領主代行1
ニコラス視点
ノエルがレトラ侯爵に就任した。俺はレトラ領の領主代行に任命された。リリアの外交に付き添いながらのんびり過ごす予定が狂った。
俺はリリアが就任すると思ったのに、ノエルが俺に押し付けた。義母上が俺なしのリリアの外交を認めなかった。なんで普通に夫婦で外交官じゃ駄目だったんだろうか。リリアはあんなに外交官の勉強を頑張ってたから、さすがに可哀想だと思った。でも俺も一人でリリアを外国に行かせる気はないからリリアの外交官は廃業。俺の補佐官にすることにした。リリアと一緒にいるために婿入りしたから。嫌がると思ったリリアはあっさり頷いた。レトラ領とノエル達の為ならなんでもいいらしい。結婚してもブラコンは健在だった。ノエルも義父上も問題を起こすリリアを国内に閉じ込めておきたいんだろうか。リリアが外国に行くと禄なことないもんな…。
孤児院に視察に行ったリリアが帰ってこない。最近、手のかかる孤児が入ったという報告を受け様子を見に行った。俺は会議のため同行できなかった。領主業務は会議が多い。俺の気も知らずリリアは「一人で平気。護衛を連れてくから心配しないで任せて」と笑って出かけていった。俺は一緒にいたいだけなんだけど、全くわかってない。仕事も一段落したし迎えに行くか。
孤児院に向かうと見知らぬ男とリリアが向き合っていた。
「弟を引き取りにきた」
「身元引き受けの手続きをお願いします」
「弟をよこせと言っている」
「孤児の引き取りには手続きが必要です。信頼できる相手でないとお渡しすることはありません。たとえ家族であろうとも。」
「女が生意気に」
リリアの顔を知らないならこの領民じゃないな。
「捕えておけ。」
兵に男を捕らえさせた。不審な男だから、調べれば何か出てくるだろう。
俺の顔を見てリリアがきょとんとした。
「どうしたんですか?」
「遅いから迎えにきた。」
「ニコラス様だ!!」
男がいなくなったので孤児院から子供達が出てきた。
「ニコラス様、愛人にしてください!!」
マセてるよな。愛人なんてよく知ってるな。俺の足にしがみついてる幼女を抱き上げようとする腕をリリアが掴んでいた。リリアが幼女に笑いかけた。
「駄目です」
「リリア様、愛人」
「駄目です。」
リリアが幼女を俺の足から勢いよくはがした。
「リリア!?」
リリアの乱暴な様子に戸惑う俺のことなど気にせず俺と幼女の間に立っている。
「絶対に駄目です。ニコラスは駄目です。他の方にしてください」
「子供だろ?」
「駄目。それでも嫌です」
笑顔で牽制している。
これは妬いてると判断していいのだろうか。恋愛方面の情緒の発達がおかしいリリアが…。
「ごめんな。俺のお姫様はリリアだけなんだ」
「王子様はたくさん妃を持つのよ」
「俺は王子様じゃないからな。しがない騎士は一人しか選べないんだ」
幼女が頬を膨らました。
「将来、リリア様より可愛くなる」
「きっと男がよって来る。選びたい放題だな」
幼女の頭を撫でることさえリリアは許さないらしい。
リリアが俺の方を見て睨んできた。
「ニコラス、女の子は早熟です。しっかりお断りしないと許しませんよ」
「リリアが言うのかよ」
「私はこの子より小さい頃からニコラスだけが特別でしたよ」
「は?」
「あんまり鈍いのもどうかと思いますが」
恐ろしい言葉を聞いた気がする。
「悪夢がなければ、婚約してくれたのか?」
「特別な人に捨てられるから苦しいんです。だから離れたかったんです。」
「まさか、今までわざと」
「なんのことかわかりません。」
敵わないな。
綺麗に笑うリリアを抱き寄せて、軽く口づける。
「ごめんな。俺は昔からリリアだけって決めてるから」
