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夢みる令嬢の悪あがき  作者: 夕鈴
10歳編

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第二十三話 貴族としての挟持

私はお父様と一緒に隣国に滞在しております。

黒い仔犬のセノンを拾いました。この国では黒い犬は不吉といわれるので、セノン用のローブを作りました。

これで連れて出歩いても問題ありません。

なぜかディーンは私とセノンのローブ姿を映像水晶に記録しています。

映像水晶は魔力を流した状態で水晶にかざすと、水晶にかざしたものを記録できるんです。魔力をためた魔石をセットすれば魔力がなくても使えます。


「お嬢様、にっこり笑ってください」

「はい?」

「もういいです。セノンと遊んでて下さい」

「ディーン、なにしてますの?」

「気にしないでください。」

「わかりました。」


気にするのはやめましょう。ディーンは時々意味がわかりません。セノンは可愛い。

シロは元気かしら。きっとニコラスが可愛がってるから大丈夫ですよね。きっとお顔を崩してニヤニヤしてますわね。


「リリア!!」


お父様が帰ってきました。昼間に帰ってくるなんて初めてです。


「明後日、この国を発つから準備しなさい」

「お父様?」

「辺縁の村で疫病が流行っている。広まる前に国に帰らなければいけない。」

「お父様、疫病って、」

「原因不明の高熱」

「お父様、リリーは残ってお手伝いをしてもいいですか?」

「本気か?」

「うちの領にも以前流行りました。私はあの頃の何もできない子供ではありません。お父様は先に帰国してください」


昔、うちの領の村にも疫病が流行りました。お兄様は指揮をとるために村に行きました。ただ私は村に近づくことも許されず、お祈りをするしかできませんでした。

その頃は魔法も使えませんでした。


「リリア、行っても邪魔なだけだよ。だから学ぶんだ。どうすればいいか。」


私に付き添っていたニコラスと一緒に疫病について勉強しました。だから知識はあります。

それに申し訳ありませんが、この国での経験もいつか役にたつかもしれません。

できることがあるのに、やらないわけにはいけない。


「危険なことはわかっているか?目の前でどんどん人が死ぬ。自分も病にかかるかもしれない」

「はい。」

「決めたのか」

「他国とはいえ、民が苦しむなら助けるのが貴族の務めです。それにうちの国にまで入ってきたら大変です。」

「病がおさまるまで、国には帰れない。リリア、お父様はついていてやれない。ノエルもニコラスもいない。」


私の顔を心配そうも覗き込むお父様に優雅に微笑みかけます。


「自衛はできます。レトラ侯爵令嬢として動くかリリア個人として動くかはお父様の判断に従います。私、治癒魔法が得意でしてよ?」

「ニコラスのために覚えたんだろう」


確かにきっかけは民のためではありません。でもおかげでできることがあります。

きっかけをくれた幼馴染には感謝してます。


「はい。でもきっとお役に立ちます。ディーンもいりません。」

「俺はお嬢様の護衛騎士です。任を解かれるまではお側を離れません」


ディーンは解任するまでは私から解放されない。大事なことを忘れてました。

ディーンに向き直ります。


「ディーン、今までありがとう。私の護衛任務は今日で終わりで結構よ」

「俺の雇い主はお嬢様ではありませんので従いません。レトラ侯爵、お嬢様は俺が守ります。それにお嬢様を置いて国に帰れば俺の命がありません」


ディーンが物騒なことを言っています。私が許して、この状況なら置いて帰っても許されると思うのですが・・。ディーンは貴族ではありません。それなら行く必要はありません。


「お父様、ディーンの任を解いてください」

「リリア、お父様はお前を一人で置いていくことはできない。せめてディーンを側に置きなさい」

「お父様」

「それが嫌なら無理矢理連れて帰るよ。リリアが行かなくてもいいんだ。」


お父様は優しい。お父様は私を私事で同行している。公式なレトラ侯爵令嬢の訪問ではないから、役目を果たさなくていいとも。

でもここで甘えるわけにはいかないし、甘える気もありません。


「病に逃げて帰ってきたなんて社交会で笑われます。私はレトラ侯爵令嬢として務めを果たします。それに私が動いたほうが良いこともあるでしょう?」

「まぁな。他国の侯爵令嬢が動くなら自国の貴族達が動かないわけにはいかない。捨て置かずに支援の手が差し伸べられる可能性は高い。」

「お父様、私を利用してください。お父様は帰らなければいけません。治癒魔法を使える愛娘を残していけば友好国としての面目は保ちます。」

「私はこんなことのために連れてきたのでは」


お父様が大事にしてくださるのはわかります。

でもレトラ侯爵令嬢としてここで帰国するわけにはいきません。

それに、きっと後悔します。

ディーンは揺るぎない瞳で私を見ています。ディーンは私が責任をもって守りましょう。

それに人手は一人でも多くあったほうがいいです。


「わかってます。私は病に負けたりしません。無事にお父様の元に帰ります。」

「言い出したらきかないからな。無事に帰ってくるんだよ。せっかくだから、滞在期間延長の手続きや船の手配方法を確認しようか」

「はい。お父様」


それからお父様に教わり、ディーンと私の手続きをおえました。

お父様に滞在するために必要なお金も用意してもらいました。この屋敷はそのま使っていいそうです。

お父様はまた出かけていきました。

お父様の帰国の準備の指示を出し終えた私は旅の準備を整えるためにディーンと買い物に行くことにしました。


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