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夢みる令嬢の悪あがき  作者: 夕鈴
番外編

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成長記録6 お嬢様の秘密

リリア7歳。ディーン視点

珍しく奥様が訓練場に来られた。


「ニコラス」


奥様の声に坊ちゃんが近づいていった。


「母上、おかえりなさい」

「貴方、リリアと喧嘩した?」

「いえ、してません。」

「そう。リリアは最近王宮の騎士団にいるそうよ。」

「は?」

「リリアの見学席も中に用意されてて、レトラ侯爵夫妻が王宮に参内するときはいつも騎士団の訓練場にいるそうよ。」

「そういえば、最近見てない気が」

「しっかりしなさい。悪い虫がついたらどうするの」

「母上?」

「明日は旦那様と一緒に行ってきなさい。訓練に戻っていいわ」


坊ちゃんが訓練に戻っていった。

翌日旦那様と坊ちゃんと一緒に王宮騎士団の訓練場の向かった。


訓練場には確かにお嬢様がいた。


「おはようございます」

「おはよう。今日も来たのか」

「はい。よろしくお願いします」


お嬢様が大人の騎士に混ざって親し気に話している。

椅子に座って訓練を見学している。うちではそんなに座って見ていることはないよな。

休憩だな。

お嬢様が椅子から立ち上がって一人の騎士のもとに駆けていった。

腕に抱きついてるのはなんなんだろう。

離れた。にっこり笑って、騎士に頭を撫でられまた席に戻ったな。

近寄ってきた騎士が何か渡したな。またにっこり笑って受け取ったな。


「やはり、リリアは可愛いな」

「旦那様、陛下に呼ばれているのでは」

「忘れていた。行ってくる。ニコラス先に帰ってもいいからな。ニコラス、聞こえているか?」


旦那様に肩を叩かれて坊ちゃんが驚いた顔をした。

「父上、俺、あそこの訓練混ざってきてもいいですか?」

「お前にはまだ早いと思うが、経験か。ディーン頼むぞ」

「わかりました」


旦那様を見送り隣の坊ちゃんに目を向ける。


「坊ちゃん、本気ですか?」

「ああ。せっかくの機会だ。」

「ちゃんと俺の言うことを守ってくださいよ」


俺は坊ちゃんを連れて知り合いの騎士に声をかけ参加させてもらうことになった。お嬢様が坊ちゃんを見て驚いた顔をした。坊ちゃんはお嬢様に声をかけなかった。


「ニコラス・イラです。よろしくお願いします」

「少年、やられにきたか」

「はい。ご指導お願いします」


坊ちゃんは騎士達の中に混ざっていった。

お嬢様の関心は坊ちゃんからなくなったのか、違う騎士の手合わせを夢中で見ている。


「ディーン、手合わせさせるか?」

「負けるのも経験です。容赦はいりません。ただ大怪我だけは気を付けてください」

「わかったよ。ニコラス、戦いたい相手はいるか?」

「あちらの方を」

「俺!?」


坊ちゃんが指名したのはお嬢様が腕に抱きついていた騎士だった。


「坊ちゃん、お互いに大怪我だけは気をつけてください。血まみれを見ればお嬢様はきっと倒れますよ」

「わかっている」


「血まみれを見て倒れるお嬢様・・?」


坊ちゃんは指名した騎士と手合わせをはじめた。

坊ちゃんの圧勝だった。周りは騒然としていた。


「ディーン、彼は天才か」

「うちの家門の御曹司ですから」


お嬢様は坊ちゃんの手合わせに気付いていない。

ふらふらと歩きまわっている。


坊ちゃんは次はお嬢様にお菓子を渡した騎士に勝負を挑んでいた。

なんとなく気付いてた。坊ちゃん、お嬢様に惚れこんでるもんな。本人に自覚はあるかはわからないけど。


「なぁ、リリア様はなんでここにいるの?」

「ディーンはリリアと知り合いなのか」

