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夢みる令嬢の悪あがき  作者: 夕鈴
17歳編

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第百八話 東国

東国の悪魔を討伐しました。その際に召喚者の皇女様を殺した罪で私とニコラスは投獄されていました。

ニコラスを連れて、お父様のもとに行きます。お父様の部屋には東国の兵が囲んでいました。

皇帝陛下とは穏便にお話ししたのに、お父様の軟禁は解除されなかったんですね。

ニコラスのこともですが、こんなに怒ったのいつぶりでしょうか。


「どいてください」

「投獄されてるはず」


門の前の兵をじっと見つめます。


「皇帝陛下の許しはいただきました。悪魔は召還した契約者を殺さないと消えません。私は自分の決断に後悔はありません。ただこの国の民は違うんですね。悪魔の召喚者である皇女様を選んだほうがいいなら先に教えてほしかったわ。そしたら危険を犯してまで討伐なんてしませんでした。国が炎にやけようとも皇族を選ぶなど見上げた忠誠心ですね。あなたは私の判断が間違いだったと?悪魔を召還した皇女様を生かして悪魔と共存したかった?それがこの国の答えならしかるべき対処をとらせていただきます。」

「しかるべき対処だと?」


後ろから聞こえる声に礼をします。この方嫌いです。麗しの侍従なんてまやかしです。こんなのに夢中になったご令嬢の趣味の悪さに失笑です。


「ごきげんよう、皇子様。安全なところで見学してたんですね。よくも投獄しましたね」

「姉上を殺したからな」


自信満々な顔に冷水でもかけたくなります。やりませんけど。


「それなら先に言ってください。この国の皇族は悪魔を召還した皇女と共に生きてゆくと。民の命が奪われて国が荒れても皇族の命を選ぶと。私の国とは常識が違うようですね。漆黒の泉を作り悪魔を呼びよせ、国に混乱をおこした皇女様と運命を共にしたいと。放っておけばこの国は悪魔の力に飲み込まれました。それが皇族の願いだったとは存じませんでした。余計なことをしたことはお詫び申し上げます。悪魔を討伐するために悪魔の主である皇女様を討伐して申しわけありませんでした。」

「罪は罪だ。皇族殺害は重罪だ」


ここの兵達はこの話を聞いてどう思うでしょう。周りの兵達に動揺が走っています。

悪魔の召還をした皇族を擁護することに何も思わないほど狂信的な忠誠心を持ってる方は中々いませんね。不穏の種はまきました。


そして他国の貴族を断罪する怖さを知らないって幸せですね。自分が正しいと語る皇子様の顔にイライラします。

ニコラスに肩を叩かれました。視線で落ち着けって言われてます。

いけません。

表情に気をつけないといけません。これでも皇子様ですから。それに他人の目もあります。私は怒りをおさえて、健気な侯爵令嬢を演じないといけません。


「悪魔の召還は大罪です。どんな高貴な身分でも情状酌量の余地はありません」

「このまま国に帰れないのでは?おまえの大事な家の名に傷がつく」

「構いません。私は神殿に巫女として進言するだけです。悪魔を信仰する国があると。召喚者を討伐した者を罰する国があると。いずれ滅びる国に外交など不要です。」

「滅びるだと」

「私たちの神は悪魔を信仰する国を許しません。諸外国も手を組み滅ぼすでしょう。」

「お前の発言で動かせるのか」

「私、神殿の伝手があります。すでにこの詳細は手紙にして国外の神官のもとに届けてあります。私が戻らなければ、神殿の申請を受けた軍がこの国を制圧します。」

「脅しか」


残念ながらお手紙は書いてないですが、いざとなればネスに託しましょう。勝手に入国したから出国もできるはずです。それに東国に悪魔の討伐に行ったことはお母様はご存知です。手紙がなくても私が帰国しなければ、動いてくださいます。


「誠意のない国と外交など必要ありません。この国の民には心苦しいですが仕方ありません。正しき指導者に仕えられなかったことを同情します。戦後、鎮魂の議に訪れご冥福をお祈りしますわ」

「リリア、その辺にしようか。事実でも話すべきは彼とではない」


私はニコラスに促されお父様の部屋に入りました。兵は茫然として動かないのでニコラスが扉を開けてくれました。きっと私の言葉を聞いた家臣に動揺が走り、皇族への苦情がいくかもしれません。対応に追われて苦労してくださいませ。

お父様とディーン達がいました。拘束はされていません。


「リリア、無事だったか」

「お父様!!」


お父様に抱きつきます。


「ご無事で良かったです」

「災難だったね。報告はディーンから聞いている。交渉して帰ろうか」

「お父様、私のしたことは余計なことでしたか?」

「自慢の娘が覚悟を決めて取り組んだことだ。それに悪魔は放置できない。よくやった。帰国の準備をしておきなさい。せっかく来たけど遊びに行ってはいけないよ」

「はい。お部屋で静かにしてます」

「ニコラス、よく守ってくれた。リリアを頼むよ」


ニコラスが頭を下げました。お父様はニコラスを認めているけど直接褒めるのは珍しいです。お母様と違ってお父様はニコラスには厳しいのです。

交渉はお父様にお任せましょう。

部屋に戻って帰国の準備をはじめましょう。


「リリア、悪かった」

「へ?」

「セノンがいなければ、皇女はリリアを引き裂いていた」


ニコラスが頭を下げてます。最近よく謝罪されます。

あの時は確かに怖かったです。でも逃げなかったのは・・。情けない顔をしているニコラスに笑いかけます。


「気にしないでください。もし引き裂かれてもすぐに助けてくれたでしょ?」

「だけど・・」


駄目ですか。その顔はあんまり好きではありません。

うつむいてるニコラスの頬に手をあてて無理やり顔をあげます。弱ってるニコラスの瞳をじっと見つめて額を合わせます。


「私はニコラスがいたから怖くなかったですよ。龍の咆哮もオオカミも。ニコラスがいなければ怖くて魔法を続けられませんでした。それに引き裂かれてもきっと助けてくれるって知っていたから逃げなかったんです。騎士は心身共に守るものでしょう?守ってくれてありがとう。ニコラスがいれば怖いものなどありません。だから胸を張ってください」

