第百七話 東国
目を開けるとなぜか牢屋に捕えられていました。ポケットの中の回復薬も短剣もありません。状況がわかりません。投獄されたなら荷物は取り上げられますね。どれだけ寝てたんでしょう。体がだるいけど動けますね。
なぜかセノンが目の前にいます。防音の結界をはります。
「セノン?」
「セノン、嫌な予感して来た。」
「怪我してない?」
「うん。」
セノンの頭を撫でます。本物ですね。
「良かった。何があったのかわかる?」
「皇女が悪魔を召還してた。皇女死んだ」
「泉は浄化された?」
「幻。前は悪魔いなかった。悪魔は召喚者がいなくなれば消える」
幻影魔法はよくわかりませんが、泉に全く浄化の効果がなかった理由は納得しました。
なにはともあれ悪魔は討伐されたなら安心です。
「リリア」
牢の外にネスがいます。周りに見張りの兵がいないのはありがたい。
防音の結界の範囲を拡大します。
「どうして?」
「セノンに言われたから。このままだと死刑になる。」
セノンと一緒に来たんですか。お世話をお願いしましたが追いかけてくるまでとは・・・。イラ侯爵に謝罪しないといけません。
死刑・・・。
皇女殺害なら仕方ありません。私の魔法で皇女様が苦しんでましたもの。どうして知られているんでしょう。誰かに見られていたのかもしれません。討伐の作戦を知ってるのは皇子様だけのはずです・・。
「ネス、投獄されてるのは私だけ?」
「ニコラスも投獄。レトラ侯爵は部屋に軟禁。騎士も一緒に」
「ニコラスが!?なんで・・。他に情報はある?」
一瞬頭が真っ白になりましたがそんな場合ではありません。
冷静にならないと・・。手をぎゅっと握ってネスを見ます。
「今の皇帝陛下は生贄になった第一皇女の弟。第一皇女は弟が帝位についたことが許せなかった。そこで悪魔を召還した。その悪魔は召喚獣を呼ぶ力を持っていた。皇女は自作自演で生贄になり、反乱の機を狙っっていた。第二皇子は殺せても皇帝陛下は殺せなかった。リリア、逃げるなら手伝うよ」
「この短時間ですごい情報を集めましたね・・。ありがとう。逃げません。私の執行はいつ?」
ネスが目を見張りました。段々表情が豊かになってきました。
こんなに情報を集めるなんてすごいです。
「明日の朝。」
辺りは暗いので朝までまだ時間があります。
「ありがとう。ネス、ニコラスは無事?」
「今は。ニコラスの執行も明日の朝」
「え?まさか、ニコラスも死刑なんてこと?」
「皇族殺害」
うそでしょう。なんでニコラスが・・。
嫌。絶対に。落ち着かないと。
辺りは暗いからまだ朝まで時間はあるから、大丈夫。まだ生きてる。
作戦変更です。私が首を差し出せば穏便に対処できると思いましたが、事情がかわりました。
情報を集めないと。
「ネス、この国はどんな神を信じてるの?」
「神はいない。初代皇帝である聖人を崇拝。聖人は犬を連れていた。神託は絶対。」
「神託?」
「セノンが大きくなって話せばいい」
「セノン、少し大きくなれたりしますか?」
セノンが大きくなりました。この子はなんでもできて凄いです。
「リリア、ニコラス、危ない」
「皇帝は気まぐれ」
のんびりしてる場合ではありません。
ニコラスの刑の執行が早まった?この国は自由すぎませんか・・。
「ネス、申しわけないんだけど、皇帝陛下の前に連れてってくれる?」
「逃げないって」
皇帝陛下を説得しないといけない。でもその間に刑が執行されたら遅いんです。ニコラスが死ぬなんて絶対に嫌。説得できないなら連れて逃げます。
「ニコラスが殺されるくらいなら逃げます。あの人の命以上に大事なものなんてない。どうしよう。先にニコラスを、駄目、それだと説得できなくなる。でもその間にニコラスの刑が執行されたら、足止め、でも人手が足りない・・。」
策は考えました。でも時間が足りない。
人手も。せめてディーンがいれば、・・。
「リリア、皆いる」
「え?」
「隠れてる。」
サアーダ達も来てたの…。保護した後、この子達と過ごして利用しないことを決めました。でも私の力だけだと足りない。セノンを抱きしめます。力が欲しい。でも一番譲れないのは自分の信念ではありません。ニコラスのためなら利用できるものはなんでも利用します。
「ごめん。ありがとう。申しわけないけど助けてください。ニコラスの処刑を止めて。私は皇帝陛下を説得します。怪我はいくらでも治すから、お願い」
「俺達強いから。」
「この国を無事に出たらあなた達にはこんなことさせない。今だけ力を貸してください。絶対に死んではいけません。みんなで生きて帰りたい。お願い。ニコラスを助けて」
「サーファが行ったから平気。」
私はこの子達との約束を破ったのに文句も言わないなんて・・。考えるのも謝罪も後です。
私は牢から出してもらってセノンを連れて皇帝陛下の下にいきました。衛兵はネスとオリが倒してくれました。オリは気付くと消えてしまいます。不快な顔をする皇帝陛下を静かに見つめます。
「余も殺しにきたか」
「違います。話をしにきました」
「刑は軽くならん」
大事な者ましてや皇族を殺したので裁かれるのはわかります。私だけなら黙って従いました。でもニコラスを巻き込んだことは許せません。あの人の命を奪うのは誰であっても絶対に。
「姉君は王位欲しさに悪魔を召還しました。皇子の殺害は生贄になった姉君の召喚獣が主犯です。姉君が生贄になってから貴方も襲われませんでしたか?」
「なぜじゃ、」
「この子が教えてくれました。」
セノンの頭を撫でます。ネスからの情報というのは内緒です。神託を信じるならセノンの言葉のほうが説得力があります。うまく勘違いしてほしい。証拠がないので・・。時間がないので強引に、利用できるものはなんでも利用します。
「皇女、悪魔呼んだ。帝位欲しい。悪魔の力は召還。獣呼ぶ。悪魔は契約者が生きてる限り消えない。だから、セノン、殺してって頼んだ」
皇帝陛下が驚いた顔でセノンを見てます。
「その黒い犬は」
「私の友達です。皇女様に殺されかけたところを駆けつけてくれました。この子はニコラスとも仲良しです。私の護衛のニコラスを殺したらこの国は二度と光のない国になるでしょう。」
「まさか・・」
闇魔法も勉強しました。上皇様にセノンの力をうまく使えば使えると教えてもらいました。ただ本当は使いたくありません。セノンは家族で友達です。自分のために利用したくありません。保険かわりに勉強したんですけどね・・。私の使える魔法には相手に恐怖を感じさせる魔法がないんです。時に脅しも必要なんです。
「私、この子の力を借りれば闇魔法を使えます。闇魔法には光のない世界を与える魔法があるんです。」
「その犬の力を使えるのか」
「はい。お父様やうちの国のものに手を出しても許しません。皇帝陛下、私とニコラスはどうなるのですか?」
にっこり微笑みます。セノンから黒い魔力が溢れてます。賢いセノンの頭を撫でます。皇帝陛下から余裕がなくなりました。震えるほど怖いですか?
