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夢みる令嬢の悪あがき  作者: 夕鈴
番外編

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成長記録15 誘拐

お嬢様と坊ちゃんは市に来ている。

お嬢様が買い物をしたいと坊ちゃんにおねだりをした。

坊ちゃんの手を引いて歩いていたお嬢様の足が止まった。

男が柄の悪い男に囲まれている。お嬢様の視線に気づいた坊ちゃんが動いたな。

風魔法で囲んでいた男を倒した。

お嬢様が坊ちゃんの手を引いて、囲まれていた男に駆け寄った。

腕をとって治癒魔法をかけている。斬られた傷が塞がったのを男が驚いた顔でお嬢様を見ている。


「君は!!」


詰め寄ろうとする男の手を坊ちゃんが止めた。


「触れないでください。彼女に何か?」

「治癒魔導士か?」

「はい」

「力を貸してくれないか?」

「お役にたてるかわかりませんが、それでよければ」

「リリ?」

「ラス、行ってきます」

「俺も行くから」


男に連れられて進むと小さい家があった。

中に入ると少女が眠っていた。


「目覚めないんだ。」


お嬢様は少女の手を握って祈りを捧げている。


「体力は回復させました。ただ原因はわかりません。お役にたてずに申しわけありません」


「どうすれば」

「お役にたてずに申しわけありません。神殿にご相談を」

「そうか」


男は絶望的な顔をした。

お嬢様は礼をして立ち去った。


「リリ、平気か?」

「うん。治癒魔法は万能じゃない。運命には逆らえないってお師匠様が。」


お嬢様は坊ちゃんと買い物をして帰られた。

落ち込んでいないことに安心した。


***

坊ちゃんと訓練をしているとレトラ侯爵家の使用人が来た。


「ニコラス様、お嬢様はどちらに?」

「今日は来てないけど」

「そんな・・」

「どうかしました?」

「お嬢様はニコラス様に会いにいくと馬車で出かけました。昼前には帰られるとお約束だったんですが」


空気が凍った。


「父上に報告を」


坊ちゃんの命で騎士が走っていった。坊ちゃんが騎士に命じて、情報収集に走らせた。

坊ちゃんが指示を出していると旦那様が来た。

「父上、俺は単独で動いていいですか」

「心当たりがあるのか」

「自信はありませんが」

「騎士を何人か連れていけ」

「はい、ありがとうございます」


坊ちゃんはスラムに向かった。


「親方、リリが浚われた。情報はないか」

「治癒魔導士を探しているやつがいたが。」

「治癒魔導士の名は?」

「リリア・レトラ侯爵令嬢。」

「その探している男の情報が欲しい」

「それは言えない」

「わかった」


坊ちゃんは焦った顔をして、眠った少女の家を目指した。


「この方は私の魔法では目覚められません。魔法は万能ではありません」

「魔導士の血は癒しの力を持つと聞く」

「初めて聞きました。それで納得していただけるなら提供します。御者を解放してください」

「それはお嬢様次第ですよ」

「私の血を飲ませればいいんですか?」


ドアを開けると、短剣で指を切ったお嬢様と剣を突きつけられている御者がいた。


俺は駆けこんで御者に突きつけられている剣を飛ばした。

坊ちゃんがお嬢様を背に庇っている。

「リリア、無事か?」

「はい。ニコラス、やめて」

「浚われたんだろう」

「ううん。私が自分からついて行ったの。」


突然、寒気がした。


「ほう。そいつが魔導士か」


気付くとローブを着た男がいた。


「約束通り、薬をくれてやろう。よく連れてきた」


ローブの男は少女の父親に瓶を渡した。


「さて、魔導士よ、大人しくくるなら他の者は見逃そう」

「頷かないなら?」

「殺すまでじゃ。幼い娘は持ち帰ろう。良い材料になる」


坊ちゃんのことを言っているのか。お嬢様がローブの男をじっと見ている。


「聖の女神に願い給う。悪しき者を振り払う浄化の力を与え給え。」


気付くと坊ちゃんがローブの男を気絶させていた。

坊ちゃんが身ぐるみをを剥いでいる。杖を折ったな。俺は男達を拘束することにした。


人の気配がするので、警戒するとノエル様だった。

「リリア、無事かい!?」

「お兄様!!」


お嬢様が坊ちゃんの背中から抜け出してノエル様に抱きついた。


「家にいないから心配したよ」

「ごめんなさい。お兄様、少女を目覚めさせられますか?」


お嬢様、この状況で治療すんの!?

