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夢みる令嬢の悪あがき  作者: 夕鈴
10歳編

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第二十五話 辺境の村1

私は隣国の辺境の村に来ております。王都から二日ほど馬を走らせました。

疫病の鎮静にかかるべき第二王子殿下のお手伝いです。


「レトラ」

「殿下、ここではリリとお呼びください。今の私は平民の魔道士です。家の名前は出さずにお願いします」

「気をつける。」


今はきっと村人たちは疑心暗鬼です。他国の侯爵令嬢を見て何をされるかわかりません。

やっぱり第二王子殿下が陣頭指揮にくるのは違和感があります。王家は安全な所で高みの見物が常識です。自国なら王家ではなく領主が動くべきことです。

王家の人間をよくもこのような危険な場所にと貴族としては思います。ただ民にとっては高貴な王家の方自ら来ていただけるのは励みになります。

嫌な予感もあるんですが、それは気付かない振りをします。


第二王子殿下の陣頭指揮なのに派遣される人数が少なすぎます。

医務官2人と護衛騎士3人。クレア様からお借りした薬師が1人。

他国の事に口をだすのはいけませんが、本当にやる気あるんですか!?

クレア様の頑張りのおかげで物資は馬車2台分あります。今後もエクリ公爵家が物資の支援をしてくれるのは心強いです。


ただこれでは人数が心もとないので道中私は奴隷を二人買いました。この国には奴隷制度がまだあります。年齢はわかりませんが親子です。お母様のエリと息子のエル。一番安かったのでえらびました。

洗浄魔法で綺麗にしたので馬車に同乗させています。二人は傷だらけなので治癒魔法もかけました。ただ手に焼き付いている奴隷の証だけは消せないので手袋で隠しました。第二王子殿下には奴隷を買うのは嫌な顔をされましたが、合法なので文句を言われる筋合いはありません。嫌なら制度をかえるべきです。貴方にはその力があるんですから。言いませんけど。


「エリ、エル、買うときにも話したけど、これから疫病の村に行きます。エリには来てもらわないといけないけど、エルはどうする?」

「リリ様、奴隷に選択肢はいりません」

「エリ、貴方の主人は私です。エリは奴隷ではなく私の臣下。そこにいるディーンと同じよ。私には自分の家臣を守る義務があるの。」


エリは訳のわからない顔してます。うん。奴隷として生きてきたならまだ難しいですよね。国に帰ったら解放してあげよう。


「追々でいいわ。ただ二人とも自分を奴隷というのは禁止します。聞かれたら、私の臣下か弟子と言ってください。もし村人に暴力や悪口や嫌がらせを受けたら私に報告しなさい。命令です」


不思議そうな目で見られています。


「リリ様、俺は役にたつ?」

「ええ。助かるわ。ただこれから行くのは危険な場所。私は子供の貴方が嫌がるなら安全な場所で」

「行く。母さんが行くなら。それに仕事はする」


やる気満々な顔に元気をもらいました。第二王子殿下よりよっぽど頼りになります。頭を撫でて視線を合わせます。


「わかりました。私の命令は絶対です。約束できますか?」

「うん。リリ様の命は絶対」


この国で初めて出会ったまともな子です。エルみたいな子がいるならこの国も期待できるかもしれません。

エリとエルには馬車の中で村での注意事項をしっかり言い聞かせました。

二人共飲み込みが早くて助かります。

隣にいる第二王子殿下に釘をさします。


「殿下、口元の布は絶対に外さないでください。洗浄魔法で体を綺麗にしてから食事されてください。貴方は絶対に病にかかってはいけません」


領主の家に行き状況を確認します。殿下が口元の布を取ろうとしたので笑顔で制します。

礼儀なんて気にしている場合ではありません。ローブも脱がせません。

王家の貴方はそんなこと気にしなくていいんです。


病にかかると高熱がさがらず、水分もとれずに亡くなってしまうそうです。

各々の家で看病をしているって収容所を作ってないんですか!?

この領主は病が流行ってからは村には足を運んでないから詳しいことはわからない?

あてになりません。私のお兄様は未成年なのに病の村に行って陣頭指揮をとってたのに・・。他国の領地のことは気にしてはいけません。

領主の家から馬車を2時間走らせて村にようやくたどり着きました。

村について立ち止まっている殿下に声をかけましょう。


「第二王子殿下、家を回るの大変なので病人は一箇所に集めていただけませんか?それに看病している皆様にも休息が必要です」

「リリ、慣れてるのか?」


いや、ちゃんと考えておいてくださいよ。移動時間に何をしてましたの?

気にしてはいけません。やるべきことをやるだけです。今は迅速な対応が必要です。時間との勝負でもあります。


「昔、うちの領の村でもありました。まずは村長のところに行きましょう」


村長の家に行くと、うん。これはまずいかな。

高熱で朦朧としている村長に挨拶している場合ではありません。

村長の手を握り治癒魔法をかけます。ただ解熱と体力回復はできても、病気は治せません。治癒魔法は万能ではありません。病は治せません。


「これは!?」


驚いている家族と村長に挨拶します。


「魔導士のリリと申します。こちらは第二王子殿下、陛下の命でこの村の救援に参りました。」

「わざわざ、このようなところに・・」

「挨拶はいらない。これからは私が指揮をとる」


第二王子殿下、言い方がありますわよ!?

