第十三話後編 ピクニック
「リリア、目を開けて。頼むから」
私、やっぱり捕まった後死んだんですね。誰かが泣いてる気がします。懐かしい声が。
「リリア、リリア、」
うるさいですね。さっきの声とは別で騒がしいです。
目を開けるとニコラスの必死な顔をがありました。訓練するときもこんな必死な顔は見たことありません。
「ニコラス?」
ゆっくり起き上がるときつく抱きしめられました。
「どうしました?」
「勘弁して。」
泣きそう声で話すニコラスはよくわかりませんが背中をかるく叩きます。泣いてる時はこれが一番です。
「あの、助けてくれてありがとう」
少女に声をかけられますがニコラスは離れません。
「気にしないでお帰りなさい」
少女にライリー様が声をかけました。
「私、あの人にお礼を」
「彼はそれどころじゃないから。お礼はいりませんよ」
「貴方じゃなくて彼に言いたいの」
少女が叫んでます。後ろの様子が気になりますが、ニコラスが離れないので見えません。
「ニコラス、あなたに用があるそうですよ」
「リリア、よかった。」
「ニコラス、彼女が貴方とお話したいそうですわ。聞いてます?」
「さっさと去れ。俺は犬を追い払ったのはリリアのためだ。リリアを湖に落としたこと報復されたい?」
ニコラス!?弱ってたと思ったら違うんですか!?。
怖いこと言わないでください。
「違う。私、落としてない。この人が勝手に」
「消えろ。誰だか知らないけど望むなら家ごと潰してやるよ」
「ニコラス、どうしましたの?」
様子がおかしいです。ニコラスが震えてます。濡れてるニコラスの服を魔法で乾かして治癒魔法をかけます。
でも震えはとまらない。ニコラスの背中を叩くのはやめてゆっくり撫でます。
「落ち着いてください。大丈夫ですから。安心して。怖いことなんてありませんよ。帰ったらプリン食べましょう」
私の肩から顔をあげないので、顔がみれません。抱きしめられるよりもしがみつかれてる気がします。震えているニコラスの乾いた頭をゆっくり撫でます。
「放っておいてくれ。事故とはいえ彼女を害した君の顔をニコラスは見たくないようだ」
「嘘です。彼は私を助けてくれたのに」
「いい加減になさい。早く家に帰りなさい」
「どうしてあなた達がここにいるのよ。おかしいわ。貴方意地悪なライリーでしょ?婚約者に見向きもされない」
「え?」
「貴方はいつもそっけない婚約者に困ってたでしょ。貴方の優しさに気付かない」
状況は良く分かりません。ただこの方がライリー様達を傷つけていることはわかります。
ニコラスも意地悪を言われたんでしょうか。だからこんなに様子がおかしいんでしょうか。
「どなたか存じませんがお黙りなさい。勝手なことは言わないでください。ライリー様は誰よりも優しく気遣い上手です。スペ様は寡黙ですがライリー様の優しさをわかっていますわ。言葉はなくてもちゃんとお互い大事に思っていますわ。」
たぶん。そうなってほしいです。
「なんで貴方が。我儘放題で婚約者を困らせる」
後ろで声を荒げる理由がわかりません。
「私は婚約者なんていません。」
「貴方はニコラスを追いかけまわして嫌われてるんでしょ?」
「私はニコラスを追いかけたことなんてありません。私は嫌われた相手を追いかけるほど暇ではありません」
「でもニコラスは貴方のおせっかいを嫌っているわ」
「おせっかいですか?」
「貴方がニコラスの訓練を見守ったり、お弁当を作ったり」
「知りませんでした。言ってくれればやめましたよ」
「なに、その反応?怒らないの?」
ニコラスの震えがおさまりました。暖かい風が吹いて私の服が乾きましたわ。ニコラスが離れていきました。寒いですね。ニコラスが戻ってきましたが毛布を持ってます。はい!?なにしますの?毛布でぐるぐる巻きにしないでください。乱暴ですよ。
「ニコラス、やめて」
「いい加減にして。ただでさえ苦労してんのに余計なこと言わないで。俺はリリアに危害を加えただけでもゆるせないんだけど」
「ニコラス様助けてくれてありがとうございました」
毛布でぐるぐる巻きで何もみえません。これ、ほどけないんですけど、どうしてですか!?
暖かいけど前が見えないのは嫌です。
「俺に殺されたくなければさっさと消えろ」
「脅されてるんですか?私が力になりますよ」
「俺は君を殺してもいいけど、俺のリリアは嫌がるんだ。でもさ俺短気だからいい加減にしないと腕の一本くらい斬るけど。それとも拘束して獣の餌になる?それがいいか」
「嘘でしょ?」
「拘束して森に捨てるか」
何も聞こえません。待って。私、先ほどどんな話をしてました?
