閑話 結婚式2
オリビア視点
リリアとニコラス様の結婚式に参列しました。リリア達は神殿ではなくレトラ領での儀式を選びました。リリアは大好きな領民に囲まれて細々と行いたかったようです。「サン公爵令嬢を呼べるほどの式じゃないけどお忍びで来てくれたら嬉しい」というリリアの言葉に笑ってしまいました。リリアのためならどこでも行くのに。
派閥のお茶会でリリアの結婚式の話題を出したら令嬢達の目が輝きました。どんな質素な式でもお祝いさせてほしいという令嬢の言葉に戸惑った顔をしたリリアがしばらくすると幸せそうに笑って頷いた様子に涙した令嬢もいました。リリアとニコラス様は色々あったので、最後まで見届けたい気持ちはわかります。
うちの派閥の令嬢達もリリアを可愛がってましたから。当時は最年少だったリリアが王位争いのために駆けまわってましたしね。本人は王位争いはあんまり役にたてなかったと話してました・・。
隣国との縁を結び、東国との外交、被災地支援など大きな功績を残したことは本人は無自覚です。
他にも色々ありますがリリアが気付かないならあえて教えるのはやめましょう。
また張り切って飛び出して行ったら寂しいですから。
教会で儀式をするはずが、参列者が多く野外の広場で行われました。上皇様だけでなく、多くの神官達も参列したため魔法で祈りの間を作っていました。リリアはレトラ領民以外が参列するとは思ってなかったみたいです。レトラ侯爵夫人は、野外で行うことも考慮していたみたいです。招待状を持った私達の席だけでなく、招待状がない領民たちの席も用意されてました。
リリアとニコラス様の婚姻の儀式は上皇様が行いました。上皇様直々の儀式は注目を集めます。王都の神殿で行えばすごいことになったでしょう。きっとこの国の貴族で上皇様の儀式を受けられるのはリリア達だけだと思います。しかも野外の広場なんて前代未聞です。リリアは細々とした式の予定が盛大になりきっと驚いてたでしょう・・。悔しいけどニコラス様が隣にいれば大丈夫でしょう。
「私達の儀式はリリア達に頼もうか」
リリアがギル様と呼ぶ癖が抜けないので、ギルバート様と呼ぶことにしました。
リリアはギルバート様に招待状を送らなかったので、ギルバート様は直々に催促しにいきました。恐縮しながら招待状を渡さなかった理由を話すリリアが愉快だったと笑ってました。一応、招待状は用意していたのね・・。たぶんニコラス様が用意したんでしょう。リリアは普段は抜けてるもの。
「ギルバート様、けじめがついたんですか?」
「気付いていたか」
苦笑するギルバート様を見て、こんなに穏やかに会話を楽しむことができるとは思いませんでした。殺伐とした夫婦になると思っていました。
「はい。」
「私の探していた少女はリリアだったよ」
ギルバート様も表情豊かになりました。婚約する前に好きな人がいる。いずれ側妃に迎えたいと相談されました。私との婚約は正妃様の強い勧めです。
「それもなんとなく。市でローブ姿でお忍びの二人組といえばリリとラスですもの。リリが治癒魔法で民を癒すのもラスが暴漢を倒すのも有名です。市でローブ姿の二人組には悪さをするなは常識です。まぁ正体がリリアとニコラス様と知ってる方はほとんどいません。レトラ侯爵令嬢よりもさすらいの巫女リリの方が民には有名ですから」
「オリビア、なんで詳しいんだ。お忍びするタイプではないだろう?」
「イラ侯爵夫人の趣味を知ってますか?」
「知らない」
「リリアの成長記録作りと鑑賞です」
「だからニコラスが映像魔石を惜しげなく使っているのか」
「うちの魔導士を貸すかわりにリリアの映像くださいって言ったら定期的にくださるようになりましたの。もちろんリリアは知りません。」
「オリビアにはさぞ滑稽だったろうな」
「全然気づかないんですもの。ただリリアがローブを着ているだけなのに。私はリリアの同意があれば側妃でも構いません。どうして隣国にいる間に落とさなかったんですか?ニコラス様を足止めしてあげたのに」
隣国でクレア様達が情報操作していることも、貿易制限をかけてたことも気づいてました。レトラ侯爵家が忙しくなれば外交官の勉強をしていたニコラス様も駆り出され、リリアを探しにいくことはできません。お父様の誘いにのって、第二王子殿下派に間者に行った理由も納得はできます。でもリリアの友人としては許せませんでした。強がって笑ってたけど、傷つかないわけじゃない。それにニコラス様がお父様の誘いにのってリリアの傍を離れるとは、思っていなかった。だからリリアがギルバート様を選ぶならそれでもいいと思ってたのに・・。
