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夢みる令嬢の悪あがき  作者: 夕鈴
番外編

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お騒がせ夫婦 後編

ニコラス視点

朝、目を覚ましたリリアは不思議そうに俺を見上げた。

「なんで?」

「覚えてない?」

「夢だと思いたかった」

「俺の手にはおえなかった」


呆然とするリリアに口づけを落とす。リリアが小さく笑った。

「男性は女性を当然のように抱くものだと思っていました」


リリアに余計な知識を与えた騎士達への不満は未だに消えない。

時々、リリアから溢れる言葉に思考が止まる時がある。


「初めては怖かった?」

「ううん。ぼんやりしてた。でも、熱に溺れたニコラスが私だけしか知らないことが嬉しくてたまらない」


本能に忠実になることにした。執務までまだ時間がある。朝の訓練は夜に回すことにした。

リリアに深く口づけていると、扉が開いた。

顔をあげるとクレア様がいた。マジかよ。

とろんとしたリリアの顔に毛布を被せた。

今度からは寝室に結界を張ることにするか。


「おはようございます。どうされました?」

「起きたらリリアがいないから」


相変わらず自由というかぶっ飛んでいる人だ・・。

寝室に足を踏み入れないでほしい。

リリアを探すなら、使用人に聞けばよかった。

まずリリアがいなかったら大問題だ。男の寝室に飛び込むなど余計な誤解を招くし危険な行為である。思い込みの激しいリリアに勘違いされたらと思うと恐ろしくて仕方ない。拒絶され、失望した目で見られ、俺の幸せが壊れるだろう。


「リリアは支度を整えるまで、お待ちください。食事の席でまたお会いしましょう」



クレア様の侍女が駆けつけて、回収した。遅いから、もっとまじめに働いてほしい。

毛布から出てこないリリアの頭に手を置く。


「大丈夫か?」

「帰りたい。」


寂しいけど、あの王子がいる間はレトラ本邸に帰ってほしい気もする。あの王子がリリアに近づくの嫌だ。絶対に二人きりにはさせないけど。


「帰らせてあげたいけど、お前のお母様は怒るんじゃないかな」

「う、ぅぅ」

「ごめんな。今日は休むか?」

「きっと突撃される。恥ずかしい」

「せっかくだから見せつける?」

「バカ」

「今日の夜はちゃんと帰ってこいよ」

「私は帰りたいんだけど」


毛布から顔の赤いリリアが出てきたから、もう平気だな。

支度を整えるか。俺の至福の時間がお預けをくらった。今のリリアが拒否するのはわかるから手を出せない。

食事の席で、クレア様は俺のことをじっと見つめてきたけど気にしなかった。

リリアは気まずに食事をしていた。

その後は王子に頼まれて、剣を合わせた。


「ニコラス、魔法を使ってほしい」

「魔法で手合わせしたら瞬殺ですが」

「構わない」


のぞみ通り手合わせをすることにした。

瞬殺だった。イラ家の男が王子に負けるわけにはいかない。

いつの間にかリリアが一人で見学して俺の好きな笑みを浮かべている。


「セシル様、ニコラスには敵いません」

「リリアになら勝てる」

「私は自分で強くなることは諦めました。センスがないですから」

「俺がいるから、リリアは弱くていいんです」


リリアが俺を睨んだあと、王子に向き直った。


「クレア様、大丈夫ですよ。心配せずに手を出してくださいませ」

「は?」

「お互いの立場をよく考えて行動なさいませ」


リリアは面倒見がいい。結局、クレア様に話を聞いて説得したのか。王子の護衛がリリアに尊敬した目を向けている。

それ、お前らの仕事だから。あんまりリリアを頼りにしないでほしい。騎士の強化はイラ侯爵家で預かることにした。レトラ領に隣国の人間を置きたくない。亡命は王都で受け入れられるようにサン公爵家に協力を依頼してある。オリビア嬢が頼りになる笑みを浮かべながら勧んで動いてくれた。ノエルが俺に領主代行を任命した理由がわかった。リリアならレトラ領に受け入れただろうが俺もノエルも許さない。リリアの安全が脅かされるのは許さない。それにリリアの安全を守るついでにレトラ領民の安全も守られるしな。領主代行の最優先は領民の安全だからわかりやすく動きやすくていい。


