第二十ニ話 セノン
隣国の第二王子殿下に婚約者との仲を取り持ってほしいと頼まれました。私は婚約者のエクリ公爵令嬢に第二王子殿下とお忍びデートプランを提案しました。第二王子殿下はエクリ公爵令嬢にご執心なのできっと喜びますわ。殿下、あとはご自分でうまくやってくださいな。
私は街を歩いております。賑やかな市の先には、珍しい露店が多いんです。
「お嬢様、これ以上は進まれないほうが」
「ディーン?」
「治安が悪いので、」
「ディーンがいれば大丈夫では?」
お父様が私につけた護衛騎士なら腕は確かです。
物言いたげなディーンは気にせず進みましょう。
あら?この織物は初めて見ますわ。
今さらですが私もお金を稼げるようになりたいですね。用心棒?弱いから無理です。
「ディーン、私も頑張れば用心棒になれるくらい強くなれますか」
「は!?いや、無理ですよ。さすがに・・・・・・・。それに坊ちゃんが絶対に許しません」
やっぱり、うん?ディーン、時々ブツブツ言ってますが聞こえませんよ。
あれは?子供ですかね。はい!?ありえません。
駆け寄って石を投げられてる仔犬を抱き上げます。小石でもぶつかると痛いです。
ディーンの呼ぶ声など知りません。
「やめなさい。なにをしてるんですか」
「この犬、おかしいんだ。だから」
「はい?どんな理由があろうと許されません。」
「そいつ離せよ。」
掴みかかろうとする少年の手をディーンが掴みます。
弱っている仔犬に治癒魔法をかけないと。
「この子が貴女達に危害を加えたの?」
「こいつ何してもすぐに治るんだよ」
「は?いえ、治るからといって、危害を加えていい理由にはなりません。」
「気持ち悪いだろ?こいつ、もう傷が治ってる」
あら?本当に傷が治っていきます。
この子自己回復魔法が使えますのね。
「あなた、優秀ですね。自己回復は高度な魔法よ」
「魔法!?」
「ええ。凄いわ。貴女、あんまりこの子をいじめると後悔するわ。まずはお母様にお話にいきましょうか」
「は!?なんで!?」
仔犬に治癒魔法と洗浄魔法をかけます。
綺麗になりました。
「弱いものいじめはいけません。家に案内しなさい」
「なんでだよ。その犬はお前の犬じゃないだろ?」
「私が助けたから私のものです。こんな言い方はしたくありませんが、私に平民が逆らうなんて身の程をわきまえてください。」
「お嬢様、本気ですか!?」
「ええ。しっかり教育してもらわないと。隣国とはいえ、侯爵令嬢の私の方が身分は上ですから。」
「坊ちゃん、このお嬢様は俺の手に余ります」
「ディーン、何を言ってるか聞こえません。もっと大きい声でお願いします」
「なんでもありません。お嬢様の命令だ。さっさと家に案内しろ」
ディーンの睨みに怯えた少年達を、連れ彼らの家に訪れました。
ご家族は私を見て怯えていましたが、少年達をしっかり躾けると約束してくれました。
私の腕で怯えている仔犬は家に連れてかえることにしました。
ただ、この子を国には連れて帰れません。まだ当分はこの国にいますし、追々考えましょう。
黒い仔犬を抱きながらこの子の寝床用の籠やお皿を買います。ディーンが必要なものを教えてくれました。
「あなた、お名前はある?」
くうんと鳴いてますわ。ないんですね。うーん。
「セノンはどう?良いかしら?」
仔犬の目を見つめるとうん、不満はなさそう。
「セノン、家が決まるまでうちでゆっくりしましょう。意地悪する人はいないから、安心して」
可愛い。こんな小さい子を虐めるとは酷すぎます。
この国にいる間は私がしっかり守って育てます。
屋敷にセノンを連れて帰ると使用人が驚いた目で見てきました。
気づかないふりをして、セノン用のミルクを用意させました。
お皿の上のミルクは飲むセノンは可愛いです。
セノンを部屋で愛でていると第二王子殿下の訪問の知らせを受けました。
この国には先触れという文化はないのかしら。
「セノン、お部屋で待っててください」
このつぶらな瞳に見つめられると、だめですわ。
負けました。セノンを抱き上げます。私の腕で目を閉じるセノンが可愛い。顔がにやけてしまいそうです。
「いつまで待たせる」
声が聞こえましたが、まさか…。急いで社交用の顔を作ります。
「第二王子殿下、婚約者以外の女性の部屋に入るのはどうかと」
「子供に興味はない」
「そんな問題ではありません。噂がたち、苦労されるのは第二王子殿下ですよ。」
「お前は俺との噂がたって困らないのか?」
「迷惑ですから、申し上げているのです。」
「その腕の中にいるのは、なんだ?」
「セノンです。町で子供にいじめられているのを保護しました。意地悪したら許しませんよ」
「黒い仔犬は不幸を呼ぶ」
「そんな迷信しりません。この子を保護して、この可愛いさに癒されますわ。不幸どころか幸せしかありません。ご要件は?」
「お前、クレアに何を言った!?」
「あら、婚約者からのデートのお誘いも叶えられませんの?」
「お忍びで二人で出かけたいって」
「わざわざ感謝を伝えにきましたの?」
「危ないだろ!?」
「隠れて護衛をつければよろしいかと。殿下は婚約者も守れないほど弱いんですか?」
「それは」
「せっかくですから、お忍びデートで愛を囁いてあげてくださいませ。あなたの婚約者は恋愛小説がお好きなようですわ。ロマンチックな場所も選んでください。婚約者とはいえ、プロポーズくらいしてあげてくださいませ」
「注文多くないか?」
「失礼しました。余計なことでしたわ。ではお忍びデートを楽しんできてくださいませ」
「もう少し、具体的にないのか!?」
先程は注文多いって言いましたよね…。
「初のお忍びデートは自分で考えてください。他の女の考えたデートプランなんて婚約者様に失礼です。私はセノンを可愛がるのでこれで」
第二王子殿下は気にせず、セノンを可愛がることにしました。
しばらくすると第二王子殿下はブツブツ言いながら去って行きました。




