第八十六話 厄介事
私はミリアお姉様と一緒にイラ侯爵邸に行きました。
クレア様とセノンがお世話になったのでイラ侯爵夫人にご挨拶をしないといけません。
「義母様、このたびはすみません」
「リリア、良いのよ。今日はミリア様も一緒なのね」
「クレア様を迎えにきました」
「あの子、出てくるかしら」
頬に手を当てて首を傾げるイラ侯爵夫人に不安がよぎります。
クレア様、ここでなにしてるんでしょう。
泊まりたいって言ったけど無理やり連れて帰ったほうが良かったでしょうか・・。
「まさか、ご迷惑を」
「義姉上、母上と一緒にクレア様を迎えに行ってもらえますか?」
「ニコラス、私が行きますよ」
「いや、リリアは俺と待ってようか。世の中には知らない方が幸せなことがある。母上も迷惑してないから大丈夫だ。」
「ニコラス?」
「クレア様を説得するならリリアよりも義姉上のほうが得意だろう」
「リリア、私が行ってくるわ。私もクレアと話したいから」
ニコラスの意味深な言葉も気になりますが、お姉様に任せましょう。
しばらくするとセノンを抱いたクレア様がミリアお姉様と帰ってきました。
飛びついてくるセノンをニコラスが受け止めてくれました。ニコラスからセノンを受け取ります。
今日は帰ってくるのね・・。セノンのイラ侯爵夫人好きは諦めました。好きな人がたくさんいるのはいいことですから。強がりではありませんよ。
「母上、用があるので俺達はこれで」
「リリア、またゆっくりね」
「はい。失礼します」
ニコラスに手を引かれて歩いてますが、シロのところですか?
「シロ」
ニコラスの声でシロが出てきました。
シロを抱き上げてクレア様に渡そうとしています。
「え?」
「あげます。」
クレア様が戸惑うのはわかります。なにを言ってるんでしょうか。
「シロも魔力があるらしいんです。リリアにはもうセノンがいるんで」
「ニコラス、貴方、自分のしていることわかってるの?」
「欲しい人がいるから譲るだけだよ」
「シロはニコラスが好きなのに」
「ありえない。」
「ニコラス、神獣様は御心のままによ。それに神獣とどうやって証明するのよ」
お姉様の言葉にニコラスがシロを睨みました。
ニコラスはシロには厳しいんです。
神獣・・。そういうことですか。私はポポを連れて行くのかと思ってました。
シロをクレア様にあげるということですか。
「シロ、どうせ話せるんだろう?俺の魔力を勝手に食ったんだから恩を返せ。それに念願の女の主人だ」
「セノン、シロはお話できるの?」
「うん。セノンの勝ち。シロ負け」
どういう意味?よくわからないけど話せるんですね。
「シロ、お話できるんですか?」
「リリア、やだ。セノン抱っこ」
ニコラスからシロを保護するためにセノンをおろそうとすると、セノンが嫌がります。ニコラスの頭の上にのせましょう。
だめです。私の肩に飛び乗りました。
セノンを抱っこして、シロの頭を撫でます。
「シロ、ちゃんと嫌なら言わないとニコラスは手放しますよ」
「仕方ないか。リリア、純度の高い、握り拳サイズの魔石作って」
今度は呆れた顔。睨んでるよりいいかな。
シロはぼんやりしています。魔石を作ってニコラスに渡します。
「シロ、話すならこれやるよ。」
シロがじっと魔石を見てます。
「リリアの魔力はセノンの」
「駄犬が」
聞き慣れない声がしました。
「リリアも騙されて可哀想に」
「シロ?」
「リリア、セノンはやめた方がいいわ。リリアが望むなら解放してあげる」
「シロ、どういう意味?」
「シロ、うるさい。リリアはセノンの。負けない」
セノンがシロを睨んでます。やっぱり仲が悪いんでしょうか。
シロは女の子だったんですね。
「セノン、喧嘩はしないで。女の子には優しくしないと駄目よ。シロ、クレア様はシロが欲しいんだって。でもニコラスといたいなら私は説得するよ」