でもそれだけのことをしたんです。交渉に来ただけ感謝してほしいです。戦争を起こす切り札もあるけど、まだ出してません。
「光をなくすのは最終手段です。ただここにいる皆様の加護を奪うくらいはしましょうか。二度と神の加護など」
東国も魔法が盛んなようです。加護を奪えば魔法を使えなくなります。系統が同じかは不明ですが、加護を奪えば、なにかの変調は起きるでしょう。光を消すよりも加護を奪うほうが簡単です。セノンの力を借りるのでえらそうなことは言えませんが。
「処刑をやめさせろ」
青い顔をした兵が皇帝陛下の命令で走っていきました。宰相は静かに私を見つめています。
「何が望みだ」
「それはレトラ侯爵と御相談を。私は牢に戻ったもうがよろしいでしょうか?」
「おい、部屋に案内しろ」
私は兵に案内され、借りていた部屋に入りました。荷物の中から回復薬を出して2本飲みます。魔力が戻ってきました。映像魔石を持ち、短剣をポケットに隠します。
「ネス、ニコラスの場所はわかりますか?」
ネスの案内で部屋に入ると、傷だらけのニコラスがいました。
ひどい。
映像魔石に記録します。
「おまえは」
兵の言葉は無視してニコラスの縄を解きます。ニコラスが安心した顔をしました。間に合ってよかった。泣きたいのをこらえて気合いをいれます。
「無事でよかった」
「人の心配より自分の心配してください。」
抱き寄せられる腕に身を任せて治癒魔法をかけます。傷は治っても許しません。ニコラスの胸を押して、顔を上げます。
「ニコラスを殴った方はどなたですか?治癒魔法をかけてあげますからしっかり報復してください。命令です」
「必要ない」
「私の心の平穏のために必要なことです。嫌なら私がやります。護衛騎士なら言うこと聞いてください。剣がなくても魔法があればできるでしょ?短剣でいいなら貸しますよ。命令です」
ニコラスに不思議そうな顔で見られてます。なんでイラ家の護衛騎士って私の命令を聞かないんでしょうか。主の命令に忠実のはずです。やっぱり私は護衛対象であり主ではないからでしょうか・・。
「怒ってんの?」
「当然です。怒らないわけないでしょ!?危険をおかして助けたのに、なんて仕打ちでしょう。こんなボロボロになるまで殴るなんて万死に値します。悪魔なんて放っておけばよかった。ニコラスに怪我させてまでやることじゃなかった。しかも怪我の理由がこの国の兵に殴られたなんて。こんな誠意のない国なんて知りません。勝手に滅びればいいんです。」
怒りで涙が出るのは仕方ありません。許せません。ニコラスは困った顔をしてます。こんな時まで優しさなんていらないんです。こんな優しいニコラスを傷つけたなんて地獄で後悔すればいいんです。
「リリア、泣かないで。サーファが半殺しにしたよ」
「滅ぼす?」
「セノン、頑張る」
「リリア、俺は平気だから落ち着こうか。こいつら本気で滅ぼすから止めて。俺は休みたい。この国で内乱がおこったら帰れないから。ネス達もセノンも勝手に動くなよ。リリア、レトラ侯爵の所に行こう。無事を確認しないと。冷静になれ。お前の役割を忘れるな」
「バカ、なんで」
「心配かけたな。もう大丈夫だ。」
「大丈夫じゃありません。もっと自分のことを大事に」
「お前のお父様の無事が先だ。報復はいつでもできる。リリアを泣かす奴は俺が斬るから」
ニコラスが倒れている兵の剣を拾いました。確かに本当にお父様が無事かわかりません。涙を拭いて顔をあげます。
室内の兵が倒れていました。サーファ達が倒してくれたのでしょうか。こんなに兵がいたこと気付きませんでした。
お父様の所に行かなければいけません。非常識なこの国は信用できません。兵に治癒魔法などかけませんよ。ニコラスを殴ったんです。この国の兵など、どうなっても構いません。




