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夢みる令嬢の悪あがき  作者: 夕鈴
番外編

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成長記録16 人気者

上位貴族の令息の一番人気はサン公爵令嬢であるオリビア嬢である。美人で優秀にサン公爵の後ろ盾。

ただ下位貴族の一番人気はレトラ侯爵令嬢であるお嬢様だ。治癒魔法が使えることで有名なお嬢様のことを特に武門貴族が欲しがっていた。お嬢様は社交界にあまり参加しないらしい。王宮騎士団に訓練に来ていた武門貴族が治療に走り回っていた少女がリリア・レトラ侯爵令嬢と知れ渡ってからは縁談の申し込みが凄いらしい。

レトラ侯爵はお嬢様の婚約は成人後に決めると話し、ノエル様は自分より弱い奴には渡さないと表明している。ノエル様は強い。坊ちゃんでも勝てるか怪しい。


「母上、やりました」


坊ちゃんがお嬢様を連れてイラ侯爵邸に帰ってきた。


「まぁ!!でかしたわ。リリア、これからは義母様と呼んでね」

歓声をあげて、喜ぶテンションの高い奥様にお嬢様が戸惑っている。


「夜会の準備をしないと。お披露目しましょう」

「ニコラス、挨拶しないといけないのにどうしよう」

「いらないな」


お嬢様は飛び出していった奥様の背中を不安げに見つめていた。

お嬢様と坊ちゃんの婚約はイラ家門に一気に話が広がった。

坊ちゃんの初恋を応援していたから泣き出す騎士もいた。ただうちの騎士以外も茫然としている騎士達がいた。旦那様が他家の子息を訓練のために一時的に預かっていた。


「婚約?リリア様が?」

「成人するまでって」

「嘘だろ・・」


お嬢様目当ての騎士がここにもいたのか・・。崩れ落ちている子息に俺はどう言葉をかけるべきかわからない。


「まさかイラ侯爵家かよ。油断してた」

「ニコラスがリリア様を?あのニコラスが?伏兵が・・」


伏兵?

坊ちゃんが?


坊ちゃんがお嬢様を連れてきた。お嬢様は俺達に向かって一礼した。


「リリア様!!」


子息の一人がお嬢様に近づいていった。


「ごきげんよう。お久しぶりですね」

「リリア、知り合い?」

「夜会で何度かお会いしました。ニコラスのお友達ですか?」

「知り合いかな。友達ではない」


「リリア様、ご婚約は本当ですか?成人までは決めないって」


お嬢様が大きい声をかけられてびっくりした顔をしたあとに、静かに微笑んだ。


「申しわけありません。状況がかわりましたの」

「まさか、脅されて」

「脅し?」


お嬢様が坊ちゃんをじっと見て首を傾げている。坊ちゃんの笑顔がまずいかもしれない。


「せっかくだから婚約者に良いところを見せるかな。リリアに横恋慕してるならかかってこいよ。まとめて相手してやる。」


坊ちゃんが腰の剣に手を添えた。お嬢様が坊ちゃんを見て、困惑しながら坊ちゃんの添えた手に自分の手を重ねた。


「横恋慕?ニコラス、勘違いです。ごめんなさい。ニコラスは洗脳」


坊ちゃんがお嬢様の口を手で塞いだ。


「リリア、ちゃっと静かにしてて。すぐすますから母上は無理か、シロのとこに行ってろよ」

「うっ、」


「ニコラス、リリア様に何をしてるんだ」


周りの声など気にせず坊ちゃんは騎士に視線を向けた。お嬢様を回収しろってことですか。


「リリア様、行きましょう。坊ちゃんはイラ家の騎士として役目があるそうです」


お嬢様は坊ちゃんを見て、コクンと頷くと坊ちゃんの手から解放された。息を整えながら馴染みの騎士に連れられて立ち去って行った。


「ニコラス、どういうことだよ!!お前、なんで」

「リリア様との噂なんてなかったよな」

「抜け駆け」


坊ちゃんが子息たちに囲まれている。

坊ちゃんは先月まで旅に出ていた。

思い返すと公の場ではあまり一緒にいないか。坊ちゃんも社交はあまりこなさない。


「俺の婚約者だからもう近づくなよ。せっかくだからかかってこいよ」


坊ちゃんは剣を向けて来る子息たちを瞬殺した。容赦ない。


「広めてくれていいから。リリアに手を出したら俺が黙ってないって。」


坊ちゃんは良い笑顔を浮かべている。子息達が茫然としている。

念願のお嬢様との婚約だもんな。これから堂々と牽制するんだろうな。


「泣かせたら、奪うからな」

「誰がやるかよ。いつでも相手になってやるよ」


坊ちゃんは泣かせないとは言葉にしなかった。昔からよく泣くお嬢様はきっとこれからも変わらないだろう。


「リリア様は俺が嫁にほしかったのに」

「リリアは可愛いけど、手がかかるから無理だよ」

「手に余るならよこせ」

「やらない。お前たちの弱さじゃリリアを守れない。いつでも相手してやるよ」

「お前、リリア様にどうやって近づいたんだよ!!」


坊ちゃんが優越感に浸った顔を向けた。


「リリアはよくうちに差し入れ持ってきてたし、遊んでって勝手に来てたよ。うちはリリアの遊び場だ」

「差し入れだと!?遊んでだと!?俺が誘ってもいつも断るのに。観劇も、食事も」

「リリア、観劇嫌いだから。あいつは俺の誘いは断らないよ」


坊ちゃんが笑顔で心を折りにかかっている。


「伏兵が・・」

「俺のリリア様が・・」

「俺のリリアがごめんな。」

「まさかイラ侯爵家が出てくるとは」


坊ちゃんに群がる子息たちが騒いでいる。坊ちゃんは愉快そうに笑っている。


旦那様にエスコートされてお嬢様が戻って来たな。


「ニコラス、お前はリリアを放っておいて何をしている」

「父上、すみません」

「イラ侯爵、気にしないでください」


旦那様がお嬢様の頭を撫でている。

坊ちゃんがお嬢様に手を差し伸べると一礼してお嬢様が坊ちゃんに手を重ねた。


「婚約披露の日はまたレトラ侯爵と相談する。リリア、また来なさい」

「はい。これからもよろしくお願いいたします。」


「挨拶はおわったか?」

「イラ侯爵には。ただイラ侯爵夫人には声がかけられないんです・・」

「母上はいいよ。帰ろうか」

「ニコラスはイラ侯爵家に残って構いませんよ」

「バカ。お前が帰るなら一緒に帰るよ」


お嬢様が気まずそうに俺達を見ている。坊ちゃんが帰らないことを気にしているんだろう。


「リリア様、気にしないで、坊ちゃん連れてっていいですよ」

「お嬢様坊ちゃんをお願いします」


お嬢様が一礼して坊ちゃんと一緒に立ち去った。


「どういうこと?ニコラス、ここに住んでないの?」

「坊ちゃんは随分前からレトラ侯爵邸で過ごしていますよ」


この日は飲み屋が大繁盛したらしい。

俺は坊ちゃんの初恋が叶ったことに一安心だ。旦那様達からも酒が振舞われた。

仲間と一緒に祝杯をあげることにした。

落ち着くまで長かったよな。ただ残念ながら俺はまだまだ坊ちゃん達に振り回される日が続くことを予想していなかった。


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