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夢みる令嬢の悪あがき  作者: 夕鈴
番外編

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悲しい出来事

ディーン視点。

坊ちゃんは念願のお嬢様と一緒になった。

まさかレトラ侯爵家に婿入りした。お嬢様のイラ侯爵になることへの説得にも頷かなかった。


「奥様、坊ちゃん、婿にやって良かったんですか?」

「カイロス達もいるわ。やる気がないなら無理よ」

「あんなに強いのに」


剣の天才が勿体ない…。


「ディーンもまだまだね。ニコラスは強くないわ。あの子は優しいから」

「奥様、意味がわかりません」

「ニコラスは一人の騎士としては優秀よ。ただ自分のために誰かが犠牲になったり、切り捨てたりする非情な決断はできるか怪しいわ。」


奥様の言葉に納得はできない。坊ちゃんは非情な判断もできるはずだ。奥様に連れられて映像部屋に入った。


「昔、貴方を引き抜く前にニコラスは攫われたのよ」


映像に映されたのは、俺の知らない幼い坊ちゃんが血の海の中に呆然と座り込んでいる。


「ニコラスに護衛をつけていたわ。ニコラスの馬車が襲われたことを聞いて慌てて旦那様が駆けつけた時にはこの光景。このあと、ニコラスはずっと部屋にこもってた。食事も自分では手をつけなかったのよ。」


奥様が次にうつしたのは、ベットで呆然としている坊ちゃんだ。

お嬢様が声をかけても反応しない。生気が抜けて、お嬢様が倒れた時よりも抜け殻のようだ。


「食事を無理矢理食べさせるくらいしか、私にはできなかったわ」


奥様、無理矢理食べさせたんですか・・・。

落ち込んでる息子相手に容赦ないな。


「リリアが私にニコラスの事情を聞いてきたの。とても怖いことがおこったって話したんだけど、詳しく教えてって必死に頼むから」


奥様、まさか・・・。朗らかに笑っているけど、


「映像を見せながら細かく教えたの」

「奥様!?」

「最初は泣きそうだったんだけど、最後まで見たいって聞かなくて」

「レトラ侯爵夫人はご存知なんですか?」

「あの家は自己責任って教えよ。リリアが望むなら迷惑でなければお願いしますって」


幼児に血の海の映像を見せるのってどうなんだ。

幼いお嬢様が映し出された。


「イラ侯爵夫人、この方々はニコラスを守るために亡くなったんですか?」

「そうよ。騎士は主は何にかえても守るものよ。ニコラスを可愛がってくれてる騎士達だった」

「ありがとうございます。」


お嬢様が坊ちゃんの部屋に行き、坊ちゃんの頬を引っ張った。


「ニコラス、何してるの」


坊ちゃんは変わらず呆然としている。


「ニコラスの大事な人が死んじゃって悲しいなら泣けばいいのに」


坊ちゃんは反応しない。


「ニコラスを守ってくれた人達にお花をあげにいこう」

「リリアにはわかんない」

「リリーはニコラスを守ってくれてありがとうって言うの。ニコラスが辛いなら忘れちゃえばいい。リリーの大好きなニコラスを守って死んじゃった騎士達のことはリリーがずっと覚えてる。リリーのためにありがとうって毎年お祈りするよ。」

「俺のせいで」

「悪いのは、ニコラスを攫った人。ニコラスは悪くない。」


坊ちゃんがボロボロ泣き出した。嗚咽まじりで言葉は聞き取れない。

お嬢様が格好良い。


「つねってごめんね」


お嬢様は坊ちゃんの頬を離して頭を撫でている。


「ニコラス、忘れていいよ。リリーが貰ってあげる。その人達はリリーのために死んじゃった。」


坊ちゃんが倒れた。


「ニコラス!?」


「人を呼びにリリアが部屋から出てきたから慌てて、隠れたのよね。こっそり見てたのが知られないように。目覚めたニコラスは攫われる前のニコラスに戻ってたわ。覚えているかどうかはわからないけど」

「奥様、この出来事で坊ちゃんを当主に向かないと思ったんですか?」

「旦那様はそこまで危惧してなかったけどね。今でもリリアは定期的に花をあげにいってるのよ。ニコラスは知らないだろうけど。ニコラスの様子がもとに戻ったことに、笑っただけであの子は何も言わなかった。ニコラスは自分のために犠牲になる者がいれば壊れるかもしれないわ。親として息子に苦難の道は歩ませたくないわ。それに、自分の身を顧みない無謀な所もあるし。」


