第百十六話前編 悪あがき7
よくわかりませんが楽団と神官不在の村のお祭りは終わりました。そのお礼に牧場のおば様がケーキをくださいました。このケーキ美味しいんです。今度、作り方を教えてくださるというので楽しみです。
私は王太子殿下に頼んで剣の手合わせに付き合ってもらいます。
「リリア、そろそろやめようか」
「まだ頑張ります」
「集中力が切れたからもう終わりにしよう。また明日付き合うから」
「わかりました」
なぜかお祭りで内緒で巫女をやったら家に人が来るようになりました。
「リリ、これとれたから食べなさい」
「ありがとうございます。あの、私にお供えしても神のご加護はありませんよ」
「いや、とれすぎて困ってるから食べてくれればいい。」
「わかりました。ありがとうございます。助かります」
ありがたく受け取りましょう。今度お礼にプリンを持っていけばいいでしょう。
なぜか卵と牛乳を牧場のおば様が無料でくださいます。お代は受け取っていただけないのです。
「食べ物に困らないな」
「ギル様のお口にあって良かったです。」
「私も料理ができればいいんだが」
「料理は私の趣味なんでとらないでください。ギル様は水くみだけしてくだされば十分です」
「リリア・・・。」
王太子殿下に包丁を渡すと野菜ではなく指を切り、なぜか鍋は火をふきます。プリンも丸焦げです。
私は3度目で王太子殿下に家事はさせないと決めました。
「リリア、私に言葉を教えてくれないか?」
「ギル様のお休みはお休みではありませんね」
「ゆっくり学べるなんて、中々ないからな。リリアは言葉はどうやって、覚えた?」
「先生に教わったりお兄様のお膝の上で外国語でお話を聞くのが好きでした」
「昔、言ってたお兄様はノエルのことか」
「はい。私のノエルお兄様は素晴らしいです。奥様のミリアお姉様も素晴らしい。わがレトラ侯爵家は安泰ですわ!!」
「仲が良いんだな」
笑う王太子殿下の顔を見て複雑な兄弟関係を思い出しました。
「ここにいる間だけお兄様にしてあげます。」
「リリア?」
「弟君にはなれませんが、妹として兄弟を教えてあげます」
部屋に置いてある本を一冊手にとり、王太子殿下の膝の上に座ります。
「どこの国の言葉がいいですか?」
「この国の言葉でいい。私は発音がリリアほど綺麗ではないから」
「わかりました」
王太子殿下の前に本を広げて音読します。
読んでいて気づきました。この眠くなるような出会いの場面、まどろっこしい遠回りのやり取り、本の選択を間違えました。
「リリア眠いか?」
「すみません。大丈夫です。恋愛小説を読むと眠くなるんです。」
「そのまま寝ていいよ」
自分の頭の上に置かれた手がお兄様にそっくりでそのまま目を閉じました。お兄様は元気でしょうか。
「リリア、起きて、セノン、プリン」
セノンの声で目をあけると、私は王太子殿下を椅子にして眠ってました。
昔もよくお兄様を椅子にして眠ってましたわ。懐かしい。
王太子殿下も眠られてますね。
毛布をかけて、セノンのプリンを用意します。
「小さい」
「セノン、大きいプリンは特別な時だけです。」
「ミルク」
「ミルクも出すね。」
ミルクをお皿に出してセノンを見つめます。
相変わらずセノンはプリンとミルクしか食べません。
「リリア、ニコラスくる?」
「セノン、ニコラスはもう敵なんです」
「なんで?」
「目的の違いです。魔法が切れたんです」
「好きの?」
「そうです。今はお互いに大嫌いです」
「リリア?」
「ごめんね。ニコラスのところにいきたい?」
「セノンはリリアが一番。ニコラス四番」
「二番と三番は?」
「二番はママ、三番はオリビア!!」
「いつか二人に会いに行こうね。」
流石にセノンにまで自分の思いを強いるわけにはいきません。
ニコラスのことを思い出しイライラしてたら、卵を大量に割ってしまいました。
今日のご飯は卵料理にしましょう。
王太子殿下は文句を言わずに食べてくださるのでありがたいです。