「子供の前ですよ!?」
さらに頬に口づけると、戸惑う顔をした。
「リリア様、ニコラス様はリリア様にあげる」
「あげる?ニコラスはもともと私のですよ!?」
「クールな所がいいのに、今のニコラス様は残念」
「え?頑張って男性を見る目を養ってください。ニコラスは2番目に素敵な男性よ」
「一番は?」
「私のお父様とお兄様です」
幼女の目が冷たくなった。リリアは回収したし、帰るか。
「リリア、特別ってなに?」
リリアの護衛のサアーダが不思議そうな顔をしている。
「好きには色々あるんです。」
「どうすれば、わかる?」
「難しいですね。オリビアなら恋愛小説を進めるけど、私、苦手なんです」
「どうして?」
リリアが困った顔をしている。
「昔ね、ご令嬢達のお茶会で本に出てくる王子様や騎士のお話をするのが流行ってましたの。襲われると颯爽と現れて助けてくれる人と結ばれるのが憧れなんだって。私はそのお話に入れなかった」
「なんで?」
「どうしてもわからなかったの。王子様が一人でお姫様を救ったわけではないわ。きっと騎士を連れていた。それにお姫様のまわりにも護衛騎士がいたはずよ。私にとって、突然助けてくれた王子様よりも、挫けないで立ち上がりお姫様を無事に逃がした護衛の騎士の方が好きだったから。私は令嬢達が見向きもしなかった、やられてしまう騎士のほうが心配だった。でもお話には騎士のことはないの。それから恋愛ものが嫌いになったわ。それに助けてもらうたびに好きになってたら節操なしよ。王子様も助けるならもっと早く助けなさいって思ったんです…。もともと非現実的でまどろっこしい流れも苦手ですし、お話の内容も理解ができないのよ」
リリアが恋愛小説嫌いな理由って理解できないから?。
すぐに眠くなるのは、防衛本能なのか・・・。
「それに令嬢達が素敵と頬を染める男性を見てもなにも思わなかった。転んで手を差し伸べられた時に、安心して掴めるのはお兄様達を除けばニコラスの手だけでした。手を重ねた時に他の人と違うのは特別ということなのかな。難しい。ずっと側にいたいと思う人?サアーダもその時がくればわかると思います。理屈じゃないもの。心が叫ぶの。離れて行く背中に、手を伸ばさずにはいられない。頭では無駄だとわかっても、止められないものなの」
リリアの話をサアーダが不思議そうに聞いている。馬に乗っていなければ、リリアを抱きしめただろうな。リリアはあまり俺のことは言葉にしないから。俺がリリアを捕まえようと足掻いてた時、リリアも俺のこと考えてたんだろうか。もし離れてって言いながら、伸ばしたい手を我慢してたとすれば・・。やばい。これは嬉しい。
しかもリリアの恋愛小説嫌いの理由も。王子より騎士のほうが好きだったのか。昔は騎士に負ける所をよく見られてたよな。時々、なぜか拍手をしていた。あの拍手は俺への称賛だったのだろうか…。
「リリアの特別はニコラス様?」
「うちの旦那様は寂しがり屋だから特別にしないと拗ねちゃうんです。」
相変わらずリリアはつれない。俺への好意は言葉にしない。他の奴への好意は素直に言葉にするのに・・。
「意地っ張り」
「失礼ですね。」
「サアーダ、リリアみたいになるなよ。男が苦労するから」
「男を弄んでこそ、一人前でしょ?」
「それは間違った知識だから忘れろ。王宮騎士団にはまともな発想の男はいない」
「良い人ばかりなのに」
もし、過去の俺に会えたら教えてやりたい。意地を張らずにリリアの側にいろって。王宮騎士団にリリアを近づけてはいけないと。俺が側で見ていないとリリアは何をやらかすかわからないから。離れられない魔道具でもあればいいのに。




