第九話 正体
今日は私は市に来てます。
愛用のローブもバッチリです。
最近はお母様命令のお茶会続きでストレスがたまってます。
なぜか私とニコラスが恋人という噂がひろまっています。
観劇で私がニコラスの肩を枕にして眠ったからですが…。
眠気に勝てなかったんです。オリビアは私には難しい内容だったのねと苦笑してました。
これは観劇に強引に誘った第二王子殿下のせいです。
ニコラスとのことはしっかり否定してきましたが、通じているかはわかりません。女性の妄想は恐ろしいのです…。
今日は自分へのご褒美の日です。
いつもの串焼きを買って食べます。
美味しい。
次は果物です。今の時期は果物が美味しいんです。
馴染みの店の横で食べます。甘い!!絶品です。家ではかじりつくことはお行儀が悪いのできません。
行儀を気にせず食べたい物だけ食べる。なんて贅沢なんでしょう。
お腹も満たされましたし、買い物しましょう。
またあの露店に行こうかな。
うん?あれは?
まさかねぇ。
私、もう用がないから関わりたくないんですが・・。
でも御身を危険にさらすわけにはいけません。あの人は危機感ないんですか!?
男達の後についていく王太子殿下の腕を掴みます。
王太子殿下、ローブくらい着ましょうよ。髪の色を変えても品の良い洋服が貴族だと一目でわかります。
ここそんなに治安がよくないですよ。特にそのまま進むと危ないです。スラムの逆方向の市の奥はニコラスが一緒でも近づくことが許されません。あそこは子供が絶対に行ってはいけないと親方と約束してます。
「どこに行くんですか。」
「レア!?」
「そっちは危険です」
「この人たちが困ってるって」
「なら兵を呼んでください。貴方が行く必要はありません。行きますよ」
「待ちな。俺たちはこの兄ちゃんに用があるんだ」
「でしたら、ここでお願いします」
「痛い目にあいたいのか?」
「私、強いですよ?手を出していい人間の区別はつけたほうがいいですよ」
「レア?」
卑しく笑う男たちを見ながら、魔力を纏い風に祈りをこめ、男たちを拘束します。
先手必勝です。
「誘拐未遂です。兵を呼んできます。あとは私が任されます。知らない人間にはついていかないほうがいいですよ。ここって実は物騒なんです」
兵の詰め所に行くと、王太子殿下がついてきています。
「こんにちは。誘拐犯を捕まえました」
「リリ!?一人なのか!?ラスは?」
今までは市はニコラスと一緒に来てました。
そこまで、慌てることですかね。
「別行動です。後ろの少年が連れ去られるのを見つけて保護しました。犯人を拘束してあります。あの先に転がしてあります」
「俺が行く」
「三人います」
「わかった。」
「私はこれで」
「リリ!?気をつけろよ」
言いたいことありそうな顔見知りの兵に手をふって別れます。
私は買い物を再開しましょう。殿下、やっぱりついてくるんですか?
