成長日記5 お嬢様の友達
リリア6歳。ディーン視点
久しぶりにお嬢様が遊びに来た。
「ニコラス、遊んで」
「ちょっと待ってて」
「うん」
坊ちゃんが剣を片付けにいった。坊ちゃんはお嬢様の遊んでが好きだ。いつも夢中で訓練しているからお嬢様が来て休憩させてくれるのはありがたい。
坊ちゃんが戻ってきた。
「リリア、何したい?」
「泳ぎたい。お魚みたい」
「もう少し暖かくなったらな。別のことしよう」
「お魚」
「池を眺めるだけなら」
不服そうに見ているけど、お嬢様今日は寒いので駄目ですよ。お嬢様は泳ぎ方をノエル様に教わった。夏になるとよく一緒に水遊びをしているそうだ。
「ウサギを見に行く?こないだ捕まえたんだ」
「行く!!」
坊ちゃんが魔法でウサギを捕まえていたな。
お嬢様は檻に入ったウサギを見て喜んでいる、今回は気に入ったのかな。ニコニコしながら餌をあげている。
「抱っこしていい?」
「抱っこはだめ。」
「わかりました。動物の出入りが激しいね。この子もいつかいなくなっちゃう?」
「さぁな」
それはお嬢様次第かな。
「名前は?」
「ウサギ」
「そのまんま。ウサギさんいいの?このウサギさんはおすましさんだね。にんじんくれればなんでもいいのか。ウサギさん、聞いて、リリーねお友達ができたんだ」
「友達?」
「うん。初めてのお友達」
「リリア、誰と友達になったの?」
坊ちゃんが驚いている。お嬢様の遊び相手が増えるの嫌なんだろうな・・。
「オリビア。サン公爵家のご令嬢。とても優しくてきれいなの。あといつも美味しいお茶を出してくれるの」
「リリアはサン公爵邸に行ってたの?」
「うん。オリビアが誘ってくれたの。でも毎日はご迷惑になるからニコラスに遊んでもらいなさいってお母様が」
「へぇ。待てよ。優しい?」
サン公爵令嬢は聡明とは聞くが優しいとは聞いたことがない。
「うん。オリビアはお母様に怒られたリリーを庇ってくれたの。お母様怖かった」
お嬢様が顔を青くしている。あの朗らかなレトラ侯爵夫人が怖いのは想像がつかない。レトラ侯爵家は一見穏やかな一族に見える。ノエル様は穏やかな顔で恐ろしいことを考えているけど・・。
「なんで怒られたの?」
「オリビアのお家の池を見ながらお話してたら、ぶつかって落ちちゃったの。」
お嬢様、それは落とされたんじゃないの?ぶつかって池に落ちるって。
「池の中に綺麗なお魚がいたから一緒に泳いだの。お母様によその家の池で泳いじゃいけませんって約束を守らなかったからすごく怒られたの。それをオリビアが庇ってくれたの。恰好良かった」
目を輝かせて話すお嬢様の隣の坊ちゃんの笑顔は怖い。
「誰とぶつかったの?」
「知らない。難しい言葉を話す人」
「難しい言葉?」
「高飛車とズル賢い。リリー、高飛車は教えてもらったけどズル賢いはわかんない。ニコラス、わかる?」
「俺も知らない。たぶんノエルも知らないよ。覚えなくていい言葉だ」
「わかった。」
お嬢様は坊ちゃんの言葉に素直にうなずいた。
「リリア、意地悪されたら俺に教えてな」
「お兄様と同じだね。大丈夫だよ。リリーは悪いことしないから」
「世の中いろんな奴がいるからな。リリア、泳ぐのは俺かノエルと一緒の時だけだよ」
「また落ちちゃったら?」
「そしたらすぐにあがってきて。泳ぎたいなら暖かくなったら付き合うから」
「うん。わかった。約束ね」
「そうだ。約束だ」
お嬢様とウサギを見ながら和やかに遊んでいるように見える坊ちゃんがサン公爵令嬢に妬いていることは気付かないんだろうな。お嬢様は目を輝かせてサン公爵令嬢の話をしている。
「ディーンはわかっていて知らんぷりするんだから性格が悪いよな」
「俺はお嬢様とはお友達じゃなからな。お嬢様のお友達はうちの騎士しかいないもんな。坊ちゃんはお友達じゃないのか?」
「俺は坊ちゃんの機嫌を直してくるよ」
同僚が坊ちゃん達に話しかけにいった。あいつはいつも要領がいいんだよな。
「お嬢様、サン公爵令嬢が恰好いいのはわかったけど、坊ちゃんは?」
「ニコラスも格好いいよ。じっと見てね、剣をえいってやるところ。あとね、剣で向かっていく前に笑うのも。」
