第百三話 旅立つ前に
王宮に来ると令嬢どうしの言い争いが日常茶飯事です。
派閥争いがここまで激化するとは・・。
私はできるだけ関わらずに通り過ぎたいです。
私は側妃様の部屋から帰るところです。そしらぬ振りをして通り過ぎようと思います。
オリビアが徹底好戦しているけど、オリビアなら負けません。
オリビアに言い負かされた令嬢が激怒しています。
衛兵を呼んだほうがいいでしょうか。
オリビアに振り上げられる手を慌てて掴みます。
パチン。
右手を掴んだら左手は予想外でした。
「リリア!?」
「なんで・・」
関わらないことは諦めました。驚く令嬢に静かに話しかけます。さすがに気まずそうです。
とっさに手がでたんでしょうか。
「さすがに、手をあげるのはいかがなものかと思います。冷静になってください」
「あなた」
「オリビア、落ち着いてください。帰りましょう。王宮です。争うべきはここではありません」
「失礼します」
私は礼をして強引にオリビアの手を取って立ち去ることにしました。不敬?王宮の廊下で言い争いのほうがまずいです。オリビアもわかっていると思いますが。
「リリア、頬」
「魔法で治せるので平気です」
治すほどのことではありませんが、心配そうに見られているので自己回復魔法を使いました。頬の腫れが引いてるはずです。オリビアの取り巻きは置いてきてしまいました・・。
勝手に解散するでしょう。私が勢いで抜け出した感じはありますが。
「飛び出さないでよ」
「さすがに叩こうとする令嬢がいるとは思いませんでした。オリビア、最近気が立ってますけど大丈夫ですか?」
「わかってるかわかってないか、いまいちわからないのよね」
「明日からお父様と一緒に東国に行ってきます。成果を上げて帰ってくるので安心してください。帰ってきたら民の人気取りの策も考えます。離れていった貴族以上の後ろ盾を手に入れてみせます」
オリビアが何を焦っているかわかりません。麗しの侍従様が姿を消したので、今まで程令嬢の離反は目立たないでしょう。行儀見習いの少女のほうはまだ対策が考えられていませんが・・。
「頑張りますよ。麗しの未来の王妃様のために」
「オリビア、リリア」
王太子殿下の声に礼をとります。
「頭をあげて。時間があるなら休憩に付き合ってよ」
オリビアと一緒に王太子殿下の誘いを受けることにしました。
殿下の執務室のソファに座ります。
「リリア、出立の用意は?」
「あとは発つだけです。」
「リリア、本当に行くの?」
「はい。レトラ侯爵令嬢としてしっかり役目を果たして来ます」
「怖くないの?」
不安はあります。でもここで出してはいけません。にっこり笑います。
「はい。楽しみですよ。お土産買ってくるので安心して待っていてください」
「オリビア、リリアだよ。心配はいらないよ。いざって時はしっかりするだろう?」
「殿下、隣国でも色々ありました。国外は危険です」
オリビアの様子がおかしかったのは私が心配をかけていたのでしょうか。
オリビアは優しいです。
「護衛もいるので大丈夫ですよ。お父様ともしっかり準備を整えました。この戦いは勝ちますよ。それに今回は頼りになるお父様と一緒です。」
オリビアの顔が晴れません。
「リリア、未知の国よ。まだ成人してない貴方が行くことは」
「私は治癒魔導士です。お父様を危険な場所に一人で送れません。それにイラ侯爵が護衛を手配してくれます。だから何も心配いりません」
「オリビア、ニコラスがいるから大丈夫だろう。あいつは絶対にリリアだけは守るだろう」
ニコラスが一緒かどうかはわかりません。できればついてきてほしくない。でも余計なことは言ってはいけません。オリビアの瞳が不安に揺れてます。殿下の前でこんな顔ができるほど親しくなったことに安心します。不謹慎だとしても・・。
「それでも・・」
「リリア、もし東国が危険ならすぐに帰ってこい。この外交に失敗しても問題ないから。ちゃんと帰ってくるんだよ」
「殿下?」
「リリアもニコラスも私達には必要だ。私の即位を願うならきちんと帰ってきてくれ」
この外交に失敗して、もし私達が帰らぬ者となれば喜ぶ人たちがいます。
もしかしてオリビアが相手にしてたのは・・。
オリビアらしくもなく王宮の廊下で争っていた理由がわかりました。言わせておけばいいのに。
オリビアは本当に優しいです。
「私は二人のために精一杯励みます。生きるために手段を選ばないイラ家の騎士が護衛です。二人はのんびり帰りを待っていてください」
悪魔がいるから絶対に帰ってこれるかはわかりません。でも私はオリビア達が幸せになるためなら、どんな結末も代償も怖くありません。脳裏によぎった最近姿を見せない幼馴染の顔は振り払います。
笑顔をつくります。
「殿下、オリビアをお願いしますね」
「私はオリビアには頭が上がらないんだけど」
「オリビアもほどほどにしてね。」
「リリアは自分の心配して」
「心配なんていりません。やるべきことをやるだけですもの」
王太子殿下の侍従が入ってきたのでお茶会はここまでです。
オリビアの顔が曇ったままですがどうにもなりません。王太子殿下、あとでゆっくり元気づけてあげてください。私はオリビアと別れてイラ侯爵家の別邸に戻ってきました。
「ネス、今日から当分帰ってこれません。」
「リリア、俺も行くよ」
ネスの頭を撫でます。この子達に危険なことはさせたくありません。あの時の私の言動に反省します。ニコラスのためにこの子達を利用するなんて許されません。
「ありがとう。あの話は忘れてください。ネス達にセノンを預けるからよろしくね」
セノンをサーファに渡します。セノンには今回はネス達と一緒にいるようにお願いしてあります。
「前に護衛してほしいって」
「あれは忘れてください。騎士の言うことを聞いて待っててください。困ったら騎士やエルに相談してください」
「リリア」
「私の命令は守ってね。まだ国籍がないから貴方たちをこの家から出すことはできません。他国に勝手に入ることは罪ですから。密入国はいけないことです。いずれ、ちゃんとした環境に返してあげます。だからちゃんと守ってね。四人共、元気でね。私はお仕事に行ってきます。セノン、迎えにくるまで良い子にしててね」
出国までにオリに懐いてもらうことはできませんでした。ただ自炊できるようになったのは良かったです。時々エルに様子を見にいってもらうことをお願いしてあります。最後にセノンの頭を撫でてレトラ侯爵邸に帰ります。明日は出国なので、最終確認をしなければいけません。
この外交を成功させてオリビアを元気にしましょう。




