約束の日
リリア視点
私は市に来ています。レアだった頃のギル様との約束の日です。約束の木の下に行くとギル様が本を読んでました。
「ギル様、いつからいらしたんですか?」
「さぁね。ここで読書するの気に入ってるんだよ」
「ここの市を一緒に回るの何年振りですかね。懐かしい」
確かにいつも読書して待ってましたね。
ギル様に差し出される手をとって歩き出します。
いつもの串焼きを食べます。久しぶりだけど美味しい。
「ギル様、何をしたいですか?」
「せっかくだから一杯やらないか?」
ギル様がお酒をポケットから出しました。
「食べ物も買いましょう。広場でピクニックですね」
食べ物をいくつか買い足して広場に行きました。布の上に座ります。
乾杯して二人でお酒を飲みました。さっぱりしてて飲みやすい。これはきっといいお酒というものです。
「飲めるんだな」
「はい。これ美味しい。さすがギル様。ギル様、ありがとうございました」
「酒でそこまで感謝しなくていいよ」
「お酒もですが違います。自分も狙われてるのに、レアを探しに来てくれて。臣下としては迂闊な行動を諫めます。でも民のレアは違いますから」
あんなに意地悪だったレアのために必死になってくれるとは、器の広い人です。
「なんで、リリでもなくレアって名乗ったの?」
あの頃は必死でした。あの頃の私は関わらないと決めた二人と一緒にいる今を知ったら驚くでしょう。
「リリアとは知られたくなかったんです。私もお忍び中でしたので」
「そうか。いつから気付いてた?」
笑ってしまいます。これは無理して隠すことではありません。
「ふふ。最初から。放っておこうと思ったんです。でもあまりに危なっかしくて放っておけなかったんです。」
「そんなにか」
きっと私の答えはわかってたんでしょう。穏やかな顔でお酒を飲むギル様には下心があって近づいたのは内緒です。でも危なっかしくなければ放っておいたと思います。あの頃の私はギル様のことを敵だと思ってましたもの。今思うと申しわけない気持ちになります。
「はい。でもギル様が危なっかしくてよかったです。おかげでこうして話すことができました。王宮だけではギル様のすばらしさはわかりませんでした。私のギル様は優しくて誠実で聡明で民思いでそんなギル様に仕えられてリリーは幸せです。リリーの忠誠はギル様に捧げます。」
「オリビアじゃなくて?」
「ギル様と一緒にオリビアを守るんです。もちろんギル様もお守りしたいですよ。でもギル様は強いからリリーでは守れません。だからオリビアと一緒にギル様が幸せになれるように頑張ります。そういえば話ってなんですか?」
ギル様が考え込んでます。なんだろう。
「私はレアに会えてよかった。そのお礼が言いたかったんだ。」
この人は律儀だなぁ。
「私もギル様に会えて良かったです」
「レアにとって私はなに?」
「放っておけない人でした。今思い返すとギル様との時間は楽しかったです。もしこの国にいることがギル様がつらいなら一緒に逃げようか迷うくらいの存在でした」
「結局一緒に逃げたけどな。」
「ギル様と一緒に逃げたのはリリアです。レアではありません。ギル様との生活は楽しかったですね。オリビアに怒られなくてよかったです。」
「オリビアはリリアを後宮に入れて二人で仲良く過ごしたかったらしい。」
「私とギル様が毎日オリビアに怒られますね」
「まぁニコラスが嫌になれば離宮は用意してあげるよ」
「その時はよろしくお願いします」
まさか冗談を言い合える関係になるとは思いませんでした。穏やかにギル様と笑い合って幸せだと思える日がくるとはきっとレアは予想もしませんでした。その場限りのお手伝いのつもりでしたから。
「リリアはギル様の臣下です。でもレアはギル様だけのお友達です」
「レアはラスのものだろ?」
「違いますよ。レアを知るのはギル様だけです。ギル様はレアのたった一人のお友達です。だから、無理しないでください」
