第十一話前編 新しい友達
この国の上位貴族の婚約者はいずれ不幸になります。
私の大事なオリビアは第二王子殿下が手を回してくださる予定です。
ただ他のご令嬢達はどうしましょう。
第一優先はオリビアです。ですが他の方々を見て見ぬふりをするのも気まずいです。
いっそ小説でも書きます?。私、文才ないので無理ですわ。
この国は18歳が成人。適齢期は18〜22歳。早めに婚約を決める文化があります。
貴族の家は当主の判断ですが本人たちの同意のもとです。
最低限の意思確認はしていただけます。
「リリアはどうして婚約しないの?」
私、ご令嬢達とのお茶会でした。
「お父様の命には従います。ですが許されるなら適齢期までゆっくりお相手を探したいですわ」
「素敵なお相手は早めに売れてしまうわよ」
「それなら仕方ありませんわ。ただ一度婚約したら中々は破棄できませんもの。幼い頃の判断ですべてを決める勇気はありません。それに長い婚約期間の間もずっとお相手のお心を射止めることなど私には想像できません」
「レトラ様は幼いのに達観してますわね」
「でもイラ様はレトラ様に夢中と噂よ」
楽しそうな目を向けられます。令嬢達は恋の話が大好物です。
「噂は間違いです。もし本当なら、気の迷いですよ。きっと大人になれば違う方を選びます。ニコラスは惚れっぽいですから」
「あんなに仲が良さそうなのに」
オリビアや他の令嬢が笑っています。
「幼馴染ですから。だからこそ信用できません」
「厳しいわね。皆様は婚約者とはいかが?」
「うちの婚約者は私のことより剣に夢中です。義務で会いに来ても剣の話ばかり」
「それは・・」
剣に夢中の婚約者・・・。
ライリー・グラ侯爵令嬢。思い出した。この方の婚約者も少女に夢中になってましたわ。泣いてた記憶がありますわ。婚約者は誰でしたっけ。剣に夢中・・・。王国の剣といえばスペ公爵家。
ブラッド・スペ公爵令息です。
もう婚約者になってしまっています。どうしましょう。ただお話を聞く感じは冷めた感じのようですわ。
思考の海に潜っていたら気付いたらお茶会が終わってました。
皆様もうお帰りです。今日はオリビア主催のお茶会です。オリビアに肩を叩かれました。
「オリビア、どうしました?」
「リリアこそぼんやりしてたでしょ?」
「お話が難しくて」
「仕方ないわね。考えこむ癖なんとかしないと」
オリビアの声に元気だありません。頬を手に当てて首を傾げるオリビアの瞳に陰りがあります。
「気をつけます。オリビア、なにか悩んでる?」
「リリアには敵わないわね。王宮でお会いする王太子殿下の態度がおかしいの。不審な目で見られるの。声をかけるでもなく。」
恐れていたことがおきたのでしょうか・・。まさか王太子殿下、
「オリビアに一目惚れ・・」
「ありえないわ。殿下は私を嫌ってるわ。」
即答しました。私の自慢のオリビアはその気になれば落とせない男などいないと思います。
「オリビアは綺麗だから魅力に気づいたとか?」
「ありえないわ。気にしても仕方がないけど」
「不敬罪になるから余計なことはいえないものね」
「ええ。」
「もし変なことをされたら教えてね。私、オリビアと一緒に亡命するから。」
「リリア?」
「安心して。お世話もできるし外国語も話せるから苦労はさせません」
「プロポーズみたいね」
「オリビアの幸せを願う気持ちに嘘はありません。もしオリビアを不幸にするなら私が絶対に攫います」
「リリア、恰好いいわ。」
「私に任せて」
パチンとウインクします。なぜかオリビアが子供を見るような目で微笑んでる気がします。でも先ほどより元気になった気がします。
無茶を言っているのはわかってますよ。でも本気です。
そろそろ帰らないといけませんね。王太子殿下がオリビアを不幸にするなら絶対に阻止します。
今日もニコラスと一緒に授業を受けています。そういえばニコラスも武門名家でした。
休憩時間にニコラスに声をかけると、警戒された視線を向けられます。私から声をかけることなんてほとんどないから仕方ありません。だって距離を置くって決めましたもの。
