第十九話前編 エクリ公爵家
今日はお父様と一緒にパーティに招かれています。
お父様のお友達の公爵の私的なパーティーなので、私も参加させていただけるそうです。
ドレスを着て、支度を整えお父様の手を取り公爵邸に行きます。
やはりどこの国も公爵邸は大きいです。
私、会場に入って気づきましたが場違いでしょうか!?
周囲は大人ばかりです。
お父様の隣で挨拶にまわります。
これはお友達作りではなく、外交官のお勉強と思いましょう。
社交用の笑顔で話を合わせます。
「リリア、一人で平気かい?」
「はい。お父様。」
お父様が離れていきました。私が側にいてはできないお仕事のお話をするんでしょう。私は公爵邸の料理をいただきましょう。ケーキがたくさんありますわ。
どのケーキからいただこうか迷います。
彩りのケーキからいただきましょう。この甘酸っぱさは初めてです。美味しい。お友達作りは難しいですが、このケーキだけでも参加したかいがありますわ。
「貴方、ケーキが好きなの?」
「はい。」
「令嬢がケーキが好きなんて恥ずかしくないの?」
「私は美味しいものを愛するのに貴賤はないと思います」
「ケーキばっかり食べてはしたないわ」
「私の国ではケーキはお目にかかれません。たくさん食べて、怒られるなら、甘んじて怒りを受けましょう」
この白いケーキもサッパリしていて美味しいです。この国の料理は口に合いませんが甘い物は非常に美味しいですわ。
私、先程どなたとお話をしてましたか?
また少女の霊でしょうか?
あの後、スペ様に聞いても湖に少女はいなかったと言われましたの…。
思い出したら寒気が…。念の為確認をしましょう。
「ディーン、私に、話しかけました?」
「話しかけてません」
「やはり、私だけに声が聞こえたんでしょうか…」
「お嬢様、落ち着いてください。そこですよ」
ディーンの視線をたどるとテーブルの下ですか。
「ディーンにも聞こえますか?」
「はい。女性の声が。」
「霊ではありませんのね」
「さすがにこんな人の多い所には出ませんよ」
「安心しましたわ」
「お嬢様、それだけですか」
「ええ。私は今はケーキを嗜みますの。ご挨拶も終わりましたし」
私の視線がケーキに戻ったのでディーンはなにも言いませんでした。テーブルの下から聞こえる声はそのあとは聞こえませんでした。
きっとここにいるには理由があるはずですもの。
ケーキを楽しんでいると視線が集まるのを感じます。いつのまにか隣に殿方がいます。視線はこの方に集まっています。
彼はテーブルクロスを持ち上げ、中を覗き込むとご令嬢がいました。
私より年上に見えます。こんなことができるのは、この家のご令嬢だけ、え?公爵令嬢ですか!?
「こんなところにいたんだ。せっかく婚約者に会いにきたのに」
「私はお会いしたくありませんでした。さっさとお帰りください」
「クレア、」
とりあえず離れましょ。
ゆっくりと見つからないように。
「助けて」
駄目でした。
私を見つめているのは確かここはエクリ公爵家ということはエクリ公爵令嬢でしょうか。そして彼女の婚約者はこの国の第二王子殿下ですよね・・・。
ケーキの皿をディーンに渡して、社交用の笑顔を浮かべます。
「クレア!!そんなところにいたのか。さっさと出てきなさい」
エクリ公爵が怖いお顔で近づいてきます。仕方ありません。私はハンカチをエクリ公爵令嬢の手元に落としてしゃがみこみます。
「申しわけありません。私のハンカチを拾ってくださいましたのね」
え?って顔をせず合わせてくださいませ。
駄目です。ゆっくりハンカチを手に取り、令嬢の手を引っ張ってテーブルの下から出て立ち上がります。
「はじめまして。リリア・レトラと申します。わざわざ私のハンカチのためにこのような。第二王子殿下も申しわけありません。大事な婚約者にこのような・・・」
申しわけない顔を作って謝ります。
「構わない。頭をあげてくれ。今日は私的な会だから」
「エクリ公爵申しわけありません。」
「リリア嬢、気にしないで。紹介が遅れたが娘のクレアだ。仲良くしてやってくれ。殿下申しわけありません」
「いや、いつものことだ」
何とかおさまりましたが、エクリ公爵令嬢だけが何もわかっていません。彼女、大丈夫でしょうか・・・。
いえ、他家のことは気にしてはいけません。
エクリ公爵と第二王子殿下がお話されている間に離れましょう。どうしてこんなにエクリ公爵令嬢に見られてますの。視線から解放されました。うん?近づいてきてません?
「これが一番おすすめ」
ケーキの皿を渡されますが、いただいていいのでしょうか・・。
食べてってことですよね・・。
「ありがとうございます」
口に入れると、甘!!想像以上の甘さに顔が引きつりそうになりました。
なんですか・・。ただ甘ったるいだけです。好みではありません。
「どうぞ」
いつの間にか戻ってきた第二王子殿下に差しだされる飲み物を畏れ多くもいただきます。
!?水ではない。喉がヒリヒリします。でも第二王子殿下からの飲み物を飲まないわけにはいけません。
咳が我慢できません。気合で飲みきりましたが苦しい・・。
「お前らいい加減にしろ」
苦しい。失態です。あれ?
あの方は市で果物をくださった方です。
「お兄様」
「クレア、隣国のご令嬢に助けを求めるな。しかも文化が違うのに一番濃い味のものを勧めるな。そのケーキは俺も食べたくない」
「クレアは自分の好きな物を勧めただけだろ?」
「殿下も、止めてください。しかもなんで水を渡さなかったんですか。こんな幼い少女に」
「隣国の侯爵令嬢とはどのようなものかと。得たいのしれない飲み物を気合で飲みほすとは感心した」
わざとですか!?睨みたくなる気持ちを抑えて笑顔を纏わないと。
隣国の王族に失礼な態度は許されません。
「彼女は貴方から渡されたものを拒めば、どうなるかわかっていたんですよ。二人よりも彼女の方がよほどしっかりしている。あんまりいじめると俺がノエルに殺されるのでやめてください。」
拒んで外交問題にされたら困ります。王子殿下の好意を無碍にしたとなれば大問題ですもの。
ん?
ノエルとはお兄様のお友達ですか・・?。エクリ公爵令嬢のお兄様?
エクリ公爵家嫡男のシリル様でしょうか・・。息は整いましたわ。給仕にもらった水を口に含みます。
おいしい。水がこんなに尊いものだったとは・・。違います。感動してる場合ではありません。
「失礼しました。兄がお世話になっております。シリル様。」
「さすがリリア嬢。私の名前もご存知とは、ノエルが羨ましい」
シリル様が哀愁を漂っている気がします。今さらですが、すらっとしたお兄様に比べクレア様はふくよかですわね。
この国の料理の所為かしら・・。
「リリア、私の部屋に行こう」
腕を引かれてますが、どういうことですか?
「クレア、殿下が見えてるんだ」
「私はお会いしたくありません。行こう」
「え、ちょ、待ってくださいませ」
誰も助けてくれません。お父様!?手を振られてますが、いいんですの・・?
私の至福のケーキの時間が・・。
使用人の方から申し訳ない目で見られてますが。私、いじめられたりしませんか。
誰か助けてください。




