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夢みる令嬢の悪あがき  作者: 夕鈴
17歳編

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閑話 護衛騎士の呟き

幼馴染の王太子になったセシル様がリリア様のもとから帰ってきた。リリア様達が滞在しているのは極秘だ。セシル様とクレア様の側近のみ知っている。

頻繁に仕事を投げ出し、リリア様のもとに行こうとするセシル様達にダメもとで書類を持たせたら完璧に仕上げて帰ってきてからは、リリア様たちのもとに通うことを容認されている。

もちろんセシル様のもう一人の幼馴染である友人は必ず仕事を持たせているけど。

いつもミスが多い二人はリリア様達と仕上げた仕事には全くミスが見られない。

試しにクレア様には難しい仕事も持たせてもきちんと仕上げて帰ってきたらしい。クレア様は難しいものは途中で投げ出してしまう悪癖がある。クレア様の成果に指導係が感動して泣いていた。


俺の文官の友人はリリア様を評価している。

文官からするとリリア様とギルバート殿下の優秀さは羨ましいらしい。

しかも、リリア様から他国の自分達が見るべきでないものが混ざっているがどう対処すべきかと相談の文が来た。王族の二人が暴走していないか確認する奥ゆかしさと友人は言っていた。

セシル様に出された課題もセシル様らしくない施策が書かれていたらしい。リリア様達の滞在のおかげで仕事が楽になったと側近たちが絶賛していた。ずっとうちの国にいてもらいたいくらいだそうだ。給金は受け取ってもらえないので物資を定期的に届けることにしたらしい。毎回お土産に持たされるケーキは側近からの囁かな礼らしい。

俺は護衛騎士であり文官じゃないから友人や側近たちほどリリア様達に心酔していない。



リリア様と散歩に行った後に落ち込んだ顔で帰ってきたセシル様の肩を叩いた。


「セシル様、今日は付き合いますよ」


力なく頷くセシル様に俺は苦笑した。

勤務時間が終わった俺はセシル様の執務室に訪ねると酒が用意してあった。

黙って酒を飲む主である友人に聞くことにした。


「また振られたんですか?」


セシル様はグラスの酒を一気に飲みこんだ。


「言葉を間違えた。リリアの望む王位争いに片をつけてやるって言った瞬間に目が変わったよ。」


本人も気づいている。他国の王位争いに介入するのは、リリア様は武力で介入すると思ったんだろうな。民の命を大事にするリリア様が頷くわけがない。


「それは失策でしたね。王位争いが落ち着いたら、ゆっくり口説けば良かったのに」

「俺はニコラスがリリアを裏切ってるとは思えない。」

「言ったんですか?」


リリア様の婚約者のニコラス・イラが裏切ったとセシル様から聞いた時は言葉を疑った。

彼は以前、リリア様の屋敷に押し入った兵を訓練と称して全員叩きのめした。しかも10対1を一瞬で片付けた。武力に絶対の自信がある隣国の騎士を戦争など知らない国の人間が。

きつい言葉と共に騎士としてのプライドをズタズタに砕いた人間だった。

リリア様に手を出すなら次はこの程度じゃすまさないとしっかり脅して颯爽と立ち去っていったのは今でも記憶に焼き付いている。

セシル様の婚姻の祝いに訪ねたリリア様は陛下や貴族に狙われていた。誘拐して手籠めにしてもいいと影で許可がでていた。そこまで陛下は神獣を国に欲していたとは思わなかった。後から調べて引いた。セシル様も頭を抱えていた。


ただ護衛に抜け目がなかった。リリア様にうちの国の者が近づけたのは社交の時だけだった。他に穴は見つからなかった。リリア様を襲おうとした第一王子殿下は策に嵌められた。

それにニコラス・イラはリリア様を好いているのは誰の目にも明らかだった。絡まれて困っているリリア様の助けをギルバート殿下に頼んでいたしな・・。近づこうとする男に時々殺気を放っていたしな。一瞬すぎてただ寒気を感じているやつらが多かったけど。ただリリア様を大事にしている風には見えた。


「名前を出した途端にリリアの雰囲気が一瞬だけ揺らぐんだよ。消えそうで。俺は池に飛び込んだリリアを見た時に死にたいのかと勘違いした」


リリア様もニコラス・イラを信頼していたからさすがに揺らぐか。

辺境の村の毒に気付いた時も、怯えてたけどしばらくすると持ち直していた。リリア様の中でニコラス・イラが裏切ったのは、まだ立ち直れないほど深い傷ということか。彼女はプライドが高いから、そんなところを他人に見られたくないだろうな・・。

池に飛び込んだって・・。あの方は時々貴族なのか疑いたくなる。それにリリア様はギルバート様を残して自殺はありえないだろう。セシル様は焦って状況分析もできなかったのか・・。俺は情けない顔をしているセシル様に笑ってしまった。


「殿下、泳げませんから助けられませんね」

「あの時は護衛を連れていなかったことを反省した。リリアはただ泳ぎたかっただけだったけど。クレアとは違った意味で目が離せない」

「これからはちゃんと護衛をつけてください。あんなにアピールしたのに全く気付いてませんよね。暗号を使ってやりとり、しかもわざわざ絵の暗号なんて」


セシル様の絵をクレア様がリリア様の手紙に同封し送ったら、賞賛の手紙が送られてきた。それに気を良くしたセシル様はクレア様の手紙の裏に絵で謎解き風に手紙を書くと、リリア様も同じように暗号で返信してきた。

