閑話 魔法の訓練
ギルバート王太子殿下視点
最近はオリビアとリリアと一緒に休憩するのが日課だった。
リリアは美味しそうにお菓子を食べている。最近は心身共に疲れるお茶会ばかりらしい。
「殿下、姿を変える魔法はどうやって使うんですか?」
「念じれば変えられる。父上に教えていただいた」
リリアが不思議そうな顔をしている。
「殿下は他にも魔法が使えるんですか?」
「いや、私は髪と瞳の色を変えることしかできないよ」
「私も覚えたいんですが。なんの属性魔法なんでしょうか・・」
「属性?」
私は魔法についての知識はほとんどない。
リリアがきょとんとして、属性や魔法について説明をしてくれた。
「体の中の魔力をイメージして、念じると魔法が使えます。こんな風に」
リリアの手には魔石がいつの間にかできていた。
リリアの真似をして体の魔力をイメージ・・・。
「え?うそ!?」
目を開けると手の中には魔石があった。
目をこぼれそうなほど大きく開けて、リリアが見ていた。
「殿下、凄いです。才能ありますよ。魔導士つけてお勉強すればきっと優秀な魔導士になります」
「これはそんなに凄いことなのか?」
「はい。私は魔法を覚えるのはとても苦労しました。」
母上に呼ばれたオリビアが戻ってきた。
「リリア、どうしたの?」
「オリビア、殿下が凄い!!」
「殿下?」
興奮しているリリアにオリビアが不思議そうに見ている。オリビアはリリアの前だと雰囲気が柔らかくなる。
ここまで、興奮しているリリアを見るのは初めてだな。放っておいたら飛び跳ねて喜びそうだ。
「オリビア、殿下はきっとすごい魔導士になるよ。しかも初めて作った魔石でこの純度。私、感動とショックで崩れ落ちそう。しかも氷属性なんて羨ましい!!」
「リリア、この魔石はそんなに凄いのか?」
リリアが私をじっと見たあと、目を閉じた。しばらくすると目を開けて手のひら中から魔石を出して私の作った魔石と並べた。
「私が作れる氷属性の魔石はこれが限界です。この輝きと大きさの違いわかりますか?これ以上大きくすると純度が下がってますます効力がなくなります。」
リリアに言われた通りだった。ただリリアの魔石と私の魔石は色も微妙に違う。
同じ属性でもこんなに違うのか。ただリリアの魔石は小さく輝いていないが、色が濃くって私の物より綺麗に見えた。
「リリア、その魔石をもらってもいいかい?」
「効力の弱いガラクタですよ。」
綺麗な石はガラクタには見えなかった。
「いや、構わない」
「どうぞ」
「ありがとう」
不思議そうに私を見ているリリアの肩をオリビアが叩いた。
「リリア、私も欲しい。簡単なのでいいから」
リリアが魔石を作りはじめた。
あっという間に4種類の魔石ができ、机に並べた。明らかに一つだけ大きく、輝きが違った。
「全部もらってもいいの?」
「うん。でも聖属性の魔石以外は役に立たないよ。それに聖属性も本気で作ってないけど」
「これでいい。ありがとう。嬉しい」
「オリビアが喜ぶならいくらでも作るよ。」
私は魔石を幾つか作り、リリアの聖属性の魔石と比べると輝きが全然違う。
リリアが羨ましそうに見ている。
「欲しいのか?」
「そんな、恐れ多いです」
オリビアが笑っている。恐縮しているリリアに笑ってしまった。
「あげるよ。私もリリアからもらったから」
「リリア、せっかくだからいただいたら?殿下の御好意よ」
作った魔石を3つ渡すとリリアが溢れんばかりの笑顔を浮かべた。
初めて見る顔だった。
「殿下、ありがとうございます。嬉しいです」
私の魔石を大事に胸に抱えているリリアを見てニコラスが惚れこんでいる理由がわかった。確かに可愛い。
しばらくしてまた魔石を作りはじめた。
「殿下、お礼にはなりませんがどうぞ。これならお役にたつと思います」
リリアがさらに輝いている魔石をくれた。
私はリリアの勧めで、内密に魔法の勉強をすることにした。
オリビアが魔導士を貸してくれた。オリビアは時々私の魔法の訓練を見学している。
魔石の講義を受けていると見せられた魔石は濁っていた。リリアの言っていたガラクタ魔石のほうが小さいけど輝いて見えた。私を見てオリビアが笑っていた。
