第九十四話後編 花の宴
今日は花の宴です。王家の庭園で行う王族主催のお茶会です。1年に1度、王家の方とのお茶会であり最大規模です。陛下がお茶会に参加されるのはこの時だけです。運がよければ妃に召し上げられることもあります。昔の話ですが・・・。席は序列ではなく、王家の方々が決めます。きっと今回は派閥ごとにまとめられます。
今回は夫人は夫人、令嬢は令嬢で席が用意されてます。家ごとでまとめないのは初めてです。私がオリビアの隣なのは王太子殿下が気をつかってくれたからでしょう。王族の方々も好きな席に座られます。
王太子殿下と作ったティーカップを使っていることに安心します。各々のテーブルにも色鮮やかな花が飾ってあり華やかです。お菓子も豊富にあります。美味しそう。
この季節の王家の庭園は花が咲きほこり格別です。王家の方々も容姿端麗なので、見惚れる令嬢もいますわ。
陛下の挨拶も終わり、お茶会がはじまりました。王太子殿下の魔法の話もされました。氷魔法で作ったティーカップは珍しいでしょう。陛下も絶賛されてました。
念のため、お茶に解毒魔法をかけると、息を飲みました。
嘘でしょ?なんで反応するの!?
オリビアの肩にふれて解毒魔法をかけます。オリビアのお茶を一気に飲みます。周りの目など気にしてられません。味に変化がないなら弱い毒かじわじわと効いてくる毒です。念のため毒のお勉強もしました。もしここで倒れれば調べてもらえます。毒を活性化させます。気持ち悪くはないけど、意識が・・。
「リリア!?」
***
起きると医務室でした。お母様とニコラスがいました。
「リリア、気分はどう?」
「体がだるいです」
「どうして飲まずに、言わなかったの?」
「言う?」
「このお茶は毒入りって」
「言っても信じて貰えたかわかりません。王家のお茶会を壊したと攻められても困ります」
「バカね。そんなのお母様がなんとかするわ」
「お母様、他の方々は大丈夫でしたの?」
「念のために解毒薬が処方されたわ。一部の席のポットから遅効性の毒が検出された。ただリリア達の席だけならともかく、第二王子殿下派の令嬢達のポットにも。今は調査を進めているわ。目覚めたならよかったわ。ニコラス、あとは任せるわ」
「はい」
「お母様、私、治療に回ります」
「いらないわ。帰って休みなさい。陛下の呼び出しがそのうちあるわ」
「え?」
「運んでやるから、寝てろ。家に帰ってゆっくり話をしよう」
「ニコラス?」
「お母様もゆっくり話したいけど、いまはやることがあるの。また後でね」
反論は許さないと言う怖い笑顔を浮かべる二人に寒気がしました。大人しくニコラスに抱き上げられレトラ侯爵邸に帰りました。馬車の中でも私を抱きかかえて無言のニコラスが怖くて仕方ありません。自室のベッドに運ばれた私はじっと睨まれています。この状況でお昼寝しているセノンが羨ましい。
「なんで、解毒魔法を使わなかった?」
「あそこで倒れれば調査をしてもらえるかなって」
「俺に浄化の魔石を渡したのなんで?」
念のため、ニコラスに渡してました。倒れたら吸収させてほしいとお願いをしました。ニコラスには修行と言ったので深くは聞きませんでした。
「魔力が切れたら」
「俺はリリアに魔力を送れるのに?俺の考えがあってるなら、さすがに許さないよ。説明しろ」
両肩におかれているニコラスの手も怖い。視線を下に逸らします。
「毒を飲んでも浄化の魔石を吸収すれば解毒されると知ってました。命に危険はないと判断して、毒のめぐりをよくして倒れました。」
「なんで気付いた時点でオリビア嬢に言わなかったんだよ。」
「思いつきませんでした」
「そのあたりは義母上から話があるだろう。なぁ、なんで浄化の魔石を吸収させる方法を知ってた?」
「魔導書で勉強しました」
「その魔導書見せろ」
「どの本に書いてあったか忘れました」
「リリアの部屋の魔導書を全部読めば書いてあるんだろうな?」
まずいです。書いてません。私が試しただけです。
「魔導書借りてくよ。お師匠様とノエルにも確認してみる」
「ごめんなさい。嘘です。自分で試しました。好奇心が我慢できなかったんです」
