第九十四話前編 花の宴
イラ侯爵夫人に預けていたセノンを引き取りにいきました。最近のセノンのお気に入りというブドウジュースをいただきました。
セノンにいただいたブドウジュースを出しました。ちゃんと飲んでることに安心します。セノンの食べられる物が増えました。
「リリアも、どうぞ」
コップにブドウジュースを注いで口に含みます。ほのかな甘みが口の中に広がります。これは美味しいです。
「リリア、大変?」
「そうね。ちょっと大変かな」
「逃げたい?」
「うん?そこまでではありませんよ」
久しぶりのセノンは可愛いです。
そういえば、自己回復魔法は怪我や体力を回復させます。自分の体内に回った毒は解毒できるんでしょうか。もし、気づかずに毒を飲んでしまったときに自分で解毒しないといけません。ちょっと試してみようかな。
庭に出てスズランを摘みます。スズランには毒があります。根の部分を切り落として残りは部屋の花瓶に飾ります。
根の部分をすりつぶします。
解毒薬と浄化の魔石を用意します。スズランの粉を少量を口に含みます。気持ち悪くなってきました。浄化魔法を自分にかけてみます。駄目、効きません。浄化の魔石を体に吸収させます。気持ち悪いのが楽になってきました。もう一つ吸収させます。自分の魔石なのに物凄く疲れます…。力が抜けました。でも気持ち悪いのはなくなりました。
「リリア、入るよ」
まずいです。ニコラスです。見られるわけにはいきません。
「だめ。開けないで。セノン、あの粉を隠して」
セノンが上手に粉の上に紙を置いてくれました。その上に座っててくれるのね。えらいけど、舐めちゃ駄目ですよ。でもセノンは好きなものしか口にしないから心配いりませんか・・。
「リリア、開けるよ」
体に力が入りません。回復薬を飲まないと。回復薬を近くに置いておけばよかったです。回復薬が遠い・・。お行儀が悪いけど這うしかありません。
「リリア!?」
入室許可なく入るのやめてほしいです。文句は後です。
「どうした!?」
「薬を」
「バカ」
抱きしめられて魔力を送ってもらいました。これなら動きそう。胸を押して、立ち上がり回復薬を取り半分飲みます。
「ありがとうございました」
「なにしてた?」
「修行です」
「なんの?」
「レトラ侯爵家の秘術です。」
疑われてます。部屋を見渡されてます。解毒薬を隠すの忘れてました。お願いだから机を見ないでください。ニコラスはセノンの可愛さでごまかされてくれません。
「ニコラスだって倒れるまで修行するでしょ?同じです。多少の無理が必要なこともあるでしょう?。イラ侯爵夫人にセノン用のブドウジュースをいただきました。美味しいのでおすそ分けします」
「リリア、やだ」
「セノンの分は残しておくわ。部屋に持って行くので待っててください」
無言でニコラスがセノンを抱き上げました。慌てて薬と紙を丸めてゴミ箱に捨てます。にっこり笑いかけます。
「なんで解毒薬があるんだ?」
「いつ、毒を飲んでもいいように作ったんです。」
「飲むなよ。リリアなら魔法でなんとかなるだろ?」
「なんともならないこともあります」
「スズラン好きだったっけ?」
「綺麗だったので」
「たまには花でも見に行くか」
「本当ですか?」
「連れてってやろうかと思ったけど、今日はやめた。魔力切れたんだから寝てろ。修行、俺が傍にいる時にしないか?」
「一人の方が集中できるんです。」
「あんまり目に余るなら」
「気をつけます。今日は私は休みます。」
なんで私の部屋の椅子に座りますの・・。セノンと遊びたいのですね。
「寝るまでいるよ。おやすみ」
私は試したいことがありました。でもニコラスの前ではできません。絶対に怒られます。私は大人しくベッドに入る選択肢しかありません。
私は空いている時間に毒の対策ために純度の高い浄化の魔石を作りました。解毒の魔石は作り方がわかりません。ただ魔石を作るだけでなく、属性、効能をこめるのは上級魔法になります。浄化の魔石も集中力と魔力を大量に消費します。私は聖属性魔法以外の魔石はうまく作れません。作ってもお守り程度でほとんど役にたちません。
***
アイ様が気分転換に私の部屋で小説を書いてます。
「少女はまだ現れない?」
「時々、見かけるんですが、話す機会がなく・・」
「そう・・。」
「どうしたんですか?」
「行儀見習いなら、そろそろイベントが発生するの」
「どんなものですか?」
「大きいお茶会で王妃様のお茶に毒が仕込まれるの。急に倒れた王妃様をを助けるのが行儀見習い」
「行儀見習いも魔法が使えるんですか?」
「そこはよくわからないわ。ただ正しい選択肢を選べばできるから」
「毒味が入るはずなのに。毒を飲むのは王妃様だけですか?」
「わからないわ」
王妃様に毒・・・。そういえばこないだ読んだ魔導書に浄化の道具の作り方がありました。ただ水と地の属性が足りません。造形するなら氷でもいけますね。うん。決めました。オリビアに頼んで王太子殿下に会わせてもらいましょう。
***
オリビアが王太子殿下とのお茶の席に呼んでくれました。人払いもしてもらってます。事前にニコラスに頼んで結界もはってもらいました。
「王太子殿下、私が魔力を送りますから氷の魔法でティーカップを作ってください」
「え?」
「お願いします。」
戸惑う王太子殿下の手を取り、殿下の魔力に浄化の魔法を送りこみます。純度は高く、でも魔力量が殿下を超えないように。この操作は中々難しいんです。事前にニコラスに練習に付き合ってもらいました。他人の魔力に馴染ませて、魔法を使うのは高度です。でも殿下は優秀なのできっとできます。ほら一つできました。やめる気配のない私に察したのか二つ目を作り始めました。集中です。
「リリア、そこまでだ。もうやめろ」
ニコラスの声に目を開けます。気づくとティーカップが5つできていました。
「ニコラス、これに熱の耐性を付加してください」
ニコラスに頼んで、熱で溶けないようにしてもらいました。これでお茶を飲んでも安心です。回復薬を飲みます。
「リリア、なにを作ったの?」
オリビアが不思議そうに見てます。
「見ててくださいね。」
自分のお茶を飲み干します。空のカップにスズランで作った毒を入れてお茶を注ぎます。浄化の魔石をいれると魔石がお茶に解けました。
「そんなに強くない毒なら魔石で浄化できます。でもお茶会の席で魔石を入れるわけにはいきません。そこで、このカップも同じ効果を持ちます。浄化魔法をかけてあるので毒物は自然に浄化されます。でも強すぎる毒だとカップが解けてしまいます。王太子殿下が作ったものならお茶会で使えます。今度の陛下も参加されるお茶会ではこれを王家の皆様に使っていただきたいんです」
「リリア?」
「確証はありません。ただ毒の混入を目論む者がいると情報が入りました。誤報ならいいんですが、王家の皆様の御身に害を与えるわけにはいきません。せっかくですので殿下の魔法もお披露目しましょう」
「リリア、今度は先に説明をしてくれるかい?私はリリアが魔法の稽古をつけてるだけだと」
「魔法の修行ですよ」
「ニコラス、リリアはいつもこうなのか」
「すみません。御身に危害を加えることはないのでご安心を」
「お前が止めないなら、必要なことか。わかったよ。」
ニコラスと王太子殿下が仲良くなってました。これで王妃様に毒が盛られることはないでしょう。お茶会が無事に祈ることを祈りましょう。




