第百話 後編 重なる思惑
私を呼びに来た侍女は見つかりません。昨日は怪我人はいなかったようです。男達はお金で雇われていました。荷馬車に乗る子供を東国に売れば大金が手に入ると。今のところ、私が浚われたことは極秘なのでイラ侯爵家に軟禁しています。子供達は何も話しません。念の為に行方不明の子供がいないか探してもらってます。
私の前には魔封じのローブを着て、縛られた麗しの侍従がいます。
「ニコラス、縄を解いたら駄目でしょうか?」
「駄目」
「すみません。取引するのに」
「俺は納得してない」
「ニコラス、お願いだから静かにしててください。かわりにちゃんとしたお休みあげますから」
「それは俺に1日くれるってこと?」
「私がいたら休めないでしょ」
「セノンなしで俺に1日付き合う」
「ニコラスが望むならそれで構いません」
満足そうに笑っているからいいでしょう。1日雑用係でコキ使われるんでしょうか・・。今回は多大な迷惑をかけたので従います。ニコラスと騎士の皆様に・・。イラ侯爵に特別手当のお願いはあとでしましょう。私のお小遣いで足りるかな。
「麗しの侍従様、あの子達はどこに返せばいいんですか?」
「は?」
私は子供のことを聞くために面会したんですよ。
「とぼけた顔は見飽きました。子供達は何も話しません」
「・・。信用できない人間に話さない」
「残念ながら、説明してもらえないと解放できません。命が惜しいと思うなら話してください。このままだと処刑ですよ。」
「自分を刺した人間を許せるのか?」
「命令されて行ったことでしょ?情状酌量の余地を見つけるためです。残念ながらこのままだと」
「あいつらが暗殺技術を叩き込まれた子供でも?」
「え?」
「東国について知っているか?」
「東国の情報はありません。どの国とも交流を拒んでいる国ですから。神殿がない、違う神を信じる国ということしか知りません」
「あの4人は俺の部下。主に従うためだけに作られた」
作られた?触れた体は暖かかったので、魔道具ではありません。人です。色々思うところはあります。
「貴方が命じなければ人を殺さないということですか?」
「ああ。意思もない。命じられたままに動くだけ」
子供になんてことを・・。
まず部下に仲間を殺させようとするなんて最低です。
「どうして殺そうとしたんですか?」
「そうすれば優しいレトラ嬢は逃げられないだろう?」
「そんなことのために、殺すなんておかしいです」
「それはお前の価値観だ。」
「貴方にとってあの子達は人ではなく、物なんですか」
「ああ。」
「あの子達は私がいただきます。貴族に手を出したんです。私に殺されたと思ってください」
「欲しいならくれてやるよ」
「わかりました。」
その程度なんですね。私は脅されても自分の臣下を手放しませんよ。ニコラスに肩を叩かれます。言いたいことはわかります。反対ですよね。
「リリア」
「レトラ領で孤児として保護します」
「待て。危険だ。本当にこいつの支配下から抜けたかわからない」
「まぁあいつらがレトラ嬢に従うかはわからないがな。取引の話をしようか。」
なんで上から目線なんでしょうか。
貴方の命は私達が握ってること気づいてないでしょうか。
「俺は東国出身。
はるか昔に宗主が泉に悪魔を封印した。
その泉は封印されていた。ただ3年前から封印の綻びがはじまった。どう手をつくしても封印は修復できず去年封印は解けた。中の泉は真っ黒に染め上がり闇の力で染められていた。中から悪魔が現れた。呪術師や兵が戦うも歯が立たない。悪魔は取引を持ち掛けた。生贄の乙女を捧げるならその乙女が命を尽きるまで手は出さないと。生贄の乙女は尊き血、もしくは力のある者。皇帝は皇女を生贄に差し出した。満足した悪魔は三年の猶予を約束した。次に狙われるのは俺の妹だ」
「まさかお前の取引はリリアを生贄にすることか」
「ああ。第二王子殿下が勝てば負けた派閥の令嬢は好きにできる。尊き血の令嬢も多いだろう?行儀見習いが第二王子殿下に許しを得てくれると。」
なんという恐ろしいことを・・。
