第百話 前編 重なる思惑
最近は愛しい少女である黒髪の行儀見習いは第二王子殿下とよく一緒にいるそうです。第二王子殿下がいるならお話できません。第二王子殿下を選んだんでしょうか・・。第二王子殿下なら婚約者はいないので、王位争いだけ勝てば問題ありません。私は今日も王宮の訓練場で人気取りをしています。いまいち効果はわかりません。でも他に思いつきません。ニコラスは訓練に参加してます。ここは国で一番安全な王宮なので危険なことはないでしょう。
突然強い風が吹き後ろに何か落ちた音が聞こえます。振り返るといつの間にかニコラスがいました。
「リリア!大丈夫か?」
「はい?」
後に落ちてる短剣を拾ったニコラスの笑顔に嫌な予感がをします。やっぱり私に短剣が投げられたんでしょうか。訓練で手元が狂ったんですよね。短剣投げる訓練なんてありました?いや、知らないだけでありますよ。私、騎士の訓練については詳しくありません。
「そろそろ廃業かもな」
「え?」
「行儀見習いも最近は来てないだろう。」
「他の方法が思いつきません」
「ここにいても人気取りにならない。それが行儀見習いがここにこなくなった理由だろう?」
「一理あります。やっぱり第二王子派閥の方々をこちらに引き込むしかありませんか・・。」
「それはオリビア嬢の得意なところだろうが」
「オリビアの元気がなかったんです。行儀見習いに王妃は諦めてって説得すべきですか?でも平民が王妃なんてどう考えても・・。妾ならともかく・・」
「リリア、帰ろうか。そのことは家で考えよう。」
この日からなぜか短剣や弓が飛んでくることが増えました。今、私が死んでも誰の特にもなりません。ニコラスに王宮の訓練場への立ち入りは控えるように言われました。そういえば、オリビアに言われたお茶会に不参加のご令嬢達には浄化魔法をかけました。とくに変わった感じはありません。
オリビアは見目麗しい侍従に心を奪われる令嬢達のことを心配してるんでしょうか。オリビアはいつも心配事は話してくれません。まだまだオリビアに頼りにしてもらえるようになるまでの道は長いです。今度、セノンを連れていこうかな・・。クレア様におすすめの恋愛小説を教えてもらって取り寄せたら元気になるかな・・。オリビアが無理をしないといいんですが・・。
またいくつか第二王子殿下に味方する家が増えたことが心配です。うちの派閥からの離反もありました。
あの見目麗しい侍従に恋焦がれる令嬢もどうかと思います。
どうか自分の立場を思い出してほしいです。恋よりも優先すべきは貴族としての務めです。令嬢の説得に負けて、うちの派閥を離れた貴族もいかがなものかと思います。よく考えて行動していただきたいです。
今日は夜会がありました。遠方なので今日は屋敷に泊まらせていただきます。なんとミリアお姉様とお兄様も一緒です。役目はおえたので私はお姉様と一緒にお茶をしながら休んでいます。お兄様はまだお役目が終わっていません。ニコラスはお友達に捕まっています。イラ侯爵嫡男なので親交を深めるのもお役目です。同じ派閥の夜会なのでそこまで警戒する必要はないでしょう。それにお父様が宿泊の招待を受けるということは安全ということです。
「レトラ侯爵令嬢はいらっしゃいますか」
扉から青白い顔をした侍女が飛び込んできました。入室許可がないことにお姉様が不機嫌そうに見つめてます。お姉様は礼儀に厳しい方なので・・。
「どうされました?」
「助けてください。治癒魔法が使えると、早くしないと」
侍女に縋りつかれます。そこまで緊急事態なら急がないといけません。
「お姉様、行ってきます」
「リリア、ニコラスが戻るまで待ちなさい。医務官がいるはずよ。」
お姉様の言葉に侍女が一瞬お姉様を睨み、私の腕を掴みます。無礼ですが、そこまで追いつめられてるんでしょうか。
「そんな・・。でも」
「お姉様きっと事情があるのでしょう。すぐ戻ります。」
私は真っ青な侍女に案内されるまま廊下を進んでいきます。誰にもすれ違わないことに違和感を感じます。たどり着いたのは裏口です。これ以上進むわけには行かないので足を止めます。
「外には出れません」
「来てください」
無理やり手をひかれるので振り払います。さすがにこの状況はおかしいです。外には一人では行くなと言い含められてます。本当は部屋を出るのも怒られそうな気がします・・。最近、ニコラスは周りをいっそう警戒してます。
