第十一話後編 新しい友達
ニコラス達は訓練を再開しました。
私はライリー様と一緒に見学です。ライリー様にスペ様の魅力をアピールしないといけません。
「ライリー様、スペ様は不器用な方なんですね。でもあんなに情熱的な方なんて」
「リリアの言葉にただ頷いてただけよ。」
「騎士は嘘をつきません。頷くってことは同意しているということですわ。本当に羨ましいです。ライリー様とのピクニックは楽しみですが、私はお邪魔ではありませんか?」
「リリアの言葉が本気とは思えないけど、二人だけだと気まずいからリリアが一緒に来てくれれば心強いわ」
ピクニックは強引でしたか・・。いえ、時には強引さも必要です。この二人をなんとかしないといけません。将来、他人につけ入る隙もないくらいに親しくなっていただきたいのです。
私の翻訳では駄目ですか…。
仕方ありません。スペ様にはあとで恋の詩集でも贈りましょう。
オリビアにおすすめを聞きましょう。私は興味がないので読めませんもの。読む気もありませんが。
苦笑しているライリー様ににっこり微笑みかけます。せめてピクニックは楽しみに思っていただけるようになってほしいです。
「ピクニック楽しみですね。ライリー様とスペ様の相乗りはきっと絵になります。絵師をお連れしたいです」
「やめて。リリア、倒れてから時々様子がおかしいけど、本当に治ったのよね?」
「はい。医師には完治とお墨付きをいただいています。」
「よかったわ。」
「ご心配をおかけしました。」
「無理はしないでね」
「皆、そればかりです。」
寝込んでから皆に言われます。元気なのに・・。しょんぼりする私をみてライリー様が「仕方ないわ」と笑いました。
ライリー様と一緒にニコラス達の訓練を見ながらお茶を楽しみました。
遠乗りデートプランを考えないといけませんね。
お昼になると二人は戻ってきました。
暖かいのでこのままお昼を用意をしていただきました。今度はちゃんと私の作ったサンドイッチが出てきました。
「スペ様、なにかお嫌いな物はありますか?」
首を横に振るから大丈夫ですね。スペ様は私と会話する気がないようです。
ライリー様にお皿を渡します。
「ライリー様、スペ様に取り分けてあげてください。私はニコラスの分をとりますので」
お皿にニコラスの食べる分を取り分けます。ライリー様も真似して取り分けてます。
いつもはしませんが今日は特別です。
「どうぞ」
「ありがとう」
お皿を受け取ったニコラスが食べ始めます。すごい勢いで食べますね。お腹すいてたんですね。
ライリー様の差し出したお皿をスペ様が照れながら受け取っています。
「やっぱりリリアの料理が一番だな」
「簡単な物しか作れません」
「これ、リリアが作ったの?」
「はい。挟むだけなので簡単です。今度一緒に作りましょう。楽しいですよ」
「どうぞ。」
ライリー様の分を取り分けたお皿を渡します。
ライリー様がスペ様のお隣に行き食べ始めましたわ。スペ様の事、気になりますのね。
「リリア、次もサンドイッチでいいから。手の込んだものは遠乗りに向かないからな」
ニコラスの忠告に笑ってしまいます。昔のことをよく覚えてますね。
「もう鳥の丸焼きを持って行ったりしません。切り分けずに食べれるものにします」
「わかってるならいいよ」
「でも初めての手料理はインパクトがあったほうが」
「いらないから。好きな女の料理ならどんなものでもご馳走だよ」
「恋多き殿方は違いますね。あの二人、どうすればうまくいくかな」
「は?ブラッド様は寡黙だからな。視線だけでよくあんな翻訳できたよな。」
「令嬢の嗜みです。文通でも?いや難しそうですね・・・。」
「なんで突然取り持とうとしてんの?」
やっぱりわかってしまいますか。ライリー様に気付かれさえしなければいいんです。
「令嬢にも色々ありますのよ」
「まぁいいや。ピクニックの場所はどうする?」
「あんまり道が険しくないところがいいですね。でもちょっと遠いところがいいな。馬に乗りながらお話できるかもしれません」
「いや、最初は近場の方がいいだろ。場所は俺が探しとくよ。」
「ありがとうございます。」
「俺の馬に相乗りする?」
「はい?」
「憧れるんだろ?」
小さい頃はお兄様と一緒に乗った馬は楽しかったです。でも今は自分で乗れます。