「ニコラス、ブラッド・スペ公爵令息ってお知り合いですか?」
「知ってる」
「どんな方ですか?」
「武人らしい人だよ。話すよりも態度で語る人だな。」
そんな人がどうして婚約者を捨てるのかしら。二人の関係が確かなものなら揺るがなそうですよね。騎士って一直線というか思い込みが激しいというか…。目の前のニコラスも洗脳されても気づかないほど思い込みが激しいです。
少女に心を奪われなければいいんですよね…。
「ニコラス、スペ様と一緒に訓練したりしませんの?」
「昔はしてたけど、最近はしてない」
「見たいです。」
「え?」
「駄目ですか?ニコラスの手合わせみたいです。差し入れも作ります。」
「リリア、確認だけど見たいのは俺?」
「もちろんです。自分より大きい相手との手合わせをみたいです。お友達と一緒に応援します!!お弁当も作りますよ」
ニコラスが嬉しそうに笑いました。
私、ニコラスの胃袋は掴んでますよ。警戒が解けてよかったです。男の胃袋を掴んで損はないという市で教わった夫人の言葉は本物です。
「何がいいですか!?プリンでもゼリーでも焼き菓子でも作りますよ」
「俺のため?」
「もちろんです。頑張ります。場所はうちを提供致しますわ」
「俺の家でやるよ。どう考えてもリリアの家はおかしい。それにうちのほうが色々揃っている」
「わかりました。お友達も一緒でもいい?」
「リリアもあざといよな。いいよ。休みならいつでも平気?」
「はい。楽しみにしてます。」
これであとはライリー・グラ侯爵令嬢をお誘いするだけです。
グラ様と仲良くならなければいけません。グラ侯爵家主催の夜会とお茶会に参加しましょう。顔見知りですが仲良くはありません。
私はライリー・グラ侯爵令嬢と仲良くなるために頑張りました。昼は授業があるので、夜会で頑張りました。ライリー様とはお名前で呼び合える仲になりました。
お弁当も差し入れも準備万端です。
ニコラスが焼き菓子がいいというので、クッキーを焼きました。
もちろんライリー様達の分もいれて大量に作りました。
朝から頑張りました。
気まずいのでイラ侯爵家の皆様へはマドレーヌを焼きました。
イラ侯爵夫妻は甘いものがお好きですから。そのせいかイラ侯爵家のお菓子は美味しいものが多いんです。
馬車を降りるとニコラスが迎えに来てくれました。
「これはイラ侯爵に」
「父上が会いたいらしいから直接渡せよ」
うん。やっぱり挨拶しないと駄目ですよね・・。
差し入れとお弁当をニコラスに渡してイラ侯爵のもとにむかいます。
「リリア、体はどうだ?」
「イラ侯爵、ご無沙汰しております。このたびは」
「リリア、いいのよ。旦那様達の勝手な約束だもの。」
「イラ侯爵夫人」
「でも、たまには遊びに来てね。うちは女の子がいないからリリアが来ないと寂しいわ。ニコラスとのことは気にしなくていはいわ。貴方が元気になってよかったわ」
私、数か月まえに高熱で生死の境をさまよったんですよね・・。
あまり実感がありません。
ただ突然に婚約したくないと言った我儘で失礼な私にも二人は優しいです。
「ありがとうございます。これ、焼きましたの。よければ」
「まぁ!?嬉しいわ。いつもニコラスばかりだもの」
笑顔で侯爵夫人がマドレーヌとクッキーを入れたバスケットを受け取ってくれます。
「父上、母上、そろそろよろしいですか?リリアは今日は俺の客人です」
「ごめんなさいね。リリアまたあとでね」
「失礼します」
ニコラスに手をひかれて歩きます。
「大丈夫だっただろ?」
「はい。お二人共お変わりなく。また後で?」
「気にするな。オリビア嬢はそろそろ来るか?」
「ニコラス、オリビアに会いたかったんですか?」
「お前の友達ってオリビア嬢だけだろ?」
「失礼ですね。今日は違うお友達です」
「坊ちゃん、お客様がお見えです」
執事の声にお迎えにいきます。
ライリー様が不幸にならないように頑張ります。
ライリー様の魅力でスペ様を夢中にさせて少女のつけいる隙をなくせばいいのです。
握った手に力が入ってしまったことも、隣で安堵しているニコラスにも私は気付きませんでした。