「連れを連れてきます。お待ちください」
「駄目です。間に合いません。急いで」
「一人で外にはいけません。いっ!?」
「大人しくついてくればいいものを。」
薄れていく意識の中で自分が間違ったことを確信しました。
起きると荷馬車にいました。頭にはコブがあります。後ろには誰もいないと思ったのに不覚です。令嬢の頭を叩かないでいただきたい。頭は危険なんですよ。やるならお腹にして欲しいです。吐き気もないし大丈夫でしょう。
見渡すと子供が4人います。縛られてます・・。侍女に連れられて、怪我人の治療に来て、気を失いました。でも私を浚うメリットなんてあるかな。魔法で縄を切ります。魔封じ解除してもらっておいてよかったです。
泣いてる子供達の縄を解いていきます。短剣を持っててよかったです。
「どうしましたの?」
「わかんない。突然連れてこられて」
「泣いても無駄よ。きっと売られるのよ」
「売られる?」
「だって浚われる理由なんてそれしか」
うちの国では奴隷制度はありません。よく見ると顔立ちの整った子供ばかりです。これから船に乗せられて、外国に売るつもりでしょうか。わざわざ私を浚って売る理由がわかりません。
泣いてる子供達を抱きしめます。
「大丈夫。ちゃんと家族のもとに帰します。絶対に。だから安心して。」
不安な顔は見せてはいけません。にっこり笑顔を作ります。どんな理由があってもやることはかわりません。この子達は絶対に帰るべき場所まで送り届けます。
荷馬車が止まりました。
屈強な男が中を覗きました。目を見開いて驚いてます。先手必勝で攻撃したいですが、状況がわからずに攻撃するのは危険です。仲間が何人いるかわかりません。まずは様子を見ないといけません。
「ごきげんよう。私はどうしてここにるかわかりません。説明していただけます?」
「レトラ嬢はお目覚めか。お前は売られたんだよ」
「売られた?」
「治癒魔導士は高値で取引される。その容姿だけでも十分だが」
「奴隷の販売は禁止です。レトラ侯爵令嬢と知って手を出す意味はわかってます?」
「この国ではな」
「奴隷として売るよりもレトラ侯爵家と取引したほうが高額なお金が手に入ります」
「おまえは東国に売り渡す。」
「きっと捜索されますが、逃げる自信はあるんですか?」
「抜かりはない」
見逃してはくれませんね。それにレトラ侯爵令嬢と知って売るリスクよりも、報酬の方がうまみがあるんですね。平民が私を誘拐すれば処刑されます。命をかけてまで成し遂げたいとは。考えるのは後です。逃げないといけません。
そういえば、ニコラスになにかあればこの魔石に魔力をこめて上に投げろって言われてました。
魔力をこめて上に向かって投げると馬車の天井が爆発しました。火の魔石?。ニコラス、これ意味ありませんよ。風魔法で切りつけて出口を作ります。
驚いてる男を風魔法で拘束します。
「逃げますよ。急いで」
「は、おい、なんてことを」
馬車から降ります。目の前には男が4人程。風魔法で拘束するも避けられます。馬車から降りた子供達に結界をはります。私には動きを読むなんてできません。広範囲で足止めできる魔法・・。
「癒しの女神に願い給う。かの者たちに癒しの眠りを与えんことを」
効きました。この魔法は上級魔法です。お母様に頂いた魔導書にありました。眠りについたので男達を拘束します。
荷馬車の道を戻るしかないです。今は自分がどこにいるかわかりません。
「ここの場所は知ってますか?」
子供達は首を横に振ります。
「馬車に乗ったの私が最後ですか?」
また子供たちが首を横にふります。
やっぱり荷馬車の跡をもとに歩いて戻るしかありません。
「行きましょう。あとでみんなの帰る家を調べるからついてきてください。ここにいては危険です」
一番小さい幼女の手を引き道を進みます。獣が出てこないといいんだけど・・。
まだ暗いのでそれほど遠く離れてないことを祈るばかりです。ニコラスが気付いて迎えに来てくれるといいんですが・・・。早く帰らないといけませんが気が重いです。お説教が待ってます。魔封じから解放される日が遠のいていきます。なによりもこの子達だけは安全に帰さないといけません。