幼い坊ちゃんは、心を守るために忘れてしまったのかもしれない。騎士達も命かけて守った主が、自分の死を悼んで壊れてしまうくらいなら忘れられるほうがいいか。


坊ちゃんは確かに皇女殺害の罪を一人で被ろうとしたり、突然旅立ったり、間者になったり危険な綱渡りをしている。

お嬢様の無謀よりも危険な気がした。お嬢様は無謀だけど、お嬢様なりにしっかり考えている。



お嬢様が血まみれの騎士の治療を楽しそうにしていたって聞いたけど、幼少期にすでに血の海を見たことがあるなら怖がらないよな。

疫病の村に飛び込む度胸も悪魔のいる国に行くのも、躊躇わなかった理由がわかった気がした。


「お嬢様って、すごい人だったんですね。」

「私はリリアと一緒ならニコラスが継いでも構わないと思ったんだけどね。リリアの前ならあの子も覚悟を決めるでしょ?」


だからお嬢様はイラ侯爵の妻と教えてたのか。

確かに坊ちゃんはお嬢様の前だと格好つけたがるもんな。


「お嬢様は弱そうなのに、芯は強いんですね」

「リリアは旦那様と同じタイプよ。情に脆いけど、優先順位の見極めができる。大事な者のためなら切り捨てるし、切り捨てた者への責任も背負うでしょ。当主向きよ。領主代行はリリアが引き受けたほうが向いてると思うんだけどレトラ侯爵家はニコラスを選んだのよね。」


坊ちゃんの評価がひどい。そしてお嬢様の評価が高い。旦那様とお嬢様が似てるとは思わないんだけど。


「でもニコラスはリリアを守るためなら手段を選ばない。リリアが大事な領民のために必死に働きすぎないように監視としておくなら、ニコラスに権限を持たせたほうが安全かしら」


お嬢様って、人たらしなんだよな。

隣国でも東国でもお嬢様についてきたいって人間がいた。お嬢様は来るものは拒まない。お嬢様を領主代行にしたら、領民が物凄く増えるのでは…。

俺なんかが口を出せることではないか。


「奥様が坊ちゃんの外交官の勉強を容認したのは」

「当主は向いてないと思ったからよ。強いだけでは当主は務まらないわ。もしもカイロス達が期待外れなら孫に期待するわ。旦那様もまだまだ元気だもの。」


奥様が容赦ない。


「坊ちゃんがイラ侯爵になると信じていたお嬢様がお可哀そうです」


奥様がおかしそうに笑った。


「リリアもニコラスには甘いのよ。本気でお願いされたらニコラスがリリアのお願いを叶えないわけないじゃない。」


お嬢様は坊ちゃんを本気で説得しなかったのか?


「はい?坊ちゃん、お嬢様をうまく操縦してますよね?」

「してないわよ。あの子は見極めるのがうまいだけだもの。リリアがどうしても譲れないことは、ニコラスが譲ってるわ。ディーンもまだまだね。」


奥様の観察力がすごいのか、目が曇ってるのかはわからない。

俺の周りでは坊ちゃんがお嬢様をコントロールできると思われてるけど実は違うのか・・・。

そういえば・・・、俺は恐ろしい事実に気づきそうになり考えることを放棄した。

坊ちゃんがお嬢様の尻に敷かれているとは思いたくない。

レトラ侯爵領にイラ家の騎士が派遣されるけど、俺も入ってるんだろうな。

俺は坊ちゃんの護衛だもんな。

これからも坊ちゃんとお嬢様に振り回されるのか。

まぁ坊ちゃんとお嬢様が幸せそうならいいか。


俺はレトラ領に派遣された。お嬢様のお気に入りの騎士もいる。

お嬢様は自分の命令を第一に聞いてくれる騎士が欲しいらしい。

騎士を買いに坊ちゃんに内緒で隣国に行きたいと相談された俺は頭を抱えた。奴隷を買う気ですよね…。

お嬢様に忠実な家臣が増えると坊ちゃんの苦労が増える気がする。

お嬢様、ちゃんと坊ちゃんに相談してください。反対されるから嫌って、嫌じゃありませんよ。

俺の平穏は中々訪れてくれないらしい。

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