サーファの決意
僕は2号が名前だった。主の命令は絶対。僕の全ては主のものと教わった。ただ僕は主に捨てられた。処分されると思っていた。でも主から僕達を貰ったというのがリリアだった。
前の主の命令はリリアと一緒に東国に帰ること。馬車に乗って怯える子供のフリをしろと命じられた。リリアは起きると泣いてる真似をしている僕を抱きしめた。不思議だった。家に帰すから安心してと笑っていた。僕はリリアが泣き叫ぶと思ってたのに。
主は近くに潜んでいるのは知っていた。主がリリアに捕らえられた。助けろという命令がないから動かなかった。3号が主の命令でリリアを刺した。リリアは僕達を閉じ込めて逃げようとしたとき主が僕達を処分する命令を出した。これで終わりと思ったら傷はなくなって、牢屋に閉じ込められていた。
リリアは僕達を主から貰ったと言う。僕は命令がなければどうすればいいかわからない。
リリアは毎日会いに来た。食べ物を牢屋にいれさせて、自分も食べながら本を読んだり、話しかけたりした。リリアの命令はよくわからない。でもリリアは僕を捨てないという。それなら僕はリリアのものになるのも悪くないかなと思った。
リリアの命令はおかしい。元主の命令と逆だ。自分の命令は絶対と言うのに、内容がよくわからない。ネスとサアーダに殺したり傷つけたり逃げることは禁止と言われた。僕が頷くと牢屋から別の場所に移された。
リリアが僕達には手を向けて暫くすると体が綺麗になった。リリアは僕達と一緒に暮らしはじめた。時々いないけど夜には必ず帰ってくる。
「セノン、私は出かけるけどその間はネス達のことお願いね」
リリアは仔犬のセノンを僕に渡した。撫で方と抱き方、ご飯の時にプリンを出すのが僕の仕事だった。
「セノンはリリア様の大事な愛犬です。」
「大事なものは信頼できるものにしか預けない。俺は君達がお嬢様の信頼を裏切らないことを祈るよ」
毎日代わる騎士達は色んなことを教えてくれる。人を傷つけるのはいけないこと。騎士は守るためになら躊躇わないらしい。いずれ守りたいものができたらわかると。
夜遅くに誰かが入って来た。自分に危険がなければ危害を加えることは禁止と言われている。寝ているリリアに近付いてるのは、確かニコラス。リリアの護衛と言っていた。
「坊ちゃん、おかえりなさい」
「かわりはないか」
「はい。」
「リリアが悪いな。」
「任務ですから。それに悪い子ではなさそうです。起きてもベットから出てきませんしね」
僕が起きたの知られてる。ネス達も起きてるけど。
「リリアの望み通りになることを祈るよ。俺が斬ったら泣くだろうし」
「お嬢様はお守りするので、ご心配なく。」
「もうすぐ東国にリリアと発つ。ネス達は頼むよ。」
「やんちゃな子供は慣れてます」
「将来のリリアの宝だから。バカなことはするなよ。俺はリリアを泣かすやつは許さないから」
ニコラスはまた家を出ていった。ニコラスは僕達を警戒している。
「うちの坊ちゃんがすみません。坊ちゃんはリリア様が大事なんです。君達の行動次第では俺達は君達を殺します。それをするとリリア様が悲しみます。リリア様は君達を大事にしているので」
「なんで?」
「俺はしがない騎士なのでわかりません。」
しばらくするとリリアは旅立った。当分帰ってこれないみたい。時々エルがやって来た。
「お嬢様はなんでセノンを託されたんだ。お嬢様の専属執事は僕なのに」
騎士がエルを抱き上げた。
「エル、張り合うなよ。」
「母さんはお嬢様には考えがあるって笑うんだよ。お嬢様の一番大事なセノンを託すのがイラ侯爵夫人ならわかるけど、なんでネス達なんだよ」
