第十話 血族魔法
王太子殿下を無事に城に送り届けてられて安心しました。
ただ安心している場合ではありませんでした。
ニコラスに問い詰められます。うん。覚悟はしてましたよ。ただ気にしないでほしいなと淡い期待もありました。
「どんな関係?」
「市で何度か絡まれていたのを助けて懐かれました。まさか王太子殿下だったとは」
「本当に?」
社交用の顔で誤魔化すしかありません。
気づいてたなんて話たらきっとお説教がはじまります。
私は親切心で保護しただけです。
最初は確かに下心はありましたよ。今回は偶然なのに…。
「はい。気づきませんでした。あんまりにも姿が目立つのでローブを着せようとしたんです。魔封じのローブをうっかり着せたら髪の色が変わって驚きました」
「無事でよかったよ。殿下も一人でお忍びとは」
「ニコラスのおかげです。ありがとうございました。大事な御身を危険にさらさずにすみました」
「え?いや、そっちじゃなくて」
「今日はありがとうございました。用事の邪魔をしてすみません」
「用はすんだから大丈夫だ。これからどうすんの?」
「市に戻ってお買い物します。」
「俺はリリの護衛をしてやるよ」
「いりません」
「荷物持ってやるよ」
「それなら」
助けてもらったので、無視して置いていくのも気が引けます。
今日だけはただの幼馴染に戻りましょう。
それに荷物持ちはありがたいです。
魔封じのローブをニコラスに預けます。
「これは?」
「魔封じのローブです。偶然みつけたので、買ってみました」
「魔封じ?」
「珍しいですね。欲しいならあげますよ。なんとなく買っただけです」
「いくら?」
「いりません。ニコラスも私からお代は受け取らないでしょ?」
「わかった。よくそんな貴重なものに出会ったな」
「市はすごいんです。何があるかわからないもの。自由貿易最高です。それもうちのお父様達の優秀さゆえですけどね」
ドヤ顔になってる自覚はあります。うちの家系はすごいから仕方ありません。
「お前の一族はすごいもんな。お前の大好きなお父様とお兄様を筆頭に」
「はい。私はお父様かお兄様のお嫁にいきたいって言ったら笑われました」
「それで侯爵がデレデレした顔でお前を嫁に出さないと言いにきたのか。本当にお前の一族はリリに甘いよな。」
「待望の娘ですから仕方ありません。それに私はお母様譲りの愛らしい顔立ちですもの」
にっこり笑顔をつくります。お母様のようにいつまでも可愛らしくいたいものです。
「ローブを脱ぐな」
「ラスがお母様のお顔に弱いのは知ってます。貴方の初恋がお母様なのはお父様達には内緒にしてあげます」
「は?ほら、行くぞ」
顔を赤くして照れる姿は笑えます。ニコラスはよくお母様に見惚れてましたもの。
顔を見られたくないニコラスに手をひかれて歩きます。
バレバレなのに。協力はできませんが想うのは自由です。うん?ニコラスが私の傍にいたいって、洗脳じゃなくてお母様の傍にいたいからですか?
ニコラスも可愛いところがありますのね。笑いがとまりません。
「リリ?」
「ラス、わかりづらいですよ。私にくらい教えてくれてもよかったのに」
「は?」
「お母様のお傍にいたいなんて。お父様って呼びましょうか?」
「何を勘違いしてるんだよ!?俺はお前の傍にいたいんだ」
「ここでは嘘をつかなくていいんですよ。仕方ありませんから聞き流してあげます。お父様」
「やめろ。俺はお前の親になる気はない。」
あれはなんでしょう。
生き物がたくさん売ってます。ふわふわして可愛い。
「どうだ、見てくかい?この子達は愛でてもいいいし、食べてもいい。すごいだろ?」
流石にその売り文句は引きます。
ペットとして売るのか食べ物として売るのかどちらかにしてほしい。
「抱いてみるかい?」
かわいい。でも
「飼えないので見るだけで結構です」
「リリ、欲しいの?」
「うちは生き物は飼えません。」
「うちで飼おうか?」
「抱っこしたい。でもお世話できません」
「俺がするからたまに手伝って」
「私、まだ気まずくて」
「家は気にしてないから。どうする?」
悩みます。でもこのふわふわした子欲しいです。絶対抱っこして眠ったら気持ちが良い。
でも、私にそんな時間はあるかな。ニコラスだけにお世話をさせるのも・・。
朝早く起きてお世話に行けばいいかな。
「欲しい」
「どれ?」
「あの、白くてふわふわした子がいい」
「あれを」
ニコラスが値切ってます。決まったみたいです。