「間接的に。うちの旦那様のお気に入りだ」

「御曹司もお気に入りか。リリアは訓練に来てるんだよ」

「訓練?」

「これ以上は俺からは言えない。内緒って約束だから。まぁ見てるとわかると思うよ。」



坊ちゃんは放っておいてもいいから、お嬢様を見てみるか。

いないんだけど。


「たぶん騎士の休憩所かな。いいよ。ニコラスは俺が見てるから行って来い」

「悪い」


俺は休憩所を覗くとお嬢様が中にいた。

騎士の背中に手を当てている。


「どうですか?」

「軽くなったよ」

「本当ですか?」

「ああ。前より発動早くなったじゃん」

「皆様のおかげです」

「ただ魔力切れだけは気をつけろ。少し分けてやろうか?」

「大丈夫。」

「遠慮するなよ」

「ありがとうございます」


お嬢様が騎士の膝にのって抱っこされている。旦那様が見たら悔しがるだろうな・・。


「こんなもんか。」

「ありがとうございます。」

「リリア、まだやるのか?」

「せっかくもらったからもう少しだけ。体力や精神の回復はどこまでかけたらいいかわからないの。お師匠様は経験と感って言うんだけど」

「重ね掛けすれば?」

「重ね掛け?」

「最小でかけて、足りなかったらまたかければいいだろ?」

「なんと!?」

「マジかよ。体力や精神回復なら魔法をかけた後の相手の様子を見てみな。回復すれば表情や仕草で変わる」

「さすがです」

「俺は治癒魔法使えないからわからないけどな。そろそろいいんじゃないの?」

「どうゆうことですか?」

「リリアはレトラ侯爵令嬢だろう。あんまりここにいると絡まれないか?」

「絡まれる?」

「まだわからないか。怖い人に追いかけられたらここまで逃げてこいよ」

「うん。」


頭を撫でられ嬉しそうに笑ってるお嬢様に不安がよぎる。


「そういえば、今日はここにいるのか?」

「うん。ニコラスがいるから」

「もうお披露目してもいいんじゃないの?」

「まだだめ。もう少し綺麗に魔法が紡げるようになってから」

「なってるよ。最近、ここに来てばっかりだろ。そんなに背伸びしなくていいんだよ。子供なんだからもっと遊ばないと」

「邪魔?」

「邪魔じゃないよ。ただリリアは自分に厳しいから。リリアのお兄様が物凄く優秀でも比べなくていいんだよ。リリアは同じ年の子と比べたら優秀だよ。そのうち俺はリリアに抜かれそう。今、練習してるの中級魔法だろ?」

「うん。大きい怪我は中級魔法じゃないと治せないから。」

「充分すごいよ。いつでも練習相手になるから遊んでおいで」

「すごい?」

「ああ。すごい。俺の周りに7歳で中級魔法を使える子供はいないよ」

「ありがとう。ニコラスと遊んでくる」

「怪我には気をつけるんだぞ。」

「うん。行ってきます」


お嬢様が手を振って休憩所から飛び出していった。


「盗み聞きは感心しない」

「仲良すぎないか?」

「ノエルが悪い。追いかけなくていいのか」


俺は坊ちゃんのもとに戻ることにした。

坊ちゃんもそろそろ止めないとまずいな。


手合わせの終わった坊ちゃんにお嬢様が抱きついてにっこり笑っていた。


「ニコラス、遊んでください」

「リリア!?」


「リリア、今日は終わりか?]

「はい。また来ますね」

「気を付けてな」


「リリア、なんでうちじゃなくてここに通ってるの?」

「内緒です。訓練やめて遊んでください。ニコラスも今日はもう終わりです」


お嬢様が坊ちゃんの手を引いて歩いていった。

苦笑してるけど坊ちゃんが喜んでいるのは知っている。

坊ちゃんがお嬢様の秘密の特訓が自分のためと知るのは先の話である。

そしてお嬢様が坊ちゃんにこっそり治癒魔法をかけるのはこの日がはじまりだった。

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