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夢みる令嬢の悪あがき  作者: 夕鈴
17歳編

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第百十七話 悪あがき8

呼び鈴が鳴ったので今日もクレア様が訪問されたのかと思い、扉を開けました。

クレア様の突然の訪問に慣れて気を抜いた自分を反省します。

会いたくない相手に目を丸くして、慌てて扉を締めて鍵をかけました。

寝ている二人を起こさないといけません。


「ギル様、セノン、起きてください」

「もう少し」

「寝てる場合ではありません、起きて、逃げますよ」

「寒いのか?」

「腕を引っ張らないで、寝ませんよ。起きてください。お願いですから」


人の腕を引っ張り布団に引きづりこんでまだ寝ようとするギル様の肩を揺らします。

ギル様は寝起きが悪いんです。今は湯たんぽになってるほど余裕のある状況じゃないんです。


「坊ちゃん落ち着いてください」


聞こえてくる声に息をのみました。

いつの間にかディーンとニコラスが室内にいます。

鍵かけても無駄とは、わかってましたよ。

ただもしかしたら、人の家の鍵を壊すようなことしないかななんて。

外国の物を壊すと一歩間違えば外交問題になりますもの。しかもここはクレア様の私物なので、王家の所有です。そんな事情はお構いなしみたいですね・・。


「ディーンとニコラスか」


やっと覚醒したことに安心しましたが、ゆっくり起き上がり二人を見ている王太子殿下に困惑します。そんな場合ではありません。ギル様も落ち着いてる場合ではありません。貴方、殺されかけたんですよ。


「ギル様、お願いですから寝ぼけてないで。セノンも起きて」


「随分仲が良いんだな」


王太子殿下は役にたちません。時間を稼がなくてはいけません。

セノン起きて!!ギル様を起こして、お願いですから!!


「なんのご用ですか。先触れもなく、勝手に家に押し入るなど常識にかけます。」


「迎えにきた」

「大人しく捕まる気などありません」


ニコラスとディーン相手にどうすればいいんでしょう。罠を発動させますか?この立ち位置だと微妙です。ディーンが生きていたことに安心しますがやっぱりニコラスについたんですね。私の護衛って言ってたのに。

薄々感じていましたがディーンの主はイラ侯爵ではなく、ニコラスですね。


「お嬢様、落ち着いてください。誤解です。坊ちゃんはお嬢様の味方です」


ディーンに説得させようとも無駄です。ニコラスと一緒にいる時点で信用できません。


「私はギルバート様にお仕えしております。第二王子殿下に仕えるくらいなら自害します。貴方たちにギル様を渡しません」

「リリア、落ち着こう。とりあえず話を聞こうか。先に食事にしてくれないか。昨日、激しかったからお腹すいた」


私の肩に置かれた手を軽くつねります。


「ギル様、平和ボケしすぎです。非常事態です。食事は後です。どうしてもならプリンを流し込んでください」

「リリア、プリン、セノンの」


セノンが起きたのはよかったけど、今はそんな場合ではありません。


「仕方がないな。二人ともどうぞ座って」


浮遊感、なんで抱き上げられてますの!?