ノエル様が少女に手をかざした。


「起こせるけど、起きたら発狂するけどいいの?」

「はい?」

「彼女は自分の意思で眠っている。彼女の閉じこもっている闇は彼女の魂でできている。無理矢理祓えば魂が傷つく」


ノエル様の言葉に父親から表情が抜け落ちた。


「どういうことだ」

「そのままだ。彼女は自分で魔法を使って眠っている。自然の目覚めを待つか、死んでもいいなら起こそうか?」


ノエル様が笑顔なのに寒気がする。


「お兄様、リリーが間違っていました」

「いいよ。リリア、帰ろうか。ニコラス、どうする?」

「うちが引き受けますよ」

「ニコラス、私が」

「リリア、帰ろうか。ニコラスの仕事に口出しは駄目だよ」

「わかりました。」


お嬢様は俺達に一礼してノエル様に手を引かれて立ち去っていた。

御者は置いていかれた。さすがノエル様。庇おうとするお嬢様を自然に連れて帰った。

ノエル様がお嬢様を浚った者を許すはずがない。


坊ちゃんが冷たい笑顔で尋問している。

お嬢様の馬車の前に少女の父親が身を投げ出した。お嬢様は馬車から降りて、治療しようとした。その時に父親に捕まった。御者にも剣が突きつけられていた。お嬢様は言う通りにするから、自分以外は解放してと願うが駄目だったらしい。

怯えるどころか交渉するお嬢様、すごいかもしれない。

男に連れられて治療しながら説得している時に俺達が駆けつけたらしい。


父親はローブの男に偶然知り合った。娘の目覚める方法を相談すると、貴重な薬なら効くかもしれないと答えた。父親から治癒魔導士の存在を聞いた男は魔導士の身柄と交換なら薬を譲ろうと提案した。父親は頷いた後、治癒魔導士の居場所を知らないことに気付いた。市をまわるも見つからず、情報屋を頼った。情報屋にお嬢様の存在を聞いた父親は知り合いの力を借りて、お嬢様を浚った。

ローブの男は治癒魔導士の生き血が欲しかったらしい。ローブの男は魔導士だった。男が育った国では治癒魔導士は女神の化身とされていた。治癒魔法を使える神殿の神官達は手を出せば、重罪だった。また神官達は自衛も身に付けているので、手に入れることはできなかった。諦めかけた時に、神官ではない治癒魔導士の話を聞いた。運命だと思った。治癒魔導士の生き血を飲めば、自分の魔力があがる。また自分と違って、もてはやされて治癒魔導士を傷つけ優越感に浸りたかった。


坊ちゃんは旦那様と相談し、少女を修道院に送った。

父親と魔導士は罪人として、詰め所に差し出した。二人は投獄か斬首だろう。侯爵令嬢に手を出して、無事でいられるはずがない。

坊ちゃんはお嬢様に会いに出掛けた。


「リリア、大丈夫か?」

「お母様に怒られてしまいました。イラ家の皆様にも謹慎が解けたら謝罪に行きます」

「怒られた?」

「はい。ちゃんと痕跡を残さないといけないと。お兄様とニコラスがいなければ、大変なことになっていたと。ニコラス、ありがとうございました」


レトラ侯爵夫人、お嬢様は被害者なのに厳しすぎませんか?

浚われた時の対応なんて、教えませんよね・・?


「ああ。怖くなかったか?」

「驚きましたが、治癒魔法が目当てなら命の危険はなかったので」

「謹慎とけたら、訓練するか」

「はい。よろしくお願いします。私も反省しました。ちゃんと臣下を守れるようにならないといけません」


お嬢様の度胸が凄い。論点がずれているのは相変わらずだが・・。


「リリア、治癒魔法を外で使うの控えないか?」

「どうしてですか?」

「今回みたいに危険な場合もあるから」

「次からはみつからないように治療します」

「傷が治ったら、無詠唱でもわかるから」

「あれ?でもきっと大丈夫ですよ」

「その自信はどこから来るんだ」

「だってお兄様とニコラスが助けてくれるもの。死なないように気をつけて、迎えにきてくれるのを待ってます」


坊ちゃんが負けたな。お嬢様は穏やかな顔でお茶を飲んでいる。

お嬢様はやっぱり度胸がある。ノエル様の幼少期は神童と言われていた。ノエル様と比べるとお嬢様は平凡と言われているらしい。ただ浚われても、怯えもなく、冷静に対処するお嬢様は平凡なんだろうか。昔、盗賊に襲われた村の子供を助けた時は泣き叫んでいた。心に傷をおった子供もいる。お嬢様の顔には不安も恐怖も見えない。いつもと変わらない。むしろ坊ちゃんのほうが心配している。

坊ちゃんはお嬢様に汚い世界を見せたくないと言っていた。ただこのお嬢様を見たら、どんな世界でも変わらない気がした。たぶん坊ちゃんが思っているよりもお嬢様は強くて図太いと思う。

お嬢様がイラ侯爵夫人になったらどうなるんだろうか。

いずれくる未来に思いをはせながら、仲睦まじい将来のイラ侯爵夫妻を見守ることにした。


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