「レア、さっきのは」
一応事情を説明したほうがいいかな…。
また、同じことになっても困ります。
「貴方の身なりがいいから狙われたんです。誘拐か身ぐるみはがされて、店に売られたかもしれません。あの先は危険と教えられてますので子供は絶対に近寄りません」
「そんな場所があるのか・・」
「いくらでもありますよ。ここは兵の詰め所があるのでありがたいです。何かあれば駆けこめば助けてくれます」
「兵達とも親しいのか?」
「顔見知りです。街の見回りをする兵は子供の憧れですから。今日はどうされたんですか?」
「いや、それは」
言いたくないですか。愛しい少女探しですよね。
関わりたくないけど仕方ありません。オリビアのためなら付き合いましょう。
「人探しなら手伝いますよ。」
「もう必要ない」
「そうですか。では私はこれで」
去ろうとするとまた腕を掴まれました。浚われかけたあとだから怖いんでしょうか。
私も昔、迷子になって心細かったから気持ちはわかります。
仕方ありません。
「これからも市に来るんですか?」
「駄目か?」
私が駄目って言えばやめるんですか。来る気なんですね。
市は楽しいから仕方ありません。
「ローブか服を買いましょう。その恰好は目をつけられます。」
「レアが選んでくれるのか?」
「品も素材も劣るので良ければご案内します」
私のローブはお忍びようにニコラスが用意してくれました。
全身が隠れるように大きめのものを。小さくなる前に新しい物を用意してくれます。
単なるローブなのに着心地が良いからオーダーメイドなんでしょうね。ニコラスの家は武器等に詳しいのでローブもお抱え針子がいるのかもしれません。
「構わない」
殿下を一人で買い物させたら、ぼったくりにあいそうですね。また攫われそうになっても困ります。
習慣なのか手を握る殿下を連れて、服を扱う露店に行きます。私、あんまり服は詳しくないんです。
「どうしたんだい?」
「この人が目立たない服をください」
「その身なりじゃ無理だろう。そうだね」
渡される服を受け取って試着させたいけど、
「あの、着替えは一人でできますか?」
「それを着ればいいのか?」
「どうぞ」
着替えは一人でできるんですね。
試着した王太子殿下を見ると、駄目です。貴族感が丸出しです。
照れた顔をしても無駄です。
店主もわかってるようです。店主と目が合って二人で静かに頷きあいましたもの。
「これはだめだね」
「ローブ一択です」
黒いローブを手に取り、殿下に被せます。
殿下の髪の色が変わりました。なんで!?
「そのローブは魔法を無力化するんだ。これなら普通のだよ」
「これを」
慌てて差し出された違うローブを被せます。こんなに輝かしい金髪と琥珀色の瞳で王家だと丸わかりです。
まずいです。
「どうした?」
「髪の色が・・・。すみません。私が魔封じのローブを着せたせいです」
「気にするな。ばれたか、礼はいらない」
「どうしましょう。」
「レア、大丈夫だ。ローブを被れば見えない」
「このローブをください」
「黒いローブは?」
「いりません」
魔封じのローブなんて必要ありません。いや、こんな珍しい物は持っていればいずれ使えるかな。
「やっぱりもらいます。そのローブもください」
値切る時間も惜しいので言い値で買って、王太子殿下に普通のローブを着せたまま歩き出します。
「絶対にローブを脱がないでください」
誰にも見られてないでしょうか。でも周りに人がいましたよね。
急いで城に行かないと。あれは・・。
「ここから絶対に動かないでください」
見慣れたローブ姿のニコラスに声をかけます。
「ラス!!」
振り返ったニコラスの腕を掴みます。
頼るのは不服ですが、非常事態です。
「今はレアって呼んでください。助けてください」
「どうした?」
心配そうに顔を覗かれます。
「お忍び中の王太子殿下に会いました。私のことは知られてないです。城まで無事に送りたいんです」
「護衛?」
「お願いします。さすがに私一人だと不安です。」
「お礼は?」
殿下の安全のためにお礼を要求するんですか?
ニコラスの非常識さに飽きれますが、他に頼れる方はいません。
「言い値を払います」
「俺が欲しいのはリリの時間」
「貴方だって忙しいでしょ?」
「そうでもない。俺は優秀だから」
「わかりました。」
色々言いたいことはありますが時間が惜しい。
雑用係を引き受けましょう。
ニコラスを連れて王太子殿下のもとに行きます。
「お待たせしました。友人です。彼は腕がたつんです。」
「レア?」
「そのお姿は危険です。城まで送ります。」
「わかったよ。」
王太子殿下も流石に今のお姿はまずいとわかっているようです。
城が見えてきました。
「ここで。抜け出したから」
「では、私達は失礼します」
「また会えるか?」
「ご縁があれば。ですが護衛と一緒に来ることをお勧めします。失礼します」
「またな」
穏やかな笑みを浮べて去って行く王太子殿下をニコラスと一緒に見送りました。
やっぱり門からは入りませんのね。お忍びなら当然かな・・・。
とりあえず無事に送り届けられて良かったです。
私と一緒の時に御身に危険をさらせば、私の首がなくなるかもしれません。
お忍び姿ならともかく今のお姿がいかに危険かもう少し危機感を持っていただきたい。
私より5歳も年上なんだからしっかりしてくださいませ。