「セシル様、もうここでの仕事はないはずです。帰国なさいませ」

「え?」

「うちでは十分な準備を整えられません。餞別です」


リリアが小瓶を差し出した。


「これは?」

「私の口からお伝えできるものではありません。帰国してから使ってください」


さすがリリアだ。

好きな女から他の女を抱けと媚薬を渡されるとは屈辱だよな。リリアは無意識に男心を砕くのが得意だ。

王子から表情が抜け落ちた。


「お世継ぎができれば、お祝いの品をお贈りします」


俺にとっては、可愛い笑顔で地獄に突き落とした。

王子はクレア様を大事にしているけど、恋ではない。家族の親愛に近いと思う。クレア様がどうなのかはしらないけど。


「俺は…」

「クレア様を大切にしたいお気持ちは、わかります。それなら愛される幸せを教えてください」


王子が首を横に振った。


「俺達にはリリア達のような関係ではない」

「違う人間ですもの。当然です。私はセシル様がクレア様を好いていると思ってましたが、どうでもいいことです。そういう感情はいらないんですが、割り切れないんですよね。不器用すぎます。男と女は違います。貴族の婚姻には恋情などいりません。誠意をもって大切にしてくだされば十分です。」


リリアが中々きついことを言っている。王子のことは興味がないって…。俺も昔の古傷が痛む気がした。沈黙が続いた。


「リリアは愛のない相手にも抱かれるのか?」


この王子も時々ぶっ飛んだことを言うよな。俺の妻に何を聞くんだよ・・。


「私はレトラ侯爵に命じられれば従います。たとえ、夫がお父様より年上でも、髪がなくても、情けなくても、憎んでいたとしても。どんな相手でも身を差し出します。それが貴族令嬢です。でもクレア様はセシル様を大事に思ってます。ですから大丈夫です。幼い頃から大事にされていた相手を特別に想うのは当然です。それにクレア様は単純です。綺麗な場所にお連れして、雰囲気つくれば楽勝です。セシル様の心配していることはおきません。男性らしく本能に忠実になればいいんです。」


さすがリリア。最後に雰囲気ぶち壊した。

王子の護衛が吹き出した。

リリアは根拠のないことを自信満々な笑顔を浮かべて断言するからな。あの笑顔にずっと鼓舞されてきた俺はよく知っている。

あの笑顔がどれだけ力を与えてくれるかを。他の男に浮かべるのも話の内容も俺にとってはおもしろくないけど。

王子が長いため息をこぼした。


「敵わないな」

「頼りないセシル様に負けたら、大変です。ではお気をつけてお帰りください」

「ニコラスは頼りになるのか?」

「もちろん。」

「リリアにとってニコラスは?」

「私の騎士です。言うことは聞いてくれませんが、どんな時にも守ってくれる頼りになる誇りに高いイラの騎士です。私にとってニコラスが唯一なように、クレア様にとってもセシル様は唯一です。怖がらずに幸せになってください」


王子がリリアの笑みに見惚れいる。見惚れる気持ちはわかる。ただ、よくその内容でうっとりとリリアを見つめられるよな。リリアが鈍くてよかった。


「リリア、もういいだろう。これで駄目なら義姉上に任せよう」

「そうですね。お気をつけてお帰りください。」


うちの国にきたら、王家に挨拶をしていただかないいけないので、馬車に乗せてオリビア嬢のもとに送り出した。

オリビア嬢に任せれば、隣国までうまく送り返してくれるだろう。


「お疲れ様です。あの二人はいつになってもかわりません」

「隣国にいた時もずっと相手してたのか?」

「三日に一度は、執務を持って朝から訪問されましたので。ギル様が手伝うから追い返せませんでした。一度出国しようとしたら二人の家臣に懇願されて、移動できませんでした。船から降りた瞬間に二人に見つかるし、次はちゃんと行き先を聞いてから船に乗ろうと思います」

「リリア、船の行き先を聞かなかったのか?」

「はい。誘われたのでそのまま乗せていただきました。巫女装束は便利ですよね」


初耳だった。あえて隣国を選んだのではなく、偶然とは。

相変わらず危なっかしい。やっぱり、離れられない魔道具を探すかな。


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