第十四話 シロ
私は湖で王太子殿下達の愛しい少女に会ったと思うんです。
ただ、誰も知らないというんです。ニコラスの腕の中で会話をした記憶があるんです。幽霊なんてことはないと思います。
やっぱり夢?
私は昨日湖に落ちました。
熱もないのに病人扱い。洋服に着替えることもゆるされません。
今日はベッドで過ごしてほしいとお父様に懇願されれば従うしかありません。ニコラスの話を聞いたお父様達に心配をかけたみたいです。私が大人しくしていて安心してもらえるなら大人しくしましょう。
「リリア、大丈夫?」
「はい。私は元気です。授業に出られないのが残念です」
お昼に会いにきたニコラスの頬が腫れてなくて良かったです。
「お父様に怒られました?」
「お前のお兄様ほど怖くないから平気」
やっぱり色々言われましたのね…。
「ニコラス、ごめんなさい。」
「大丈夫だから気にするな。俺は要領いいから」
「でも」
「リリアが無事ならそれで十分だ。」
優しい。この人の優しさは今だけ。勘違いはいけません。
「ニコラス、可愛い少女に会いませんでした?」
「リリアだろ?」
「私ではなく、他にです」
「会わないよ。大丈夫か?」
「私、少女と話した記憶があるんです」
「少女なんていなかった。夢だろ?。」
駄目です。もうスペ様に聞くしかありません。
ニコラスがこれならきっとライリー様も教えてくれません。
どうして隠しますの!?
もしかして、邪魔されないか心配してます?そんな心配無用ですのに。
「ニコラス、私は応援しますわ。」
「は?」
「隠したい気持ちはわかります。ライバルは多いかもしれませんが頑張ってくださいね。」
嫌そうな顔をされました。
「いや、リリアよくわかんないけど勘違いしてるよな!?お前のその何もかも分かりきった顔をしている時は碌でもないこと考えてるよな!?」
「私もニコラスのことはお見通しです。大丈夫。秘密にします」
「いいや。今日はゆっくり休め。元気になったらうちにこいよ」
「なんでですか?」
「躾が終わった。会わせてやるよ」
白いフワフワ!!
「元気です。今から行きます!!」
「外出許可がないだろう」
「そうでした。明日の朝に伺っても」
「休みにしろよ」
「お世話を手伝うっていいました」
「尚更、休みの日に一日みててよ。」
「わかりました。今度のお休みにうかがいます。何を食べるんでしょうか」
「食事は家で用意するよ」
「養育費をお支払いします?」
「いらない。リリアからもらうほど困ってない」
「どうすれば」
「いつも通りでいい。あいつにはいらん」
いつも通り、ニコラスへの差し入れを用意すればいいんでしょうか。
「ニコラス、私の差し入れほしいんですか?」
「欲しい。」
嫌がってる様子はありません。やっぱり夢だったのかしら…。
長い付き合いなので、嘘かどうかはわかります。
本人が言うなら平気ですよね…。
「俺はこれで。しっかり休めよ」
休めと言われましても、元気ですよ。
白いフワフワ楽しみです。
侍女に頼むも本さえ持ってきてくれません。
何もしてはいけないってお父様、怒ってますの!?
眠るしかないとは…。
ライリー様とスペ様の仲を取り持って、あとはどうしましょう…。
夢、うーん。なんでしょう。
今更ですが、平民の少女がどうして王妃になれたんでしょうか。
王太子殿下よりも強い権力を持った婚約者がいれば違うかな。
平民の少女に後見がつくとも思えませんし・・。
まずは亡命先の確保が先決です。考えてたら眠くなってきました。
そういえば第二王子殿下から手紙を預かってましたわ。
オリビアと会いたいから協力しろと言われましても。
観劇は眠ってしまいますし。
それに第二王子殿下と噂になればオリビアが大変です。
善処しますと返信してお父様に渡しましょう。
私、当分は一人で外出禁止です。ただニコラスのところは問題ないそうです。
市に行きたいのに…。材料がほしい。
私はお父様達に心配をかけたので当分は大人しくしているつもりです。お休みはニコラスの所に行くことにしました。
なんと、フワフワケーキに成功しましたの!!
お部屋でずっと本とにらめっこしていた成果がありました!!
馬車を降りると、迎えに来たニコラスにドヤ顔をします。
「ニコラス、今回、自信作です!!。」
「リリア?」
「まだ改良中ですが、フワフワです。」
フワフワケーキを渡します。
まだスポンジ?しかできておりません。
これはまだまだ改良がいります。見た目は寂しいけど美味しいから成功です!!ニコラスはなんでも食べるから大丈夫です。
なんでぼーっとしてますの!?まだ見ぬ箱の中身に興奮してるんですのね。わかりますわ。私もこの子ができてから嬉しくて笑いが止まりません。作るのは大変ですが改心の出来ですもの。
「機嫌いいな。」
「この素晴らしい作品を見たらニコラスもわかりますわ。お一人で全部食べてもよろしくてよ?」
「ありがとう。お茶にするか?」
「会いにいきます」
ニコラスについていくと、馬屋の横に小さい小屋があります。
「でてこい。」
白いフワフワがでてきました。お座りしてます。可愛いです。
あら?出会った頃の無邪気さがない気がします。
「抱っこしてもいいですか?」
「ああ」
フワフワを抱っこします。やっぱりフワフワ。暖かくて気持ちよいですわ。
ニコラス、なんでフワフワを睨んでますの?
「ニコラスも、抱っこします?」
「俺はいい」
「そうですか。大人しいですね。もっとわんぱくな子だと思ってました。お名前は?」
「シロ」
もう少しなかったんですか?
白くてフワフワだからシロですか・・。
哀れみの視線を送るのは仕方ありません。さすがに・・・。
「なに?」
「いえ、ニコラスがここまでセンスがないとは」
「コレにそんなに悩むかよ」
これ?先程から冷たいです。ニコラスも飼いたかったんですよね・・?
「ひどいね。シロ。もっと可愛い名前、このままでいいんですか?貴方が気に入ってるならいいです。」
ニコラスの視線を感じます。
なんとなくシロの言いたいことを代弁しているだけですよ。
「ニコラス、私がシロと遊んでますから、ここはいいですよ」
「いや、ここにいる」
私、シロのお世話をするためにきたのに。
もしかしてシロの躾中ですか?
「躾中ですか?私が教えましょうか?」
「いや、いい。」
信用がないんでしょうか…。確かに躾方がわかりませんわ。
フワフワしてて気持ち良いですね。
この子、犬なのに全然動かないんですが、大丈夫ですか?
走り回るイメージでしたわ。
「シロ、ニコラスに抱っこしてほしい?」
シロを見つめると違う気がします。なんでしょうか。
わかりました。シロを腕からおろすと、ニコラスの前に座ってます。当たりです。
「ニコラス、シロは私よりニコラスが好きなんですね。褒めてあげてください」
「何もしてないのに褒めないだろ」
シロをニコラスの目線まで抱き上げます。
「シロ、可愛いでしょ。癒やされたでしょ?顔がにやけてますよ。この可愛さを褒めてあげてください」
なんで私の頭を撫でるんですか!?
間違えてますよ。
私は犬ではありません。満足そうに撫でるならシロを撫でてください。




