第百二話前編 子供達
私はイラ侯爵家の別邸で生活してます。簡易の布団も用意してもらいました。ニコラスが飛び込んできました。間にはいるネスに大丈夫と伝えます。頼んでないのに護衛として優秀な手腕を見せてくれました。武器はないのに戦えるんでしょうか・・。ニコラスが私の作った結界を壊して入ったことは目を瞑りましょう。そんなに簡単に壊されたことにショックが隠せません。
「リリア!!」
「お帰りなさい」
「なんで、出した」
小言がはじまる前に遮ります。にっこり微笑みます。
「安全だと判断しました。イラ侯爵の許可をいただきました。念のため騎士を貸していただいてます。中から出れないように結界をはってあるので安心してください」
「そこじゃない。リリアの安全だよ」
「危害を加えず、逃げないと約束してくれました。いずれレトラ侯爵領で保護する大事な領民です」
「嘘かもしれないだろが」
「自己回復魔法使えるので安心してください。もし、騙されたら笑ってくれて構いません。私は自分の臣下を信じます。ニコラス、騎士を派遣してもらったので本邸に移ってください。」
「リリアをこんなところに残せるわけないだろう」
「私はネス達を信じます。危険と言うなら本邸に帰ってください。イラ侯爵の許可も得ています」
「リリアは何を考えてるんだよ」
「この子達が自由に生きることです。領民の安寧は領主一族の義務ですから」
「リリア、追い出す?」
私の隣にいるネスの頭を撫でます。
「いらないわ。武器もないのに追い出せるの?」
「体術」
「凄いわね。でも勝手に追い出さずに聞いてくれてありがとう。食事を作るから手伝ってください」
ネスは率先して手伝ってくれます。サーファはセノンと遊んでます。オリはぼんやりしています。
サアーダは文字の書く練習をしてます。この中で文字が読めるのはネスだけです。
ネスに野菜を切ってもらいます。包丁の扱いが上手なので手先が器用なんでしょう。
「リリア、なんでご飯を作るの?携帯食なら楽なのに」
「携帯食は美味しくないでしょ?世の中には美味しいものが溢れてます。せっかく食事するなら美味しいものを食べたい。」
「美味しい?」
「いつかネスが気に入ったものがあれば教えてください。」
「リリアは変だ」
ネスの頭をなでます。
「貴方もね。少しずつ色々覚えていきましょう。明日の昼間は出かけるからオリ達をお願いね。夜には帰ります」
「護衛は?」
「護衛は頼んだ時だけでいいわ。セノンと一緒にお留守番しててください。食事は用意しておくので。いずれは自分で作ってくださいね」
後は煮るだけです。火はネスに見ていてもらいましょう。
後ろでずっと睨んでるニコラスの頬をつねります。
「その顔はやめてください。子供の前でする顔ではありません。食事はどうします?」
「俺はリリアがここにいるならいる」
「わかりました。その顔はやめてください。怖いです。子供相手に威嚇しないでください。ニコラス、時間は有限です。せっかくなので楽しく過ごしましょう。オリに絵本でも読んであげてください」
動く気のないニコラスにため息がでました。つねるのはやめました。警戒する気持ちもわかりますから。でも説得はやめません。
「室内には騎士が二人にニコラスもいます。何も危険はありません。貴方は自分の騎士を信用してないんですか?イラ侯爵が安全のために手配してくれました。なにも危険はありません。騎士の二人も怖い顔をしてませんよ。」
貸してくださった二人の騎士は穏やかな顔をしてます。
時々ネス達に色々教えてくれます。しかも、簡易の服に剣を持ってるだけです。警戒させないように制服を着てないんです。私はこの配慮に感動しましたよ。
「坊ちゃん、諦めてください。リリア様が困ってますよ。あんまりしつこいと嫌われますよ」
「そうですよ。お嬢様の御身は俺達が守ります。坊ちゃんのその様子ではお嬢様の心が休まりません。心身共に守るのが騎士でしょ?」
「この状況を許せと?」
「旦那様が許したんです。従うしかありません」
「父上はリリアに甘すぎる」
「坊ちゃん、どんな状況でも守るべきものはかわりません。」
ニコラスが怒られてます。説得は二人にお任せしましょう。不謹慎ですが我慢できずに笑ってしまいました。ぼんやりしているオリを抱きしめます。
「オリ、ごめんなさい。我慢できなくて。いずれオリにも笑える時がくるといいね。作り笑いはしなくていいから」
この四人が馬車の中で怖がっていたのは演技です。刺された時に悲鳴をあげたのも。この子達の能力もよくわかりません。私はできることをするだけです。この子達が普通の子供として生きれるように。
翌日はニコラスと一緒に社交をすませました。ニコラスは不機嫌です。危険なことをしていることはわかります。でも本当に悪い子達には思えません。さすがにまだニコラスにこの子達は大丈夫だから信じて欲しいとは言えませんけど。
***
翌週に国王陛下から話がありました。東国に勅使として派遣命令を受けました。ただ交流すべきかどうかの判断はお父様に一任されます。東国は謎の多い国です。陛下は悪魔のことは知らないようです。
「さて、リリア、大仕事だ。頑張れるかい?」
「はい。リリアはレトラ侯爵家の務めを果たします」
今は王位争いはお休みです。この外交を成功させなくてはなりません。余裕があれば悪魔を浄化してきます。情報のない国に行くのは勇気がいります。言葉が通じなかったらどうしましょう。陛下との謁見の後からニコラスが姿を消しました。イラ侯爵家のお役目でしょうか。まぁついてこないでほしいとお願いするつもりでしたので丁度良かったです。
もし同行するなら、お話をしたいんですけど、いないなら同行しませんよね。




