第九十三話 災難な社交
私は最近現実逃避に魔石を作る癖ができていました。魔石も大事です。でもそんなことしている場合ではありません。ミンス公爵家のお茶会はどうなったかわかりません。お茶会で会ったオリビアが、攻撃材料が増えたと笑ってました。私はオリビアには話してません。どうして知ってるのか不思議でたまりません。
私はもうできるだけ何が起こっても驚かないようにしようと思います。例え、目の前で令嬢が階段を踏み外して落ちても気にしません。落ちた令嬢に治癒魔法をかけました。
「足下、お気をつけくださいませ」
治癒魔法をかけただけなのに、どうしてこんなに怯えられてるんでしょうか。後ろのニコラスは怖い顔をしてません。
令嬢の悲鳴で人が集まってきました。
「どうされました?」
「ご令嬢が階段から落ちました。治癒魔法をかけましたので、大丈夫だと思います。ご令嬢の従者に迎えにくるように手配をお願いします」
「かしこまりました。」
怯えられる心当たりはありません。でも私が怯えられるなら付き添いはしないほうがいいですね。ニコラスに付き添ってほしいと視線を送ると首を横に振られました。私は礼をして立ち去りました。
最近、目の前で転ばれたり落ちたりする方が多いです。皆様、お疲れなんでしょうか。
今日もお腹が痛くなりそうなお茶会です。
ミンス公爵令嬢はこの王家主催のお茶会には参加されないんですね。公爵令嬢なのに羨ましいです。今回はオリビアやライリー様など社交が得意なご令嬢が参加されてるので、気が楽ですわ。
「そういえば、最近物騒な噂がありますのよ。レトラ様の周りを歩くと事故に合うそうです」
え?私ですか?
一番近くにいるニコラスは事故にあってませんが。
「身に覚えはありませんわ」
「まぁ!?目の前で転んでも階段から落ちてもそのまま立ち去るレトラ様は気づかれませんのね」
第二王子派閥の令嬢達に非難の顔で見られてます。
確かに何度か立ち合いました。弁明しないといけません。
私は最低限手配を整えてから立ち去ってます。
「私はちゃんと治癒魔法をかけてから立ち去ってますわ」
「え?」
「ご存知ありませんの?リリアは治癒魔道士としての腕は一流です。」
「オリビア様、魔法に詳しくない方にお話するのは失礼ですわ。一流と二流の違いもご存知ありませんのよ」
うちの派閥の令嬢がクスクスと笑ってます。私はまだまだ一流には及びません。上皇様ほど綺麗に魔法が紡ぎません。私は扇で顔を隠すしかできません。
「リリアも災難ね。足下がおぼつかない方々のために、魔法を使うなんて。参内する前に、歩く練習からはじめたほうがよろしいのではなくって?」
「社交デビュー前のお勉強をおさらいしたほうが賢明ですね。」
怖い。やっぱり気楽ではありませんでした。
「そういえば、最近は自己紹介もできない令嬢もいらっしゃってよ。私、お話を聞いて驚きましたわ。」
「まぁ!?」
「うちの派閥には、教養のない令嬢がいなくて幸運ですわ。」
「ええ。もし、そんな無礼な方がいましたら指導しないといけませんものね。」
「うちの派閥の令嬢の失態は私の責任ですもの。私は派閥に恵まれて感謝してます」
オリビア、煽りすぎですよ!!目の前の令嬢の笑顔が怖い。美味しいはずのお茶の味がわかりません。私は平穏なお茶会に参加したいです。ミリアお姉様はいつ帰ってくるんでしょうか・・。
「あら?ではレトラ様の失態はオリビア様が責任をとりますの?」
「もちろんです。」
また私なんですか!?
失態って、武術大会でニコラスが負けたことですか?
「レトラ様は癇癪を起こすと、お茶をかけるんですって」
かけてない。そんなことすればきっとお母様から恐ろしいお説教があります。
まず癇癪をおこしてません。
「そのお話は知ってますわ。令嬢の悲鳴を聞いて騎士が駆けつけたときには、令嬢の洋服に染みがあったと。リリアのカップにはお茶が残っており、濡れた令嬢なんて誰もいなかったそうですわ」
「そんなことは…」
「事実確認は大切ですわ。そこのお家はお茶の正しい淹れ方もご存知ないので、お茶会の正しいマナーをご存知かは怪しいですが」
話してませんよ。なんで、オリビア知ってるんですか・・。熱々のお茶は勧められましたよ。
「さて、私は謝罪が必要かしら?」
優雅に微笑むオリビアが怖いです。アイ様の言う悪役令嬢のようですわ。今回のお茶会もうちの派閥というかオリビアの圧勝でしたわ。何もしてないのに、疲れましたわ。
ニコラスを迎えに行って帰りましょう。
「皆様、お疲れ様です。差し入れです!!」
あれは!?黒髪の少女がいました。これはお話するチャンスです。
「第二王子殿下に騎士様のことを教えてもらいました。いつもありがとうございます」
少女の周りに騎士が集まっていきます。私も行ってみましょう。勝手に入ってもニコラスがいるから大丈夫です。
「リリア!!」
「ニコラス、お疲れ様です」
「お茶会は終わったのか。帰ろうか」
「待って。私は少女とお話したいです」
「晩餐に間に合わなくなるから帰るよ」
ニコラスに腕を引かれて訓練場から引き離されます。
「せっかくなので、お話させてください。少女と」
「少女なんていなかったよ。気のせいだよ」
「差し入れに皆様、集まってましたよ」
「気づかなかったな。」
「ニコラス、わざと邪魔してません?」
「まさか。俺は護衛騎士として職務に忠実なだけだ。歩きたくないなら抱こうか?」
「歩きます」
「なら、さっさと帰ろうか。俺は腹が減った」
ニコラスに促されるまま馬車にのり、レトラ侯爵邸に帰りました。お腹が減ったなら大人しく従うしかありません。私は愛しい少女と全然お近づきになれないんですけど、どうすればいいんでしょうか…。
アイ様も愛しい少女の動向はわからないそうです。




