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夢みる令嬢の悪あがき  作者: 夕鈴
10歳編

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第十一話中編 新しい友達

私はライリー様を不幸にさせないために作戦をたてました。

執事の声にニコラスと一緒に出迎えます。

ニコラスの手を握っていたことに気付いて慌てて離して礼をしました。


「ニコラス、久しぶりだな。お前から手合わせしたいとは」

「お初にお目にかかります。リリア・レトラと申します。よろしくお願いします」

「彼女が武術を見るのが好きで同席したいと話していた」

「わかった。ブラッド・スペだ。」


この方、ニコラスの言葉を遮りましたわ。話を聞かないタイプなんでしょうか・・。

ニコラスよりも身長も高く引き締まった体をしています。物語に出て来る令嬢が憧れそうな騎士ですね。整えられた髪も身にまとう洋服も似合ってます。公爵嫡男でこの外見なら令嬢達に人気があるでしょう。

また馬車の音がします。きっとライリー様が来ましたわ。


「ごきげんよう。ライリー様、」

「今日はお招きありがとう。あら?」

「ニコラス、先に庭園にライリー様をご案内してもいいですか?」


にっこり笑いかけます。ニコラスは私のお母様譲りのにっこり笑顔に弱いんです。


「俺はブラッド様と訓練場にいるよ。魔法は使わないから来たくなったら来いよ」

「はい。頑張ってください」


ニコラス達が立ち去っていきました。私達のことなど忘れて訓練に夢中になるはずです。私、イラ侯爵邸には幼い頃から通っていたのでわが家のようなものですわ。


「ライリー様、行きましょう」

「噂通り、仲が良いのね。ニコラス様はリリアに夢中なのね」

「色々事情はありますの。行きましょう。ここの庭園素敵なんです」


ライリー様には私がニコラスと二人で会うわけはいかないので一緒にいてくださいとお願いしました。

今回、お誘いするのは理由がいまいちなので断られるかなと思ったんですが、あっさり了承してくださいました。優しい方です。

今日の目的はライリー様と婚約者のスペ様との関係を観察です。しっかり観察してから次の作戦を考えます。

イラ侯爵夫人は花が好きなので立派な庭園をお持ちです。今は暖かく、可愛い花がたくさん咲き誇ってます。ただこの可愛らしい花や生い茂る草木はどれも薬効があるものばかりです。イラ侯爵家って実利のあるものが多いんです。愛でてもいいけど、口には絶対に入れてはいけないと幼い頃に言い聞かせられました。私は拾い食いなどしたことありません。お母様に怒られてしまうので・・。


「素敵な庭園ね」

「はい。いつ来ても見惚れてしまいます」


花を愛でるライリー様は美しいです。スペ様と並べばオリビアの好きな小説の挿絵のようでしょう。

ライリー様は私よりも4才年上です。私は4年後、ライリー様のように気品あるご令嬢になれる気はしません。

花を愛でてるライリー様が振り向きました。


「リリア、あなたの言うように彼とうまくいっていないように思えないんだけど」

「内緒ですよ。彼、好きな人がいるんですが相手は言えない方なんですよ」

「え?」

「ですから、私は彼の幸せを祈るだけです。心がないのに婚約するなんて耐えられなかったんです」

「リリア」


どうして私とニコラスの婚約の話をライリー様が知ってるかは知りません。情報取集は貴族の嗜みなので令嬢のお手本のようなライリー様なら私とニコラスのことは調べているかもしれません。

心配そうな顔で見つめるライリー様に心が痛みます。嘘はついていないんですが・・。


「ライリー様はどうして婚約されたんですか?」

「お父様と公爵から打診があったら断れないわ」

「お相手のことは」

「よくわからないわ。会っても剣の話しかしないもの」

「よければ訓練している所を見に行きませんか?訓練している所は素敵ですよ」

「リリアは見たいの?」

「是非。一番素敵です」

「仕方のない子ね。いいわ。行きましょう」


人の好みもありますが、騎士の魅力は騎士として動いているときだと思います。ご令嬢はダンスに誘われるだけでも頬をそめますが、もっと素敵な姿があります。

ライリー様は優しいので私がお願いすれば一緒に来てくれるでしょう。スペ様の容姿での訓練の様子は絶対に恰好良いです。ライリー様はスペ様にあんまり興味はなさそうですが一目見れば印象が変わると思います。

慈愛に満ちた笑みを浮かべるライリー様と一緒に訓練場に向かいます。


ちゃんと見学席が用意してあります。流石ニコラスです。

椅子に座ると後ろに控えていた侍女がお茶を出してくれます。


まだ慣らしの手合わせですね。ゆっくりと剣を合わせていますね。

二人共真剣な顔で何かを話しながら剣を合わせてます。

ライリー様も目で動きを追ってますね。

やっぱり武術をしているときの殿方は格別です。あんな真剣な顔は普段はみれません。


「あんなに真剣なお顔は初めて見たわ」


ライリー様が呟きました。独り言ですね。スペ様をじっと見ています。もともと容姿に恵まれやスペ様の訓練姿は格別です。

動きが早くなりました。スペ様も中々強い。ニコラスが楽しそうに挑んでます。

スペ様の様子にライリー様が見惚れてます。うん。今日は様子見ですがこれは嬉しい誤算です。婚約者と仲睦まじいのは大事です。

今日はニコラスの動きが見えるのが不思議です。いつもニコラスの訓練は動きが早くて見えません。

あれ、ニコラス、負けそう。あのニコラスが・・・?

ニコラスの剣が弾き飛ばされました。負けました。嘘でしょ。剣の天才が負けるんですか・・。

昔はともかく最近は負けることなんてなかったのに・・。


「リリア?」


どうしよう。慰めますか?