「この子についていったらどうなるの?」
私はわからないので、ミリアお姉様を見つめます。
「神獣様、貴方が時々魔力があることを示してくだされば、好きなように過ごしていただけます。欲しい物はなんでも手に入れましょう」
「私は美味しい魔力が好きなの」
「魔導士も手配します。」
「セシルも美味しいよ。」
「セシル様?」
「セシルは魔法使わないから魔力が溢れてるから食べ放題」
「私は汚い男は嫌い」
セシル殿下は魔力持ちだったんですね。気づきませんでした。
「シロ、セシル殿下は顔だけなら格好いいし、優しいわ。セノンも可愛がってくれたし、しっかりと守ってくれた。良い人よ。」
「綺麗?」
「うん。きっと女装させれば美女になるわ。ね?お姉様」
「ええ。必要から女装させます。王宮で好きにしてください。どうしても嫌なら帰ってきても構いません」
「シロ、魔石をやるよ。リリアの作った純度の高い聖属性のものを」
「本当はリリアが欲しかったのに」
「最初に噛みついた時に殺処分にされなかっただけ、俺の寛大な心に感謝してほしい」
ニコラスが物騒なことを言っていますが今は気にしている場合ではありません。
「シロ、どうする?」
「いいわ。行ってあげる。」
「シロ、いじめられたら帰ってきていいからね」
「リリアもセノンが嫌になったら教えて」
「シロ、負け惜しみ」
「セノン、どこでそんな言葉覚えたの」
「内緒。リリアお腹すいた」
「もう少しだけ待ってて。シロ、いいの?」
「嫌になったら勝手に抜け出すわ」
「元気でね。クレア様とセシル様をお願いね」
ニコラスがクレア様にシロを渡しました。
これでシロとお別れか・・・。寂しくなります。
「クレア、貴方はシロを連れて帰って、満足してもらえるように尽くせるの?」
「うん。これが殿下のための功績になるなら頑張る」
「今度は行動する前にセシル様に相談なさい。きっと心配してるわ。誰にも相談できなかったら私に手紙でもいいから聞きなさい。」
「ミリア様は厳しい」
「クレア様、お姉様の優しさですよ。」
ニコラスに肩を叩かれました。
「リリア、そろそろ準備しないと」
「!?お姉様、後はお任せしてもいいですか?」
「ええ。気を付けてね。セノンも預かるわ」
気付くと辺りは暗くなりはじめていました。
私はセノンをお姉様に預けてイラ侯爵家で支度をさせてもらいました。
何着かドレスを仕立てていただいたみたいで。
有り難く使わせていただきます。レトラ侯爵家に帰る時間はありません。
「せっかく来たのに全然リリアと過ごせない」
「レトラ侯爵家は今は忙しいのよ。王太子妃として正式に訪問の手続きして案内にリリアを指名すればずっと独占できたのに残念ね」
「悔しい」
「ねぇ、陛下に頼まれたことリリアに言わなかったの?」
「だってリリアに殿下の側妃になってほしいなんて言えない。それにリリアはニコラス様といる時が一番可愛いから。きっと殿下も許さない」
「セシル様が?」
「うん。リリアの保護者に敵わない。絶対に殺されるって前に言ってた」
「さすがセシル様。危機管理能力は優れてるわ。クレアも嫌なんでしょ?」
「うん。リリアと女の戦いしたくない。」
「正妃様と側妃様の争い見てるとそうなるわね」
「うん。でも殿下にとってリリアは特別なのは寂しい。殿下はリリアにだけは甘えるもの。」
「クレア、リリアは人たらしなの。リリアが人を甘やかすことがうまいのは貴方もよく知ってるでしょ?」
「うん。でもそのリリアが甘えるのは家族とニコラス様だけ。殿下の誘いに全く見向きもしなかった。」
「セシル様だってクレアを大切にしてるじゃない。早く帰って安心させてあげなさい。きっと心配してるわ」