「お嬢様は、エルにネス達の様子を見てほしいと頼んだだろう?。それがエルに与えられた役割だ。ほら遊んでいけよ」
「僕は様子を見に来ただけだ。遊ばない」
エルはリリアがいないと煩い。エルはセノン用のプリンを作り帰っていった。騎士がエルは嫉妬しているだけだと、笑っていた。ここの騎士は色んなことを教えてくれる。
食事をすませた僕はセノンを撫でていた。
「リリア、危ない」
セノンが突然話した。
オリがセノンを僕から奪って抱きしめた。
「行く。」
「じゃま」
「オリも」
オリとセノンの喧嘩に気づいたネスとサアーダも来た。
「なに?」
「リリア、危ない。セノン、行く、邪魔しないで。悪魔、」
リリアは悪魔を倒しに行くって言ってた。ニコラスを死なせたくないから護衛してほしいって。やっぱり護衛はいらないから忘れてってネスに言っていたけど。
「セノン、僕もいく。東国なら詳しい」
「俺はリリアの護衛する。連れてって」
「ネスより私のほうが強い」
「はなさない」
セノンが僕達を見ている。
「オリ、契約。」
セノンがオリの手を噛んだ。
「オリ、ここ舐めて」
オリが、セノンの言うとおりにしている。
「行くならオリに捕まって。」
セノンが何か言うと周りが真っ暗になって、目をあけると森にいた。
僕達は隠れながらセノンの後を追いかけた。リリアに密入国は駄目と命令されてるから見つかったらいけない。
元主を見つけた。でも僕の今の主はリリア。
漆黒の泉につくと、リリアの周りが光ってた。女がリリアに襲いかかるのをセノンが止めている。
空から一面に光が降り注いだ。女の悲鳴が響いて、ニコラスが女の首を落とした。
「出てくるな」
ニコラスは倒れたリリアを抱いて、僕達の方を見ている。ネス達も足を止めた。
「捕らえろ」
元主が兵を連れてニコラスとリリアの前にたった。
「皇族殺害だ」
「殺したのは俺だ。」
リリアとニコラスが縄で縛られている。
「悪魔に魅入られた女を殺した。」
「あんた達なんなの」
「ニコラス達に何をしている」
「彼らは皇族殺害。重罪人。彼らの味方をするならお前らも、捕らえる」
「悪魔に魅入られた女を殺して何が悪い。醜い女は見るに耐えなかった。俺が殺した。リリアもこいつらも関係ない」
ニコラスが兵に殴られている。
「その犬はリリアの使い魔だ。リリアと離すと凶暴だ。死にたくなければ一緒においておけ。この使い魔は国を滅ぼす力があるからな。滅びたいなら好きにしな」
「重罪人の言葉など効かぬ」
リリアとセノンが離そうとするとセノンの体から黒いモヤが出て兵達が騒いでいる。視線を感じるとニコラスがこっちを見ている。
「悪魔と皇女の正しい情報を集めろ。リリアのために。捕まるな。手を出すな」
ネスとサアーダが頷いた。僕は情報を集めるために森を離れた。情報を集めるのは得意だから。城での情報はネスが集める。それなら外の情報を僕は集める。第一皇女の反乱の情報を掴んだ。生贄は自作自演。僕はネス達と合流した。リリアの捕らえられた牢屋の天井に潜んだ。中の見張りを気絶させて、ネスがリリアの所に降りていった。
リリアは死刑予定だった。ネスの話を聞いて逃げないと静かに言ったリリアがニコラスの話を聞いて泣きそうな声を出した。リリアは僕達が人を傷つけるのを嫌がる。あんなに苦しそうに頼むなら命じればいいのに。力をかして。ニコラスを助けてって言うリリアの声を聞いて胸が痛かった。僕はニコラスを助けにいくことにした。殺さない。気絶させるだけ。守るためなら躊躇うな。どうにもならない時は気絶させると騎士に教わったから。
牢屋に行くとニコラスはいなかった。処刑部屋に向かうとニコラスが元主と一緒にいた。
「惨めだな」
「悪魔を倒してやったのに、ひどい国だな。」
