第百六話 東国
私は悪魔の討伐のために漆黒の泉に来ています。Sランクの冒険者の大魔導士様と大剣士様も一緒です。ニコラスとは家出中に出会ったそうです。大剣士様とは一時期一緒に行動していたそうです。詳しい話は教えてくれませんでした。大魔道士様とも顔見知りのようです。なぜか時々、見られる視線に寒気がします。大体、ニコラスが間に入って助けてくれます。
悪魔の討伐にはニコラスとディーンがついてきました。大魔導士様がニコラス達の剣に魔法をかけて魔剣にしてくれました。魔剣は、魔法を切れるそうです。便利な魔法があるんですね。私にも教えてくださいとお願いしたかったのですが、ニコラスからは近付いてはいけないと怒られました。魔法は秘術とする国もあります。対価もなしに教えてほしいなんて不謹慎でした。反省します。
森を抜けると漆黒の泉にたどり着きました。気を抜くと倒れそうになるくらい禍々しい空気が漂っています。今更ですが悪魔と戦うのに5人って平気なんでしょうか。大剣士様は「大切なのは数ではなく質」と言ってました。
私の役目は浄化の魔法をかけることです。大魔導士様に借りた杖で魔法陣を書きます。この杖は魔力を増幅というすばらしい効果があります。私は周りを気にせず、魔法だけに集中しろと言われてます。大魔導士様に言われた場所に魔法陣を書いていきます。ニコラスとディーンが護衛をしてくれるので信じて自分の役割を果たすだけです。ニコラスもディーンも頼もしく頷いてくれます。本当は巻き込みたくありません。でも一緒にいてくれるのは心強いです。こっちに向かってきたオオカミをディーンが斬ってくれました。結界は私の魔法の邪魔になるので使えません。
この魔法陣は複雑で大きいので書くのに時間がかかります。泉から咆哮が聞こえます。気にせず魔法陣を書き進めます。
泉からは龍が現れましたが気にしてはいけません。初めて見たことに感動しては駄目です。大剣士様と大魔導士様がきっと倒してくれます。お二人はとても強い冒険者ですから。機会があればゆっくり魔法と剣技を拝見したいです。いけません。
悪魔は見えなくても泉を浄化すれば現れるという見立てです。この浄化魔法は広範囲です。やっと魔法陣が完成しました。周りの血の匂いは気付かなかったことにしましょう。
次にこの魔法陣に魔力を均一に流します。ドバン、ゴゴ、ズバン、バリッともの凄い音が響いてますが気にしてはいけません。もう少し魔力を巡らせます、うん、良い感じです。杖の力はすごいです。魔法陣の隅々まで魔力が巡りました。あとは魔法陣の中心から魔力を流せばいいだけです。繊細な作業は終わりです。でも魔力を途切れさせたら失敗するので、気を抜いてはいけません。目を瞑り魔力を流しながら祈ります。魔法は祈りの力です。特に聖属性魔法は女神への祈りの力が魔法をおこします。息を思いっきりすいます。
「創造神たる聖の女神と闇の女神に願い給う。
かの地を汚す悪しきものを。
禊ぎ、祓い給わんことを。
諸々の穢れを振り払い給え。
祓い給え、清め給え、かの地、かの者の浄化に力を。
我らが偉大な二神よ。
我に力を与えることを願い給う。
諸々の穢れを振り払い給え。」
目を開けると泉は黒いままです。もう一度繰り返します。
全然薄くならないんですけど・・・。そのまま繰り返すしかありません。大魔道士様にずっと魔法を使い続けるように言われました。
女性が泉から現れました。生贄になった皇女様でしょうか。一気に禍々しい魔力が強くなりました。体から力が抜けそうになるのを杖を強く握って耐えます。たぶん悪魔は皇女様に宿ってます。お願いだから気付いてください。詠唱は止められないし魔法陣の中心からは動けない。私は何があっても魔法はやめないと約束しました。浄化の魔法で悪魔の眷属の力は弱くなるそうです。
「創造神たる聖の女神と闇の女神に願い給う。」
大剣士様に保護された皇女様がこっちに来ます。誰も気づいてない。
「かの地を汚す悪しきものを。」
やめて、来ないで。倒すべきは龍じゃない。龍以外の獣がまた出てきました。召喚してるのは皇女様です。大剣士様が獣を斬りました。
「禊ぎ、祓い給わんことを。」
ニコラスもディーンも気付いてません。ここで魔法をやめたら浄化はできなくなります。戦ってるみんなのために私ができるのは浄化の魔法を使うだけです。私の我儘で巻き込みました。私が役割を果たせないなんて許されません。
「諸々の穢れを振り払い給え。」
皇女様がすぐそこにいます。集中です。皇女様の顔が歪んでるからきっと魔法の効果はあります。
「祓い給え、清め給え、かの地の浄化に力を。」
このままだと皇女様の腕が振り下ろされ、自分の体が切り裂かれるかもしれません。痛みで集中をみださないように目を瞑ります。魔力を均等に。魔力を使いすぎてふらつきますが、まだ立ってられるから大丈夫。本当に魔力がなくなれば意識を保てません。吐き気もありません。まだ余力があります。魔力を多めに注ぎこみます。
「我らが偉大な二神よ。
我に力を与えることを願い給う。
諸々の穢れを振り払い給え。」
「きゃあああああああああああああ」
「リリア、浄化いらない。光の祝福して、強いの」
痛みがきません。セノンの声が聞こえます。魔法を切り替えます。
「聖の女神に願い給う。天より恵みの祝福の雨をふらしたまえ。我が願いを聞き届け給え。」
光が降り注ぎます。持ってる魔力を全部降り注ぎます。体に力が抜けるけど、魔力を注ぐのはやめません。大きくなったセノンが体を支えてくれた気がします。もう駄目です。魔力が切れました。意識が持ちません。
「リリア!?セノン!?」
「ニコラス、女殺して。悪魔、また来る。女、召還した」
最後にニコラスが剣を振り下ろしたのを見届けて、私の意識はなくなりました。召喚者がいないならきっと大丈夫です。