「危険なことするなって言っただろう。しかも一人で。何かあったらどうしたんだ!?」
「解毒薬も準備してました。毒も弱いものを」
「わかったよ。お前の態度によっては取りなしてやろうと思ったけどやめた。今日は休め」
目の据わったニコラスが出て行きました。まだ寒気がするのはなんででしょうか・・・。
帰ってきたお母様からお説教を受けました。そして魔封じをかけられました。魔封じを解除することはできます。ただ自分で魔封じをかけることはできません。お母様が魔封じを使えることに驚く心の余裕はありません。
「お母様?」
「リリアがわかってないようだから。ニコラスが傍にいない時に修行は禁止します。外出時はニコラスに解除してもらいなさい。自分で魔封じを解いたら痛みが走る特別性よ。お母様の自信作」
「え?」
「どうしてこんなことされるかわかってないでしょ?それが一番の問題よ。社交以外の外出は禁止。でも王家のために自ら毒を飲んだリリアに免じて社交の予定をたくさん入れてあげるわ。」
笑顔のお母様に震えが止まりません。ニコラスも無言で護衛を続けています。私はオリビアと王太子殿下にもお説教を受けました。王太子殿下も怖い方だとはじめて知りました。私は陛下と殿下の謁見が終わったのでニコラスを迎えに訓練場に向かいました。
「リリア、ニコラスが荒れてるけど、何したんだ?」
「わかりません。口すら聞いてくれません。皆に怒られてリリーはもう心が折れそうです」
「沈んでるな。お兄さんに話してみろよ」
「命に危険のない毒を飲んだらあんな感じになりました。私は最善だと思ったのに、みんなは浅はかだって怒るんです」
「状況はわからないけど、自ら毒を飲んだ人間を褒める人間はいない」
「それで他の犠牲者が出ないならいいではありませんか?軽傷一人ですみますのに。それに私は死なない自信もありました」
この騎士はお兄様のお友達です。小さい頃からよく遊んでくれました。呆れた顔で頭を叩かれます。
「そうゆうことじゃないだろうが。死なない自信があれば何をやっても許されるわけじゃない。俺が死なないからって崖から飛び降りて怪我して帰ってきたらどうする?」
「治療します」
「崖から飛び降りたことに文句言わない?」
想像します。楽しそうだから落ちてくるといって飛び降り、他の騎士に救助されて血まみれで帰ってきたら・・。
「受け身くらいとってください。バカなんですか!?」
「ちょっと違うけど、周りはそんな心境だよ。大義があっても誰かのために勝手に犠牲になるのはリリアの一番嫌いなことだろう」
「犠牲になってません。」
「その捉え方は人それぞれだ。」
「安全ってわかってるのに?」
「リリアがわかっていても周りは違うよ。その辺りの感覚、他の人間とずれてるの自覚したほうがいい」
ズレてる?
「どういうこと?」
「治癒魔法や自己回復魔法の使い手は簡単に傷を治せる。だから傷をおうことの怖さをわかっていない。死が自分の近くでいつも潜んでいることを。それに魔法は絶対じゃない。もしその毒を解毒できなくて死んだらどうした?」
そこまでは考えてませんでした。もしも失敗したら。
「魔導士として読み間違えたことなので仕方ありません。」
「そこは後悔して反省すべきところ。その発想がおかしい。」
「おかしいって酷い」
「リリアはズレてるんだよ。お前が死んだらニコラスは絶対にあとを追うよ」
「ありえません。もしそんな愚かなことしたら怒ります」
「うっかりで死んだ自分は怒んないの?」
「自業自得なら仕方ありません。やり残したことがあるのが心残りではありますが・・」
「どうしたらわかるんだろうな。」
困った顔で見つめられても、私も同じ心境です。
「私はどうすればいいんでしょうか・・」
「必死で謝れ。心配かけたんだ。ノエルも話を聞いたら怒るだろう。いや、泣くかもしれないな」
「お兄様・・・。」
お兄様が泣くのは嫌です。私はお兄様が怒る姿は想像がつきません。でも悲しい顔で諭されると、胸が苦しくなります。
「そういえばさっきニコラスが解毒薬の効果が知りたいって毒薬を飲んでたな」