「お嬢様は格好いいのが好きなんですか?」
「うん。格好いいのは好き。でも優しいところが一番好き。オリビアもニコラスも。いつも遊んでくれるの。二人共とっても優しいの。だから意地悪する人にはリリーが怒るよ。オリビアもニコラスも優しいのに勘違いされるから、リリーが教えてあげるの。すごく優しいよ。怖くないよって」
「お嬢様は二人が大好きなんですね」
「うん。大好きだよ」
坊ちゃんの顔が真っ赤だ。あいつたぶん映像魔石持ってるな。お嬢様の満面の笑顔に真っ赤な顔の坊ちゃん。奥様が喜びそう。
「ニコラス、お熱?」
「違う、熱いだけ。今度、遊びに行くときは俺も誘ってよ。リリアの友達紹介して」
「オリビアに聞いてみる。オリビアはお人形みたいに綺麗だよ。」
「そうか」
坊ちゃんはお嬢様を家まで送っていった。翌日、伯爵家に乗り込んでいった。お嬢様を池に落とした令嬢の家だったらしい。お嬢様、坊ちゃんとサン公爵令嬢が怖いと噂されるのはお嬢様の所為かもしれません。サン公爵令嬢と坊ちゃんの話す様子をみて、気付いてしまった。この二人は似たもの同士だ。親交を深めてるのにお嬢様の取り合いをしている。美味しいお菓子を幸せそうに食べてるお嬢様が時々二人を見て嬉しそうに笑っている。お嬢様、仲良く話し合っていませんよ。その翌週にはサン公爵令嬢と奥様が仲良くなっていた。公爵令嬢の社交レベルが怖い。お嬢様は社交界で生きていけるんだろうか。
「リリア、俺の分もやるよ」
「本当!?ありがとう」
「おかわりならいくらでもあるわよ」
「ううん。お菓子のおかわりはいけませんってお母様が」
「ニコラス様にもらうのはいいの?」
「よくわからないけど、ニコラスは特別なんだって。」
「そうなのね・・」
笑顔で睨み合っている二人が怖い。お嬢様はお菓子をまた幸せそうに食べている。この空気に怯えないってお嬢様はもしかしたらすごい人なのかもしれない。お嬢様が坊ちゃんとサン公爵令嬢のために社交の勉強を頑張っているのを二人は知らない。坊ちゃんはお嬢様が頑張るのは全部レトラ侯爵家のためだけだと思っている。お嬢様は格好いい二人に負けないようにって頑張ってるのはお嬢様のお友達の騎士に聞いた俺は坊ちゃんの空回りを見るとニヤニヤしてしまった。
おまけ
イラ侯爵邸の一室ではイラ侯爵夫人とレトラ侯爵夫人がお茶をしていた。
「ノエルにべったりで心配だったけど、ニコラスとオリビア様のおかげでリリアの世界が広がったわ。最近は嫌がっていた社交のお勉強も頑張ってるのよ」
「うちのニコラスが役に立って嬉しいわ」
「ニコラスが心配よ。うちのリリアに構ってばっかりで、邪魔してない?」
「大丈夫よ。うちはリリアを気に入っているから。いつでもお嫁にもらう準備はできてるわ」
「ニコラスも可哀想に。旦那様の約束で婚約者が決まるなんて。好きな子できたらどうするのかしら・・」
「ニコラスはリリアを気に入っているから大丈夫よ。いつかはノエルに勝てるかしらね」
「ノエルも心配よ。あの子も好きな子もいないみたいで。リリアが好きなお嫁さんをもらうって・・。人気があるのに勿体ないわ。リリアが本当にノエルのお嫁さんを決めたらどうしよう」
「ノエルを大好きなリリアがお嫁さんを受け入れられるかしら」
「お兄様をとらないでって泣かないように教育するわ。二人共優秀なのかどうかわからないわ。今回はどれにするの?」
「悩むまでもないわ。リリアの大好きに赤面するニコラス。映像水晶でとってほしかったわ。映像魔石を編集できるように改良するのが課題よね。もしくは映像水晶の軽量化」
「イラ侯爵夫人の仕事じゃないわ」
「レトラ侯爵家だって魔石を提供してくれるじゃない」
「家を離れている旦那様に頼まれているから。できればニコラスが映ってないのは欲しいんだけど」
「リリアの馬屋シリーズは?最近は馬屋に映像水晶を常備してるわ。馬が盗まれたら困るからだから、リリアをとるためじゃないわ」
イラ侯爵家の鑑賞会にレトラ侯爵夫人が参加していることを知ってるのは一部の人間だけだった。リリアのお忍びがレトラ侯爵夫人の公認だった。相談すれば、市や買い物に連れていってもらえたことはリリアは知らなかった。