平然と言う言葉ではありません。命をなんだと思ってるんでしょうか。
「第二王子殿下には負けません。そんな取引に応じる方が王になるべきではありません」
「どうだろうな。ただ俺のおかげで勢力は上がってるだろう?」
「否定はできません。でも貴方が私の友達に手を出そうとするなら全力で戦います。私は生贄になる気もおきません」
「多くの民のために」
失笑です。見知らぬ国の民のために命を差し出すほど、私は慈悲深くありません。
「その大義名分を抱えるべきは私ではありません。神殿に頼らないのですか?」
「うちは他国民を受け入れない」
「冒険者ギルドに悪魔の討伐は依頼したのか?」
「東国に冒険者の文化はない。皇帝を全てを治めるために邪魔な存在はいらない」
数百年鎖国を続けている国の皇帝はえらそうです。一人ですべてを治めるなんてすごい自信です。
「自国で対応できないなら、他国の力を借りるべきです。悪魔がどんな方かは存じませんが生贄だって一時的でしょ?民の生活を脅かすなら討伐すべきです」
「指1本動かすだけで焼け野原だ。」
「皇子なら皇帝を説得してください。うちの殿下は絶対にあなたのようなことは言いません。隣国の殿下もです。絶対に討伐する方法を考えます」
「他国のために力を貸すかよ」
これだから狭い世界で育った方は・・。バカにした顔で見てくるけど、バカは貴方です。
「殿下の心は広いんです。それにその悪魔がうちの国に来ない保証もありません。鎖国してる場合じゃありません。国王陛下だって話を聞けば手を差し伸べてくれます」
「お前は国王の命令なら命を捧げられるのか」
試されるような顔で見られてますが、迷うまでもありません。
「捧げますよ。貴族としての務めですもの。うちの陛下とギルバート殿下、お父様の命なら生贄として身を捧げます。それが侯爵家に産まれた務めです。でも最期まで足掻きます。まずは東国に帰って皇帝陛下を説得してください。そして各国に力を求めてください。皇女様も助けられるかもしれません」
「突然、そんなことを言われて信じるかよ」
「今は国は安全なんですか?」
「ああ。」
「それなら鎖国を解除して、外交しましょう。友好として東国に招待してください。討伐する方法を調べましょう。」
「は?」
「勝手に貴方の国には行けません。きちんと手続きをとらなくてはいけません。鎖国をしてるからご存知ないでしょうが、国を出るのも入るのも手続きが必要なんです」
「本当に討伐する気なのか?」
「生贄になるのは嫌です。ただ民を害する者の討伐なら力を貸します。貴方がやるべきことは他国に力を求めることです」
「冒険者の受け入れも忘れるなよ。冒険者には兵よりも強い奴がいる。」
「ニコラス、解放しましょう。他国の悪魔がいるなら討伐しなければいけません。上皇様に相談しに行きましょう」
「本当に力を貸すのか?」
「バカですね。貴方には疑ってる余裕なんてありません。東国に帰ってやることは山積みです。外交ができないならうちの国王陛下にレトラ侯爵家の力を借りたいと願い出てください。陛下の命ならお父様は力を尽くしてくださいます」
侍従の縄を解きます。
「私を浚うのは無謀です。生贄になる前に自害します。正しい手段でないのに従う道理はありません」
麗しの侍従はローブを脱ぎ捨て消えていきました。
「リリア、なんで皇子と思ったんだ?」
「鎖国して、他国民の受け入れを拒否する東国から出国して帰国できるなんて高貴な方か隠密に優れた方だけです。あの方は暗殺者を連れていました。あんな大人数で出国できるなんて、許可がないと駄目でしょ?妹が生贄ってことは皇族でしょ?謎の多い東国のことはわかりませんが。悪魔の討伐方法ってどこに行けばわかるかな・・。上皇様はどちらにいるんでしょうか」
「レトラ侯爵夫人に聞いてみれば?」
さすがニコラスです。子供達は安全かどうかわからないのでイラ侯爵邸で預かってもらうことにしました。あとで、お菓子を贈りましょう。今はお母様に話を聞きに帰るしかありません。