「いえ、全く。私は一人で駆けるのが一番です。ニコラスも来ますの?」
「なんで俺が行かないと思った?」
「忙しいでしょ?」
「お前の家はリリアを一人で遠乗りは許可が出ないだろう」
「スペ様と一緒です」
「バカ。何かあった時に令嬢を二人も一人では守れない。それにリリアを守るのは俺の役目だ」
「負けたのに?」
「魔法をつかえば負けない。剣だけだと4歳の年齢差と体格差は大きい」
負けたのに強気な顔をしてます。全然落ち込んでもないし、悔しそうでもありません。
「落ち込んでると思って無駄な心配しました。」
「俺より強い相手はたくさんいるから。負けて落ち込む暇があるなら鍛錬するよ」
「ニコラスの強靭な心が羨ましい」
負けても諦めずに立ち上がる姿が一番格好良いですものね。それに剣の天才と言われても驕らずに強さを求める所も。さすがイラ家門の御曹司です。
食事を終えて食休みをしたらニコラス達はまた訓練に戻っていきました。
相変わらず一日中訓練をしてますのね。
「リリア、二人は一日中訓練をしているの?」
「きっとしていると思います。」
「大丈夫なのかしら」
「どうでしょうか。守りたいもののために必死になるのは素敵ですが、無理はしないでいただきたいですね。」
「リリアはニコラス様が好きなのね」
「昔の話です。私は欲張りですので、思いを返してもらえないのに思い続けることはできません」
「私はニコラス様がリリアを好いてるように見えるけど」
「気のせいです。本命は別にいますから。私は今はライリー様達のことが気になります」
「からかわないで。でもスペ様と過ごして楽しかったのは初めてよ。リリアとのピクニックも楽しみ」
初めてですか!?
ライリー様の綺麗な笑顔好きだなぁ。
スペ様が一目惚れする気持ちはわかります。でもこんな素敵な方が不幸になるなんて許せません。
「私もです。ライリー様、もしスペ様が嫌になったり許せないことがあれば私が力になります。スペ様に言葉が届かなくても私がライリー様の言葉を聞きます」
「リリア?」
「私は立派な外交官になります。いつでも力になります。ライリー様の味方です。これだけは覚えておいてください。もちろんライリー様達のお幸せをお祈りしています。でも私はライリー様が大好きです」
目を丸くしたライリー様が綺麗に微笑まれました。
あまりの美しさに目を奪われました。
「わかったわ。私もリリアが大好きよ。なにかあったら抱え込まずに頼ってね。失恋の痛みに耐えられなくなればいつでも胸を貸すわ。私はオリビア様みたいに報復したりしないから安心して」
「ありがとうございます。オリビアがすみません」
「オリビア様は時々過激なことをされるから。貴方はオリビア様のお気に入りだしね」
オリビアは聡明で品行方正です。ただやられたら三倍返しのモットーがたまに傷です。
ライリー様もオリビアとは親しいのでオリビアの気性をわかっているんですね。
さすがに、外が冷えてきたので、移動しようかと立ち上がるとニコラス達が切り上げてきました。
ちょっと驚きました、倒れるまで訓練するのかと思いました。そろそろお開きですね。
スペ様とライリー様を見送り私もそろそろ帰りましょう。
「ニコラス、今日はありがとうございました」
真剣な顔で見つめられてますが、なんでしょう。まぁいいですわ。
立ち去ろうとすると手を握られます。
突然ニコラスが跪いてますが、手を離して貰えないと帰れませんよ。
ニコラスを睨みます。
「リリア嬢、俺が一生守ります。だから俺と」
リリア嬢?悪寒が走り手を強引に引き抜きます。
ニコラスの前にしゃがんで額を触りますが熱はありません。
いつもは体力回復ですが精神異常回復の治癒魔法もかけて、これで大丈夫です。
恨めしそうに見られても…、わかりました。休みたいから早く帰れってことですね!!
礼をして、馬車に向かいます。なぜか使用人の皆様の視線が集まってる気がします。
心配しなくても、ニコラスが訓練で無理しておかしくなったことは他言しませんよ。安心してください。目の合った執事に他言しませんという意味をこめて笑いかけます。
馬車が来てるので帰りましょう。
「坊ちゃん…」
「見なかったことにしてくれ」
「頑張ってください…。」
私の後で主従の微笑ましい会話があったことなど知りません。