非常事態ですよ。なんで剣を持ってないんですか!?。


「抱き上げないでください。なんで落ち着いてるんですか!?」

「たまには私が用意しようか」


ギル様は家事能力が壊滅的です。


「ギル様、勘弁してください。余計なことしないでください」

「リリア、落ち着いて。無理矢理黙らせてもいいけど。きっと大丈夫だから。それにこの家は安全だろ?」


人の頭を撫でて穏やかな笑みを浮かべる王太子殿下にため息がでます。


「わかりました。座ってください。お茶を入れます。朝ご飯はまだ我慢してください」


ギル様が拗ねた顔をしてみてきます。仕方ないです。

ニコラスとディーンのお茶には眠り薬をいれましよう。

大人しく座る二人にお茶を出します。飲んで眠ってくれるといいんですが。


「どうぞ。」


ギル様にはプリンとパンとミルクを、セノンにはプリンとミルクを出しました。

ちゃんとした朝ご飯を用意する時間も余裕もありません。

これでも譲歩したんですよ。


「リリア、座れよ」


ニコラスを睨みつけます。


「嫌です。顔も見たくないので、ご用件をどうぞ。」

「リリア・・・」


よくもノコノコと私の前に顔を出せたものです。


「イラ様、名前で呼ばないでください。私の名前は貴方に呼ばれるほど安いものではありません」

「坊ちゃん、仕方ないですよ。お嬢様、せめてその目やめてくれません。」

「無理です。」

「リリア、淑女のする顔じゃないよ。レトラ侯爵令嬢」

「ギル様、空気を読んでください」

「クレア嬢にいつも言っていることを思い出して隣に座ってくれないか」


深呼吸して、社交用の顔を作り王太子殿下の隣に座ります。


「王太子殿下、お迎えにあがりました。本国に帰りましょう。国王陛下も首を長くしてお待ちです」

「リリアとの生活も終わりか。いい休憩になったよ」


私は優秀だと思った評価を考え直さないといけません。穏やかに笑っている場合ではありません。お願いですから危機感を持ってください。頭を抱えたいのを我慢します。


「ギル様、罠ですよ。きっと帰ったら斬首です。騙されたらいけません」


呼び鈴の音が聞こえます。まさか兵ですか。開けるべきですか?

でも家の中には罠がたくさん仕掛けてあります。

外で戦うよりも勝算はあるかもしれません。

そっと、扉をのぞくとお兄様がいます。


「リリア、元気そうで良かった」


いつものお兄様の様子に緊張感が一気に抜けそうになったのを気合いで我慢しました。


「お兄様、どうされたんですか?」

「迎えにきた。ニコラスから聞いてないか?」

「あの方は信用できません」

「王位争いが終わったよ。わが家の勝利だ」

「さすが、お兄様です!!」 

「第二王子殿下は他国に婿に出されることになった。次期王はギルバート様だ」 

「ノエルか。久しぶりだな」


こちらに向かってくる王太子殿下に抱きつきます。


「ギル様、おめでとうございます。国に帰りましょう。私達の勝利です!!」

「そうか」


いつもと変わらず穏やかなお顔のままです。


「やりましたね。あんまり驚かないんですね」

「私の派閥は優秀と言われてたからな。当然の結果だろ?」


この言葉は嬉しいです。私達を信頼していただけるなら精一杯お答えできるように頑張りますよ。


「いつの間にか頼もしくなりましたね。リリアはギル様とオリビアについていきます」


「リリア、興奮するのはわかるけど殿下に抱きつくのはやめなさい。」


お兄様に言われて王太子殿下から離れます。はしゃぐのは淑女の行動ではありません。品位が抜け落ちていました。


「失礼しました。お兄様」

「わかればいいよ。殿下、やましいことはありませんよね?」

「ない。でも嫁の貰い手がないなら私が引き取るくらいは気に入っている。」

「うちのリリアにその心配は無用です。ニコラスが止めないとは」

「お兄様、その名前は聞きたくありません。私、どうしてもイラ侯爵家に嫁ぐならカイロス様にしていただきます。」

「喧嘩したのか?」

「絶縁希望です。イラ様と婚姻するならセシル様の側妃の件を引き受けてもいいです。一生クレア様のお世話係で終わっても構いません」

「リリア、ニコラスと仲良かっただろう?」


お兄様がニコラス側につくとは意外です。私のお兄様を捕るのも騙すのも許しません。


「記憶にありません。幼き頃の思い出や親愛はすべて海に捨てました。忘却魔法で消してもらっても構いません。私の幼馴染はオリビアだけです。」


過去は消えません。それなので捨てることにしました。ちょっと残った戸惑いもこの国の池に投げ捨てました。


「お嬢様、坊ちゃん死にそうだからそれ位にしてあげてください」


ディーンの咎める言葉も聞き入れません。


「お好きにどうぞ。私には関係ありません。絶対に花もあげないしご冥福もお祈りしません。参列もお断りします。」

「リリア、お兄様はニコラスのことなんてどうでもいいけど、話を聞いてあげなさい」

「お兄様の頼みとはいえ嫌です。私の言葉を聞かない方の話を聞く道理がありません」

「リリア、私は知りたい。国で何が起こったか知って、この先のことを考えなければいけない。ニコラスも私の臣下だ。話を聞くのがつらいならリリアは聞かなくてもいいよ」


こんなときに温情を見せないでください。慈愛のこもった瞳で問われてます。

私がしっかりしなければいけません。


「ギル様が聞くならご一緒させていただきます」


お茶を入れ直して椅子に座ります。

今回は眠り薬はやめました。

話してる最中に眠られたら王太子殿下に迷惑がかかりますから。

席に座ると、ニコラスが話しはじめました。


「王太子殿下が姿を消された後、側妃様の殺害は王太子殿下が犯人と噂が流れました。

ただ側妃様は仮死状態だったため極秘で現れた上皇様が治療してくださいました。犯人が捕まるまでは側妃様は身を隠していただきました。

回復した側妃様より最後に飲んだお茶を運んだのは行儀見習いと証言がとれています。行儀見習いは投獄しております。

また第二王子殿下が臣下に王太子殿下の殺害を命じる映像が見つかりました。これを見た国王陛下は第二王子殿下の継承権剥奪と他国への婿入りを決めました。また第二王子殿下のお子にも継承権は与えないそうです。」


