第百十一話 悪あがき2
私はイラ侯爵邸に向かっています。
イラ侯爵夫妻に面会依頼をしたら承諾の返事をいただきました。これは賭けです。
「リリア、突然どうしたの?」
「時間を作っていただいてすみません。お願いがあって参りました。」
「構わん。ニコラスはどうした?」
イラ侯爵知らないんでしょうか。ニコラスの独断?
「ニコラスは第二王子殿下の護衛についています」
「は?あのバカ息子は何をやっている。リリア、護衛は」
「いません」
「ニコラスが戻るまではディーンを護衛に使いなさい」
「ええ。貴方に何かないか心配だわ。ニコラスが駄目ならカイロスでもいいわ」
「イラ侯爵夫人?いえ、義母様」
「今日の話は婚約についてか」
婚約のことは忘れてました。
「いいえ。婚約については私個人としてはニコラスの意思に任せます。今は婚約者探しでことを荒立てたくないので落ち着くまでは婚約を維持していただくと助かります。イラ侯爵家が第二王子殿下側につくのでしたら破棄をお願いします。最終的にはお父様の意思に従います」
「ニコラスにお灸をすえればいいのか?」
「違います。ニコラスが本気で戦っても勝てない騎士を教えていただきたいんです。」
「ニコラスより強いか。」
「王太子殿下とオリビアの護衛に派遣していただけないでしょうか。」
「リリア、まさか」
「ご想像の通りだと思います。イラ侯爵家の騎士は主に忠実です。ニコラスのことは近くで見てきました。命じられれば、ためらいなく剣を振りおろすでしょう。私はギルバート殿下にお仕えしています。たとえ幼馴染であっても未来の国王陛下と妃殿下へ危害を加えるなら戦います。不躾なことをお願いしている自覚はあります。もしイラ侯爵が第二王子殿下の手をとるなら私はここで斬られても仕方がないと思ってます。」
「旦那様、うちはどうするんですか」
「うちの忠誠は国王陛下だ。国王陛下が王太子を第一王子と定めている限りは第一王子殿下を支えるまでだ。それにうちはレトラ侯爵家を敵にはまわせん」
「そうよ。バカ息子は後で鉄拳制裁。リリア、私はバカ息子じゃなくて貴方の味方よ。安心しなさい。ディーンの命令権はニコラスからリリアにうつすわ。」
「義母様・・。もしニコラスが暗殺未遂で裁かれても命だけは助けてもらいます。亡命するなら力を貸します。」
「リリア、うちのバカがすまない。」
「私こそニコラスを説得できずにすみません。イラ侯爵、義母様この魔石を肌身離さずお持ちいただけますか?セノンと作りました。お守りです」
魔石を二人に差しだす。もし魅了魔法があるならこの二人にかかったらまずいです。
「ありがとう。大事にするわ」
「魔除けとしてお持ちください。あと、もし王家の命令で空蝉を使うならこれを使ってください。ニコラスへの最後の餞別です。私はこれで」
空蝉対策に作った魔封じの袋にいれた魔石を渡します。ニコラスのために作ったものだから。これは他の誰かに渡す気もおきません。思い出も全部魔封じの袋に入れて、イラ侯爵に渡しましょう。落ち込んでる暇はありません。イラ侯爵に渡せば、悪用されることはないでしょう。悪用されたなら、それは私の見る目のなさです。
「リリア、手紙を書くから待ちなさい。スペ公爵家も行くんだろう」
「ありがとうございます」
イラ侯爵はどこまでわかっているんだろう。片方の家だけに頼るのは危険だから、両家に二人を守ってもらおうと思っていたからありがたいです。
手紙を書き終わるのを待っているとディーンが来ました。
「お嬢様」
「ディーン、久しぶりです」
「坊ちゃんは何を考えてるんでしょうか」
「さぁね。ディーン、ごめんなさい。ニコラスと戦うかもしれません。」
「今の主はお嬢様です。御身は必ずお守りするのでご安心ください」
ディーンとニコラスは親しい。イラ侯爵が命じるならこれが最善かもしれない。でも信用できないから気をつけないといけません。ディーンの主はイラ侯爵かニコラスかは私にはわかりませんから。
私はイラ侯爵から手紙を預かったのでオリビアの所に向かいました。
「リリア、火急の用ってどうしたの?」
「オリビア、この魔石、二つとも肌身離さず持っていて下さい」