不安なところに突然来て指揮権渡せって横暴です。社交用の顔を作ります。気を抜くと殿下を睨んでしまいそうになります。


「一時的に熱は下がりましたが、病が完治したわけではありません。村長には休んでいただきたいんですが…。申し訳ありませんがお力を貸していただけませんか。ねぇ、殿下?」


第二王子殿下に笑顔で頷いてと圧力をかけます。


「ああ」

「もちろん。私にできることはしましょう」

「病人を集める場所を貸していただけませんか?そこでまとめて看病します」

「あちらの集会所をお使いください。」

「ありがとうございます。あと村長から村人の皆さまにお話をしていただけませんか。もし元気な方がいれば病人を集会所のお連れするのに力を貸してください。私の村も昔、病に苦しめられました。新参者の私たちを信じられないのはわかります。ただどうか」

「リリ様、顔を上げてください。王家の指示に従いましょう。」


村長に話してほしいことをお願いして、集会所を目指しました。

魔道具の拡張機を渡したので、村長の話は村中に聞こえます。

新参者の私達が話すより村長の言葉の方が耳を傾けてくれると思います。人攫いと勘違いされないように。


提供された集会所は辺境の村にしては、中々大きくてありがたいです。

まずは、集会所を綺麗にしないといけません。洗浄魔法を使うために魔力を纏って、


「お嬢様、待った」


肩を叩かれて、魔法が失敗しました。広範囲の洗浄魔法は集中しないといけないんです。

魔法を使おうとする人間を驚かせるのはやめてほしい。ディーンは知らないんでしょうか。


「ディーン、魔法を使おうとしているときに声をかけないでください」

「洗浄魔法を使うのはやめてください」

「魔法ですぐですよ」

「魔力は温存すべきです。回復薬も1日1本以上渡しません」

「え?」

「過剰な回復薬の服用は体に悪いです。俺の最優先はお嬢様の御身です。掃除させましょう」

「私達4人でですか?1日かかりますよ・・」

「お嬢様は休んでください。そこにも4人います」


ディーンの視線の先には第二王子殿下と護衛騎士が3人。


「殿下、ご協力いただけますか?」

「ディーン、何を言うんですか」

「ここまで全部お嬢様の策でしょう?病人が集まればお嬢様が忙しくなるんです。働いてもらいましょうよ」

「リリ、何?」

「なんでもありません」


ディーンの背中を押しても動きません。


「殿下、ここの掃除を護衛騎士とお願いします」

「ああ。」

「リリ様、馬車から掃除用具持ってきたよ。」

「ディーン!?エル、ありがとう。」


第二王子殿下と護衛騎士が掃除道具を受け取っているのはどういう状況ですか!?

護衛騎士もなにも言いませんの?うちの殿下に何をさせるんだって斬りかかられても言い訳できませんよ・・。


「リリ、ここの掃除は俺達が任されるから休め。」

「そうですよ。うちの殿下が情けないばかりにすみません。顔くらいしか役にたちませんのでこき使ってください」

「うちの殿下は掃除も料理もそこらのご令嬢より」

「うるさい。とっとと掃除しろ」


掃除をはじめた第二王子殿下達をどうしたらいいかわかりません。

うん。気にするのはやめましょう。

何からしようかな。まずは水場を探しにいかないとですね。


「わかりました。お願いします。エル、エリもここの掃除をお願いします。具合が悪くなったらすぐに教えてください。命令よ」


頷くエルとエリを確認して集会所を出ると村人がいました。


「リリ様ですか?」

「貴方は?」

「村長にリリ様に従えと命を受けました。村長を助けてくれて」

「お礼はいりません。それにまだ完治してません。でも貴方方が来てくれて助かります。」


成人した村人が4人います。


「皆さまは体調はいかがですか?」

「俺達は元気です」

「わかりました。病に打ち勝つために力を貸してください。この村のことを教えていただけませんか?」

「それなら俺が」

「少々ここでおまちください」


集会所の中に入り、エルを探します。


「エル、お願いがあるの」


エルが走ってきました。


「馬車からローブと服とタオルを4人分持って来てくてくれる?」

「行ってくる」


エルは走るのが早いんです。細くて小柄なので国に帰ったらもっとお肉をつけさせたい。

私、大事なことを忘れてました。

村人の元に戻ります。


「使っていない家などありませんか?」

「村長が滞在中は客間を使って構わないと」

「いえ、気をつかわせたくないので、皆一緒で構いませんので一軒ほど。屋根さえあれば構いません。」

「夜までにご用意しますので、それまでお待ちいただけますか?」

「はい。助かります。あと水場を教えてもらえますか?」

「川の水を汲んでいます。川までご案内しますか?」


川の水・・。


「お嬢様・・」


ディーンのその顔は余計な体力を使うなってことです。


「今はいいです。薪の備蓄はありますか?」


「はい。必要でしたらお分けしますよ」

「リリ様、持って来たよ」

「ありがとう」

「皆さま、お湯を沸かして、体を綺麗に洗ってこの服とローブに着替えていただけませんか?お願いしたいことがあります。これらは差し上げますので」


戸惑う村人たちに見つめます。集会所は綺麗な状態を保ちたいんです。


「村長の命令は?」


ディーン、村人を脅さないでください。


「わかりました。おい、行くぞ」

「ゆっくりでいいので沸騰したお湯を冷まして使ってください。綺麗にしっかりお願いしますね。その後は口をこの布で覆ってください」

「わかった」


戻ってきた村人達に集会所の掃除を手伝っていただくようにお願いしました。

ディーンの視線に負けて、座って見守ります。元気なのに。それに王子を働かせて私が休んでるのってまずいと思うんですが・・。まぁ私はこの国の貴族じゃないから嫌われてもいいかな・・。


掃除が終わったので村人達と殿下の護衛騎士に物資を集会所の小部屋に運んでもらいます。布団も敷きました。

これで受け入れる準備は整いました。


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