「ニコラス、バカ」

「セノン、さすがにそれはひどいですよ」

「皇女、ニコラス殺した。リリア、関係ないって。それでボロボロ」


頬にそえた手でニコラスの頬を思いっきり引っ張ります。思い返すと私が記憶を飛ばした時にニコラスには怪我はありませんでした。


「ごめんね。セノンが正しかったわ。大人しく捕まった後に兵を挑発するなんてバカですよ。そのまま殺されたらどうしたんですか!!。人を守る前に自分の身を守ってください」

「お嬢様!?坊ちゃんの頬がちぎれます」


慌てるディーンの声は無視します。


「お仕置きです。自分の身を守れない護衛などいりません。やっぱりクビです。頼りになろうとも大事なことがかけてる護衛などいりません。国に帰ったらイラ侯爵にお願いします。ニコラス、反省すべきも後悔すべきも内容が違います。迂闊なことして自分の身を危険にさらしたことを反省してください。わかりました?反省してませんね。頬、引きちぎりますよ!!ディーン、ちぎれても私が治すから安心してください」

「お嬢様、安心できません。ここは抱き合ってお互いの無事を喜び合う場面です」

「意味がわかりません。私はニコラスにお仕置きします。許しません」


口に何か入れられます。甘い。初めて食べる味です。美味しい。


「帰国の準備だ。お茶はその後だ。」


甘さで力が抜けたらディーンに取り押さえられてました。

ごまかそうとしているニコラスを睨みつけます。


「ごまかされません。反省してください。ディーン離してください」

「ほらさっさと準備しないとレトラ侯爵に迷惑がかかるよ。」

「それはいけません。帰国したらイラ侯爵に報告するので覚悟してください。殿下とオリビアとお姉様にも。恐怖のお説教を覚悟してください。ディーン、離してください。準備します」


私は帰国の準備をはじめました。この国のこと色々調べたかったけど必要ありませんね。誠意のない国なんて知りません。でもちょっと嫌がらせしようかな。準備を終わらせたのでいつでも出立できます。


紙を取り出し書き綴ります。


ある国にどうしても王様になりたいお姫様がいました。お姫様は自分が王様になるために悪魔の力を借りました。悪魔の力で国が荒れていきます。恐ろしい魔物が闇夜を徘徊します。王様は悪魔の正体に気付かずに悪魔の討伐隊を派遣しました。討伐隊は悪魔と戦いながらお姫様が悪魔に命令してることに気づきました。悪魔は契約者であるお姫様が死なない限り消えません。騎士の一人は悪魔に殺される民を見て決意しました。騎士は自分の剣でお姫様を殺しました。お姫様の命と共に悪魔は消えました。国に平和は戻りました。ただお姫様を殺した騎士は王様に捕まってしまいます。王族を殺した罪で。悪魔を倒すためにお姫様を殺した騎士の家族は悲しみにくれました。漆黒の泉はもうありません。ただその泉や国を救った騎士はもういません。


ネス達を呼んで、一緒にこの話を紙に書き写させます。ニコラスも苦笑しながら手伝ってくれました。ニコラスの書き写してるものは私の書いたものより長い気がしますがお話の本筋がかわらなければいいでしょう。結構な量ができましたね。


書いた物をネス達にお願いして配ってもらいましょう。


「ネス、このお話をこの国の偉い人が読むところに置いてきてくれる?サーファとサアーダは文字の読める民の所に。このお話が広まるように」


オリが私のスカートを引っ張ります。


「オリはネスのお手伝い。」


オリが首を横に振りました。オリも配りたいのですね。10枚ほど渡すと頷きました。


「気を付けてね。朝には戻って来てください」


ネス達が消えていきました。ニコラスが苦笑してます。


「珍しいな。嫌がらせするなんて」

「この程度ですます私の優しさに感謝してほしいです。苦労すればいいんです。民や臣下の目がかわっても自業自得です。それに私は物語を配っただけですよ。」

「情緒がないけどな」

「私に小説家の才能はありません。明日には帰国ですね。外交は失敗ですが仕方ありません。帰ったらネス達を自由にしていいですか?勝手に飛び出してきたようですが・・」

「今回は助けられたからな。良い拾い物かもしれないな」

「信用できるって言ったでしょ?」

「さぁな。それはまだわからない。そろそろ休むか」


私はニコラスに言われて休むことにしました。疲れました。皆が無事でよかったです。きっと冒険者の方は旅立たれたのでしょう。この国も高ランクの冒険者に手をかけることは危険だとわかっているはずです。怒りにふれて滅びても構いませんけど。杖を貸していただいたお礼ができなかったことは心残りですが仕方ありません。もし機会があればお礼をしましょう。

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