***
この国に来て、一月たつころ初めての嵐がきました。
結界をはったので、家は大丈夫です。ただ頭が抱えたくなる問題があります。目の前の責任感皆無の第二王子夫妻を睨みつけます。
「どうして嵐がくるってわかってたのに家に来たんですか!!」
「せっかくお仕事終わらせたのに、嵐が来たらリリアに会いにいけない」
「こんな時こそ王宮にいてください。川が氾濫したらどうしますの!?」
「リリア、もう来てしまったんだ。諦めよう。嵐がおさまったら送り出せばいい」
王太子殿下、に肩を叩かれて宥められますが、こんな時まで優しさはいりません!!。
「リリア、ちゃんと王宮と連絡がとれるように魔道電話持っているから」
「確信犯ですね!?外に放り出しますよ」
「リリア、気持ちはわかるけど落ち着いて」
「後でミリアお姉様に伝えます」
第二王子夫妻の顔が青くなりました。
さすが、ミリアお姉様です。
「それは嫌!」
「嫌ではありません」
「だって、リリアもうすぐいなくなるもの」
「どうしてですか?」
「内緒。リリア、せっかくだから今日は私と寝よう」
「ベッドは2つしかないんです。旦那様と寝てください。王家の方をソファで寝かせるわけにはいかせません」
「リリアはどうするの?3人で寝る?」
「私はギル様のベッドを半分借りますわ」
「リリア、ギルバート様との関係は?」
「主従です。」
「ほかには?」
「兄妹みたいなものですかね。最近ギル様といるとお兄様を思い出します」
「ギルバート殿下、リリアと二人で大丈夫ですか?」
「慣れたから大丈夫だよ。手のかかる妹って新鮮だな。それにオリビアがいるから」
「確かに。オリビア様には逆らえませんね」
二人で肩を組んで親睦を深め合ってる両殿下は放っておきましょう。
禄な兄弟を持たなかったお二人は話が合うかもしれません。
「リリアのお兄様のお話聞きたい」
「お兄様の話をしたら止まりませんがよろしいんですか?」
「クレア様、それはやめたほうが。リリアは2日間話しても止まりませんでした」
あれは反省してます。
「ギル様が聞き上手でついつい話しすぎてしまいました。お兄様のお話はまだまだありますわ。お兄様のお話をゆっくり聞いてくださる方はいないもので」
「2日も付き合ったんですか?」
「あまりに楽しそうに話すもので、止めるタイミングがわからず」
「どうやって止めたんですか?」
「セノンがお腹がすいたと怒りました」
「まさか・・・」
「想像の通りです。」
「さすが、リリアの主。俺には真似できません。リリア、せっかくだから子供の頃の話を聞かせてよ。どうやって魔法を覚えたんだ?」
お兄様のことを思い出した幸せな気持ちが台無しです。
私の地雷を踏みましたわ。
「セシル様、外に放り出される覚悟はよろしいですか。」
「その冷笑なに?」
「死にかけたら魔法で治して差し上げます。私に嫌なことを思い出させた罰ですわ。」
「リリア、落ち着いて。不可抗力だから。オリビアとの出会いの話をしてくれないか。嫌なことより楽しいことを考えるほうが有意義だろう?」
「オリビアですか…」
王太子殿下のお願いでオリビアとの話をしていたらクレア様が眠たそうにされたのでお開きになりました。
そんなにお疲れだったのでしょうか…。
私は王太子殿下のベッドを半分お借りして休ませていただきました。私はまだ子供なので、やましいことはなにもありません。
翌朝には嵐が去って快晴でしたわ。
お騒がせな第二王子夫妻は外に放り出しました。
さっさと帰ってお仕事をしてくださいませ。
流石の王太子殿下も私の無礼を止めずに穏やかに送り出してくださいました。私、一緒に生活しているうちにうちの王太子殿下がいかに優秀ですばらしいか身に沁みました。
外に放り出したお二人は国民のためにしっかり働いてくださいませ。うちのギル様を見習ってください。
私の国の情報が全く入らないんですが大丈夫なんでしょうか…。




