でしょうか。
文字を覚えたなら計算かな。
「リリ様、俺達ここにいても平気なんですか?」
この子は子供たちの最年長の12歳。
「いたいならいればいいです。家に帰りたいならご自由に」
「こんなに穏やかに過ごせるなんて夢みたいだ」
子供の笑顔に複雑です。どうしても嫌な予感がするんです。
「ではお休みです。私もいずれはここを離れる時がきます。それまではお勉強しながらゆっくり過ごしましょう」
「俺もリリ様と一緒に行ければな」
「村以外の暮らしに興味が?」
「俺は家だと邪魔者だから。体が弱いし力もない。」
「私と一緒に外交官を目指します?」
「外交官?」
「私の家系は色んな国との交流を支援する外交官なんです。目指すなら受け入れます。私も力はありません。」
頭を叩かれました。振り向くと、不満そうな顔で第二王子殿下に見られてます。
「リリ、うちの国民を勧誘するな」
「殿下、お帰りなさい」
「ただいま。もし親元を離れたいなら手を貸すよ。王都に学園がある。そこで学べば将来の仕事の幅も広がる。成績優秀なら学費も生活費もいらない。利子なくお金を貸す制度もある」
「俺が?」
「君が望むなら。家族は説得しないとだがな。」
「殿下、入学試験はどの程度まで、できればいいんですか?私、歴史と武術以外なら教えます。」
「どうしてそんなによくしてくれるんですか」
「俺はすべての民に籠を与える。」
「殿下、もう少し言葉のお勉強をしてください。困ってる方がいるなら助けるのは当然です。それにやる気がある子供がいるなら支援するわ。やる気がなくても子供がひどい扱いを受けるなんて許せない。子供は親に庇護されて自由に過ごすものです。家族を説得できなくても、貴方が本気でこの村から出たいなら力を貸します。私が亡命させてあげます。貴方は大事な民の一人よ。貴方の力は必要よ。この国が不要なら私がレトラの宝としていただきます。」
「リリ様、俺ついていってもいいの?」
「レトラの領民になりたいなら受け入れます」
「リリ様と一緒がいい」
「私はこの国の人間ではないの。それに将来は遠い異国の地に嫁ぐかもしれない。過酷でいいなら連れてくけど、」
「ずるい。僕も行きたい」
「私も」
突然抱きついてくる子供達に潰されながれディーンを見ます。
「ディーン、私はレトラ侯爵領に新しい孤児院でも建てればいいかしら」
「リリ様、他国の人をたぶらかさないでください。第二王子殿下しっかりしてください」
「俺、王子なのになんでリリのほうが人気があるんだろうか」
頼りない殿下に笑ってしまいます。この方は情けない方です。
「過ごした時間の違いです。あと殿下は言葉が難しいんです。もっとわかりやすく話してください。クレア様と話すときみたいに。子供に貴族の言葉は難しいですわ」
それから私はまだ解毒しきれない病人の治療をしながら子供たちに本格的に勉強を教えはじめました。
子供たちは家で必要とされてないようなので利用価値を高めればいいんです。
この村では文字を書ける人間は村長一家だけだそうです。さすがにそれはどうなんでしょう・・。
でも他国のことは気にしてはいけません。難しいことは第二王子殿下にお任せしましょう。でも、子供達が望むならレトラ領で引き受けます。罪のない子供が虐げられてるなんて許せません。