ギル様の手をとって治癒魔法をかけます。これで体の疲れは楽になります。王は時に孤独で重圧に押しつぶされそうになるそうです。側妃様はそんな重石を第二王子殿下に背負わせたくなかったそうです。それに兄を押しのけて王位につくのは茨の道です。第二王子殿下は側妃様の気持ちとすれ違ってしまったようです。側妃様が息子に座らせたくなかった椅子にギル様はいずれ座ります。臣下としてできることは限られます。だからギル様が孤独にならないようにレアはギル様にあげます。オリビアは厳しいので、償いもこめてレアはギル様の味方であろうと思います。オリビアへの意地悪はリリアが許しませんけど。
「レアはギル様のものです。もしつらくなればお呼びください」
ギル様の手が頭に落ちてきました。
「オリビアの味方だろう?」
「リリアはオリビアの味方ですよ。でもレアはギル様だけの味方です。レアはしがない民なので難しいことはわかりません。ギル様の幸せをお祈りしながら、お話を聞くことしかできません」
「私はレアが好きだったよ」
「レアもギル様が大好きです」
幸せそうに笑うギル様に嬉しくなります。こんな表情を民に見せたら私は人気取りに動かなくてもよかったかもしれません。
「リリ!!」
ローブ姿のニコラスの姿にため息をつきます。幸せな時間が終わりをつげるのは早いです。ネス達にお忍びするからニコラスをごまかしてってお願いしたのに・・。
「見つかりましたか。ネス達はどうしたんですか?」
「気絶させてきた」
「手荒な真似は許しません。」
「正当防衛だ。護衛を撒くな。」
「ギル様と一緒なら安全です」
「自分たちの立場を考えろ。」
「レアとギル様はお友達です。何もありません」
「俺とオリビア嬢への申しわけなさはないのか!?」
「ギル様はオリビアの許可をとってきてます。」
「俺は許可してない」
怒ってますね。ギル様は望めばどんな女性も手に入る立場です。ニコラスの心配していることは不敬です。
「その妄想が最低です。当分、実家に帰ってください。頭冷やすまで帰ってこないでください。護衛はネス達がいるからいりません」
ギル様に肩を叩かれました。
「レア、落ち着こうか。ラスも一杯どうだ?」
「お気持ちだけで。帰るよ。外で酒を飲むな。弱いんだから」
「弱くない。意地悪言うラス嫌い。帰って。リリーはギル様といる」
「酔ってるだろうが」
「酔ってない。魔法も使えます」
無詠唱でできるようになった光の祝福をします。
「バカ」
周りの人達から歓声が湧き上がりました。
「巫女様!!」
「リリ様!!」
今日はレアのつもりなんですが。礼をして手を振ります。
「私より人気があるな」
「本人に自覚はありません。人も集まりましたしお開きにしましょう。城まで送りますよ」
「必要ない。」
「リリ様、魔法見せて!!」
「ラス、お願いします」
子供が寄ってきました。光の祝福ほど安全でわかりやすい魔法はないんですよ。ただ綺麗なだけで効果がありませんが。せっかくなのでニコラスの力を借りましょう。
ニコラスの水の魔法に合わせて、光の魔法を使って虹を作ります。
「おお!!」
民の笑顔と歓声に気分が良くなってきました。
いつの間にか現れたディーンが片付けをしています。私はまだ飲みたいのに。
「レア、そろそろ帰ろうか」
「わかりました。お気をつけて。ラス、ギル様をお願いします」
「護衛はいるから大丈夫だ。また」
「はい。また」
立ち去るギル様に礼をします。
「ラス、私はもう少し呑みたい」
「義母上が来るから迎えに来たのに。いらなかった?」
「お母様が!?」
「抜き打ちでくると。サーファの情報だから確実だろう」
「お昼からお酒を飲んだのが知られたら怒られます」
「夜に俺と飲もうよ。殿下と二人で飲食するなと言っただろうが」
「なんのことですか?今更ですがこの集まった人達はどうしましょう」
「リリア、数秒光で目くらまし」
光の魔法を使います。眩しい光を作り出します。ニコラスに抱き上げられ、人混みを抜けました。私はニコラスと一緒にレトラ領に帰りました。お母様が来る前に間に合って良かったです。
私はレトラ領で暮らしています。お父様とお兄様が諸外国を飛び回るので、私は領地を任されました。外交官としてはうちの国にくる方々との交渉がお仕事です。お父様は私よりもニコラスの外交官の腕を頼りにしてる気がしてなりません。時々、ニコラスを連れて行ってしまいます。私は国内のお仕事ばかりです。お父様とお兄様のお役にたてるならいいですが・・。




