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夢みる令嬢の悪あがき  作者: 夕鈴
番外編

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成長日記13 初陣

ディーン視点

久しぶりにお嬢様が坊ちゃんに会いにきた。

坊ちゃんはお嬢様に気付いて近づいていった。


「ニコラス、あげる」


お嬢様が小袋を渡している。

坊ちゃんが覗き込んでいる。


「初陣でしょ?」

「なんで知ってんの?」

「イラ侯爵夫人に聞いたの。この魔石、吸収させれば体力回復と小さい怪我なら治る。ただ大きい怪我は治らない。リリー、役にたたなくてごめんね」


あの小袋は全部魔石なのか!?中々重たそうだけど。


「こんなに作ったのか」

「うん。今はこれ以上の純度は出せない。もっと早く教えてくれれば良かったのに」

「リリアに言えば心配するだろう?」

「心配してないよ」


お嬢様の言葉に坊ちゃんが驚いている。そして地味にショックを受けているのもわかる。


「え?」

「イラの騎士は優秀だもの。ニコラスは剣の天才でイラの騎士。立派にお役目を果たしてくるもの。もし、怪我してもリリーが治してあげるからちゃんと帰ってきてね」


坊ちゃんがお嬢様を見つめている。これ、喜んでるよな。

気持ちを落としてから浮上させるなんてお嬢様は高度なことをしている。

初陣のことを坊ちゃんはお嬢様に言っていなかった。命じられたのはイラ領の盗賊の討伐だからな。どう考えても怖がると思ったんだろう。出立は今夜だった。


「うまくいくだろうか」

「うん。ニコラスなら大丈夫だよ。リリーの騎士は一番格好いいから」


自信満々な笑顔を浮かべるお嬢様に坊ちゃんが笑った。緊張が抜けたな。

坊ちゃんがお嬢様を抱きしめた。お嬢様はきょとんとしている。


「行ってくるから待っててくれるか?」

「うん。気をつけていってらっしゃい」


相変わらず坊ちゃんとお嬢様には温度差がある。

ただお嬢様は坊ちゃんの気持ちを鼓舞させることが誰よりもうまい。だから奥様はお嬢様に話したのか。

旦那様は初陣なのに、指揮官に坊ちゃんを指名した。さすがの坊ちゃんも緊張していた。

坊ちゃんの初陣を笑顔で見送れるお嬢様はもしかしたら大物になるかもしれない。


坊ちゃんの初陣は華麗に幕を開けた。

俺が引くくらいに坊ちゃんは冷静で剣に迷いはなかった。捕えた盗賊が子供の坊ちゃんに罵声を浴びせた。いずれ抜け出して、絶対復讐してやると。坊ちゃんは気にせず尋問を始めた。


「さっさと吐け。命が惜しいなら」

「誰が、お前なんかに」


坊ちゃんが剣を抜いて、男の手に振り落とそうとして寸前で止めた。


「進めていいか?指、1本ずつで」


坊ちゃんの冷たい雰囲気にのまれた盗賊は情報を話した。

坊ちゃんの初陣は無事に終わった。お嬢様の魔石を使うことはなかった。


「ディーン、俺はリリアと一緒にいたい。でもあいつにはこんな世界を知ってほしくない。」

「綺麗な世界だけでは生きれません。それにお嬢様は危うい立場です。レトラ侯爵がイラ侯爵家をお嬢様の縁談相手に選んだのは安全のためでしょう。」

「上皇様の縁者は強い魔力を宿す。上皇様とレトラ侯爵夫人の関係を知る者は少ない。」


お嬢様の外出は安全のため制限されている。坊ちゃんが一緒にいることで、自由が許されていることをお嬢様は知らない。自分が狙われやすい存在であることも。


「お嬢様はノエル様を追って疫病の村に飛び込んで行こうとする方ですよ。きっと、汚い世界の中でも救えるものを必死に探すんじゃありませんか。それに坊ちゃんがお守りすればいいんです。でもお嬢様と一緒にいれば、生涯狙われるかもしれませんね」

「俺はリリアを望んでいいのだろうか」

「それは坊ちゃんが決めることです。」


坊ちゃんはイラ侯爵邸に帰り、旦那様に報告をするとお嬢様に会いにいった。


「ニコラス、お帰りなさい」

「ただいま」

「どうしました?」

「リリア、俺はこれからも一緒にいたい。お前に汚い世界を見せるかもしれない」


深刻そうな顔をしている坊ちゃんにお嬢様は笑った。


「ニコラスが目を背けたいものがあるなら、リリーが見てあげます。」

「え?」

「ニコラスがリリーを守ってくれるから怖くないよ。でももし怖くなったら手を繋いでくれれば平気だよ。ニコラスが見たくない時はリリーが手を引いてあげるよ。だから大丈夫だよ。」


お嬢様が坊ちゃんに抱きついた。

「お務め御苦労さまでした。ゆっくり休んでください」


坊ちゃんがお嬢様の肩に顔を預けて力を抜いた。お嬢様が綺麗に笑った。


「リリアは凄いな」

「お師匠様に全然敵いません。今日はどうしたんですか?」

「顔見たかった」

「じゃあ、もう帰って休んでください。今のニコラスに必要なのはお休みです」

「落ち着いたら遠乗りに行こうか」

「楽しみです。リリーと出かけるために早く帰って休んでください」


お嬢様に言われて帰路についた。

坊ちゃんの顔が明るくなっていた。


「ディーン、俺はもっと強くなる。何があっても守れるように」

「頑張ってください」


坊ちゃんも大きくなったな。がむしゃらに訓練していた頃が懐かしい。

俺は坊ちゃんが強さを望むなら精一杯協力しますよ。

でも今日は休んでほしいんだけど。この調子だと休まず剣を振り回しそうだよな。

きっとお嬢様は坊ちゃんに抱きついた時に治癒魔法をかけているから、平気か。

坊ちゃんに気付かれずに、魔法を行使するのはさすがだよな。


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