オリビアはリリアからもらった魔石を魔導士に見せはじめた。
魔導士は魔石を凝視して呟いた。
「これは、なんと見事な」
「え?」
「こんな高濃密な魔力をこめられるとは」
「何も役に立たない魔石なのではないのか?」
「殿下、とんでもありません。魔導具には役には立ちません。ただ魔法陣を使った魔法ならこちらの魔石は強力です。この魔石は私には作れません」
感心している魔導士の後ろで優雅に笑っているオリビアに聞くことにした。
「オリビア、説明してくれないか?」
「リリアの周りって優秀な魔導士ばかりの所為で自己評価が低いんですよ。あの子、聖属性魔法だけが人並みに使えると思ってます。リリアは魔導士として半人前って本当かしら?」
魔導士が首を横に振った。
「リリア様は一流の魔導士です。まず聖属性魔法の使い手が他の属性魔法を行使するだけでも稀なのです。聖属性魔法なら我が国でも五指に入る実力です。」
「そんなに凄かったのか」
「ニコラス様とノエル様は?」
「お二人も優秀です。ノエル様の魔力操作の腕は国では3指に入ります。魔導士としてスカウトの話をレトラ侯爵家に断れらました。ニコラス様は二人に敵いませんが器用さと繊細さは随一です。自分の得意な属性魔法を極めてます。でもニコラス様の魔法が一番目に見えてわかりやすいですね。」
「リリアは聖属性魔法以外はどうなんだ?」
「一流とは言えませんが並の魔導士よりも優れています。聖属性魔法が使えずとも、魔導士として過ごせる実力はお持ちです」
「あの三人の腕は有名なのか?」
「魔導士は少ないので互いに情報交換致します。弟子自慢も。リリア様は昔は魔導士としての才能皆無と言われてましたが、」
「どういうこと?」
オリビアの目が真剣になった。
「ノエル様の妹君が魔法の勉強を始めたのは話題になりました。ただ最初に指導した魔導士は才能なしと匙をなげました。その後を引き継いだイラの魔導士が根気強く教えてやっと初級魔法を習得しました。才能はありそうなのに、開花のきっかけがつかめないと悩んでましたね。まさか聖属性魔法の才能にあふれてるとは思わなかったようで、上皇様にお叱りをうけたと頭を抱えておりました」
「あの子、そんなことは一言も」
「イラの魔導士が幼いのに泣き言も言わず、諦めずに向き合う姿に感心してました。リリア様に合う方法を一緒に探して色々試していたらいつも付き添っていたニコラス様のほうがどんどん魔法の腕が上がったそうです」
「リリアに匙をなげた魔導士はどうなったの?」
「レトラ侯爵家から契約を切られても国内で動いてました。ただいつの間にか、魔法が使えなくなり姿を消しました。」
「その魔導士はそんなに問題がある方だったの?」
「リリア様は神童と言われたノエル様と比べられて、指導を受けたようです。魔法を覚え始めた頃は、恐縮して謝ってばっかりだったそうです。イラの魔導士が命が惜しければイラ侯爵家に近づくなと警告してました。」
「ノエル様の闇魔法かしらね。」
「さぁ。でもノエル様を指導して、指導の腕を買われたのに、妹の指導に失敗すれば評価が下がります。見切りのない者は早めに、現実をつきつけて自分の優秀さを保持したい気持ちもわかります」
「貴方はどうしたの?」
「私でしたら、自分よりも優れた者にかわってもらいます。当主が魔法の開花を望むなら精一杯務めあげます」
「そう。よかったわ。殿下は才能ありそう?」
「リリア様が言うなら間違いありません」
「よろしくね。でも悔しい。リリアはいつもニコラス様といる。リリアの思い出話はニコラス様ばっかり出るわ」
「オリビア、幼馴染なんだから。オリビアが出会う前から一緒だったんだから仕方ない。ニコラスはリリアがオリビアを好きすぎると嘆いているじゃないか」
「それでも悔しいんです」
私はオリビアは放っておいて、魔導士の指導を受けることにした。
時々、リリアが魔法を教えてくれた。教えてくれた魔法を魔導士に伝えると驚いた顔をされてしまった。リリアの魔法の評価や感覚については信用しないことにしようと決めた。