あの子、貧しい身なりなのに貴族のことを知っていました。もしかして、あの方が愛しい少女?
でもあんな感じでしたか?庇護欲をそそる感じはありませんでした。
少女のことはあんまり思い出せません。毛布から出ればなんとか・・。出れません。
「助けてください。ここから出してください」
どれだけもがいていたかわかりません。体は温まりました。
誰かが毛布をはいでくれてる気がします。
頭が出ました。ライリー様が助けてくれました。見渡しても少女がいません。
「少女は?」
「リリア、貴方は湖に落ちて悪い夢を見ていただけよ。少女なんていなかったわ」
「はい?」
「リリア、寒気はしないか」
「大丈夫です。少女」
「リリア、少女なんていなかった。お前は湖に落ちたんだ。俺が目を離したからごめんな」
「ニコラス?私、自分で落ちてない」
「リリアはそそっかしいわね。そろそろ帰りましょう」
なんですの?。少女はいましたわ。どうして私が勝手に湖に落ちたことになってるんですか。
スペ様は視線を合わせてくれません。ニコラスとライリー様はどうして隠しますの?
二人の笑顔を見て今は引き下がった方がいいです。夢ではないはずです。夢じゃありませんよね!?。
もしかして少女は幽霊ですか!?嘘ですよね・・。
「ニコラス、帰るから毛布を剥いでください」
「だめ」
「これでは帰れません」
またぐるぐる巻きにされてます。手と足が動かないんです。救いは今度は顔が出ていることですが。
「俺が連れて帰るよ」
「こんな状態で落ちたら死にます」
「落とさない。俺、乗馬技術自信あるし」
自信満々な顔しても嫌です。乗馬が得意なことは知ってます。
「私は自分の愛馬に、うちの子を置いて帰るなんて許しません」
「リリアの愛馬はリリアの後を追いかけてくるだろ?」
「あの子以外に乗ったら拗ねてしまいます」
「でもお前の愛馬はリリアしか乗せないだろ?あんまり騒ぐなら顔も覆うけど」
「前も見えずに手も足も出ずに馬に乗るなんて拷問です」
「目と鼻と口を解放してやっただろ。帰るよ。ブラッド様、俺はリリアを送るのでこれで」
その最大限の配慮して譲ってやったて顔はなんですか!?
「ああ」
「ライリー様」
「リリア、憧れの相乗りじゃない」
ライリー様が微笑んでますけど、嘘でしょう!?助けてくれないんですか・・。
「こんな毛布でぐるぐる巻き全然胸がときめきません」
「お大事にね。また誘ってね。」
「スペ様」
「じゃあ」
嘘でしょ。本当に置いて帰るんですか!?毛布からだしてほしい。
「ニコラス」
「だめ。帰るよ」
「せめて手だけ」
「手が出たら、解くだろ」
抱き上げられますが荷物になった気がします。
ニコラスの前に乗せられました。家まで距離が近くてよかったです。
「ニコラス、怖いからゆっくり走って。怖いです」
「落とさないよ」
「腕ではなく気持ちの問題です。安定しないから怖いんです。一度同じ思いをしてみてください。」
「横抱きで相乗りとか男がやったらまずいだろ」
「怖い。もう嫌です。」
「リリア、うるさい。もうすぐ着くから我慢して。」
「ひどい。お父様に言いつけます」
「湖に落ちたことを?」
「毛布でぐるぐる巻きにされたことです。湖に落ちたなんて言ったらまた心配させてしまいます」
「俺、話すけど」
「嘘!?」
「当然だよ。一発殴られる覚悟はしてる」
「内緒にしましょう」
「報告は俺がするよ。リリアは湯あみして自室休養コースだろ」
「私、丈夫ですわ」
「バカ。一度高熱で死にかけてお前の体への信用ゼロだよ」
「覚えてません」
「リリアは寝てて知らないだろうけど、その間は俺も侯爵たちも心配で死にそうだったよ。毎日顔を見るたびに生きててよかったって安心した。でもリリアの部屋を出ると次も会えるか不安でたまらなかった。お前の家もうちも毎日葬式みたいに暗かったよ」
「ごめんなさい」
「目覚めたからいいよ。でももう少し自分を大事にして。俺が守りたいけど限界がある」
「気をつけます。」
そんなに心配かけたのでしょうか。ニコラスが前よりも過保護になったのは寝込んだ時の所為なんですね。
離れたいのにこんなに優しくされると離れにくい。
ニコラスの体に背を預ける。ニコラスの声は優しかった。声だけでなくお腹を抱いている手も優しい。
夢の中の私はきっとニコラスが好きだったんだろうな。だから最後に絶望した。こんなに優しくされたら勘違いして好きになる。私は知ってるから勘違いしません。
いつの間にか相乗りの怖さは消えて意識を手放していました。