「まさかと思えばやっぱりか。リリアが裏切ったニコラスへの嫌悪が凄かったんだよ。絶対零度の視線で見つめて、きつい言葉を投げかけて。名前を聞くのも不快だと。リリアのニコラスへの嫌悪にセシル殿下が引いてたよ。私はリリアにそんな視線を向けられるのは耐えられないと思ったんだ。リリアとは今の距離感が気に入っているんだ。それに王宮という籠に飼うには奔放すぎるだろう?私がレアに傍にいてほしかったのは、ギルバートとして接してくれる人が欲しかったからだ。それにレアの言葉は優しかったからな。生きて、自分だけは何があっても話を聞くって。今、思い返せばレアはリリアそのまんまだ。先入観って恐ろしいな」
「リリアは人たらしですから。婚約者の裏切りに虚勢を張っていたリリアが療養中になったおかげでうちの派閥の令嬢の目がかわりました。お茶会の席で美味しそうにお菓子を楽しむリリアは癒しだったので・・。」
「オリビアはこのまま私と婚姻していいのか?」
「最初はリリアを騙して泣かせた第二王子殿下に腹が立って、王太子殿下の婚約者を引き受けました。ニコラス様と一緒にたてた制裁計画が無駄にならなくて良かったです。他国に嫁ぎたくないので構いません。それにクレア様と戦うには王太子妃が丁度いいですわ。」
「リリアとオリビアは相思相愛だな。ニコラスがリリアがオリビアを好きすぎるって嘆いていたよ」
「ニコラス様は鈍いですよね。リリアの話はニコラス様ばっかりなんです。リリアの特別なのに全然気づかない」
「あのリリアを追いかけられるニコラスには敵わないよ。リリアに罵倒されて死にそうだったのにいつの間にか宥めてたからな」
「あの人は普段はリリアに振り回されてますがその気になれば手のひらで転がせますから。」
「そうか・・。ニコラスは好きで振り回されているのか。リリアはオリビアを幸せにしないと許さないっていうんだが」
「バカな子。私は十分幸せなのに。私が死んだらリリアが後を追いそうなのでリリアよりは生きようと思います。私の大事な癒しを隣国には渡しません」
「オリビアが良いなら構わないが」
「落ち着いたら私もリリアと一緒に一月ゆっくりしたいので手配してください。ニコラス様はギルバード様に預けます」
「あいつはリリアの傍を離れないだろう。レトラ侯爵家に婿入りしたし・・。」
「信じられない。ニコラス様がイラ侯爵になれば不在の間は私が独占できたのに。ギルバート様がリリアを側妃にしてくだされば誰にも邪魔されずに一緒にいれたのに。残念です」
「オリビア、そこに私は入っていないだろう」
「ギルバート様は適当にもう一人側妃を娶ればいいのです。私とリリアは同じ離宮で構いません。」
リリア達が来ました。レトラ領で儀式をするので、ご無理でなければと申しわけなさそうに招待状を渡していました。送らずに直接手渡しするのがリリアらしい。うちの派閥の令嬢は皆参列してます。どこでもリリアのためなら行くのに・・。リリアが想ってくれるように私達もリリアを想ってることに全く気付いてない。ギルバート様だって、辺境の村でも参列したわ。
「オリビア様、ギル様、本日はありがとうございます」
「リリア、呼び方、申しわけありません。殿下」
「いや、そのままでいいよ。オリビアも許してる」
「殿下、甘やかさないでください」
「ニコラス様、嫉妬は見苦しいですわよ。リリア、私の儀式はリリアがしてくれる?」
リリアが首を傾げました。いくつになっても可愛い。
「上皇様じゃなくて?」
「ええ。リリアがいいわ」
「頑張ります。私、巡礼の旅に行ってくるね。オリビアの儀式をやるなら上位巫女の位が必要よね。誰よりも素敵なお式にするから楽しみにしててね。ニコラス、手続きしてきます」
にっこり笑って駆けだそうとするリリアの手をニコラス様が握って止めました。
1週間は二人はお休みです。ニコラス様が絶対にリリアを離さない。さすがに新婚夫婦の邪魔はしません。この期間だけは。
「リリア、この後も予定が詰まってるから。それに巡礼の旅から帰ってくるころにはオリビア嬢の儀式は終わってるよ」
「それは駄目です。どうしましょう」
ニコラス様は顔が崩れてます。この人はリリアが愛しくて仕方がないって顔を隠す気はないみたいです。
「リリア、上位巫女じゃなくていいから。オリビアはリリアに祝福されたいだけだから。」