あの時のセシル様の興奮した様子は忘れない。傍で見ていたクレア様さえ驚いていた。ちなみにクレア様は暗号を解読できない。リリア様はセシル様との個人でのやりとりは断っていた。レトラ侯爵家宛なら返答すると。個人でやりとりしてることは貴族に知られたくないという暗号文を読んでクレア様の手紙の裏を通してのやりとりがはじまった。リリア様は隣国の王太子と自分が深い付き合いがあると勘ぐられないように配慮していたことにセシル様とクレア様だけが気付いていなかった。


「試しに絵を同封したら大絶賛だったからな。リリアが俺を褒めたのはあの時だけだ。」

「情けない」

「俺を容赦なく叱るのはお前達とリリアだけだよ。義姉上もいないしな」


リリア様がミリア様を下賜してもらった時はその場にいた貴族は驚いた。他国の貴族、しかも自分を襲った人間の妻を家族として迎え入れたいなんて俺なら考えられない。

でもその心意気のおかげでミリア様は幸せそうだ。うちの国にいる頃よりも生き生きしていると父親である公爵が嬉しそうに語られていた。


「惜しい方をなくしました。敏腕外交官になるとは思いませんでした」

「王妃にふさわしい方だった。俺とクレアには荷が重い」


セシル様はいまだに覚悟を決められていない。育ちの所為もある。いつも兄をたてて生きてきたから。


「8歳も年下の女性を頼りにするとは情けない。昔はロリコンかと引きましたが、今なら見た目はつり合いますね」

「俺相手に、自信ありげに頼れって言うやつなんて初めてだった。しかも言葉は厳しいのにいざって時はいつも助けてくれる。初めて欲しいと思った。」


セシル様がリリア様を見る目が変わったのは婚姻の日だ。セシル様への嫌がらせで神官が襲われた。うちの国は上位神官が少ない。新たに派遣を願っても、神官を手配できたか怪しい。絶対に失態は許されない日だった。その時にリリア様が手を差し伸べてくれた。笑顔で友達のために頑張るから、安心して任せてと。セシル様は焦りや絶望、色んな感情で下を向いていた。それをリリア様が上手に救い上げてくれた。子供の頃から、人に手を差し伸べられることなどほとんどなかったセシル様には特に。俺は傍にいるくらいしかできなかったから。ひどい言葉を言われても、耐えるのを見守るだけだった。騎士になっても誹謗中傷からは守ってやれない。


クレア様はセシル様にとっては守るべき庇護すべき存在。でもリリア様は違う。セシル様を支えてくれて、鼓舞してくれる。王族としても個人としても見てくれる。クレア様と違いすぎて余計に欲しくなるんだろうな。


「妃としては理想ですね。民にも人気がありますし、貴族達ともうまく付き合い、上皇様の覚えも目出度い。しかも貴重な治癒魔導士。自国にいれば絶対に手放しませんよ。手に入れる方法もありますが」

「それをしたら、リリアとの関係は終わりだ。リリアの大切な領民に血を流させれば、怒り狂うだろう。クレアの成長を期待するか、側妃を娶るか。リリアが欲しかったけど。俺が守ってやるっていったのに迷惑だとさ」


セシル様の言葉に酒を吹き出しそうになった。

リリア様は全くセシル様を頼りにしていない。支えてもらうために欲しいんだよな!?

どの口で守りたいって・・。


「逆でしょ?どう考えても。村の時だってほとんどリリア様が解決したのに。家に結界を張ってもらったおかげで暗殺者も弾かれたでしょ?リリア様自ら本気で動けば3日で解決したんじゃないんですか?」

「リリアの評価が高すぎないか」

「気持ちが良い人です。セシル様に恋狂いって。しかもセシル様のクレア様への態度を全否定。あの時は笑いをこらえるの大変でした。」

「お前は笑っていただろうが!!よくあんなことを言わせる気になったよな。」

「セシル様は俺の言うことを聞かないなら。あの状況なら聞くかと思ったんですよ。リリア様は人の言葉を聞かない人間は大嫌いって言ってましたよね。セシル様、どんな言葉をかけてもきっと振られましたね。まぁ、応援はしますがセシル様にリリア様が落とせるとは思いませんが」

「ひどい友人だ」

「主が主ですから。リリア様が護衛騎士を所望するなら俺が行っても構いませんよ。」

「リリアに以前断れたからもう言わない。リリアならいつの間にか自分の騎士を見つけそうだけどな。うちの国からもレトラ領に移住を希望する子供もいるしな・・。お前は俺に忠誠を誓ったんじゃないのか?」

「俺はセシル様についてのんびり過ごすつもりだったのに、まさか王太子になるなんて思ってませんでした。でもどこまでもお伴しますよ」


セシル様もやればできる人だ。ウジウジ迷って決断が遅いけど、決めたら揺るがない。

俺はこの頼りない主が、生きていけるようにしっかり守ろうと思う。どうにもならなければリリア様にセシル様を励ましてくださいとお願いしよう。リリア様はセシル様やクレア様には厳しいけど、俺達臣下には優しい。手のかかる主人を持つことに同情して優しくしてくれている気がするが。

とりあえず今は自棄酒をあおるセシル様の話に付き合うことにした。

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