上皇様が・・。側妃様ご無事でよかったです。

エル、エリ、ありがとう。きっと二人は今も動いてくれてるでしょう。王位争いは本当に終わったんですね。王太子殿下は穏やかな顔をされてます。弟君のことで沈む様子がないことに安心しました。


「そうか。ご苦労だった」


さて、それならこの国にいる理由もありません。帰ったらやることもたくさんあるでしょう。深呼吸して再び気合をいれます。ニコラスは信用できませんが、お兄様がいるので、なにがあっても大丈夫です。私のお兄様はニコラスに負けたりしません。それにギル様も中々強いのです。


「クレア様達にご挨拶をして出立の準備を整えましょう。」


「リリア、もう少し話を聞かせてくれないか。証拠の映像はどうやって手に入れたんだ?」


立ち上がろうとするのを、王太子殿下の声でやめました。

沈黙が続きます。お兄様がニコラスの方を見て、ゆっくりと口を開きました。


「ニコラスが手に入れました。ニコラス、殿下の命令だ。護衛になった経緯も含めて話せ」



「あの頃は王太子殿下への刺客が増えていましたが主犯がわかりませんでした。とある筋から第二王子殿下派の仕業と情報が手に入りました。どう近付こうか迷っていたときに、第二王子殿下のお気に入りの行儀見習いに声をかけられたので、魅了魔法にかかったふりをして近づきました。おかげで第二王子殿下の護衛に任命されました。俺は王太子殿下との接触が少なかったのでそんなに警戒されてませんでした。その時から映像魔石で映像を残していました。俺も丁度良く暗殺を命じられたので」


そんな言葉を信じると思ってるなんて愚かです。私はさんざん確認しました。第二王子殿下に心酔してたくせに・・。顔がゆがまないように気を付けて静かに睨みつけます。侯爵令嬢は嫌いな相手ともうまくお付き合いしないといけない時があります。


「騙されません。私達を殺そうとしました」


ニコラスは静かな目で見てきます。無言の睨み合いをしています。まだ素直に許しを乞うほうが好感がもてました。もう好感もなにもないですが・・。


「お嬢様、あれは坊ちゃんも監視されてたんですよ。あそこで坊ちゃんが時間稼ぎをしなければ、お嬢様達は逃げ切れませんでしたよ」

「え?」


ディーンからとんでもない言葉を聞いたような・・。


「坊ちゃんは俺に攻撃する振りをして他の刺客の妨害してたんです。追手こなかったでしょう?」

「私の策がうまくいったのではないんですか?」

「あんなの引っかかりませんよ。蹄の後でわかります」

「一晩寝ないで頑張ったのに」

「巫女姿のまま行動したら目立ちますよ。隠す気あったんですか・・。」


ディーンの憐れみの視線が痛いです。私の策は失敗だったんでしょうか・・。

反省は後です。ここにニコラスがいるのは話が本当なんでしょうか・・。

ギル様に向き直ります。


「密入国は許されないので他に方法がなかったんです。ギル様、申し訳ありません」

「リリア、無事だったんだ。気にするな」

「お兄様、出立はいつに?」

「船の手配はおえている。いつでも発てるよ。リリア、一人で飛び出したのは良くないよ」

「申しわけありません」

「無事で良かったよ。次はよく考えるんだよ」


お兄様の言葉に反省します。


「ノエル様、甘すぎませんか・・」

「リリア、夫人がケーキを分けてくれるって言っていたからもらっておいで」

「ギル様、平和ボケしすぎです」

「私達の分も用意してくれたのに、取りに行かないのは悪いだろう。昨日、夫人へのお礼をせっかく作ったんだ。渡しておいで。夕方にでも発てばいいよ。本国に帰ったら休む時間なんてないから」

「わかりました。行ってきます。お兄様、ギル様をお願いします。セノン、行こう」


セノンとお礼を詰めたバスケットを持って出かけます。

王太子殿下は穏やかな方です。ただ時々頑固になります。おば様のケーキは王太子殿下も気に入っていました。今までたくさん良くしてもらったので最後にお礼にいきなさいということなのかもしれません。きっと殿下はまだ聞きたい話があるので私をお使いにだすんでしょう。お兄様がいれば安全ですよね。不安はありますが私は家を出ておば様を訪ねることにしました。


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