「え!?嘘!?ニコラス、どこ!?」
指さすほうに駆けだします。見つけました。騎士と話しているニコラスの腕をとって解毒魔法をかけます。毒は体にありません。解毒薬が効いたんですね。安心してる場合ではありません。
「ニコラス、あなた、何てことをしたの!!」
「は?」
とぼけた顔をしてるニコラスを睨みます。
「バカなんですか?解毒薬の効果が知りたいなんて。そんなことしてたら死にますよ。自分から毒を飲むなんて、なにを考えてるの!?薬の効果を知るために危険なことするなんてありえない。薬よりも毒が強かったらどうするの!?意味わかってるんですか!?その顔はなんなのよ」
肩を叩かれます。
「リリア、嘘だから」
「もっと・・・・うん?」
「嘘」
騎士を睨みつけます。手が届くなら頬を引っ張りたいです。
「どうしてそんな嘘をついたんですか!?」
「ニコラスにさっき言った言葉覚えてる?」
「はい」
「その言葉はそのままお前が受け止めるべき言葉だよ。リリアがやったことは同じことだ。ニコラスにあんなに怒ったよな。毒は怖い物だろう?薬が絶対じゃない。魔法も同じだ。それでもまだわからない?」
頭に冷水をかけられた気がします。お母様とニコラスはだからあんなに怒ったんでしょうか。
「軽率でした。申しわけありません」
「それは俺に言う言葉じゃないだろう。ほら、」
ニコラスの前に体を押されます。
「ごめんなさい」
ニコラスに探るように見られてます。
「どんな事情があっても毒は飲まない?」
「え?」
「約束できるか?」
絶対とは約束できません。必要なら躊躇わずに飲むかもしれません。
「善処します」
「わかった。もしリリアが飲むなら俺も同じ分だけ飲むよ」
「なに考えてるんですか!?」
「オリビア嬢も誘おうかな」
「そんな物騒なことに誘わないで」
「決めた。リリアが解毒魔法を使わずに飲んだ毒は俺も一緒に飲んでやるよ。護衛対象を危険な目に合わせたんだから当然だ。俺、今回、リリアが飲んだ毒を調べてくるからちょっと待ってて」
立ち去るニコラスの腕を慌てて掴みます。この人は決めたらやります。
「もう飲みません。だから調べにいかないでください。そんなことやめてください。バカなんですか。無駄に優秀なのになんでこんなバカなことしようとするの!?」
「リリアが先だろう。」
「もうしません。実験もやめます。だからやめてください」
「次は俺も飲むから覚えておけよ。うち毒には詳しいから、すぐに調合できるし」
「笑顔で怖いこと言わないで」
ニコラスの考えはおかしいです。正気か疑いたいのに、残念ながら顔は本気です。
「なぁ、俺は不思議なんだけど、なんで放っておいたの?」
「お仕置き」
「俺は余計なことをした?」
「いや、これはこれで手間が省けた。ノエルに頼もうと思ってた。俺がどんなに言ってもきかないから。リリアはノエルの言葉なら何でも信じるし従うから。まぁ、帰ってきたら伝えるけど」
恐ろしい言葉が聞こえました。お兄様は心配して、きっと悲しい顔をされます。危ないことは駄目だよって言われてますもの。
あんなに怒られたのにまた怒られるんですか…。
「ニコラス、やめて。お兄様には言わないでください」
「せっかくだから義姉上にも。帰国が楽しみだよ」
「軽率なことしてすみませんでした。もうしません。だから言わないでください。」
「帰るか。じゃあな」
「ああ。気をつけてな」
私はニコラスに手をひかれて帰りました。私はニコラスに毒を飲まれては困るので、実験はやめることにしました。気づくと部屋のスズランも庭のスズランもなくなっていました。スズランに罪はないのに・・。お茶会の騒ぎにまぎれて王家の侍女が一人姿を消したそうです。お茶には精神を混乱させるお薬が混入されてました。媚薬に含まれる成分に似ていたそうです。あのお茶を数杯飲めば恐ろしいことがおこったとお母様が言ってました。私にはまだ早いそうです。飲むならニコラスと二人の時にしなさいと言われました。お母様、私はもう毒薬を飲むつもりはありません。
騎士に嘘をつかれた仕返しをしたいんですが何かいい方法はないでしょうか・・。




