第二十七話 辺境の村3
手のかかる第二王子殿下は休みに家に戻りました。
私は病人の方々に水を飲ませて回ります。
「お姉ちゃん、僕、治るかな」
「絶対に治すわ。だから寂しいけど頑張ろう」
少年の頭を撫でます。
この病の原因はなんなんでしょうか・・。
まだ魔力はたくさんある。試しに解毒魔法をかけてみようかな・・。
少年の胸に手をあてて魔法を紡ぎます。あれ、手ごたえがあります。なんで!?
顔色が良くなり熱も下がりました。少年はまた眠りました。
隣の少女にも解毒魔法をかけると手ごたえが。病気には解毒は効かない。
顔色がどんどん良くなってきました。
どうして解毒魔法が効果があるの。まさか・・・。
「お嬢様、大丈夫ですか?顔色が」
「ごめんなさい。大丈夫。ちょっと疲れただけです。そろそろ食事なので受け取りにいきます」
毒だとすれば村長夫人の用意してくれた食事は大丈夫なの・・・?
護衛騎士が受け取った大きい鍋の解毒魔法をかけると手ごたえがありました。嘘でしょ!?
なんで、解毒魔法の効果が出るの・・・。頭によぎる可能性に体が震えます。
「お嬢様!?一度戻りましょう。顔が真っ青です」
「リリ様、お戻りください。私も多少の医術の心得はあります。」
震えてる場合はありません。可能性が本当なら危険です。泣きたい気持ちをこらえて、平然とした表情を作ります。私が不安な様子を見せてはいけません。病人に不安を与えてしまいます。
「騎士様、お耳を貸していただけますか」
しゃがみこんだ護衛騎士に小声で話しかけます。
「平然とした顔で聞いてください。この鍋の中身は解毒しました。これは食べさせてもかまいません。他の村人からいただいたものは決して口にいれないでください。このことは他言無用でお願いします」
「ではリリ様、お休みください。ここは私にお任せください」
護衛騎士の言葉に頷いて、ディーンと一緒に家に帰り洗浄魔法をかけて部屋に戻りました。エルとエリに集会所に手伝いに行ってもらいました。
「お嬢様、今日はもう休みましょう。」
「具合、悪くないんです。」
「顔が真っ青ですよ。無理はいけません。休みたくないなら事情を話してください」
「ディーン、どうしよう。こんなこと口にだせません」
「お嬢様、どうしました?俺はこの国の人間ではないので何を聞いても平気です。」
「毒が・・・。さっきのお鍋にも少年の体にも毒が。解毒魔法の効果があってどうして、これって」
「お嬢様、落ち着いてください。」
ディーンに抱き上げられて移動しています。
「失礼します」
「ディーン!?」
ドアを開けると第二王子殿下と護衛騎士の二人がいました。
「ご無礼を申しわけありません。ディーン、おろしなさい。無礼よ」
「構わない。リリ、どうした?」
「お休み中に申しわけありません」
「お嬢様、これは休んでる場合ではありません。」
「でも憶測です。こんなこと言えません」
「お嬢様、最高責任者はどんなことでも知る権利があります。」
「俺は大丈夫だから事情を聞こうか。どんな情報でも報告してくれ」
静かに見つめる第二王子殿下。
「試しに解毒魔法をかけたら効果があったんです。なぜか村長夫人から頂いたお料理にも解毒魔法の効果がありました。解毒魔法は毒にしか効き目はありません。病には効果はありません。」
第二王子殿下と護衛騎士の方々が真剣な顔で見つめ合ってます・・・。絶望しないことにほっとしました。この様子ならお任せしても大丈夫な気がします。動揺してない周りを見て、深呼吸します。頭から冷水でも被りたい気分です。取り乱した自分を反省します。侯爵令嬢として許されない行為でした。
「村人は信用できないか。まさかな。いや、でも」
「私とりあえず、集会所に戻ります。ご判断は殿下にお任せします。殿下はここ以外では決して物を口にしないでください。ディーン、行きましょう」
「リリ、大丈夫か?」
「はい。先ほどは動揺しましたが私は私にできることを致します。失礼します」
私は治療するだけ。解毒魔法が効果があるってわかっただけでも進歩です。
集会所に帰り、食事を食べさせる手伝いをしましょう。これからは解熱ではなく解毒魔法をかけましょう。
「お嬢様、いいんですか?」
心配そうなディーンに微笑みます。取り乱してしまうなんて恥ずかしいところを見せてしまいました。
「謀は殿下のお仕事でしょう?私は救護のお手伝いにきましたもの」
「わかりましたよ。無理だけはしないように」
夕方になると解毒魔法をかけた少年と少女が目を醒ましました。
「お姉ちゃん、ここにいたら駄目?」
「いるのは構わないけど、家に帰りたくないの?」
「うん。家に帰ってもぶたれるだけだから。」
「私も帰りたくない。お手伝いするからここにおいて」
「ここにいる間はお外に行けないわよ」
「うん。」
「わかったわ。今はゆっくり眠ってしっかり食べて元気になるのがお仕事。元気になったら皆のお世話を手伝って」
「「うん」」
二人に食事を渡すとゆっくりと食べはじめた。自分でご飯が食べられるようになってよかったけど、家に帰りたくないって・・。
この細くなった体は病の所為じゃないのかな・・。
他国のことには深入りできません。第二王子殿下はこの集会所は関係者以外立ち入り禁止にしました。
夜に運ばれてきた食事にも解毒魔法をかけていただくことにしました。
解毒魔法をかける前に一皿分だけ別にしておきました。
「騎士様、薬師様にこれを調べていただけますか」
「わかりました。頼んでおきますよ。預かりましょう」
「ありがとうございます。」
夜になるので家に戻りました。
食事をして出かける支度をしている第二王子殿下に話しかけます。
「殿下、少しだけよろしいですか?」
「リリ、そんなにかしこまらなくていい。なに?」
「回復した子供に家に帰りたくないから集会所に置いてほしいと頼まれました。元気になって集会所から出ないなら構わないと伝えてしまいました」
「ああ。それでいい。リリ、医務官は好きに使っていいから集会所は任せてもいいか?」
「殿下がしっかり休んで、御身を大切にしていただけるなら引き受けましょう」
「わかったよ。リリも無理はするな」
「はい。お気をつけていってきてください。殿下、1日1回でいいので集会所にお顔だけ出してください」
「ああ。じゃあ、また」
殿下が毎日集会所に顔を出してくれれば、責任者としての役目を真っ当していることになります。
その日も夕食を食べてすぐに眠りにつきました。
私、国に帰るころには解毒魔法のプロになってるかもしれません。