上皇様からいただいた魔石とセノンと作った魔石を机の上に乗せます。
「リリア?」
防音の結界をはりました。
「ニコラスが第二王子殿下につきました」
「え?」
「魔石には防御の魔法をかけてあります。念のため絶対に持っていてください」
「リリア、なにかの間違いじゃ」
オリビアもニコラスとは昔からの知り合いだから信じたくないよね…。不安にさせないように微笑みます。
「いえ、自分で選んだみたいです。オリビアと王太子殿下に危害を加えるかもしれません。護衛騎士も増やしてもらうけど、この魔石持ってて。お願い」
オリビアの戸惑った顔がいつもの強気な顔に変わりました。
「わかったわ。ニコラス様があちらにつくのは厄介ね」
「イラ侯爵家の忠誠は陛下にあるから、王太子であるかぎりは殿下に味方につきます。でもニコラスが第二王子殿下についているのは、誤解を産みます」
「そうね。何を考えているのかしら・・」
「さぁ。そんなことより王家の毒殺を狙っているって情報が入りましたた。治癒魔導士を二人派遣するから陛下と王妃様、側妃様つきにできませんか」
「リリアはいつもどこから情報を掴んでくるのよ」
「秘密です。ただ時間がなくて、確証はないんです。私が王宮に侍女として入るのも考えたけど、今はレトラ侯爵令嬢がいなくなるわけにはいきません」
「リリアが珍しくちゃんと考えている・・」
「さすがにぼんやりしてるわけにはいけません。エルとエリに解毒魔法を教えました」
「わかったわ。手配は私がするわ」
「オリビア、気を付けて。何があっても生き抜いて」
「私の暗殺の情報でも掴んだの?」
「それは・・・」
「簡単に死んだりしないわ。王太子殿下を勝たせるって決めたもの。王太子殿下が生きている限り私は諦めない」
「さすが、オリビア。私も負けない。私はオリビアと王太子殿下が王位を手に入れると信じてる。何があっても第二王子殿下に膝を折ったりしない。だから絶対に生きて」
「ええ。派閥をまとめなおすわ。」
「頼りにしてます」
オリビアにサン公爵夫妻にも魔石を渡してもらうように頼んで、次はスペ公爵家に行きます。
「ライリー様、突然すみません」
「大丈夫よ。リリアから急ぎで会いたいなんて大事なことでしょう」
「ライリー様、人払いをしていただけませんか。」
使用人が去っていったので防音の結界をはりました。
「ライリー様、申しわけありません。ニコラスが第二王子殿下につきました」
「ニコラス様が・・。なにかの間違いでは」
「いえ、本人の意思です。イラ侯爵家は王太子につくそうです。この手紙をイラ侯爵から預かってます」
「リリア、大丈夫?あなたニコラス様の事」
眉を潜めるライリー様に微笑みます。
「はい。大丈夫です。ニコラスは主に命じられたらなんでもやります。オリビアと王太子殿下にニコラスより強い護衛を派遣していただけないでしょうか」
「リリア、考えすぎでは」
「いえ、二人を害そうとしていると情報があります。確証はありません。でも可能性があるなら捨て置けません。ライリー様、どうかオリビア達を守るために力を貸してください」
頭をさげるしか私にはできません。悔しいけど今までニコラスのイラ侯爵嫡男という力を借りすぎていました。
「頭をあげて。もちろんよ。貴方がそんなに必死なんだもの、友人としても力を貸すわ」
「第二王子殿下に負けるわけにはいきません」
「リリアがそこまで・・。そうね。婚約者が第二王子殿下側につくなら貴方も動かないわけにはいかないものね」
「ニコラスを説得できずにすみません」
「騎士は頑固だから仕方ないわ。スペ公爵家の名にかけて二人を守るわ」
「ありがとございます。あとこの魔石、魔除けのようなものです。お守りとしてずっとお持ちください。特に人と会う時はお願いします。旦那様とスペ公爵夫妻にも」
「こんな、高価なものを」
「私が作ったので、お代いりません。どうかよろしくお願いします」
「リリア、無理はしないで。」
「ありがとうございます」
私はライリー様に礼をして立ち去りました。
落ち込んでる暇はありません。
このあとは、エルとエリの魔法を見ようと思います。
準備ができれば二人を王宮に送りださなければいけません。




