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夢みる令嬢の悪あがき  作者: 夕鈴
17歳編

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最終話 後編

行儀見習いの少女は第二王子殿下を追いかけていきました。殿下の旅立たれた国は極秘なのでどこだか私にはわかりません。どうかそこでは穏やかに過ごしてほしいです。

ギル様を国王にしたい正妃様、第二王子殿下を王にしたくなかった側妃様。

王になることを迷っていたギル様、なにより王になりたかった第二王子殿下、うまくボタンをかけられたら皆で手の取り合える未来があったんでしょうか。

夜空にはこんなに星が散りばめられてます。星の数だけ可能性があると昔、上皇様が教えてくれました。星をみて、道筋を読み解く神官様が聞いたら怖いお顔をされそうです。

私ももっと早く少女と話せれば、違う未来が描けたんでしょうか。


8年か・・。色んなことがありました。


「リリア?そこにいたのか」


夜に自由に外に出ることができるなんて思いませんでした。こんなに綺麗な星空を知らずに育ったのは勿体ないですね。夢を見た日から私は空なんてほとんど眺めず前だけを見てきました。


「もう怖くないか?」


怖い?いつの間にか隣にいたニコラスの言葉に首を傾げます。

優しい顔でじっと見つめられ抱き寄せられました。


「俺も余裕がなくて気付けなかった。怖かったんだろ?」

「よくわかりません」


ニコラスの手が頬に添えられて暖かいです。


「鈍いのか、無自覚なのか・・。リリアにとって悪夢だろう?オリビア嬢も俺もいなくなるなんて。大事な家も失うかもしれない。」


目をつむると思い出すのは伸ばしても届かなかった手と言葉。どんどん大事なことが零れ落ちていく恐怖。最近は夢を見なくなりました。


でも、現実の私はニコラスの言葉をずっと否定して、この手も振り払った。

痛かったよね。私も痛かったから。頭の中でごちゃごちゃになります。思い返すと中々ひどいことをしました。それなのに流れた涙を拭ってくる手は昔も今も変わらず優しい。


「ごめんなさい。ひどいこと言って。信じられなくて」


無理矢理顔を上げされる手さえも優しい。振り払っても隣にいてくれた。いつも手を貸してくれた。守ってくれた。彷徨う手を掴んでくれた。私はニコラスに救われていました。


「贖罪の機会をあげようか?」


そういえば昔、言われました。償う方法を考えとけって。

静かに頷きます。


「ずっと傍にいて。離れないで」

「え?」

「何があっても」


紡がれる言葉に顔をあげます。


「それ、今とかわりません」

「俺が一番欲しかったのはこの時間とこの未来だ。」


優しい人です。ニコラスが穏やかな顔をしています。

そんな償いを求めるなんて。頬に添えられた手に自分の手を重ねます。


「贖罪になりません。じゃあ離さないください」

「当然だ。逃げても捕まえる」

「逃がさなようにしっかり捕まえててください。でも時々は追いかけられるのも悪くないかもしれません」

「バカ、リリア。贖罪する気ないだろう」


咎められる言葉も顔が笑ってるから怖くありません。


「だって罪で一緒にいるなんて嫌。私は好きで一緒にいるんです。女心を勉強してください」

「リリアに言われたくない。俺が好き?」


失礼な人です。でも私、最近は少し免疫ができました。ニコラスの甘い顔を見ても赤面しません。


「言葉では表せません。でも、私はニコラスの手がないと生きれません。ずっと隣にいてくれないと狂ってしまうかもしれません。責任とってください」


前にディーンに言われた言葉をそのまま返すと幸せそうに笑う旦那様に笑みがこぼれます。

ニコラスは好き?とよく聞いてきます。バカな人です。私がどれだけ特別に思っているか全くわかってないんです。人に情緒を発達させろという言葉をそのまま返したくなります。


「俺でいいの?」


結婚したのになんて質問なんでしょうか。でもニコラスの言葉を否定して拒絶しつづけた私が悪いんです。でも罪悪感を抱いて、一緒にいるなんて嫌です。ニコラスの瞳に不安な色を見つけます。いつか自信満々な色に変わればいいのに。


「世界で一番素敵なのはお父様とお兄様です。でも私の媚薬は旦那様だけです。」

「媚薬って」

「やらしいことを想像しないでね。ちゃんと情緒をお勉強してください」


私を夢中にさせておかしくさせるのはニコラスだけです。

赤面したニコラスの頬に軽く口づけて、捕まる前に家に入りました。きっと悶々と考えこんでるかもしれません。


「お嬢様、あんまり坊ちゃんを弄ばないでください」

「夫婦の嗜みですよ?」

「まさかお嬢様が悪女になるなんて」

「否定はしません」


嗜めるディーンの言葉に笑ってしまいます。

ニコラスで遊んでいるのは本当だから。

さて、明日は早いので今日はもう休みましょう。

ベッドに入り眠りにつこうとすると体を引き寄せられたので見上げた顔に言葉を失いました。

ニコラスで遊んだのは間違いでした。ニコラスの熱を帯びた顔に悩みます。


「明日、早いんです」

「仕事は俺が引き受けるから」


私より優秀なんですよね・・・。

この熱に溺れたニコラスの顔を知ってるのは私だけ。優越感に口元が緩んでしまいます。

甘い熱に身を任せることにしました。想定外ですが、この人が私のものになったのは嬉しい誤算です。

クレア様とセシル様は正しかったです。

口に出して、夢だったら嫌なのでまだ言葉にする勇気はありません。でもニコラスがずっと隣にいてくれることを信じようと思います。何があっても、ニコラスがいれば怖いものはありません。

もし、この腕がなくなりそうになったら、また悪あがきしようと思います。

長いお話に最後までお付き合いいただきありがとうございます。

評価、ブックマーク、感想、誤字報告等も励みになり感謝しています。



リリアの悪夢が始まる前とその後のお話を少しだけ用意しているので、心の広い方だけお付き合いください。

甘ったれリリアと振り回されるニコラスと苦労人ディーンを楽しんでいいただけると幸いです。


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