「リリア、来てたのか」


近づいてきたニコラスにどう言葉をかければいいんでしょうか。悩みます。とりあえず、いつも通り


「お疲れ様でした」


「ライリー嬢、」

「ごきげんよう。ブラッド様」

「ああ」


会話が続かない・・。二人は沈黙してます。

ニコラスを慰めるのは後でいいです。

この二人の会話に交ざりましょう。


「スペ様、お強いんですね。ついついライリー様と見惚れてしまいました。ねぇ、ライリー様」

「ええ。」

「そうか」


会話が続かない。どうしましょう。

この二人まずいです。


「ブラッド様、休憩しましょう。」


ニコラスの声に侍女が本格的にお茶の準備をはじめました。

出てきたのは私の作ったお菓子ではありません・・。まぁいいです。イラ侯爵邸のお菓子も美味しいんです。


スペ様はニコラスと剣の話に夢中です。ニコラス空気を読んでください。ニコラスを睨むと二人の会話がやみました。


「ライリー様、こんなにお強い方がお傍にいますのに、武術は習いませんの?」

「リリア?」

「ある程度、自衛ができたほうが安心ではありませんか?」

「レトラ嬢は嗜みがあるのか!?」


はじめてスペ様が私の方を見ました。


「俺が時々教えてるくらいです。強くないのでブラッド様のお相手は務まりません」

「ひどい」

「事実だろう。」


ニコラスの言葉に落ち込んでる場合ではありません。

大事なのは…。


「ライリー様は武術に興味がありませんか!?」


ライリー様が頬に手を当てて悩んでいます。

なぜか向かいに座るスペ様が首を横に振っています。


「駄目ですか?」


スペ様が首を縦に振りました。

顔が赤いような…。わかりました!!


「お美しいライリー様の手に剣は似合わないということですか!?」


スペ様が首を縦にふりました。この方、不器用なんですね。


「まぁ!?もしかしてスペ様がライリー様を守るから自衛はいらないと?」


また首を縦にふりました。チャンスです。


「素敵ですわ。ライリー様!!スペ様は寡黙な方ですが騎士の鏡、令嬢の憧れです。貴方の手に剣は似合わない。自分が守るからなんて」


「リリア・・?」


「スペ様、きっとライリー様だからですよね?私になら武術ご指導くださるでしょう?」


スペ様が首を縦にふりました。この方きっとライリー様を特別に思っております。


「ライリー様とうまくお話できないのはお美しさゆえに何を話していいかわからないんですか?」


また首を縦にふりました。


「ライリー様、愛されてますね。きっとこの婚約はスペ様からの申し出ですわよ。羨ましいです。やっぱり愛してくださる方と一緒になりたいですね」


ライリー様の頬が赤く染まっている気がしますわ。どうしたらこの二人はうまくいくんでしょうか。

お互いに興味がないわけではない。それなら同じ時間を過ごせばかわるかもしれません。いつもお会いするのはライリー様の家でお茶をすると聞いてます。寡黙なスペ様とお茶会は難易度が高いと思います。会話がなくても楽しめる場所に行くのは名案だと思います。


「ライリー様、今度スペ様の馬に乗せていただいて、お花を見に行くのはいかがですか?馬車では行けないお花の名所がありますのよ。お花が好きなライリー様も楽しまれると思いますわ。」

「リリア、私は馬に乗れないわ」

「心配無用ですわ。スペ様は馬もお上手です。ライリー様を乗せて落とすことなどありえませんよ」


スペ様のことは知りませんが騎士を目指すなら馬に乗れないわけありません。

やっぱりスペ様が首を縦にして頷きました。


「リリアもよく行くの?」

「私も時々遠乗りに行きます。でも相乗りでのお出かけも素敵ですね」


確かオリビアの好きな小説の話に出て来た気がします。

ニコラスがなにかスペ様に耳打ちしてますわ。


「ライリー嬢、もしよければ・・」


ここで黙りますの!?スペ様の視線を受けて引継ぐことを決めました。


「馬で花の名所を案内させてほしいですって。ライリー様どうします?」


ライリー様が黙って悩んでます。

この感じはまだ二人っきりは難しいでしょうか。私が傍で翻訳したほうがいいかな・・。


「ライリー様、うちで一緒にお弁当を作って出かけませんか?私は自分の馬で精一杯なのでライリー様はスペ様に乗せていただきましょう」

「リリアもニコラス様に乗せていただいたら?」

「そんなことしたら私の愛馬が拗ねてしまいます。まずニコラスは来ません」

「もう」


これはきっとライリー様が私達を取り持とうとしたのかもしれない。

小さく微笑むライリー様に心の中でごめんなんさいと伝えましょう。


「ライリー様、私と一緒にお弁当を作って出かけましょう。ピクニック楽しいですよ。スペ様がいらっしゃれば私達の身に危険はありませんよ。私、ライリー様とピクニックに行きたいです。」


ライリー様は優しいです。お願いすると、優しく笑って了承してくれます。なぜかライリー様の笑顔に懐かしさを覚える理由はわかりません。


「リリアったら。ブラッド様よろしいですか?」


ニコラスが耳打ちしてます。もう少し隠れてしてください。


「喜んで、エスコートさせてください」


おお!!うまくいきました。後ろで不敵に笑うニコラスに、にっこり笑いかけます。

ニコラス、良い働きです。


「休憩もここまでにしましょうか。俺達は失礼しますね。リリア、飽きたら中のサロン使っていいから」

「わかりました。いってらっしゃい。」


訓練を再開するニコラス達を手を振り見送りました。色々うまくいってよかったです。ニコラスの働きに感謝です。ニコラスは嬉しそうに笑って訓練に戻っていきました。本当に訓練が好きな人ですね。

さて私はスペ様とライリー様の仲をもっと進展させないといけません。

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