「皇族殺害」
「違うだろ?自分より強いリリアが怖かったんだろう?」
「やれ」
ニコラスが兵に蹴られた。忙殺するのか。
「痛めつけられ、後悔して死ねばいい」
元主が部屋を出ていった。
ニコラスが何かを呟くと兵たちが倒れた。
「リリアは無事か?」
「うん」
「良かった。状況は?」
僕の集めた情報を話すとニコラスはため息をついた。
「ありがとう。おかげで生きて帰れるよ」
「僕はまた人を傷つけた。リリアと約束」
「リリアのためだろう?サーファが守るために必要だと考えてやったんだ。サーファがリリアのために殺した命は俺とリリアが背負ってやる。よくやった。助かったよ。抜け出したことは俺が父上に謝ってやるから安心しろ」
「リリアもニコラスも変」
「否定はしない。俺はサーファ達がリリアのために動くなら味方だ。騒がしいな。サーファ、隠れてろ」
「中止だ」
兵が中に入ってきた。倒れている兵を見て、寝たフリをしているニコラスを蹴り上げた。
「ニコラス!!」
リリアが飛び込んできた。リリアは兵など気にせずニコラスの縄を解いている。騒がしいせいか寝ている兵が起きはじめた。リリアを掴もうとした兵をネスが蹴り飛ばした。
リリアとニコラスが喧嘩している。リリアが泣きながら願うからニコラスを殴った兵を半殺しにすることにした。リリアがこの国を滅ぼしたいと願うなら叶えるけどニコラスに止められた。滅ぼすよりも先に優先すべきことがあるみたい。
隠れていろと言われたので、案内をするネス以外は隠れてついていくことにした。
僕達はリリアと一緒に帰れるらしい。
家に帰ると思ったら孤児院に送られた。リリアは子供らしく生活することが僕達の幸せと思ってるみたい。
ニコラスが一人で孤児院に来た。
「リリアが四人を引き取るとは聞いている。ただリリアの側は物騒だ。側にいるのは危険と隣り合わせになる。リリアが望む平穏な子供らしい生活は多分、送れないよ」
僕はリリアの望みも大人の話もわからない。
「平穏も子供らしいもわからない」
「そうか。殺される危険がある。それでもリリアと一緒にいたいか?」
殺されるのは怖くない。
「リリア、守る」
「覚悟があるならいいよ。四人は名目上は俺の直属の部下にする。俺とリリアの命令は絶対。守れるか?」
「分かった」
「リリアと一緒にいる以外でどうしたいか考えといて。わからなくても、考える努力はしてくれ。またくるよ」
帰っていくニコラスを追いかけた。
「ニコラスに仕えればリリアのためになる?」
「リリアじゃなくていいのか?」
「ニコラスはリリアを守るんでしょ?」
「俺はリリアほど優しくないし、人使いは荒いけど」
「よくわからない」
「優秀な部下は歓迎するよ。」
「優秀?」
「ああ。短時間であれだけの情報を集めるのは大人でもできない。」
ニコラスは不思議だ。騎士がニコラスはリリアを守るためなら手段を選ばないと言っていた。
僕達にも、何よりも大事な相手ができればいいと言っていた。そういう相手を見つけたほうが人生が鮮やかになるって。言ってる意味はわからない。でも、僕はリリアに悲しい顔をしてほしくない。それならニコラスと一緒にいたほうがいいと思った。
ニコラスは色々教えてくれる。まずは言葉遣いからと。リリアはニコラスが優しいと言うけど、よくわからない。でも僕の頭をポスンと叩いて褒めてくれるニコラスと、僕達を見て、綺麗に笑うリリアを見ると、心がほわんとする。その話をしたリリアが泣きながら笑った顔を僕は忘れないと思う。リリアが泣いたのにニコラスが嬉しそうにリリアを連れて出ていってしまった。ディーンに嬉し泣きと教わった。リリアの涙を拭うのはニコラスの役目らしい。