「ギル様、わかりました。魔法だけ覚え直しますわ。楽しみにしていてください。楽しみだな。ギル様オリビアを幸せにしなければ闇の祝福を贈りますので覚悟していてくださいね」
「リリア、言葉を選ばないと義母上に説教されるぞ。今、見られてるの気付いてる?」
「お母様!?まずいですわ。セノンはネスに預けてます。」
リリアは相変わらずレトラ侯爵夫人が怖いのね・・。
「幸せにな」
「ありがとうございます。リリアがすみません」
ニコラス様はギルバート様に謝ってるのに顔が全然申しわけなさそうではありません。
「ニコラス、おめでとう。私にはリリアは荷が重いから安心してくれ」
「リリアのことはお任せください。」
「ニコラス様、次は平手打ちくらいではすませませんから」
「ああ。」
実は一人だけ招待していない方が来ています。
この方の奔放さには驚きます。ギルバート様でさえもリリアに招待状がほしいとねだったのに。隣国の王太子妃がどうして日取りと場所を調べて来たのか不思議で仕方ありません。きっとうちの国に間者を送ってるのよね・・。
参列者にクレア様を見つけた瞬間、リリアの体が震えてました。ニコラス様がすかさずフォローしてた様子に気付いた方はどれだけいるでしょう。
「リリア、おめでとう!!いつうちの国に来る?」
「クレア様?」
「リリアは当分は隣国に行く予定はありません」
「わかったわ。手段は選べないもの」
不敵な笑顔を浮かべたクレア様をリリアが睨んでいます。
「クレア様、変なことしないでください。またお母様が怒ります。呼んでないのに来ないでください」
「ひどい。なんで私には招待状をくれなかったの」
「呼ぶ理由がありません。オリビアの結婚式に招待されてください」
「私はリリアのお祝いがしたかったの」
「気持ちは嬉しいです。ではまたオリビアの結婚式で会いましょう。気を付けて帰ってください」
笑顔で手を振るリリアにクレア様が悲しい顔をしています。
「つれない」
ニコラス様がリリアの腰を抱いて笑顔でクレア様に向き直りました。これは一戦やる気です・・。私も昔はニコラス様とよくやり合いました。懐かしい・・。
「俺のリリアなんで諦めてください」
「ニコラス様、もう一度捨ててください。私が拾うから」
「捨てません。リリアと一緒にいるのは俺なんで諦めてください。」
「二人共やめて。こんなところで喧嘩しないでください」
「リリア、今日は泊まってもいい?」
「は?王宮かイラ侯爵邸でお願いします。護衛の兼ね合いでうちは無理です。俺達の予定は当分埋まってるので申しわけありません」
「そんなに忙しいんですか・・?オリビア、クレア様をお願いできますか?私はお相手する時間がないようなので・・。」
「いいわ。クレア様、うちに泊めてあげます。リリアのお願いですから」
「オリビア様の家ならイラ侯爵邸がいいわ」
クレア様は相変わらず自由ですが新婚夫婦の邪魔をするのは非常識です。
「本当にイラ侯爵夫人が好きですね。いつまで滞在されるんですか?」
「セシル様が迎えにくるまで」
「まさか、喧嘩したんですか・・。」
目を逸らすクレア様にリリアが顔を青くしました。
「お姉様を呼んできます。いい加減しっかりしてください」
「お父様に許可はもらったわ。リリアを勧誘してきてって。ニコラス様も。」
「はい?」
「ニコラス様がうちの兵を叩きのめしたじゃない?その腕に指導を受けたい兵が多くて。リリアは私の補佐官」
「ニコラス、どういうことですの?あなた、いつそんなことを」
「忘れた。俺、レトラ侯爵家に婿入りしたんで無理です。イラ侯爵家の人間ではないので」
「いまだに命令出してません?」
「婿入りしようがイラ家門の御曹司だからな」
リリアが大きなため息をついてクレア様に向き直りました。
「ニコラスとは後でゆっくり話します。クレア様、セシル様が寂しがるからお帰りください」
「リリアはセシル様のことばかり」
「頼りのない弟みたいなものです。うちのギル様と並び立っても見劣りしないくらいになってほしいわ」
年上の隣国の王太子をここまで言えるのはリリアだけ・・。そして最近のギルバート様への評価が高い。リリアの中で一番マトモな王族はギルバート様みたい。
とうとうリリアも結婚したのね・・。池で楽しそうに泳いでいた子が大人になるのは早いわ。私はリリアに癒されながら執務に励みましょう。ギルバート様の隣も思ったよりお居心地が良い。時々はニコラス様からリリアを返してもらうけど。




