第百二話後編 子供達
私はイラ侯爵別邸にいます。今日はお父様と打ち合わせがあったので、帰りにエルを連れてきましたが遊ぶ様子はありません。
「エル、執事の仕事はいりません。仲良く遊んでください」
「リリ様、遊ぶという命令の意味がわかりません」
「外には連れていけないので室内で遊んでください。たまには子供らしくしてください。」
「リリ様だって全然遊んでない」
「私は子供のころはたくさん遊んでましたよ。木や馬に乗ったり、動物と遊んだり、追いかけっこしたり」
「僕はリリ様の執事の仕事が好きなんです」
「そんな仕事人間になってはいけません。あなたは十分よくやってくれてます。しっかり遊んで楽しまないと。人生は一度だけです。私はもう少ししたら外交でしばらく国を離れます。この子達は勝手がわからないから仲良くなって時々様子を見てあげてほしいの。同世代の友達を作るのも大事よ。これはお願いで命令ではありません」
「僕はリリ様のお世話がしたいです。」
エルにカードゲームを渡します。
カードゲームはエルに命令して遊び方を教えてあります。本当は命令したくないんですがエルは強情です。
「エル、これで遊んできなさい。ちゃんとルールを教えてあげてくださいね。命令ですよ」
「リリ様の命令は遊べしかないんですか?」
「気の利く執事のおかげで快適な生活を送らせてもらってます。いってらっしゃい」
不満そうなエルの背中を軽く押して、振り向くエルに手を振るとようやくオリ達の傍に行きました。子供は手がかかります。
カードゲームにサーファ以外は興味がなさそう・・。エル、頑張って。慣れない方ともうまく交流するのも執事として大事なお役目です。もう少し大きくなったら情報収集の授業が始まるでしょう。
「ネスも行ってらっしゃい。今日は遊ぶ日です」
「興味ない」
「エルに負けるから?」
「違う」
「カードゲームは覚えておいて損はないです。命令よ。いってらっしゃい」
「リリアの命令はおかしい」
「領主の娘の命令は絶対よ。」
ネスも混ざっていきました。私はセノンを膝にのせてぼんやり眺めることにします。少しずつ常識を覚えていってくれればいいのですが・・。
こんな閉鎖空間に閉じ込めて申しわけないです。それにニコラスがいないなら無理にネス達を連れていく必要はありません。護衛はお父様の判断に任せましょう。ニコラスがいないので魔封じをお母様が解除してくれました。私は魔石と回復薬つくりをはじめないといけません。セノンを撫でながら、魔石を作っていきます。回復薬の調合は家に帰らないと道具がありません。あとで持ってきましょう。セノンが話せるのはネス達には内緒です。
魔石作りを一段落して、エル達の方を見ると盛り上がるはずのカードゲームが全然楽しそうではありません。無言で殺伐とカードゲームをしています。命令したのがいけなかったのかな。
私の専属護衛を引き受けている後ろにいるディーンに声をかけます。
「ディーン、子供はどうすれば打ち解けるんですか?私はあの殺伐としたゲームを止めたほうがいいですか?」
「ちゃんと熱心にやってるからそのままで。負けず嫌いの集まりです」
「わかりました。そういえば、今度の外交は護衛がつくのでしょうか?」
「旦那様が護衛を選んでますよ。」
「ニコラスを置いていきたいんですが、」
「お嬢様」
「本人を説得しようにもいません。」
「なんで坊ちゃんが嫌なんですか?」
「今回は危険です。嫡男を同行させるわけにはいきません。護衛してくださる騎士の皆様には大変恐縮なんですが」
「お嬢様、危険な場所を恐れるなら騎士にはなりません。危険な場所に行くから余計に騎士がつくんです。俺達は危険に備えて鍛えてます。」
「でも」
「外交官は国と国の繋がりを強めるために働くのと同じです。お嬢様が怖がるなんて珍しいですね」
「なんの情報もない国です。隣国に行くのと違うんです。魔法だって使えるかわからないんです」
それに悪魔がいます。本当に死んじゃうかもしれません。
「どんな場所でもやることは変わりません。どこでも守りますよ。だから大丈夫です。お嬢様は安心してお務めを果たしてください。お嬢様はイラ家門の騎士を信じていただけないんですか」
「信じてます。でも心配や不安は消えないんです」
「リリア、俺がついてくよ」
「ネス、気持ちだけで十分よ。冷静に考えたらネス達は連れていけません。子供に危険なことを教える国に帰すわけにはいきません」
「役にたってない。」
「たくさんお手伝いして弟妹の面倒もみてくれてとても役にたってますよ。ありがとう。欲を言うならゆっくり大人になって、いずれ幸せを見つけてください。」
いつの間にか戻ってきたネスの頭を撫でます。
「聞かないの?」
「聞きません。幸せな記憶や思い出がないなら忘れてしまいなさい。貴方はレトラ領のネスです。」
「お嬢様」
ディーンの言いたいことはわかります。情報を得る手段があるなら使うべきです。でもこれ以上利用するなんて許しません。
「この子達に余計なことを聞くことは許しません。かの国のことで話を聞きたいなら私を通してください。命令です。カードゲームは飽きましたか?」
「オリの一人勝ち。」
私はオリを可愛がることにしました。褒めても無表情で見つめられるだけです。寂しい・・。無視されないからいいんです。出国までに懐いてもらえるんでしょうか。
とりあえず頑張って家事を仕込まなけらばいけません。