「ほら」
差し出される白いふわふわを抱きしめます。本当にふわふわしてます。
かわいい。
「うっ」
首が痛い。
ふわふわを奪われました。
「リリ!?」
首から血が。ローブに穴が!?私のローブが!?。
血でこれ以上汚れないようにハンカチで傷口をおさえます。
「大丈夫か?」
「私のローブが・・」
「バカ、傷だよ」
「傷は深くないのですぐに治ります。抱っこ」
「あとで従者にとりにこさせる」
ニコラスになぜか抱き上げられてます。
「おろしてください」
「自分で言ったんだろ」
「違います。もっと抱っこしたかったんです」
「しつけが先だ。リリを噛むとはな。どっちが上だか教え込むまでは駄目だ」
「ラス?」
「うちの者になるんだ。しっかり躾は必要だ。あれは家の者に取りに来させる、今日は帰るよ。首の傷痛いだろ?」
「大丈夫です。おろして。あの子も連れて帰ります」
「その傷を見たらお前のお父様は絶叫して絶対にあれは殺処分だ」
「いやです。あの子と眠るんです。絶対に一緒にお昼寝したら気持ちがいいんです。殺処分にしたらお父様の前で大泣きします。」
「治癒魔法使えるんだからさっさとなおせよ」
「何言ってますの?自分にかける魔法なんて覚えてません」
ニコラスの呆れた視線に首をかしげます。
「治癒魔法は極めたって言ってなかった?」
「極めましたわ。自分の傷は専門外です。それは自己回復ですから覚えてないです」
「なんで先にそっちを覚えないんだよ」
「必要ありませんもの。私、戦地にも行かないし危険な場所にも行きません。無理もしません。」
「なら俺の傍を離れるな。一人で市もやめろ。自分で治せないなら大人しく守られてろ」
「私も自衛の嗜みはありましてよ?」
「俺が教えたからな。怒るなよ。じっとしてろ」
ニコラスが顔を赤らめて詠唱してます。いつも無詠唱なのに珍しい。
ぬるってしました。首、舐めないでください。くすぐったい。うん?痛みがなくなりました。
目の前のニコラスの首に傷ができてます。この人は・・。
ニコラスの首に手を当てて治癒魔法をかけます。うん。もう傷はないですね。
ニコラスは空蝉が使えます。空蝉は血族魔法。人の傷を自分にうつせます。ニコラスのお母様の血族の魔法です。でも・・・
「ニコラス、私その魔法嫌いです。人の傷をもらうなんてやめてほしいです」
「使えるものは有効活用しないと」
「傷は自己責任です。人のために痛みを引き受けるなんてバカです」
「この力に目の色を変えないのはお前だけだよ」
「人の傷をもらって死んだらお花をあげに行きませんから」
「自業自得なら花をくれるの?」
「月命日にちゃんと会いに行きます。命日にはプリンをお供えしてあげます」
「調子狂うよな」
「その魔法使わないで」
「泣きそうな顔で見るなよ。約束はしない」
「おろしてください。嫌いです」
「嫌い・・」
水に祈りをささげて頭から水をかけます。腕がゆるんだので腕を解いて離れます。
「自分を大事にしない人は嫌いです。一人で帰ります。さよなら」
茫然とするニコラスを置いて歩き出します。
自分も濡れてますが気にしません。無理や無茶は仕方ありません。でも空蝉は違います。自分の体に他人の傷をもらうなんてありえません。しかもあんなに簡単に使うなんて
「リリ、待って、フード脱げてる」
いけません。フードを急いで被ります。
「なんでそんなに怒ってるんだよ」
「あんな簡単に使うなんてありえない」
「お前が痛いよりいいだろ。それに俺の傷ならお前が治すだろ」
「治せない傷ならどうするのよ!?魔法は万能じゃないんです。」
「そんな重症なら尚更使うよ」
「大嫌い。顔も見たくない」
「リリだけだから。リリの傷しかもらわないよ。ならお前が怪我をしなければいい」
「はい?」
「あんなことお前以外にしたくない。俺だって修行以外で使ったの初めてだよ」
「あんなこと?」
「空蝉は体液の接触が条件だから。いい。忘れて。リリにしか使わない。約束する」
「私に使うのも嫌」
「怪我をしなければいいだろ。乾かせよ」
濡れた体に暖かい風が吹きました。服が乾きました。ニコラスの魔法ですね。
「帰るよ」
いつの間にか握られた手をひかれます。関わりたくないけど長生きはしてほしい。
乙女心は複雑です。
馬車に乗せられます。
「また明日な」
手を振るニコラスに複雑です。空蝉を封じる魔法を探そうかな。
色々やりたいことはあるけど、なにから始めればいいのかしら・・。




