第百十六話後編 悪あがき7
私は隣国でギル様と生活してます。
今日もセシル殿下とクレア様が遊びにきました。
クレア様は家で仕事をしています。
思うところがあり、セシル様からセシル殿下と呼ぶことにしました。災害が来るのに、城にいないなんてありえません。
セシル殿下がギル様と剣の手合わせをしています。
この国に来るまで、知らなかったんですが二人は強いんです。
隣国は戦争も強いと聞くので、セシル殿下が強いことはなんとなくわかります。
私が混ざったら吹きとばされるでしょう。
ギル様よりもセシル殿下の方が強いんです。
「セシル殿下がギル様に敵う者があるんですね・・」
「リリア、さすがに失礼だよ」
「ごめんなさい。つい」
ギル様に嗜められました。
定期的に仕事を持ってくるセシル殿下に、ついつい言葉が厳しくなってしまいます。
「リリア、態度が違いすぎないか」
「敬意をしめしてほしければ、それなりの行動をお願いします」
ギル様とセシル殿下を同一に扱うなんてできません。
「リリア、手合わせしよう。勝てたらなんでも願いを聞いてやるよ」
私に勝って敬意を示せと命じたいのでしょうか。
「殿下に願うことなどありません。まず絶対に勝てないとわかって勝負するほど愚かではありません」
「セシル殿下の剣筋もおもしろいから、一度合せてもらいなよ。良い経験になるよ。」
「リリア、ハンデで俺は利き腕は使わない」
それはそれで複雑です。
剣を持ってセシル殿下に斬りかかります。
やっぱり躱されます。あっさり剣を飛ばされました。やっぱり私は弱いんです。このままでは駄目です。剣よりも攻撃魔法を練習したほうが堅実かもしれません。ただ上皇様からいただいた魔導書の魔法は聖属性魔法ばかりで、戦いに向いたものはありません。
私はセシル殿下に負けたので散歩に付き合うことにしました。
ギル様はセシル殿下の護衛騎士がついているので問題ありません。
「リリア、大丈夫か?」
「なにがですか?」
「それは・・」
歩いていると池がありました。言い淀んでいるセシル殿下は放っておいて池を覗くと魚がいます。
久々に泳ごうかな・・。
靴を脱いで、上着を脱いで池に入ります。冷たくて気持ちが良い。
潜ると魚がたくさんいます。ここで釣りをしたらたくさん釣れるかな・・。
オリビア、元気かな。お父様達はどうしてるかな。全く情報がないのは不安です。情報収集に出た方がいいかな。
水面から顔を出すとセシル殿下が騒いでます。放っておこうか迷いましたが、あれが王族と知れたらまずいです。取り乱す王族を見たら民が不安になります。私の名前を呼んでるので慌ててあがります。できれば知り合いと思われたくありませんが仕方ありません。
「殿下、どうされたんですか?」
「池に飛び込むな!!。上がってこないから」
「水中が中々楽しくて。泳いだの久々なんです。」
焦ったお顔をしているので、勝手に飛び込んだから心配かけたのかもしれません。
「無理してないか?」
「殿下、先ほどから意味がわかりません。クレア様と喧嘩したんですか?」
「俺はクレアに裏切られたら正気を保てない」
最後の沈んだお顔をみて、言いたいことはわかりました。空気を読んで欲しいです。あんなに不快を顔に出してるのに。
幼馴染という立場は同じです。ですが、気遣いを覚えてほしいです。
「あまり人の心に踏み込むのは感心しません。放っておいてください。泣いたり話せば楽になるなんて言葉はいりません。」
思い出したくもありません。悲しそうな顔で見るのはやめてほしい。ニコラスの友達ならニコラスにつけばいいのに。私は殿下の保護がなくても困りません。
「わかっていたことです。愚かな自分に腹が立ちますがそれだけです」
「それで後悔しないのか?」
しつこいです。ここまで鈍くて面倒な方とは思いませんでした。
「後悔する時期は終わりました。対峙した時点で覚悟は決めました」
「あいつが好きだったんだろう?」
ギル様の言葉に従い、最低限使っていた敬意を捨てることにしました。
静かに睨みつけます。
「何が言いたいんですか?」
「一度、吐き出せよ。」
「いい加減にしてください。迷惑です。」
「逃避してんのわかってるんだよ。」
直球。人の心に揺さぶりかけないでほしい。
忘れて穏やかに過ごしたいのに。時々感じる棘が刺さったような胸の痛みに気付かない振りするのがどうしていけないんでしょう。向き合って対処すべきなんて考えを押し付けないでほしいです。王族だから?押し付けることが当然の立場なら何を言っても許されると思ってるんでしょうか。
「だから何ですか?自分の中で折り合いをつけられるなら、」
「本当にあいつへの想いを捨てられるのかよ」
言葉を遮られ意思の強い瞳で見つめられます。
「捨てました。貴方達とは違うんです。」
「なら俺の手を取れよ」
「お世話係などごめんです」
「違う。守ってやるよ。王位争いも俺が片をつけてやるよ」
何を言ってるんでしょう。他国の王位争いを終わらせる方法って。頭のなかで警笛がなりました。意識を切り替えます。言葉を間違えれば恐ろしいことがおこります。
「侵略なんて許しません。私達は自分達の力で成し遂げます。民や命を巻き込むことは許されません」
「簡単に勝てる方法を気付いてるだろう?」
自分の敵を全て殺すなんて野蛮です。
「不要です。私は貴方を殿下の手を借りなくても勝ちます。本国ではうちの派閥が動いてくれているはずです。余計な手出しをされるくらいなら出立します。この国にいる理由もありません。王族とはいえ貴方の価値観を押し付けるのは不愉快です。」
池から上がって、風魔法で服を乾かします。差し伸べられる手は掴みません。出立の準備をしましょう。
「リリア、そうやって踏み込まれるのを拒み続けて生きていくのか?」
「意味がわかりません。」
「気付いてないだろうけど、時々危ういんだよ。お前、王位争いに勝てさえすれば他は何でもいいと思ってるだろう!?」
「負けたら斬首ですもの。必死になりますよ。」
「うちの国に来い。世話係じゃない。俺のものになれ。そしたら何も手出しはされない」
「お互いにメリットがありません。私の大事なものはここにはありません。自分の身よりも大事なものがあるんです。クレア様との喧嘩に巻き込まないでください。」
「お前の大事なものごと俺が守ってやるよ」
「迷惑で不愉快です。失礼します」
訳のわからないことを言うセシル殿下は放っておいて帰ることにしました。
ギル様に出立することを話すと、クレア様が騒ぎだしました。セシル殿下を問い詰めてます。
薄々気づいてましたが、クレア様の方が強いんですか…。
そしてクレア様の侍女やセシル殿下の護衛騎士に出立は考え直してほしいと頼み込まれました。
二人に執務をさせるのに苦労されているようです。
優しいギル様は説得されてしまいました。セシル殿下は余計なことはしないと約束してくれました。
様子がおかしかったのは疲れていたからなのでしょうか。
うちの国を属国にされてはたまりません。それに力で制圧すれば余計な血が流れます。
私はお世話係も翻訳係もごめんです。
セシル殿下にお仕えする気はありません。夜にはセシル殿下達が帰っていったので安心しました。
クレア様に裏切られたら正気が保てないって本当に惚れこんでますね。
殿下とクレア様の関係と私とニコラスの関係は違います。
もし次に会う時はまた剣を突きつけ合う時。私は戦う訓練を頑張ろうと思います。
ただ願わくばもう会うことはないことを祈ります。




